えっと、何が起こったのか分かりません。
暗部の先輩たちと護衛任務で洞穴の前にある鳥居の上に立っていたら、先輩たちが突然首から血が吹き出しました。てか、クシナさんの声が大きすぎて先輩たちの最後の声が聞こえないって言うなかなか悲しい出来事。陣痛で苦しんでいる奥さんに言うべき言葉じゃないけど…マジうるせぇ。
「つっ!」
後ろだ!気配に気づいた時はすでに奴のクナイが俺の首に迫っていた。
首の後ろでガキンと金属音がする。
「良い斬撃だが場所が良くない。首の後ろは生物の最大の死角だよ。そんな場所に何の防御も施さず戦いに臨むと思うかい?」
首の後ろを狙ってきた卑怯者にオサレに言い放つ。
それにしても…以前と比べ、遥かに強くなっている。やはり、仮面か。仮面が原因なのか?
俺もお面を被っているのにパワーアップできないのは少し悲しい。
渦巻状に乱れている空間を見つめ考える。
二小隊、しかも全員暗部、を相手取り傷一つ負わない所か、たった数秒で俺以外を全員殺害するとは…。俺も全身に張り巡らせておいたチャクラの鎧で身を守っていなかったら今頃、お陀仏だったな。
「ほう、なかなかやるな。」
仮面の男は時空間から完全にその姿を現す。
「それはどうもッ!」
仮面の男から距離を取りつつクナイを数本投げるが、クナイはそのまま男の体をすり抜ける。やっぱ便利だな、神威は。
鳥居から跳び、下にある川の水面へと降り立つ。
水面から見上げるとかっこいい文様をした仮面を被った男がいた。夜の闇の中で右目が怪しく赤に輝く。久しぶりにあったら、イメチェン具合が突き抜けているじゃねぇか、オビト。
「その眼…写輪眼か。」
「よく気づいた。だが、それに気づいた為にお前の命は終わる。」
「いや、終わらないさ。だって、俺に幻術効かねぇもん。」
静寂。一瞬呆けた仮面の男は納得したように頷く。
「なるほど。この俺の幻術さえ吸収するその特殊体質。お前、雲の金銀兄弟の子孫、赤銅ヨロイか。」
「敵に自分の正体を明かすのは悪手だぜ。教えるハズがない。違うか?」
「なるほど、一理ある。では、こうしよう。お前を殺した後にその面を外させて貰う。」
再び空間が歪む。
殺されるのはたまらないとチャクラ感知を張り巡らせ、チャクラの鎧を体中に纏う。
それにしても、どうしよう。これから仮面の男、つまりオビトが四代目火影の妻であるクシナさんから九尾を抜き、里を襲い、直接的ではないにしろ四代目火影であるミナト先生の命を奪うのを案山子みたいにボケッと突っ立て見ておかなきゃいけないのに。
皆さんを見殺しにするつもりの俺にターゲットを絞られるのはマジで勘弁して欲しい。
と、チャクラ感知にオビトのザラザラとした変なチャクラが引っかかった。どうやら、目的を優先したらしい。神威で結界をすり抜け、クシナさんの所に一気に飛んだようだ。
…気を張っていた俺を無視して。空しい。
しかし、これはいい流れだ。十尾消滅のためには九尾inナルトが必要不可欠。俺が四代目夫妻を見殺しにするのにはいい理由ができた。
「予定通り三代目に報告だな、こりゃ。」
目の前の洞窟からオビトとクシナさんのチャクラが消えるのを確認して飛雷神の術で木ノ葉の里に飛ぶ。視界が変わり、火影の執務室に近い忍者学校の屋上からの景色が目の前に広がる。
脚に力を籠め、家々の屋上を跳ぶとすぐに火影の執務室が見えてきた。三代目のチャクラもそこから感じられる。…報告、嫌だなぁ。
そうは言っても、俺は里の雇われ忍。報告はしっかりしないといけない、ってか誤魔化して嘘がばれると投獄の危険もあるほどきっついお仕事が忍である。任務には誠実でなければいけない。
そんな訳で、瞬身の術で三代目の前に煙を纏って姿を現す。
「失敗か…。報告せよ!」
三代目の言葉に一拍置いて、口を開く。
「ハッ!報告します。九尾の人柱力の元に仮面を付けた襲撃者が出現。それを排除しようとした暗部二小隊は自分を残し全滅。」
「なんと!?…九尾はどうなった?」
一瞬の逡巡。妻のビワコ様の安否よりも先に状況を確認する三代目の心の内はいかほどだろうか?
「安定した状態のチャクラが急に消失したので、襲撃者は時空間忍術を使い逃走したものと思われます。その際、九尾の人柱力のチャクラも同時に消えたので拉致したものと考えられます。」
「ミナトはどうした?」
「産まれた子と共に離脱しております。」
「そうか…。」
三代目は最後にそれだけ呟くと手甲に指を通す。
しかし、本来なら聞こえるハズのキュッという手甲に指を通した時の独特の音は聞こえなかった。地響きと共に建物が壊れる音がしたからだ。窓から里を覗くとオレンジ色の物体が里を蹂躙していた。
俺と三代目が現場に向かおうとすると、暗部の一人が報告に現れる。
「三代目火影様!!九尾が!九尾が急に里に出現しました!」
「分かっておる!アレはワシが押さえる!…暗部は非戦闘員の保護を優先!その後、ワシらの援護じゃ!」
「ハッ!」
「お前はミナトと共に行け!」
「ハッ!」
「行くぞォ!」
三代目の掛け声と共に再び飛雷神の術で飛ぶ。
時空間忍術で飛んだ先は四代目火影の顔岩の上だ。目の前には『四代目火影』と意匠を施された羽織、そして、奥の方には真っ黒な塊がこっちに向かって飛んできていた。
「ぎゃあああ!死ぬうー!」
「ヨロイ、落ち着いて!」
「はい。」
「ハハ、いきなり落ち着いたね…。」
急に真顔になった俺を見て困ったように微笑むミナト先生。
しかし、それは一秒のとても短い時間だった。ミナト先生は真剣な目をして目の前の黒い塊、つまり尾獣玉を睨む。ミナト先生がクナイを構えた。空間に術式が浮かび上がり、俺たちに向かって来ていた尾獣玉が空間に飲み込まれて消えていく。飛雷神・導雷の術だ。
「三代目に報告は?」
遠くの方で閃光と轟音が発生する。ミナト先生が飛ばした尾獣玉が爆発したせいだろう。
「襲撃者の特徴を伝えましたが、時間を置かず九尾が里に出現しましたので三代目はそちらに向かわれました。そして、俺は…。」
後ろを振り返る。そこには影が佇んでいた。かつて、火影になると夢想を語っていた同僚。そして、その正体も死という闇に葬られた仲間。
先程止めた言葉を紡ぐ。
「四代目火影。あなたのサポートです。」
感情を隠したまま、仮面の男が動いた。