一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@40 進むべき道…!!

いつまで経っても、この臭いには慣れない。全てを寄せ付けない…そんな感じがする。

 

「入るぞ。」

 

綱手様の元に居た時に散々嗅いだ匂いの中を通り抜ける。ドアを開いて中を覗くと、一人の少年がベッドに横たわっていた。

 

「元気…じゃねぇよな。腕が爆発するなんてカタギの人間にはなかなか出来ない体験をしたばっかだもんな。けど、俺が来たからにはもう大丈夫。パパッと治してやるさ。」

 

少年がゆっくりと目を開ける。

 

「おはよう、ザク。」

「…。」

 

無反応だ。シノにやられたことがよっぽど身に応えたらしい。

俺の目の前に横たわっているのはザク・アブミ。音忍三人組ことKAMASE NO KIWAMIのメンバーであり、俺と関係を言えば彼らの修業を見たこともある仲だ。そして、今回の中忍試験で彼らに指示を出したのは俺である。とはいっても、俺はサスケを狩るような指示を出していなかった。大蛇丸様が俺の気づかなかった内にこいつらと接触して、指示を出したという所だろう。それで、サスケにコテンパンにされた後の傷が癒えぬままシノと戦ったザクはベッド行きになってしまった、と。お可哀想に。

 

「ヨロイさん。…すみません。」

 

俺に目線を向け、ザクは力なく口を開く。

 

「ああ、謝る必要はねぇよ。」

 

ザクが打ちのめされたような顔でこっちを見る。次いで、この世の終わりを見てきたかのように項垂れる。

それにギョッとして一瞬、動きが止まる。そんな精神にダメージを負わせるようなこと言ったっけ?

少し考えよう。ザク、ボロ負け→俺、それに対して謝ることはないと言う。

…ああ、そういうことか。

謝る必要がないって言葉、二つの意味に取ることができる。失敗を気にしてないよって意味、そして、お前には始めから期待していないから失敗しても興味はないって意味。俺は前者の方で言ったのだが、こいつは後者の意味に捉えたんだろうな。慰めるために言葉をかける。

 

「今回は残念だった。本当にな。しかし、次はどうするべきか考えたほうが建設的じゃないか?」

「次…ですか。」

 

ザクは吹き飛び無くなった自身の右腕を見下ろし自傷気味に笑う。

 

「諦めるのか?」

「…俺には何もなかった。そんな俺を拾ってくれたのが大蛇丸様なんです。大蛇丸様の期待に応えることができなかっただけじゃなく…もう期待に応えるなんてことが出来そうにもない。諦めるしかないじゃないですか。」

「諦めたいのか?」

「………すみません。一人にして頂けますか。」

 

肘の少し後から失われたザクの右腕を取り、言葉を囁く。

 

「“赤砂”のサソリって知っているか?」

 

ザクは首を横に振る。

 

「名前だけしか聞いたことがありません。」

「そうか。サソリは砂隠れの忍でな、天才傀儡造形師と謳われた忍だ。」

「そうですか…。」

「それが何かって顔をしているな。奴とは昔、っていうか今もだな。命を狙われて度々殺やりあったことがある。その御陰で、傀儡の造形に詳しくなった。」

「…。」

「サソリの技術を調べていく内に一つの結論に達した。それは、人の体に傀儡のカラクリを加えることで人の限界を超える事ができる、と。そして、最近、そのカラクリの機械化に成功した。…どうだ、ザク。お前さえ良ければ、この技術をお前に託したいのだが…。」

「お願いします!」

 

目をギラギラさせて喰い気味に言葉を重ねるザク。ちょ、近い近い!

体を少し離し、ザクに頷く。

 

「わかった。…お前が望むのなら。」

 

そっと立ち上がり、ザクの病室から立ち去るためにドアに向かう。ドアを開け、廊下に出ようとした瞬間、後ろから声が聞こえた。

 

「ありがとうございます!次こそは期待に応えてみせます!」

 

後ろを振り向かず手を後ろに向かってヒラヒラと振り、ドアを閉める。

廊下を歩きながら、考えを巡らす。

先程ザクに言った『カラクリを人の体に加える技術』はまだ実用段階ではない。上手くいけば御の字だが、上手くいかなかった場合はどんな効果を被験者に与えるのかハッキリとしたデータは出ていない。もちろん、理論的には問題がないレベルには仕上げているが、理論値と実際の値は異なることが常だ。特に、このカラクリは輪廻眼 修羅道のカラクリの構造を今の音隠れの技術力で再現可能な技術を流用しているため、想定していない結果になる可能性もある。しかし…。

 

「“これから”は期待をしてみるよ、ザク。」

 

振り返り、そっと呟く。当人の頑張りが要求されるリハビリにもあの様子だと耐えられるだろう。

踵を返し、試験会場に戻る。試合は進み、ちょうどミスミがカンクロウの烏カラスに締め上げられている所だった。ミスミはギブアップって言っているのに容赦なく烏カラスの力を強めるカンクロウ。つまらない試合だな。ミスミがやられる様を見ながら欠伸を噛み殺す。

木ノ葉がどう動くか…。

それを見て、俺は計画の修正をしなくちゃならない。残念ながら、今夜はどうも眠れそうにない。


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