一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@29 ミナトの死鬼封尽!!

耳の横を下から上に通り過ぎる風。

そして…閃光。

まるで太陽を落としたのではないかと思う程の光量にレンズ越しに目を焼かれる。続く轟音と衝撃。音圧だけでここまでの影響を与えるとは大した奴だ。

音もなく地面に降り立つ俺に三代目が顔を向ける。

どうするか…。

どこまで話すか少し逡巡する。襲撃者によってこの九尾襲来が齎されたであろうということは、三代目にすでに伝えている。しかし、裏を返せば三代目にしか襲撃者がいたという情報は伝えていない。このことは秘匿するべき情報である。その理由は襲撃者の推測を里の上層部以外にはさせないというものだ。…情報は大切だ。

敵の情報を集めるだけが情報戦じゃない。嘘の情報を流し、こちらの動きを悟らせないようにする他にも、集団を空中分解することすら可能だ。民意というのはいつでも怖いもので、デマにより国の民に裏切られ大名がいなくなった国もある。つか、目の前で見てたって…いうか、それに俺も一枚噛んでいた。全く…。

首謀者である大蛇丸様に『吐き気をもよおす『邪悪』とはッ! なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ……!! 自分の利益だけのために利用する事だ…』と言いたいのを飲み込むぐらい情報は重要なのだ!

口を噤んだままの俺を三代目が見る。

 

「報告は全て終わってからでよい。今は走るのじゃ!」

 

俺の言いたいことを察してくれた三代目と共に走り出す。

行き先はもちろんミナト先生の元だ。

 

+++

 

「!!」

 

巳亥未卯戌子酉午巳。そして、最後に両の掌を合わせる。

遠くにいる四代目火影の背中は『覚悟』を雄弁に語っていた。体が震える。始めから見殺しにするつもりなのにここにきて後悔することになるなんて笑える。

隣の三代目の唇が震える。

 

「あの印……まさかもう…。」

「ええ。屍鬼封尽ですね。」

 

ザッと音を立て、上忍が二人俺たちの後ろに姿を見せる。

 

「三代目様!どうなったんです!?」

「ダメじゃ…。ここより先は九尾を外に出さぬように張った結界のせいで入れぬ!あやつら自分たちだけで九尾をどうにかするつもりじゃ!」

 

クシナさんが張った結界に手を押し当てながら三代目が新しく来た二人に説明する。

 

「まぁ、簡単に言えば…もう終わったってことですよ。」

「終わった?」

「ええ、四代目夫妻の御陰で、ね。」

 

三代目の言葉は説明になっていなかったんで、俺が説明しちゃいますよ。

 

「そうか。終わったんだな?」

「いえ、これからが大変ですよ。里の復興が急務です。四代目がいない状況で復興を進めなくてはなりませんから情報規制を掛けた方がいいでしょうね。」

「四代目がいない状況?しかし、四代目は…。」

「先程、命を引換にする禁術を使ったんで四代目が死ぬことは避けられませんよ。まぁ、まだ発動はしていないようですが。」

「な!」

 

残念ですがそういうことです。

九尾の咆哮が響き渡る。

 

「屍鬼封尽を使うとは!…ミナト。」

「しかし、まだ九尾が!封印しきれなかったのか!?」

「…九尾が小さくはなったが。四代目様が命を賭してまで封印をしたというのに!」

「…いや、よく見てください。」

 

指を指し、上忍たちの視線を促す。

ミナト先生の前には石作りの台座が口寄せされていた。

 

「あの台座。八卦封印の儀式用の台座ですね。おそらく、あの子に九尾を封印するつもりなんでしょう。」

「あんな子に、九尾を!?無茶だ!」

「なら、どうします?あなたが九尾の器になりますか?」

 

無茶と叫んだ上忍に向かって冷たい声を掛ける。その上忍は口を噤み視線を落とす。

 

「その気概がないなら他の解決案を提案してください。そして、どちらもないのなら黙っていてください。耳障りです。それから…。」

 

視界が変わる。

 

「お前の声が一番ウルサイんだよ。」

 

九尾の右手を押さえる。

 

「貴様!ワシのチャクラをなぜ持っている!?」

「曾爺さんがお前から奪ったらしくてな。その御陰だろうな。それから…もう少しお前を頂く。」

「これは!?ワシのチャクラを吸収しているのか!?」

「そういうことだから、もう黙れ。」

 

九尾の体が傾き倒れる。一瞬のことで何が起こったか分かりにくいから順序だてて説明しよう。

飛雷神の術でミナト先生が持っているマーキング付きクナイに向かって飛び、九尾が四代目夫妻に突き出した右手をチャクラの衣を巨大な手に形態変化させ九尾の右手を受け止めて、チャクラを吸収したって話だ。

 

「ヨロイ…君に守られるとは思ってもみなかったよ。」

 

儀式台の上で眠るナルトを庇うようにして立つミナト先生が首だけ俺の方に向け、笑顔を浮かべる。ホントはそんな余裕なんてないだろうに。心を隠して明るい声で二人に語りかける。

 

「名場面レイプしちゃってさーません。子どものために自分の体を盾にするお二人の覚悟を邪魔しちゃった形になるんすけど、許して欲しいッス。」

「うん。ありがとうってばね、ヨロイ。これでナルトと最期までいれる。」

「…。」

 

クシナさんの言葉に何もいえなくなった。クシナさんはナルトの左側に、そしてミナト先生はナルトの右側に座る。

 

「…ミナト、あなたの本気…分かったわ。」

「ありがとう、クシナ。」

 

ミナト先生は震える手で印を結び、体が巻物になった蛙、ガマ寅を口寄せする。

 

「ん?うおっ!!九尾!!って四代目!お前も何じゃこりゃ!?」

「ガマ寅。お前に封印式の鍵を…渡す。その後…すぐに自来也先生へ…蔵入りしてくれ…。」

「確かに鍵は預かった!なら…行くけんの!」

 

そういって姿を消すガマ寅。ミナト先生はクシナさんの左手を取り、手を繋ぐ。

 

「…これで安心だ…。クシナ、そろそろ八卦封印を…やるよ…。オレのチャクラも…ナルトへ少し組み込みたいんだ。…当分は会えない。今…ナルトに…言いたいことを言っておこう…。」

「…ナルト。好き嫌いしないで…いっぱい食べて…大きくなりなさい!」

 

唇を強く噛み締めたのだろう。クシナさんの口から零れた血が顎をつたわり落ちる。

 

「お風呂には…毎日ちゃんと入って…温まること…。それと…夜更かししないで…いっぱい寝る事…!」

 

ミナト先生は何も言わず、ナルトを見つめている。

 

「それから…お友達をつくりなさい…。たくさんじゃなくていい…から…。本当に信頼できるお友達を…数人でいいの…!」

 

クシナさんは顔を少し顰める。

 

「それと…お母さんは苦手だったけど…勉強や忍術をしっかりやりなさい…!ただし…得意…不得意が誰しもあるものだから…あまりうまく…いかなくても…落ち込まないでいいからね…。アカデミーでは…先生や先輩の事を…敬いなさい…!」

 

クシナさんは笑顔を浮かべて言う。

 

「あ…それと…大切な事…。忍の三禁について…。特に…“お金”の貸し借りには気をつける事…。任務金は…ちゃんと…貯金する事…。それと…“お酒”は二十歳になってから…。飲み過ぎては体にさわる…から…ホドホドにする事…!」

 

そっとミナト先生も頷く。

 

「それと…三禁で問題なのが…“女”…。母さんは…女だから…よく分からないけど…。とにかく…この世は男と女しかいないから…女の人に興味を持つ事になっちゃうけど…。…変な女に…ひっかからないよーにね…!母さんのような女を…見つけなさい…!」

 

再びミナト先生が頷く。

 

「それと…三禁といえばもう一つ…。自来也先生には…気をつけなさいってばね…!」

 

これには、ミナト先生も俺も苦笑い。

 

「………。ナルト…これからもつらい事…苦しい事も…たくさんある…。」

 

クシナさんの目に涙が浮かぶ。

 

「自分をちゃんと持って…!そして…夢を持って…。そして………夢を叶えようとする…自信を…持って…!!………。もっと!もっと、もっと、もっと…!もっと…本当に色々な事を一緒に…教えてあげたい…。…もっと一緒にいたい…愛してるよ…。」

「…。」

「…ミナトごめん…。私ばっかり。」

「ううん…いいんだ…。」

 

クシナさんの目から涙が流れる。

 

「ナルト…父さんの言葉は………口うるさい母さんと…同じかな…。」

 

眠るナルトの顔が笑顔に見えた。

 

「八卦封印!」

 

封印の術式が完成し、九尾がまだ小さなナルトに封印される。それと同時に二人は力尽きたように地面に倒れ込む。

 

「…クシナ。」

「…何?」

「………ありがとう。」

 

そういって、目を閉じるミナト先生。二人の間には長い言葉はいらなかったらしい。何度も頷いているクシナさんを見ているとそう思えた。

儀式の台座に近づき、ナルトを抱き上げる。口寄せの術で取り出して置いたシーツにナルトを包んでいくとクシナさんから声を掛けられた。

 

「ヨロイ…。その子をお願い。…見守ってあげて。」

「え?嫌なんですけど。」

「え?」

「え?」

「え?」

 

近くに来ていた三代目も会話に入って来る。これは理由を説明しないと納得しなさそうだな。影分身を作り、その影分身体にナルトを預けると飛雷神の術で姿を消した。

 

「クシナさん、少し考えてください。里は九尾の性で甚大な被害を受けました。里の皆は九尾を憎んでいるに違いないですよね?だったら、九尾の人柱力であるこの子…ナルトも里の皆に憎まれることは簡単に想像できます。そして、そのナルトと親身にしていたら…村八分にされると思いますよ。」

「ヨロイ!そんなことを言うでない!」

「さーません。そんな訳で、ナルトを見守るってことは嫌なんスよ。まぁ、どうしてもって言うんなら…。」

 

立ち上がりながら、クシナさんにだけ聞こえるように呟く。

 

「後ほど…詳しく話をしましょう。」

 

ドンっとぶつかられる。三代目だ。

 

「クシナよ…。この子はワシが面倒を見る。この子は木ノ葉を救った英雄じゃ。里の者もこの子を邪険にはしまい。だから、安心するのじゃ。」

「三代目様…ありがとうございます。」

 

クシナさんは最期に笑顔を浮かべて逝った。俺と三代目のすぐ後に来た上忍二人がミナト先生とクシナさんの遺体を里に運ぶ為の準備をするのを突っ立って見ていた。行動早ぇ。つか、もう運んでいったよ。葬祭の準備だ、なんだのあるにしても早過ぎません?

視界の隅にあった三代目の肩が震える。

 

「ヨロイ。なぜあのようなことを言った?貴様、自分のしたことがわかっておるのか?」

「ちっ、うっせーな。…反省してまーす。」

「貴様!」

 

三代目が激昂し、俺の頬を殴る。思いっ切り殴りやがったな、このジジイ。特注の仮面がバラバラと崩れていく。普段、温厚な俺もこれは少し頭に来た。

 

「三代目。失礼を承知で申し上げますが…あんた、頭悪いだろ?」

「なんじゃと?」

「適当にホラ吹けばいいって問題じゃねぇぞ、コラ。そもそも、あんたにナルトを育てることができんのか、あぁ?妻のビワコ様もさっき亡くなって、里の復興で時間を取られるあなたがナルトの面倒を見る?アホ言え!見れる訳ねぇだろ!九尾の人柱力なんて厄介な代物を扱うには一般の保育施設じゃ絶対できない、それどころか、上忍ですら危ない。結局、暗部に回すことになる。部下に押し付けることが面倒を見るってことか?」

「そ、それは…。」

「そして、そのことを九尾の人柱力だったクシナさんが気付かないとでも思うか?他国の人柱力の様子を知っているクシナさんが予想できないハズがない。最期に浮かべた笑顔はあんたを安心させるための“嘘の笑顔”だ!」

「それでも、クシナはお主を頼った。それを蹴るほうがよいというのか!?」

「子どもの将来が不安なままで他人に気を使う最期なら、ハッキリ望みは叶わないといってやるほうがいい。」

「…大蛇丸の弟子なだけはあるの。」

「ただ、リアリストなだけですよ。自分を大切にしたい臆病者の、ね。」

 

三代目は俺に背を向ける。もう話すことはないというように。

 

「三代目!さっきはあんな風に言いましたが、命令なら話は違ってきますよ。覚えておいてくださいね。」

 

三代目は訝しげに俺を見る。それもそうだろう。さっきと言っていることが180°違う。なら、三代目はどう考えるか?その答えはこうだろう。

 

俺はナルトの面倒を見ることは嫌だと言った。なぜなら、“ナルトと親しい”と里の他の人から嫌われるからだ。

しかし、火影の命令でナルトの面倒を強制的に見させたらどうなるか?それはきっとこうなるんだ。

火影の命令で“仕方なく”ナルトの面倒を見ている運の悪い奴、と。そうなれば、俺を攻めることはまずないだろう。

三代目が気付くかどうか分の悪い賭けではある。三代目は憮然とした表情でこちらを見つめる。

そして、俺は賭けに勝った。

 

「では、覚えておこう。」

 

安心した表情を少しだけ浮かべ、今度こそ俺に背を向け里に向かって駆けだす。

それを見送り、俺も飛雷神の術でアジトへと向かう。

 

「リン!どこだ?」

 

白い部屋に飛雷神の術で移動し、リンを呼ぶ。研究室のドアからリンの顔が覗き、間延びした声が聞こえる。

 

「おかえり~。」

「研究を始めるぞ!っと、その前に…。」

 

リンに続いて研究室に入り、壁の引き出しから“人”と書かれた巻物を取り出す。

 

「よし!」

 

口寄せの術式が書かれたこの巻物から出てきたのは人間だ。拷問尋問部隊の特別上忍とは大蛇丸様が里からいなくなった今でも親しくしており、時々このような人間が必要な時は貰っている。そのストックを使い、穢土転生を行う。塵芥が舞った後に現れたのは赤い髪だった。

 

「気分はどうですか?…クシナさん。」


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