一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@37 もう一つの顔

“第二の試験”、二日目。

特になし。

“第二の試験”、三日目。

特になし。

“第二の試験”、四日目。

特になし。

強いて言えば、二日目は受験者の情報を収集していたのだが、それは一日で終わってしまった。三日目はミスミに任せていた巻物の奪取を俺もした。暇つぶしとして、のらりくらりと30分かけて草隠れの忍と闘い巻物を奪ったのが三日目の昼過ぎ。その後は、魚を捕まえたりして死の森の恵みに感謝した。あとは、雨風を凌げる小屋の中にフカフカなベッドがあって枕を家から持ち込みOKだったら最高だったのだが、そんなものはもちろんなく、サバイバルでバトルロワイヤルなため、奇襲に警戒するあまりほとんど眠ることができなかったことをここに記しておく。

で、四日目にミスミと偶然出会ったが、特に話も盛り上がらず退屈な時間を過ごしていた。ちなみに、ミスミはしっかり巻物を二つ奪取していた。流石は大蛇丸様が捨てゴマとして見込んだだけはある。捨てゴマとはいえ、実力がある程度なければ捨てゴマにすらなれないのが“音”だし。

 

「…遅い。」

 

五日目の朝、ゴール地点である塔の前に居座りカブトを待っている俺とミスミだが、肝心のカブトが来ない。おかげでミスミのイライラは最高潮だ。

 

「まぁ、子守りで長引いているんだろう。まだ時間は残されてるし、これでも食べながら待とうぜ。」

 

ビンをミスミに渡す。

 

「…何です、これ?」

「うるか。」

「結構です!」

 

おいしいのに、うるか。捕まえた“死の森”の川魚を捌き、その内臓を日本酒でサッと茹でて、塩と卵黄で和えた料理。それが“うるか”だ。ショッキングな見た目と独特なクセが持ち味で酒にピッタリの逸品なのだが、好みがはっきり分かれる品でもある。

それにしても…。ビンに入れたうるかを箸で摘み上げながら思う。

第二の試験がサバイバルと知っていなかったら絶対に調味料は持ってきていない。そういう意味でも原作様様だったな。

 

「来たか。」

 

ふいにミスミが顔を上げる。その目線を追って、目を向けるとボロボロのカブトがいた。演技お疲れ様。

藪を抜け、カブトと他三人の前に出る。カブトが俺たちの存在に今気づいたかのように話し出す。

 

「ああ、ヨロイさんたちでしたか。」

「遅かったな、カブト。しかも、ボロボロだし。これでも、食べて元気出せ。」

「…うるか、ですか?遠慮します。」

「そうか…。」

 

カブトにも断られたことでシュンとした俺にカブトの横にいた三人組の一人が声を掛けてくる。

 

「ヨロイの兄ちゃん!」

「おう、ナルト。お前もボロボロじゃないか。これ食べろ。」

「え?なになに?」

 

うるかを箸でナルトの口に運ぶ。咀嚼したナルトの顔が一瞬で強張った。

 

「にっがぁー。」

「まぁ、これが大人の味だからな。」

「う、うまいってばよ。うぷ。」

 

背伸びをする少年を見て微笑ましくなった。ガキは皆こんなもんだしな。昨日まで週刊少年誌オンリーだった奴がいきなり英語の原書を読み始めてみたり、コーヒーの苦みも何も分からないのにブラックに拘ってみたり。形成していく自意識と夢見がちな幼児性が混じり合うとさっきのナルトのような行動を取ってしまう。

少し笑って、まだまだかわいいガキのナルトに話しかける。

 

「ナルト。」

「?」

「お前たちも巻物を取れたようだな。」

「もちろんだってばよ!オレさ、オレさ、むっちゃ活躍したんだってばよ!」

「ああ。最後なんか特に凄かったよ、ナルトくんは。」

 

俺とカブトが褒めたことでナルトが破顔する。

 

「ヨロイさん、そろそろ時間です。」

 

ミスミが俺を促す。ミスミに向かって頷いた後、ナルトたちに選別の言葉を掛ける。

 

「ああ、そろそろ行くか。ナルト、サスケ、サクラ、頑張れ。次の試験で当たったらよろしくな。」

「フン。」

「え?は、はい!」

 

サスケめ、クールに決めやがって。態度がデケェ。少しはサクラを見習え。少しビックリしたぐらいの返事がかわいいっつーのに。

 

「ぼくらはこっちの扉を行くから…。じゃあ、お互い頑張ろう!」

「うん!………へへへ。」

 

カブトとナルトの話も済んだし行くか。踵を返し、ミスミが開いた扉を潜り抜ける。俺たちが通り抜け、扉を閉めると声が掛けられた。

 

「収穫は…?」

「ああ…予想以上ですよ…。」

「“第二の試験”での彼の情報データは全て書き込んでおきましたよ。コレ要るでしょ…?」

 

カブトは左手に持った忍識札を差し出す。

 

「で…どうだったの?」

「フフ…。やはり気になるようですね。」

 

カブトから渡された忍識札をジッと見つめる人がいた。

 

「大蛇丸様。」

「………お前の意見を聞きたいのよ………。“音の隠密スパイ”としてのね…。」

 

カブトは掌を顔の傷に翳す。彼が傷をなぞると、みるみるうちに傷が消えていく。

 

「それは必要ないでしょう…。全てをお決めになるのはアナタなのですから。」

「フッ…。お前のその賢さが気に入る。」

 

大蛇丸様がこちらに顔を向ける。

 

「ヨロイ、あなたの方はどうなの?」

「大した人材はいなかったのですが、一人、気になる奴が居ました。うずまき一族と思われる赤い髪の少女。その子を含めて全てをこちらに詳しく焼き付けています。」

「なるほどね。」

 

カブトに続き、俺も大蛇丸様に忍識札を渡す。受験者の個人情報を集めるように中忍試験前に大蛇丸様に言いつけられていた。中忍試験本戦に出ることができなかった忍の中にもキラリと光る個性を持った奴は香燐を始めとしてゴロゴロいる。そいつらを“音”にスカウトするための判断の一つとなる大切な情報だ。

 

「わかったわ。次の試験、楽しみにしているわ。」

 

そういって、大蛇丸様は二枚の忍識札を懐にしまい、姿を消した。

大蛇丸様を見送り、カブトとミスミに声を掛ける。

 

「先に進むか。大蛇丸様を楽しませないと後が怖いしな。」

 

“天”と“地”の巻物を同時に開くと中に書かれていた“人”という文字から煙が吹き出し、辺りを包む。

…さぁ、第三の試験予選と行こうじゃないか。


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