一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@12 チームワーク!!

右手を掴まれた。しかも、結構な勢いで。痛い。

 

「離せ、シスイ。」

「もうやめるんだ、ヨロイ。それ以上したら、それ以上したら…。」

 

涙目のシスイの言葉をエノキが引き取る。

 

「もう里にいられなくなるよ。…女の子の荷物の中に蛇を入れるなんてッ!」

「え?いいじゃん。あれだし。好きな人には意地悪したくなるお年頃さ。」

「お前のはただの趣味だろうが!」

「シスイのツッコミがうまくなってきたように感じる今日この頃。いや、よく考えたらそんなにうまくないな…。そんな訳で中忍試験をがんばっているのを同じ班の仲間に邪魔されているのはなんか釈然としない。今度、こいつらの弁当箱にビックリ箱仕立てで蛇を仕込んでやろうかと考えてしまう程に邪魔をしてくる。…どんな手をつかおうが…………最終的に…勝てばよかろうなのだァァァァッ!!をモットーにしている俺からしてみると二人の行動は呆れを通り越してもはや滑稽である。」

「ナレーションまで自分でやらないでッ!」

 

中忍試験編第三話始まるよー。

 

中忍試験第2次班対抗戦。俺たちの班は正々堂々戦い抜き決勝まで勝ち進んだ。俺たちが本気を出した所、未来では暗部に上り詰めた夕顔がいる班も3分ぐらいで片付くというなかなかな高成績を修めた。ちなみに、冒頭で俺が蛇を荷物の中に仕込もうとしていた女の子は何を隠そうこの夕顔である。エノキに向かって『好きな人には意地悪したくなるお年頃さ』とか言ったが、夕顔のことは別に好きなわけではない。ただなんとなく、ふと、思いついただけの案であったりする。

ここまでは策やゴリ押しで勝ち上がることができたが決勝戦は別だ。この第2次班対抗戦、トーナメント制になっていて全8チームから優勝班が決められる。つまり、最後に当たる敵は相当に強い。今までの俺ならまず間違いなく下剤を仕込むところだが今回はそれもできない。

 

「…。」

「…。」

「そんなに見つめるなよ、照れんだろ。」

 

シスイとエノキにじーっと見張られている。瞬きもせずに。

こんなことなら影分身を作って身代わりを置いておくべきだったと思うが、それは結果論。いや、まさかここまで反対されるとは思わなかった。っと、そうこうしている内に時間だ。

 

「両者、前へ!」

 

試験官が俺たちに指示を出す。

 

「…。」

「…。」

「…わかったから。もう卑怯な手を使わないから前を向け。始まるぞ。」

 

まだシスイとエノキにじーっと見張られている。もう卑怯なことはしないってば。

 

「ヨロイ。また何かしでかしたの?」

「ま、いつものあれでしょ。性質の悪いイタズラ。」

「…はたけカカシ。よく見抜く…いい眼を持っているな。」

 

カカシに向かってセリフを述べている間に女子の間では話が進んでいた。

 

「そうなんです。夕顔のバックに蛇を入れようとしてたの。酷いと思いませんか?」

「相変わらずだね。」

 

リンがクスクスと笑う。更に、カカシがやれやれといった風に手を上にあげる。褒めてやったのにその態度…。気に食わん!

俺が最初の獲物を決めていると試験官の上忍が前に出た。

 

「そろそろ時間だ。始めるぞ。」

 

ピンッと空気が張り詰める。闘う前の独特の緊張感が場を支配する。試験官が腕を上げ、そのまま振り下ろす。

 

「中忍試験第2次班対抗戦、決勝、始め!」

「火遁 豪火球の術!」

 

試験官の開始の合図と共にオビトがカカシとリンの前に出る。

珍しくオビトが大人しくしていると思ったら飛び出すタイミングを計っていただけかよ。

身構える俺たちだったが、それはどうやら杞憂だったようだ。プヒュッと気の抜けた音と共にごくごく僅かな火がオビトの口から洩れる。

 

「…。」

「…。」

「水遁 水乱波。」

 

オビトの口から洩れ出たごく少量の火を消すために水乱波の術でオビトを巻き込みながら消火する。オビトは水圧で、カカシとリンの間をすり抜けて、勢いよく後ろの木にぶつかった。非常に痛そうだ。

 

「オビト!」

「相変わらず容赦ないな。」

 

リンが叫び、シスイがぼやく。が、カカシは違った。俺をまっすぐ見据える。

 

「いや、ヨロイは正しいよ。忍歌「忍機」では、忍には時を知ることこそ大事なれって書かれてるしな。オビトを倒すとすれば今のタイミングが一番簡単だからな。」

「いつもルールだ掟だうっせーんだよ!要は自分の中の自制心だろーがよ。」

「オビ…ト?…しまった!」

 

オビトの声に反応し後ろを振り向いたカカシは、ダッシュで近づいた俺に気づくのが一瞬遅れた。もう遅い。渾身の右フックをカカシに食らわす。

ボフンという音がし、煙が立ち上がった後に残っていたのは俺の拳がめり込んだ丸太だけだった。…変わり身の術か。

 

「わざと隙を作ったみたいだな。」

「…けど…甘い!」

 

上を見据える。変わり身の術で俺の攻撃を躱し、俺の死角から攻撃を加えようとしていたカカシが驚いて表情を浮かべている。…顔の半分がマスクで覆われているから目が少し大きく開いていたことから判断するしかないんだけど、たぶん驚いていたと思う。

なぜか?俺の本体がカカシに向かって飛びかかっていったからだ。影分身体である俺はニヤリとほくそ笑む。

 

「影分身!?」

「そう、オビトを水遁で吹き飛ばした時に仕込んだ。…お前がオビトの無事を確認するために俺から一瞬だけ目を離したときだ。その時に本体は隠れてオビトの声マネをしてお前の注意を逸らして隙を窺っていたってスンポーよ!」

 

カカシを羽交い絞めにしたまま影分身体にこれまでの経緯を話させる。

 

「まずは…。」

「一人目!」

 

影分身体がカカシに殴りかかる。あと少しで当たるという時に左目に黒い影が写った。

一拍遅れてこちらに向かって飛んでくる手裏剣が視界に入ってくる。

 

「チッ!」

 

カカシを解放して影分身体とともにその場を離れる。カカシもしゃがみこみ飛んできた手裏剣を避けた。

 

「オビト!」

「悪い、遅くなった。」

「…仕切り直しだな。」

 

手裏剣を俺に投げつけた影の正体はオビトだった。オビトが無事だったことで安心したのかリンが声を上げる。しかし、カカシの表情は硬いままだ。もしかすると…。

カカシの横にオビトが降り立つと、カカシは首を振る。

 

「いや、違う。俺を解放したのもまだお前たちの作戦だろ?」

「クソッ!シスイ、離れろ!」

 

叫ぶが少し遅かった。カカシの蹴りがオビトに当たってしまった。煙が立ち上るのと同時に変化の術が解ける。そこにいたのはシスイだった。

そもそも、俺たちは相手チームの一人が気絶などで戦闘を続行できなくなった場合には、相手チームからノーマークのやつが気絶したやつに変化して相手を攪乱するという作戦を基本方針としていた。しかし、ここまで早くバレるとは…。はたけカカシ。やはり天才か…。

 

「俺に構うな!行け!」

 

シスイの声で我に返る。…そうだ。バレたとはいえ、こっちの圧倒的なイニシアチブは変わらない。すぐ攻めればいいって話だ。

 

「エノキ!リンに狙いを定めろ!」

「わかった!」

 

二人で一気にリンに向かって行く。

 

「ま、待て!」

 

カカシの切羽詰った声に思わず足を止める。

 

「何だよ。早くしろ。」

「この流れは俺とヨロイが闘う流れだったのに、何故リンを狙う?」

「あん?だって、あと闘えるのはリンしかいないんだもん。」

「なんだ…と?」

 

カカシの体がグラァと揺らぐ。そして、そのまま地面に突っ伏した。

 

「カカシ!」

 

リンが叫ぶがもう意味はない。最低でもあと一時間は動けないのだから。アスマで先程、効果をしっかり確かめさせて貰ったから確実だ。

 

「マジックマッシュルーム。食べたやつに俺たちの誰かがチャクラを流し込むことで幻覚を見せるビックリドッキリキノコだ。それにしても、シスイ。お前、写輪眼でも開眼したんじゃねえの?」

「たまたまだ。いつでも、チャクラを流し込めるようにチャクラを掌に集中させて置いたのが上手くいった。カカシさんの足にそのまま当たったのは幸運だった。」

 

シスイに手を貸して立ち上がらせる。

マジックマッシュルームにはただ一つ大きな弱点がある。それは対象者の素肌に素肌で触れていないとチャクラに反応してくれないというものだ。本当ならカカシを羽交い絞めにした時に流し込みたかったが、あの時はギリギリでチャクラを練る余裕はなかったからな。残念だ。あの時に決めれたらベストだったのに。

 

「リンさん。」

 

シスイがエノキと忍組手の真っ最中のリンに呼びかける。

 

「ギブアップしてください。カカシさんもオビトさんも戦闘不能です。それに対して俺たちは三人ともまだ動けます。あなたに勝ち目はありません。」

「ちなみにギブアップしないとカカシのマスクを脱がす。そのマスクを持って里中を駆け回る。」

「酷い!カカシのアイデンティティを取らないで!…わかった。ギブアップします。」

 

リンが両手を上に挙げてギブアップを宣言する。

つまり、俺たちの勝ち、俺たちの優勝だ。

 

「ひゃっほー!優勝だ!」

「なんだろう。勝ったのにあまり嬉しくない。」

「奇遇だな、エノキ。俺もだ。」

 

後で他の人から聞いた話だが…。

俺と他二人の間には暗く深い溝が横たわっていたそうな。

 


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