一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@13 接近…!!

中忍試験第二次班対抗戦が終了した。優勝という素晴らしい結果を残し大満足、と言いたい所だが残念ながら世の中はうまく回っていないようで…。

結果を出した者は妬み、嫉み、やっかみを受けるのが常です。感情を表に出さないように言われている忍の世界でもそれは例外ではないようです。

 

「ヨロイ、勝負だ!どっちが大蛇丸様の弟子として相応しいか決着つけてやる!そもそもお前は前から気に食わなかったんだ!」

「お前はもう少し耐え忍ぶべきだと俺は思う。」

 

ツンツンポニテの女の子が俺にクナイを向けながら叫ぶ。その声のせいで、シスイとエノキと共に団子屋で一休みしていて寛いでいた俺のふんわりとした幸福感がどこかに飛んで行ってしまった。

この少し危ない女の子の名前はみたらしアンコという。同期で、且つ同じ年齢ということで仲良くしていきたいと俺は思っているのだけれども、アンコ本人は俺をライバル視しているみたいで仲良くなるためには難しいものがある。

 

「ところで、忍組手する前に団子でもどう?」

「食べる!大好き!」

「…お前はもう少し自分の発言に責任を持った方がいいと俺は思う。」

 

ちなみに、大蛇丸様が目をかけている下忍の一人でもあるアンコは性格を除けばかなり優秀な忍である…性格を除けば。目立ちたがり屋で基本的に自分の欲求を優先させるという忍としては赤点な性格をしている。ついでに言えば、大蛇丸様スキーというかなり変わった好みの持ち主でもある。変態と言い換えてもいい。変態が好きなやつもまた変態という理屈で。

それにしても…。

 

「…シスイ、エノキ。」

「ん。」

「うん。」

「団子をどうかってアンコに勧めてしまった俺が悪かった。すまない。」

 

皿には俺たちが買った団子が6串残っていたのだが、残っていたハズなのだが…無くなっていた。一瞬で俺たちの団子を掻っ攫ったのは他でもないアンコだ。器用に両手を使い、6本の串を一度に持っている。右の人差し指と中指の間に一本、中指と薬指の間に一本、そして薬指と小指の間に一本という欲張り過ぎる食べ方だ。左手も同じような持ち方である。

 

「ふぉおおふふぉ!」

「え、何?」

 

口に頬張ったまま喋るアンコ。正直、何て言ったのか全然わからない。

ゴクンと団子を飲み込もうとするアンコ。しかし、その顔がドンドン青くなっていく。

 

「マズイ!」

 

すぐに駆け寄りアンコの背中を思いっ切り叩く。が、アンコの顔色は変わらない。舌打ちをし何度も何度も叩く。

 

「アンコ!口を開けろ。」

 

シスイが先程まで団子が刺さっていた串を持ちアンコの前に迫る。その串でアンコの喉から団子を取り出そうとしているのだろう。しかし、アンコは口を開けない。脅えたように首を横に振っている。…仕方ない。

指をアンコの口に突っ込み、無理やり開ける。

 

「今だ、シスイ!」

「ああ!」

「とりゃ!」

 

串を構えたシスイの横を通り抜け、エノキがアンコの腹を上に向かって蹴り上げる。

 

「ぶぉぇぇ~ヴェッコヴェッコ!」

「これでよし!」

「止め刺したようになってるんだけど!?」

「まだよ。ヨロイを倒すまでは倒れることなんてできない。」

 

シスイの声に反応し、アンコがフラフラと立ち上がる。根性だけは認めよう。ボッコボコにしてその根性を折りに行かなければならないとは非常に面倒だが仕方ない、仕方ないんだよ。

 

「だから、羽交い絞めを解いてくれるかな?…エノキ。」

「かなり危ない顔してたからダメッ!」

「何…。少し…世間の厳しさというものを教えてあげるだけだ。いいから離せ。」

「演習場に行ってからな。店に迷惑がかかるし。」

 

そんなこんなでシスイの提案通りに演習場に向かった。

演習場に着くとそこには先客がいた。…オビトだ。どうやら、中忍試験第三次に向けて修業しているようだ。

 

「火遁 豪火球の術!」

 

今回も成功はしなかった。オビトの顔が目に見えて暗くなる。

 

「オビト。」

「うおっ!って、なんだ、ヨロイか。」

「ん。アンコに呼び出されちまってね。」

 

後ろを指し、準備運動をしているアンコを示す。

 

「お前も大変だな。」

「そうでもない。アンコで遊ぶのは楽しいし…。」

「今のお前、すっごい悪い顔してるぞ。」

「ほっとけ。」

 

後ろからアンコの呼ぶ声が聞こえる。オビトに背を向けて呟く。

 

「中忍レベルの術を使うには時間をかけてチャクラを練らないと上手くいかないなぁ。アンコがその時間を見逃してくれたら簡単に勝てるんだけど。」

 

オビトから離れる俺の後ろでは早速チャクラを丁寧に練っている気配がした。ニヤリと笑ってアンコの所まで戻ってくる。

 

「ウォーミングアップは済んだ?」

「ばっちりだ。今日こそお前を倒す!」

 

宣言した瞬間、手裏剣が飛んできた。

 

「ハハハ。十年早ぇ。」

 

変わり身の術でその手裏剣を避ける。

 

「クソッ!どこに!?」

「う・し・ろ♡」

「ふぁん!」

 

アンコの耳元で囁く。すごくいい反応をして転がるようにして、実際に転がりながら距離をとるアンコ。

幼女趣味に目覚めそうだ。顔を真っ赤にして俺を睨んでくるアンコ。…めちゃくちゃかわいい。

 

「かーいーなぁ。」

「バカにするな!口寄せの術!」

 

煙が立つ。しばらくして、煙が晴れた後に居たのは3mほどの大蛇だった。

 

「どうだ!大蛇丸様から教えてもらった口寄せの術だ。」

「おお、凄い。えらいねぇー。」

「ふふん。」

 

遠くでシスイが呟いた。

 

「ヨロイのやつ…バカにしてるよな?」

「うん…。」

 

そんな二人は置いといて、だ。蛇がこっちに向かって襲い掛かってきた。

 

「とりあえず…逃げる。」

 

シャカシャカ逃げる俺を追う蛇。シュールな光景だ。パシャパシャいいながら演習場にある池の上にチャクラを使って立つ。もちろん、印を組むことも忘れない。

 

「ここまで来れば蛇は追って来られないだろう。」

 

振り返ってアンコに言う。すると、やつは周知の事実を声高らかに叫んだ。

 

「ははは、バカめ!蛇は…泳げるんだよ!ヤレッ!」

 

アンコの命令に従順に従う蛇くん。可哀想に。印を組んでいく。

 

「お前は蛇を呼び出した。なら俺は…水の蛇、龍を呼び出してやろう!だからちょっと待って!マジで。印を組むのに5秒かかるから!」

「誰が待つかぁ!」

「待ってくれた方がいいと思う。だって蛇の進路に水分身仕込んだから。」

 

俺に向かって来ていた蛇が吹き飛んだ。俺の水分身が蛇を蹴飛ばしたせいだ。ちなみに、この口寄せの術。劇中でポンポン使っているイメージがあるものの、コストパフォーマンスは下忍にとってはキツイものがある。大きな生物を呼び出したらそれだけでチャクラを使い切ってしまうほどに使い所を見極めるのが難しい術だ。

本来はチャクラ量が増えてきたり、戦術を立てるのが上手い中忍が使える術であるこの口寄せの術。アンコにはまだ早かったみたいだ。

 

「ちっくしょおー!」

 

そうやって俺に向かって来てもチャクラを使い切ったアンコでは…。

 

「どわぁ!」

 

岸からいきなり深いこの池。アンコはドボンと喧しい音と悲鳴を上げながら沈んでいく。引き上げたアンコはえづきながら俺を睨んできた。

 

「次こそはあんたを倒す。」

 

そう言ったアンコの体から力が抜ける。傾くその体を上手く受け止める。

 

「アンコ、どうしたの?」

 

エノキが心配そうに覗きこむ。

 

「チャクラの使い過ぎだな。しばらくすれば目を覚ますだろ。」

「ああ、シスイのいう通りだ。けど、このままだと風邪でも引きそうだな。…脱がすか。」

 

そう呟いた瞬間、右側頭部から左側頭部にかけて強い衝撃が突き抜けた。

地面に向かって行く俺の目が捉えたものは足を振りぬいていたエノキだった。

 

「エノキィ…。」

 

ダメだ。意識が闇に飲まれていく…。

 

+++

 

目を覚ましたのは夕日が世界を染めた後だった。辺りを見渡すがエノキもシスイも、そしてアンコもいなかった。

 

「ちくしょう、エノキめ…。思いっ切り蹴り飛ばしてくれやがって。」

 

頭を摩りながら起き上がる。痛みはないのが唯一の救いだった。これでまだ痛かったら少し泣く所だ。風切り音が遠くから聞こえる。その音に引き寄せられるように近づいていくとオビトが手裏剣を投げているのが見えた。額から滝のように汗を流し、一心不乱に手裏剣を投げている。

 

「オビト。」

「ヨロイ!いいところに来たな。お前に俺の新術を見せてやる。」

 

手裏剣を放っぽり出してオビトが走ってくる。随分と興奮している。

 

「新術?」

「ああ、見てろよ。」

 

むむっといいながらオビトはチャクラを練り込む。目を瞑り集中しているオビトの横顔を見ながら思う。俺も神様転生じゃなければ、赤銅一族じゃなければ、大蛇丸様に目を付けられなかったなら…オビトみたいに術が成功するのに心の底から喜べるのに。

表面的なポーズとしては喜んだりするけど、心の底から喜ぶことができないことが多くある。この世界の未来を知っているから、目的があるから、そして、目の前のこいつを未来において殺さなくちゃならないから。それでも…。

 

「火遁 豪火球の術!」

 

辺りを明るく照らす火の塊に照らされる俺の顔は曇っていた。

 

「どうだった?」

 

オビトがワクワクした様子で尋ねてくる。

 

「見事だ。」

「おっしゃ!これでカカシをぎゃふんと言わせてやれる。」

「…オビト。」

「ん?」

「お前…。」

 

開けた口を閉じる。どうやって伝える?リンが死んで忍世界を無限月読にハメるために動き出すなんて。

 

「カカシがぎゃふんって言うと思う?」

「いや、言わせてやる!」

 

茶化してその場を収める。

ブンブンと拳を振るうオビトに声をかける。

 

「帰るぞ。もう遅い。」

「ああ、もうそんな時間か。…ヨロイ、ウチに飯を食いに来る?」

「いや…。少し考えたいことがあるから今日はいい。」

「そうか。じゃあまた今度な。…言い忘れてた。個人戦では負けねぇからな!」

 

そう言い残してオビトは駆け足で演習場から去って行った。

オビト。俺ももう少し頑張ってみるよ。お前が悲しまなくていいストーリーにしてみせるから…だから…。

 

「負けんじゃねぇぞ。」

 

何に対して負けるんじゃねぇぞっていったのか解らないけど、この言葉をオビトの小さくなっていく背中に送るのがなんとなく正解だと思った。

夜空に向かって手を伸ばす。

 

「何一つ諦めて生きていくつもりはない。これが俺の忍道だ!」

 


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