『あなた、私のモノになりなさい。』
もしさ、もしさ、もしもしさ。
この言葉をキレイメでやり手で、しかも巨乳な女上司から言われたとしたら…。俺は間違いなくついてイキます!
ルパン脱ぎでダイブまでかまして朝チュンしてやりますよ。
ですが、現実はそう甘くないもので…。
俺の横に歩いている人をチラッと見上げてみる。
「どうしたの?」
「いや、妄想と現実のギャップに泣きそうになっただけです。」
『あなた、私のモノになりなさい。』
現実は口からイロイロとゲロゲロ出す気持ち悪い人、しかも、男。さらに、精神的な帰り道を塞がれて言われた言葉です。ちなみに、その男の名前は大蛇丸といいます。
「で、大蛇丸様。曾爺さんの墓まで案内するのは、まぁ、いいとして、嫌われ者の墓なんかにどんな用があるんですか?」
「用があるのは墓なんかじゃないわ。私が探しているのは、あなたの曾お爺さんの体よ。」
「なーるほど。死姦が趣味ってことですね?」
「黙りなさい。」
まぁ、十中八九、穢土転生の契約に使うために探してるんだろうけど、二歳児のぼくがそれを知っている訳はないんで、茶化したらマジ切れされた。
今度はクナイなんかじゃない。草薙の剣を目の前に突き出された。
…ちょっと死ぬかと思った。
「さーません。ふざけないので、その剣下ろして頂いてもよろしいですか?」
「今度私の話を遮ったら殺すわよ。」
「はい。」
周りの景色がぶれる程のスピードで頭を縦に振る。
俺の誠意が伝わったのか、大蛇丸様はため息をついて話始めた。
「アジトに着いたら、そういう所から調教していってあげるわ。あなたの曾お爺さんの死体を探す理由はね、穢土転生という術を使うために必要だからよ。」
何やらアジトに着いたらアブナイことが起きるかもしれないけど、それは俺の精神安定上スルーで!
しかし、ビンゴ!だが、俺は穢土転生という術を知らないというように振る舞わなければならない。
なぜなら、二歳児だから!
つか、禁術指定されてる術のハズだから、年齢に関わらず知ってる人はそれを隠さなくちゃ、消されるってのがセオリーだしね。
だから、ここで俺が取る行動は一つ!
「えどてんせいー?」
かわいい声で小首を傾げて、穢土転生とは何ぞや、と聞くことである!
「私をおちょくるのはやめなさい。」
大蛇丸様は目を少し細めて訝しげに俺を見る。
「何でしょう?」
「何でもないわ。行くわよ。」
「行くわよって場所知らないのにどこに行くんですか?」
「…。だから、そういったことはやめなさい。話が進まなくなる。」
「それもそうですね。」
大蛇丸様の前にでる。
「さぁ、行くわよ。」
「私の真似をするのもやめなさい。」
そうこうして、無言で歩くこと小一時間。
曾爺さんの墓の前に着いた。全く。こんな息の詰まるピクニックは初めてだぜ。
しかも、目的地が墓場っつー気の滅入る場所という徹底ぶり。大蛇丸様はとんだドSヤローだぜ。
「ここが、俺の曾爺さんの墓です。」
「そう、ここが。」
大蛇丸様は感慨深げに曾爺さんの墓を見ている。
「何か嬉しそうですね。あなた達、木ノ葉の人間からは恨まれていてもしょうがないことをしたのに。」
笑顔を浮かべたので尋ねてみる。
「その理由を、あなたのせいでさっき説明し損ねたのよ。」
「さーません。」
ジロリと睨んできたので一応謝っとく。
「さっき言った穢土転生。この術は、あなたの曾お爺さんを殺した先代の火影が考案した術でね。死者をこの世に甦らせる禁術の口寄せよ。この術にはね…。」
「蘇らせたい人間の体の一部…一定量の肉体が必要になるってとこですか。じゃないとわざわざ墓を暴くなんて意味のないことをしませんもんね。」
「正解よ。あなた、本当は何歳なの?」
「産まれて二年ですよって。」
大蛇丸様は微笑を浮かべる。
「まぁ、いいわ。少し待ってなさい。すぐに終わらせるから。」
本当にアッという間だった。土遁で土を掘り起こして遺体を現してすぐに、骨を抜き取って巻物に付ける。すると、巻物の図柄が変わって契約が完了したことが見て取れた。
次に横の墓、俺の大大叔父の墓も同じような流れで契約していく。
「ククク。雲に二つの光ありと謳われたあの兄弟を手に入れたわ!」
「そうはさせん!」
「…父さん。」
ザッという音と共に目の前に立ちふさがったのは父だった。
「あら、なかなか監視が厳しいのね。」
父さんが大蛇丸様をキッと睨む。
「ふん。木ノ葉が何やらこそこそしているのは解っていた。しかし、貴様。その骨をどうするつもりだ?」
「私の研究に必要なのよ。」
「なんでも、『この世を解き明かす者』らしいからね。曾爺さんの骨も必要になるってものよ。」
「…。」
「…。」
嫌ぁーな沈黙が広がった。
「この世のうんぬんは置いといて、だ。息子を返してもらおう。」
「大蛇丸様。あのセリフ、あまり面白くないみたいですよ。笑い上戸な父さんが全く笑わないですもん。」
「もう。黙りなさい。」
顔を赤くした大蛇丸様が言う。
「この子は私が貰っていくわ。特殊な体質に素晴らしい頭脳。私の部下に相応しい。」
「ヨロイはやらんぞ!」
「ククク。残念ねぇ。あなたはもう私の幻術の中。」
「くっ!動けん!」
どうやら大蛇丸様は幻術で父さんの動きを止めたようだ。独学で忍の術を学んでいる俺たち一族には効果抜群だね、やっぱ。
「あー、大蛇丸様。ちょっといいですか?」
「何なの?手短に話しなさい。」
「父さんには効いても、俺には幻術は効かないんですよ。」
むっちゃ驚いた顔で大蛇丸様が見てくる。ちょい面白い。
確かに印を結ばないと、相手からチャクラを吸収できないんだけど、相手から俺にチャクラを流し込んだなら話は別。その場合は、オートで吸収されるのが俺の体質。
幻術っていうのは、自分から相手の五感に作用しながらチャクラを流し込んで相手をコントロールする術。だから、俺に幻術を掛けても、その流し込んだチャクラはすぐに吸収される。
これが、俺の幻術が効かない理由。
でだ、父さんと同時に俺まで幻術に掛けた理由は…。
「大蛇丸様。あなた…父さんまで捕まえようとしてましたね?そして、あわよくば、一族全員。」
「フフフ。何のことかしら?」
「まぁ、未遂なんでどうとでも言い逃れできますしね。…もう一度言っておきます。一族に手を出したら、本気で抵抗します。つまり、チリも残さず自爆します。チャクラの吸収術は俺だけしかできないんで、俺がいなくなったら研究とかできないですよ。」
「それは痛いわね。」
またクククと笑い始める大蛇丸様。
ほんと、何考えてるのかわかんないな、この人。
「私はあなたの能力はもちろん、あなた自身の性格、考え方、そして、頭脳。全てが欲しいのよ。わかったわ。約束してあげる。あなたの一族には手を出さない。」
背を向けて歩き始める。
「行くわよ。付いてきなさい、ヨロイ。」
ここから去っていく後姿。
「ヨロイ、早く来るんだ!」
ここに呼び止める声。
一瞬の逡巡の後、俺は声の方に向かって行った。
「開!」
「ヨロイ!さぁ、村に帰るぞ。」
俺の手を父さんが引っ張る。
俺はその手を…払い除けた。
「ヨロイ?」
父さんの声が響く。
「ごめん、父さん。」
「何を言ってるんだ!村に帰れば、あいつからは見つからない!それに、村の大人たちがお前を守る!お前だけが犠牲になることはない!」
「俺はさ…。」
そっと呟く。
「一族の皆が好きなんだ。だから、皆を守りたい。もし、ここであの人から逃げても、すぐに捕まるし、村まで見つかってしまう。そうなったら、皆が傷ついてしまう。」
まっすぐに目を見る。
「だから、俺はあの人に付いていく!ごめんね。今までありがとう。」
振り返らずに走る。
「お別れの言葉は済んだの?」
「ええ。」
「それじゃ、行くわよ。」
大蛇丸様の瞬身の術で一気に住み慣れた場所から遠ざかる。
最後に見えたのは、こっちに走ってくる父さんの涙で濡れた顔だった。