一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@18 遺されたもの

雨上がりの泥濘の中、一人の男が部下を引き連れ歩いていた。そこは戦場。死の臭いが立ち込める非日常の空間である。屍の腐敗が始まっており、堅気の者であるならば、その場で嘔吐するであろう光景を見たこの男の反応は怪訝そうに眉をあげるのみであった。

男は慣れていた。闘いに、血に、そして、死に。男は顎の手裏剣を思わせる十字の傷を撫でながら彼の傍に控える獣の顔を模した仮面を被った忍、木ノ葉の暗部である者に尋ねた。

 

「ここを担当していた部隊は?」

 

男に尋ねられた暗部の忍は印を組み手元に資料を口寄せする。手にした資料をパラパラと少し捲ると目的の情報が見つかったらしく指で頁を押さえながら男に報告する。

 

「戦闘補助部隊です。」

「昨日、奇襲を受けた部隊か。」

「ええ。岩隠れの奇襲により、1/3もの人数を失った部隊です。しかし、この状況はありえません…。」

「続けろ。」

「はい。報告によると、奇襲を受けた戦闘補助部隊は少数の囮を残し撤退。しかし、そのことを“岩”は読んでいたのか撤退していく方向に待ち伏せをさせており、撤退がスムーズに行かなかったとあります。」

「なるほど。確かにありえぬな。」

「ええ。ダンゾウ様のおっしゃる通りです。」

 

暗部の忍は男、ダンゾウの言葉に大きく頷く。

 

「相手をここまで追いつめることができるほどの力量差があったのにも関わらず撤退するなどありえません。この人数相手に後ろから首を一掻きで息の根を止めるなんて…。」

 

そう言って、周りの約40もの岩隠れの忍であった地に伏した遺体を見回す。

 

「戦闘補助部隊で名のある手練れはおるか?」

「特にこれという者は…。強いて言えば一名だけ。里で一番の幻術の使い手ぐらいです。」

「夕日の…か。」

 

ダンゾウは顎に手を置き、考えを巡らす。

しかし、奴であればより成功率の高い方法を選ぶはず。このような危険な賭けに出るとは思えん。で、あれば無名の忍が闘いの中で覚醒でもしたか…。後は実力を隠していたか…だな。

 

「この戦場の生き残りを調べろ。」

「ハッ!」

 

ダンゾウの命に従い暗部の忍はその姿を消す。部下が去った後の煙を見つめながらダンゾウは呟く。

 

「なるほど。調べてみる価値はありそうだ。」

 

+++

 

「くしゅん!」

 

ズズッと鼻水を啜りながら体を震わせる。昨日から雨に当たり続けて濡れたままの服で一晩過ごしたから体が冷え切ってやがる。ついでに…心も。背負った巻物をそっと撫でる。

 

「ヨロイ。大丈夫か?」

 

夕日隊長が俺を心配そうに見つめる。いつも無表情なこの人のこんな表情が見れるなんてレアだなーと思いながら返事を返す。

 

「ええ。もうすぐ里なんで温泉にでも入って体をあっためますんで大丈夫ッス。」

「…そうか。」

 

隊長は背中に負ぶっているシスイを背負いなおして再び前を向く。

 

…あれから。

俺がシスイとだけしか合流できなかったすぐ後に、隊長もその場に駆け付けた。その場の惨状を見た隊長の顔は一瞬だけだったがくしゃくしゃに歪んだ後、いつものような無表情に戻った。それからの隊長の決断は早かった。

エノキの遺体を一旦巻物に保存した後、チャクラが切れてフラフラのシスイを担ぎ上げた隊長はいつものように淡々と俺に命令を下した。

 

「撤退だ。本部に戻った後、すぐに里に戻る。」

 

そして、今に至る訳だ。本部の人は厳しい顔で里に戻ることを止めたけど、そこは隊長の一睨み、まぁ、正直にいうと隊長の幻術に掛けられてすぐに意見を翻して里への連絡までしてくれたというのはここだけの話。

しかし、寒い…。木ノ葉隠れの里の大門をくぐりながら思う。もちろん、先日の雨に打たれながらの戦闘のせいで体が冷えたことが原因だとは思う。だけど、なぜだろう?

それとは別にすごく嫌な予感がする。

 

+++

 

隊長と別れた後そのままに木ノ葉の温泉街に出向く。木ノ葉の中でも有数の繁華街であるこの温泉街は温泉だけではなく宿泊施設、居酒屋、後はまぁ、18歳以上限定のイカガワシイ店などがあり夕暮れから夜中にかけて人でごった返すこともしばしばある。

しかしながら、今日は生憎の雨。人はそう多くはなく傘も差さず雨の中を歩く子ども、つまり俺なのだが、に奇異の目を向ける人もあまりいなかった。ついでに言えば、俺を見た数人の大人は俺が額当てをしているのに気付き憐れみの表情を浮かべつつも何も言わずに通り過ぎていく。

俺も逆の立場なら、俺もそうしただろう。忍の任務について聞くのはご法度とはいえ、その表情から任務が成功したか失敗したか、成功しても犠牲を強いてしまったかそうでないかは見分けることができるものだ。…忍と言っても感情をコントロールし切ることは非常に難しいのだから。

ふと、俺の頭上が陰り、雨が当たらなくなった。

 

「…自来也様。」

 

上を見上げると、自来也様が不器用に笑顔を浮かべていた。

 

+++

 

「…ってことがあったんです。で、自来也様から話を振ってきたのに何してるんですか?放置プレイなんてかなりのやり手ですね、やっぱりオトナは違うなー。」

 

必死に壁の隙間から女湯を覗こうとしている師匠にトゲトゲとした声をぶつける。弟子が鎮痛な表情でいたら、師匠は話を全力で聞いてやるってぐらいの気概が欲しいってのに。正直、温泉に肩まで浸かりつつツッコミを入れる羽目になるとは思ってもみなかった。

 

「ヨロイ!こっちに来い!」

「なんスか?」

 

師匠の言動に呆れながらも湯から上がり自来也様の所までテクテク歩いていく。

自来也様の隣に行くと、自来也様がやっと俺の方を向いた。しかし、ニヤリと擬音が聞こえる程その顔はだらしない。大方、好みの女の子がこの柵の、そう!男湯と女湯を阻むベルリンの壁の向こうにいるのだろう。

この世界にはベルリンの壁なんてものは無いけれども!地球でももう壊されてほとんどないけれども!

ちなみに、自来也様と俺の女性の好みは一致している。俺たちの好みのタイプは女らしい女。つまり…巨乳だ。おっぱい星人とでも呼ぶがいい。足フェチや尻フェチの気持ちも解るが、胸には浪漫が満載に積まれているのだよ。足や尻は夢や希望があるのかもしれないが、胸には浪漫があるのだよ。異論は認めない。貧乳もまたいいものだが、巨乳の圧倒的な存在感には勝てん。柔らかそうにフヨンフヨン揺れる胸に顔を埋めたくなる程の引力に逆らうことができようか、いや、できない!

という訳で俺の巨乳好きがわかって頂けただろう。しかし、残念なことに巨乳について語っていたら時間がいくらあっても足りない。

 

「どうかされたんスか?」

 

内心のワクワクを押さえて自来也様に尋ねる。もう心臓はバクバク言って煩いぐらいだ。

 

「それはのぅ。」

 

そう言って、自来也様は俺の首根っこを掴み再びニヤリと笑う。

 

「ほれぃ!」

「ふぁ!?」

 

掛け声と共に空中に放り出される俺の体。綺麗な放物線を描きながらベルリンの壁を易々と越えていく。自来也様に投げられた俺の体は抵抗することなくお湯の中に飛び込んだ。水飛沫が上がり、目の前が乳白色に覆われる。口から出た息が泡となり乳白色のお湯から外に出ようと浮かんでいく。

 

「ガバハ!一体何をするんですか?」

 

お湯の中から体を出す。そこには理想郷が広がっていた。

目の前に広がる至宝の数々。白い肌から弾ける水。温泉の湯気に隠れていながらもその躰の魅力は全く衰えてはいない。しかし、彼女らの目は潤んでいた。

 

「あの…申し訳ございません。」

 

経験則だが自分が悪いことをした時は正直に謝ったほうがいい、例え自分が悪くなくても謝った方がいい場合も多々ある。目を瞑りながら顔を上げる。叩かれることを覚悟すれば痛くない、痛くない。…痛くないよな。

永遠とも思える時間が過ぎた後、引き攣らせた顔にふわりと当たったのは柔らかい感触だった。

 

「辛かったね。」

 

そして、上から降り注ぐ優しい涙声。顔を上げると、本当は顔を上げずにこのまま幸せに埋もれていたかったのだが、涙を流した女性の顔が目に入った。彼女の顔から更に上に視線を移すと俺を見下ろす多くの目があった。

 

「あの…。」

「辛かったね。」

 

俺を抱きしめているお姉さんがもう一度呟きを繰り返す。

…違和感。どうしようもない違和感があった。なるほど、そういうことか…。

 

「こんな所で影分身に変化の術を使わせるなんて大技を出してくるなんて流石、自来也様ですね。」

 

俺を抱きしめていた女性が体を引くとボンッという音と共に回りが煙に包まれた。影分身が解ける音が何度か響く度に煙の濃さが増していく。手を振り、煙を流していくと段々視界が広がっていき人影が見えてきた。

 

「ワシの術を見破るとはなかなかだのぉ。しかし、ちと可愛げがないぞ。」

「さーません。そういう性分なもんで。」

 

煙が晴れた後にいたのは俺好みの巨乳美人ではなく俺と好みが似ているだけの白髪のでかいおっちゃんだけだった。輪廻眼を使えば分かるとは思うが、おそらく人避けの結界が張ってあるに違いない。流石にこんなシーン、イタイケな子どもとナイスバディなおねぇちゃんに変化した白髪のでかいおっちゃんが裸で抱き合っているなんて他の人に見られるのは少なくとも俺は嫌だ。

白髪のでかいおっちゃん改め、我らがエロ仙人こと自来也様は首を捻る。

 

「しかし、よくワシの変化を見破ったのぉ。」

「簡単ですよ。あの距離まで近づけば匂いで女かどうか解ります。女の子特有のフワッとした優しくもエロい香りでね。それに違和感があったんでカマかけただけッスよ。自来也様が正直者で助かりました。」

 

自来也様は拗ねたように剥れた。おっさんのそんな表情は目に悪い。

と、自来也様の後ろからカララと引き戸が開けられる音がした。シュバッと自来也様といっしょに音がした方に首を向ける。

長い黒髪の人が体にタオルを巻きつけて立っていた。日に全く当たっていないような白い肌にゴクリと喉を鳴らす。自来也様め、粋なことをしてくれる。人避けの結界なんか張ってないじゃないですか、流石です、一生付いて行きます。

その人が顔を上げた。その瞳は蛇の様に瞳孔が縦に切れていた。

 

『チェンジで!』

 

自来也様と声が被った。期待させておいてこんな仕打ちはあんまりだぁ。女の人かと思ったらそれがオカマだなんて悪夢以外の何物でもない。

 

「ていうか、なんでナチュラルに女湯に入って来てるんですか?この変態!変体する変態!」

「前々から思っていたが、お前そのキャラ似合ってないぞ。もう髪を切れ!髪を!」

「…お黙り!」

『いーや、黙らないね!ドキドキワクワクドッキュンを裏切られた男の気持ちがお前に解るか?解らないだろうが、大蛇丸!』

 

タオルの巻き方が女子な大蛇丸様がそこに立っていた。具体的には胸から腰までをバスタオルに包む巻き方である、男がしたら気持ち悪いのである。

俺たちを見てため息を深くつく大蛇丸様。

 

「自来也に預けたのは失敗だったようね。私の元に来なさい、ヨロイ。」

「え?嫌なんスけど。俺、オカマにはなりたくないんで。エロジジイとオカマどっちがいいか聞かれたら、まず間違いなくエロジジイを選びます。」

「いいから来なさい。感知してお前を追ってきた私の努力を無駄にする気なの?」

 

おそらく大蛇丸様は神楽心眼で追ってきたんでしょうね。で、場所が温泉だと解っていたけれど、目を瞑っていたから女湯ってことは解らなかったと。つまり、大蛇丸様はいつも女湯に入っている訳ではないと言いたいみたいなんスけど。

 

「それでもそのタオルの巻き方はないですわ。」

「…いいから付いてきなさい。」

「まぁ落ち着け、大蛇丸。話は湯に浸かってでもできるからのぉ。」

 

俺の首根っこを掴んだ大蛇丸様に自来也様がストップをかけてくれた。

嫌そうな顔をしながら湯に浸かる大蛇丸様。女湯に入る男三人という訳のわからない状況がそこにはあった。

 

「ヨロイ。あなた、“根”への転任が決まったわ。」

 

大蛇丸様のトンデモナイ一言で更に訳のわからない状況になった。

 

「………今、何とおっしゃいましたか?」

「“根”への転任が決まったわ。」

「………誰の?」

「あなたの。」

「………エイプリルフゥール!」

「信じたくない気持ちは私も同じよ。あなた、一体何をしたのかしら?」

「俺が聞きたいッスよ!!」

 

原作+アニメ+映画まで見てオリジナルストーリーまで見る程、前世ではNARUTOが好きだった俺だけど、赤胴ヨロイが暗部養成機関にいたなんて話は一話たりともなかったし、アニメ版のオリジナルストーリーでも…たしかハマチとかいう小男の部下で精々中忍レベルだったハズ。

ということは、これはまさか有名な…。

 

「バタフライエフェクトというやつか。」

「何よ、それ。」

「お前、時々訳のわからんことを言い出す癖を直した方がいいのぉ。変な奴だと思われるぞ。」

 

あんたらだけには変な奴って言われたくない。そう思っても口には出さない。話が進まなくなるからね。

…話を戻そう。ダンゾウが俺を“根”に入れようとしているのは多分、昨日の戦闘で岩隠れの部隊を倒したのが俺だとバレたのが原因だろう。夕日隊長や他の上忍、と言っても十人にも満たない数だったが、彼ら彼女らのやり口ではないと判断した上で他の実力者を探したら俺に当たったという所か。

実力は中忍レベル(輪廻眼ナシで)だけど、木ノ葉の三忍に加え最近活躍してきた黄色い閃光に忍術を教わっている俺が実力を隠しているんじゃないかと疑っている、そうに違いない。

 

「ヨロイ。」

 

大蛇丸様が声をかけてくる。

 

「あなた、昨日の戦闘でチームの仲間が死んだんじゃない?」

「なぜそれを…?」

「私の情報網を嘗めないでちょうだい。それで、あなたは力が欲しいとは思わなかった?誰にも負けない力、敵を打ち滅ぼせる力が。」

「仲間を守れる力が抜けておるのぉ。」

「自来也のいうことも入るかしらね。ヨロイ、あなたは強くなりたくはないのかしら?強くなりたいのなら“根”に入るのも一つの方法よ。」

「あまりいい噂は聞かんが、お前なら大丈夫だろう。戦争を早く終わらせる為にも優秀な忍は一人でも多く欲しいからのぉ。」

 

二人の会話が遠くに聞こえる。

エノキの最期の顔が浮かんでくる。…力。俺の、いや、俺たちの最終目標である十尾の抹殺。そのために行動するにはまだ力が足りない上に時間はもうない。

リンがカカシに自分を殺させるその瞬間に俺はカカシの隣にいてリンを救わなければいけない。そうすると、霧隠れの暗部や追忍部隊に俺と万華鏡が開眼していないカカシとオビト、人柱力として力を使う気がないっぽいリンの四人で挑まなければならない。

俺には力が足りない。仲間一人救えない今の俺じゃダメだ。

 

「大蛇丸様、自来也様。」

 

二人がこっちを見る。

 

「俺…“根”に入ります。で、戦争を俺が終わらせてやります!」

「いい顔付きになったわね。」

 

そういって、大蛇丸様は嗤った。

 

+++

 

自来也様と別れた後、俺と大蛇丸様は“根”の本部に来ていた。これから数年後にイタチがダンゾウからうちは一族の殲滅の任務を言い渡された所だ。

周りに向けていた視線を正面に戻すと橋の奥の方に人影が見えた。

 

「ダンゾウ様。連れてきました。」

 

大蛇丸様がその人物に向かって声をかける。暗がりから出てきた人物は、皆さんお馴染みのナルトスで二代目火影から“卑の意思”を一番に受け継いでいると言われているあの志村ダンゾウだった。正直、目つき怖い。

 

「ご苦労、大蛇丸。」

「いえ、この子の成長の為ですから。」

 

狸親父と蛇人間の会話を聞いているだけで背筋から冷や汗が流れる。ちなみに、パンツがぐっしょり濡れているがこれは汗だ、冷や汗だ。

 

「して、赤胴ヨロイ。」

「ひゃい!」

 

緊張して変な声が出ちまった!訝しげにこっちを見てくるダンゾウ。

 

「この程度の圧に脅えるとは。思っていたより小物だな。」

 

ダンゾウが呟いたその言葉にカッチーンきました。

 

「るっせぇ、負け犬。」

 

最高の笑顔で言ってやったのに場の雰囲気は最悪です。リクエストにお応えして嘗めた態度を取ってやったらむっさ睨んできやがるの、ダンゾウのおっちゃん。さて…立て続けにシテやろうかね。

 

「反論なしなんて図星ですか、そうですか。いやぁ、負け犬って言ったら黙るとか本当に負け犬なんですねぇ。あ!負け犬って言ったソースは三代目火影に火影の座を取られている所から来ているんですけど、俺に口で負けるなんて骨身の髄から負け犬根性が染みついているんですね、わかります。よっ!負け犬!」

 

こいつ、実は大したことないんじゃね?俺に口で負けるぐらいだし。

俺もこの瞬間まではそう思ってました。首に冷たい感触がするまでは。

 

「なるほど。お前のいう通りやもしれん。ヒルゼンに負け続けた儂は負け犬と言われても仕方なかろう。では、その負け犬に命を握られているお前は一体何なのだろうな。」

 

『負け犬』って言った瞬間、俺の目の前から姿が消えたダンゾウ様が俺の首にクナイをあててました。超怖い。

 

「大変申し訳ございません。後日、菓子折り持って謝罪に向かわせて頂きます。」

「それはこの場では貴様を見逃せと言っているようにも聞こえるが?」

「滅相もございません!“根”に所属すると決めた時からこの身はダンゾウ様の物でございます。私の命の選択権は今やダンゾウ様にございますのでどうされようが私には抗う術はございません。ただ、一つだけ申し上げることが可能ならば、私にはまだダンゾウ様にとって価値があるとだけ申して置きます。」

「誰が口を開くことを許可した?」

 

この狸親父め。こっちが下手に出てりゃ調子に乗りやがって。顔に出さないように注意しながら足を三歩前に出し、ダンゾウ様の方に向き直って黙って跪く。

 

「口を開け。」

「ハッ!先程は大変な失礼を、」

「そうではない。口を開け。」

「え?」

 

口を開けた瞬間ダンゾウ様の指が俺の口の中を蹂躙する。ゴツゴツした指で舌を掴まれた。涙目になりながら餌付くがダンゾウ様は俺の舌を離そうとしない。

ヤバい!人生で二度目の貞操の危機だ!

俺の頬から涙が零れた時、突然、ダンゾウ様が指を離した。

 

「これで貴様も“根”の一員だ。精進しろ。」

 

ダンゾウ様はそう言って踵を返し離れていく。しかも、すっごいスピードだ。ついでに言うと右手を体から離している。手を洗いたいのなら俺の口に指を突っ込まなければいいのに。そうすれば、俺はキツイ思いをしなくていい、ダンゾウ様は嫌な思いをしなくていいWin-Winの関係なのに。

状況が掴めずにポカンとしている俺に大蛇丸様が鏡を手渡した。鏡を舌に映す。

 

「一体?」

 

鏡に映ったのは綺麗なピンクをしたいつもと変わらない俺の舌だった。

 

「本来なら呪印が刻まれるのよ。けど、あなたには効かなかったようね。あなたの体質に、そして、怒っていて碌に確認をしなかったダンゾウ様に感謝なさい。」

「はぁ。」

 

おっさんに指を口に突っ込まれて感謝するとか訳わかんないんスけど。

 

「これは僥倖ね。…ヨロイ。」

 

いつかダンゾウ様をトラップに引っかけてやろうと考えていると大蛇丸様に声をかけられた。

 

「どうしました?」

「ダンゾウを見張りなさい。私を裏切ることがないように。」

「つまり、スパイをしていろと?」

「どちらかと言えば工作員(スリーパー)ね。何も起こらなければそれでいいのだけど、相手はあの狸ジジイだから油断はできないわ。」

「了解。」

 

+++

 

こうして、“根”に入ることになった俺だったが…。

 

「だからって、戦争のド真中に放り込むなんて絶対あの狸親父性格悪い!この前の事絶対根に持ってる!“根”のリーダーだからなって喧しいわwww」

 

岩隠れの大規模作戦の作戦決行書を盗むなんてなんて無理無駄無謀もいい所だっつーの。

だが、それをなんとかするのがダンゾウ様クオリティ。俺と闘っていた岩の忍を風遁で攻撃するダンゾウ様。あの…俺の頬まで切れてるんですけど狙い通りですか?

…ここは桔梗峠。ここでの出会いが俺と最も長く、そして深い関係になるとはこの時の俺は思っても見なかった。

あ、アンコは除いてね。

 


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