柔らかな風が彼の白い髪を優しく撫でる。
「これ…一応極秘あつかいなんだけど…ミナト先生のお子さんが産まれるんだってさ……。戦争を知らない世代だよ…俺たちももう少し遅くに…。」
少し息を止める。無表情になった彼の…その感情は計り知ることはできない。
「…。」
目に悲しげな色を浮かべたまま男は言葉を紡ぐ。
「…オビトにも報告してやらなきゃ…。もう行くよ、リン。」
「三点リーダを多用するの止めようよ。ミナト先生じゃないんだから。」
「…ヨロイ。お前も墓参りか?」
「ああ。お前と同じ理由でな。戦争を知らない世代、ね。そいつらの為にも平和を維持しないとなぁ。」
カカシの独白を聞きながら火を付けた線香をリンの墓に置き、手を合わせる。ちなみに、しゃがんでいる俺の目の前にある線香は横向きだ。そして、墓に供えているのは白百合。余談だが、白百合が弔事に供えられることが多いのはキリスト教。ここの宗教観をすんなり受け入れることができないのは、俺が転生者だからか、はたまた捻くれ者だからなのか?
と言っても、それは郷に入っては郷に従えと考えるだけで解決するから大したことじゃない。考えていることを“戦争を知らない世代”についてのことに戻すため口を開く。
「ミナト先生の子どもの名前、聞いた?」
「いや、聞いてないけど。」
「ナルトだってよ。NARUTO!ミナト先生はネーミングセンス皆無って知ってたけど、流石にこれはDQNネーム超えてるよな。」
「…。」
「あ、ごめん。そういえば、お前の名前カカシだったっけ。」
「お前の名前はヨロイだろうが。」
なんというブーメラン。本人はここには眠ってないし、風にもなってもないリンの墓に思わず報告する。
「リらえもン。カカシアンが僕の名前が変だって虐めるよぉ。」
「なんだ、それ?」
リンの墓に備えた百合が風に揺れている。どうやら、リンも天国で笑っているらしい。
ホントは穢土にいるけどそういうことにしておこう。その方が上手く纏まっていた気がする。
立ち上がりカカシを慰霊碑の方に促す。
「オビトにも報告するんだろ?エノキにも伝えたいから俺も行くよ。」
「ああ。そうだな、行こうか。」
慰霊碑に向かって歩きながら、そっとカカシに目を向けるとカカシは目を伏せていた。
なんて言えばいいのかな?多分、俺の気持ちとカカシの気持ちはほとんどいっしょだと思う。後悔でも、悲哀でも、この言葉だけじゃ言い表すことができない。なんていうか…むちゃくちゃ苦い薬を飲んで思わず嘔吐して少しすっきりした時の気持ちが一番近い。
…あれ?なんか違う。
うーん。“ありふれた悲しみの果てに”ってのがしっくりくるようなこないような…。
ふと、カカシが立ち止まる。俺も続いて止まり、目を前に向けるとすぐ近くに慰霊碑があった。
慰霊碑に向かって手を合わせる。これからの未来がより良くなりますようにと願いながら。