一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@25 死んだんだ

「なんだヨ、これハ!?やめてくレ!助けてくウアァァァア!」

 

所変わりまして、ここは俺の研究室。大蛇丸様もダンゾウ様もここの存在は知らない。六道の術や世に流出してはいけない術の研究を行う為に慎重に慎重を重ねて作り上げた場所だ。

それにしても、藍の断末魔の叫びは聞くに耐えない。閉鎖空間に彼の濁声が反響して頭が揺らされる。おや、止まったようだな。

藍の体が在った場所に歩を進める。

 

「気分はどうだ?リン。」

 

藍の体がリンに変化していくのと同時に床に刻まれた術式も吸い込まれるようにして消えていく。塵芥が収まった後に居たのは紛れもなくリンだった。

 

「ここは…?」

「俺の研究室だ。心配しなくていい。三尾はもうお前の中にはいない。おっと、立ち話もなんだ。部屋を移そう。」

 

別の部屋へのドアを開けリンを促す。ソファとテーブル、それに冷蔵庫とキッチンを備え付けている白を基調としたリビングルームに案内する。そろそろとソファに腰を下ろしたリンの正面のソファに俺も腰を下ろす。

 

「お前は食事の必要はないが、何か食べるか?いつもと変わらない行動を取った方が気持ちは落ち着くが。」

「いや、いい。それより、何が起こったか説明して。」

「説明すると長くなるが…。そうだな、喉も乾くし何か飲み物を飲みながら話そう。」

「いいから!」

 

ソファから立ち上がり、冷蔵庫から予め冷やしておいた緑茶と戸棚からコップを出す。

 

「まぁ、これでも飲んで落ち着け。」

「いらない、早く説明を…」

「『飲め』。」

 

リンの体が一瞬強張りすぐに体の緊張が解ける。そして、淀みなく動き、コップの緑茶を飲み干す。穢土転生の効果はしっかり発動してあるらしい。

 

「今、体が勝手に動かなかったか?」

「う、動いた。どうして!?」

「これがお前に掛けた術の効果だ。実感して貰った方が早いと考えたがどうだ?」

「…幻術?」

「伝わらないか…。いや、幻術じゃない。これは穢土転生の術と言ってな。二代目火影が考案した術だ。生者を生贄に死者を甦らせ、その死者を操る卑劣な禁術だ。ちなみに、生贄にはお前に三尾を封印した男を使っている。嫌そうな顔をするな。使える生贄が奴しかいなかったんだから仕方ないだろ。」

 

ソファに座り、コップに入った緑茶を少し飲む。

 

「で、どうやってお前が生き返ったのかは解ったか?」

「うん。でも、そんな禁術聞いたこともないしリスクが大きいんじゃないの?」

「禁術だからな。表に出ることはまずない。俺が大蛇丸様の弟子じゃなかったら使うことは出来なかっただろうしな。この術のリスクか…。この術のリスクは発動までの準備が複雑ということがリスクと言えるだろう。」

 

人差し指を立てて説明する。

 

「まず、一つ目。この術は口寄せの術に分類される。つまり、契約が必要な術ってことだ。この契約がなかなか厄介でな。蘇らせたい死者の一部、個人情報物質、DNAが必要って訳だ。」

 

次に中指を立てる。

 

「そして、二つ目。生贄が必要。生贄に関しては体が欠損していても問題は無いからこれは比較的簡単だ。」

 

最後に薬指を立てる。

 

「ラストの三つ目。コントロール札を用意する。詳しい説明は省くが、穢土転生体の動きを支配する術式を書き込んだ紙を用意しなくちゃならん。これを忘れたら、傷をつけても自動修復する上にチャクラ無制限の穢土転生体がコントロール不能で暴れ出す可能性があるからな。」

「でも、一度発動したら…。」

「厄介極まりないな。生前親交のあった者と闘わせる、自爆させる、盾役とする。しかも、それが死ぬことも疲れることもないし、術者の命令には絶対に従う。術者を殺しても解けることはないから発動した後のリスクは死者側が解除の印を知っていた時ぐらいか。」

 

コップの緑茶を飲む。半分に減った緑茶を見た後、リンに目を移す。

 

「穢土転生の話はここまでにしよう。次はなぜ、お前を穢土転生したかについて話そう。」

 

リンは無言のまま頷く。

 

「お前を生き返らせた理由…それはオビトの為だ。」

「オビトの?」

 

リンは納得がいかないといった表情を浮かべる。そうだな、お前は知らないからな。

 

「オビトは生きている。」

「本当ッ!」

「ああ、本当だ。オビトは死んでいなかった。そして、リン。お前の死ぬ瞬間を見てしまった。それで奴はこの世が地獄だと悟り、この世を壊すことを決めた。」

「そんな…。そんなのウソだよ。」

「嘘じゃない。あいつの気持ちがわからんお前じゃないだろう?あいつはお前を…。」

「解ってた。」

 

沈黙が拡がる。リンが話すのを黙って待つ。やがて、表情を消したリンが呟く。

 

「オビトが私を好きなんだってことは解ってた。けど…気持ちに答えることはできなかった。」

「そうか。多分、そのことはオビトも気づいていたんだろうな。お前を手に入れることなんてできない。それに気付いたから、うちはマダラと手を組んだ。」

「うちは…マダラ?」

「ああ。木ノ葉創立の立役者の一人のうちはマダラだ。マダラはオビトを唆し、無限月読の術を世界全体に掛けようとしている。無限月読という術は術者以外の全ての世界の人間を個々が幸せと感じる幻術の中に封じ込める究極の幻術だ。防ぐことも解除することも選ばれし者しかできない。」

「選ばれし者?」

 

目の上の黒レンズを外す。

 

「無限月読に耐えられる者。それは輪廻眼の開眼者だけだ。」

「…輪廻眼って何?」

「え?」

「え?」

 

再び沈黙が拡がる。

 

「三大瞳術で最も崇高な輪廻眼を知らない、と?」

「うん。」

 

沈黙がまた拡がる。

 

「ありえないっしょお!何のためにキャラまで作ってシリアスに進めてきたと思ってんだよ!一人で空回ってただけじゃん、俺!」

「そ、そんなこと言われても…。それに、ヨロイが空回るのはいつものことだし!」

「そんなことねぇよ!そんなこと…そんなこと…。」

 

なんだか悲しくなってきた。

 

「ヨロイ、落ち着いて。はい、お茶。」

「ありがとう。」

 

お茶を飲んだら少し落ち着いた。気持ちを切り替える。

 

「えっとな、輪廻眼っつーのは瞳術の一つで色んな能力を使うことができる眼のことだ。その色々と強力な術に相対するには、目には目をって感じで輪廻眼を持つ者しか抵抗できない。」

「写輪眼みたいなもの?」

「写輪眼の上位種って考えて貰っても構わない。」

 

リンの疑問に頷いて話を進める。

 

「その輪廻眼を持つ者とオビトは手を組んで無限月読の術を完成させようとしている。それを止めるのが、俺の役目だ。力で止めるんだったらオビトを殺すだけでいい。けど、俺はオビトには里に帰ってきて欲しい。だから説得するためにお前を生き返らせた。」

「でも…私にできるのかな?」

 

リンの疑問は最もだ。リンだけが説得した所でオビトが納得するとは限らない。そもそも、あいつはリンと幸せに暮らす世界を作ろうとしているんだからな。

だが、説得役は一人じゃない。

 

「それはやってみないことには分からない。だけどな、もう一人説得役がいるんだよ。」

「誰?」

「うずまきナルト。これから産まれてくるミナト先生の息子だよ。」

 

俺は笑みを浮かべる。

 

「予言だよ。この世の救世主が現れるという予言だ。大蝦蟇仙人が下した予言で外れることはないんだとさ。この世の破壊者を止めるのは救世主の役目だろ?リンにはその手助けをして欲しいんだ。」

「腑に落ちない所は所々あるけど…分かった。私はそのナルトって子と一緒にオビトを説得したらいいんだね?」

「ああ、その通りだ。詳細な計画はもう少し準備が整った後で話す。おっと、質問とかあるか?あれば、今の内に聞いてくれ。」

「うん。じゃあ、一つだけ。」

 

リンの顔が険しくなる。

 

「私のDNAはどうやって手に入れたの?もしかして、私の死体を切り刻んで…。」

「してない。流石に、なぁ。お前のDNAを含む俺の知り合いのDNAはもっと前に手に入れていた。」

「どうやって?」

「誕生日の時にお前の顔にパイ投げした時があっただろ?その時に着いた皮膚や髪の細胞を培養して契約に使ったんだ。契約だけなら、相手が死んでいなくてもできるし。」

「でも、そんな培養とかできるハズがないよ。」

「だが我が大蛇丸様の医学薬学は世界一ィィィ!できんことはないイイィーーーーーーッ!!大蛇丸様から研究のノウハウを学んだ俺にとっては細胞の培養は朝飯前なのさ。疑問を解消した所で、次の質問に移ろう。他に質問はあるか?」

 

リンは首を左右に振る。どうやら、もう質問はないらしい。

テーブルを挟んでソファの向かい側に居るリンに向かって手を伸ばす。

 

「ま、今日の話せる内容はここまでだな。改めてよろしくな、リン。」

「うん。よろしく、ヨロイ。」

 

リンの手に視線を落とす。

握手を交わすその手は冷たかった。


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