眼前に迫る幾つもの死の恐怖。それに打ち勝つ者だけが勝利を得ることができる。
そうは言うが、これはちょっと無理だろう?
そんなことをいっている場合じゃない。黒から紫へ文字通り、目の色を変える。
俺の頭に突き刺さろうとしていたクナイがその動きを止め、あらぬ方向に飛んでいく。
ゆっくりと顔を上げる俺の目には波紋が浮かんでいた。輪廻眼 天道の力は便利過ぎる代物だと再確認する。
「なっ!全ては弾いただと!?」
敵さんがむちゃくちゃ驚いている。クナイが吹き飛ばされたみたいに勝手に吹っ飛んでいく光景はこの“ninja”の世界でも、まずあり得ない。
すばやく立ち上がり、驚愕の表情で動きを止めている敵に向かって特殊な形をしたクナイを投げつける。
3,2,1…天道のインターバルである5秒が経過し、的に向かって飛んでいっているクナイに再び天道の力を作用させる。ゆっくりとその速度を落としていたクナイは再び勢いを得たことで俺が投げた時よりも速いスピードで敵の頭に向かって飛んでいく。
「スピードが上がった!?くっ!」
敵である岩隠れの忍は慌てて首を傾ける。その数センチ横をクナイは通り過ぎる。
「だが、まだ甘い。」
ニヤリと歪んだ敵の顔が今度は痛みで歪む。
透明な雨の中に紅い鮮血が混じる。
「飛雷神 二の段。」
クナイに付けたマーキングに向かって時空間忍術で飛ぶ。空中で振り返り、倒れていく忍に目を向ける。その顔は何が起こったのかわかっていないようなポカンとした顔だった。
「隊ちょっ!」
地面に着地し、叫んだ奴の腹に肘を入れる。同時にチャクラを流し込み内臓を破壊する。柔拳には及ばないものの医療忍術の応用で肝臓、膵臓、脾臓と腹筋は確実に破壊した。人体構造上、起き上がるのはかなり困難だろう。
とはいえ、今の一回の攻撃で倒したのは2人。まだ、不利過ぎる状況には変わりない。印を組んでいくと敵の多くが我に返ったらしく距離を取る。
「水遁 霧隠れの術。」
しかし、相手にペースを取り戻させるほど俺は甘くない。ここで一気に決める!
霧隠れで相手の視界を奪い、身を伏せながらいくつかマーキング付きクナイを半月状に投げる。
「手裏剣影分身の術。」
ザクッという音と悲鳴。上手く当たらなかったらしく倒せたのは最前列にいた数人だけだった。
しかし、視界の悪い中でどこから攻撃が来るのかわからない不安な状況は混乱を加速させる。その効果は十二分に出た。
「うぁあああ!」
奇声と共に一人が逃げ出す。それに向かってクナイを投げつけ止めを刺す。雨でぬかるんだ地面に体が倒れこむバシャッという音で更に混乱は加速する。
「嫌だぁあああ!」
「落ち着け!落ち着くんだ!相手はガキ一人っ!」
そして、冷静に隊を立て直そうとしている者を冷静に、そして確実に仕留めていく。飛雷神でそいつの横に飛び、後ろから首を切り裂き、また飛ぶ。その繰り返しで先程から雨虎自在の術の雨で感知し続けていた全ての対象の命を刈り取るにはそう時間はかからなかった。
全て終わった後、印を組み手裏剣影分身で増やしていたクナイを消す。至る所から煙が上がった後に残っていたのは血と雨が混じった水面だった。鉄黴臭い水面を、波紋を立てて歩きながら手裏剣影分身のオリジナルとなったクナイを回収する。
「ふぅ。終わった。」
今回は真面目に命の危機を感じた。輪廻眼の力を使えなかったらまず間違いなく死んでいた。ふと目を向けると森があった。
なるほど。
二人のチャクラを雨虎自在の術で感知できないってことは雨の当たらない所にいるって訳で、つまり、森の中はむっちゃ怪しいってことだ。
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で、森の中に来たのはいいんだけどこの状況は一体何だ?何なんだ?
「シスイ?」
雨音が随分遠くに聞こえる。返事はなく、嫌な沈黙が広がる。暗闇に頭から落ちていくような感覚。瞬きを一度して視界をはっきりさせる。
「エノキ?」
目に映る景色は変わってはくれなかった。倒れた忍、忍装束からして岩隠れの忍が数人。そして、立ちつくし俺の目の前で自分の首を掻き切った、これまた岩隠れの忍が一名。
そして…シスイの腕に抱かれ、目を固く閉じたエノキ。
シスイと目が合った。その顔はくしゃくしゃで涙に塗れたものだった。それだけじゃない。シスイの眼が紅い巴を描いていた。写輪眼の基本巴ではなく、烏が羽を広げたような文様。それを見て悟った。
…エノキは死んだ…。
シスイにその最期を預けて。
「ごめん、ヨロイ。俺は…俺は、エノキを…エノキを。」
呟くシスイの声だけしか音が聞こえない。雨はどうやら上がったらしい。
だとしたら…レンズの横から流れ出る水は雨ではないようだ。
唇を噛みしめる。涙を流しながら死に行く友の名を呼ぶ。
「エノキ。お前に…。」