今日の木ノ葉隠れの里は大いに盛り上がっている。
ごめん、少し話を盛った。ちょっと盛り上がっているが正しい。
今日は久しぶりに木ノ葉隠れの里で五影会談が行われるということで里の至る所で五影会談の話がされている。とはいえ、中忍試験に比べれば里のムードの盛り上がりはそれほどでもない。前世のもので例えると中忍試験はオリンピック、五影会談はサミットという感じだ。
そりゃ、老若男女楽しめる血沸き肉躍る忍の決闘に比べたらおっさんやおばはんが話し合うだけのイベントは盛り上がりに欠けることは理解しているが、何だかなァという気分になる。世界経済などについても話し合うことがある五影会談はあまり面白くないだろうが、忍界をあちこち飛び回って交渉などをしていた俺としてはもう少し色んな人に興味を持って貰いたい所だ。
そんな里の様子を尻目に俺は行きつけの団子屋へと向かう。そこには案の定というか予想通りというか、団子が大好きな嫁さんの姿があった。俺がしばらく留守にするからこの機会に団子を食べられるだけ食べておこうという魂胆だろう。全く以って子どものような思考回路だ。
「全く……。口煩い所は父親に似ちゃって」
瞬身の術で姿を消したシンゲンとミライを見送ったアンコは口を尖らせる。
「ま、気を切り替えて……チョウチョウ、食べよう」
「おい」
「っていうのは冗談で」
瞬身の術でアンコの背後に現れると、アンコは口元に持って行った団子の串を止めた。
アンコの頬に汗が流れる様子を見て溜息をつく。絶対に冗談じゃなかっただろうに。
「あ、ヨロイのおじさん、久しぶり」
「おう、久しぶりだな、チョウチョウ」
「今日は帰ってこないってアンコ先生が言ってたけど」
「おやつ代をこうして使い込むんじゃないかって思ってな。少し抜け出してきたら、案の定、団子を食べている訳だ」
「100本食べたら無料だし……」
「いや、無料だからって話じゃなくて糖分を取り過ぎるなって話だし」
思い出したというようにチョウチョウは手を打って俺に尋ねた。
「そう言えば、ヨロイのおじさんって何をしてる人なの?」
「俺? 忍だけど。自分で言うのもなんだけどさ、一流の忍として結構有名だと思うんだよね」
知らなかったのかと内心落ち込む。いや、俺がやってきたことを全て知られたら引かれる可能性の方が高いけど。R15みたいなことを大蛇丸様やダンゾウ様主導でたくさんしてきたし。
「何というか外交官、みたいな人かと思ってたし。ヨロイのおじさんって強いの? そうは見えないんだけど」
「強ぇーよ。超強い。世界で……そうだな、七代目火影のナルトとその親友のサスケ。その次に俺は強い。例えば、忍界武闘祭とかあったら銅メダルを貰えると思う。んーと……」
俺は顎に手を当てる。上手い言い回しは……っと。
「一流の銅ヤロー……って感じかな」
「ただし、夫婦喧嘩は私が勝つ。でしょ?」
「そうだけど! でもさ……」
「六代目たちを待たせているんでしょ。早く行きなさい」
「でも、このままじゃチョウチョウに信じて貰えないままになってしまうじゃん!」
「行ってらっしゃい」
「……行ってきます」
俺は二人に手を振って背を向ける。
世界は変わった。それは、いい変化だと俺は信じている。多くの国で幸せが咲く世界になってきた。
目の前に広がる木ノ葉の里を目に収めて呟く。
「眩しいな」
世界は綺麗だった。きっと、世界が輝いて見えるのは……。
答えに思い至った俺は後ろを振り返り軽く笑みを溢した。
優しい気持ちになった俺は待ち合わせのホテルのロビーへと足を向ける。
自動ドアを潜り抜け、ロビーに置いているテーブルの一つに視線を遣ると、煤けたような背中をした六代目火影の姿があった。ああ、カカシのせいか。
一瞬で理解できたことを頭の片隅に追いやる。オビトがカカシに弄られて落ち込むことなんて日常茶飯事だ。大体、面白い反応をするオビトが悪い。そう結論づけて、俺は彼らに近づく。
「おう。どうした、オビト。まさかアカデミーの頃、リンの縦笛を取ったのがとうとうバレたのか?」
「取ってねーよ! ……あ、すいません」
大声でツッコんだ後、ホテルのスタッフに向かって頭を下げる六代目火影。彼は威厳なんてモンはどこぞの野良犬に喰わせていたようだ。まあ、それは翻ってオビトが親しみやすい人物であることを示す。里の人たちの近くによりそう火影。まるで、三代目のようだ。忍らしからぬ鳩派ではあったが、それは翻って三代目が人格者であったことを示す。
火の意志は脈々と受け継がれているのだろう。
「それじゃあ、行こうか。六代目火影様があまり迷惑を掛ける訳にもいかねーだろうから」
「ヨロイィ……」
オビトが睨みつけてくるが過去にあった恐ろしさはもうない、それも完全無欠に。今はせいぜい仔犬に唸られた程度の恐ろしさだ。
前に比べて随分と丸くなったオビトに苦笑する。
「それじゃ、行こうか。湯の国へ」
+++
「風が気持ちいいなあ……」
「ああ。いい天気でよかったよ、ホントに」
まるで老夫婦のようなガイとカカシのやり取り。まあ、仲がいいのは良きことかなと考える。 季節も春で旅行日和だ。鈍行電車での旅か歩き旅か非常に迷ったが、まあ、そこはガイの歩き旅がいいという意見に押し切られる形になった。多分、ガイは取り敢えず歩きたいって気持ちしかなかったんだろうが、いい結果に転んだ。
ゆるゆると歩いて旅をするのも悪くない。
俺は目線を遠くにやる。
見渡す景色はド田舎だ。昔の景色を残す道にほっと心が温まる。
第四次忍界大戦後、音隠れの技術とそれに興味を持って研究した二代目火影こと千手扉間様のお陰で、忍界全体が急成長を遂げた。元々、チャクラによるオバテクを繰り返し、遺跡を空に浮かせたり、過去へタイムスリップしたり高層ビルを建てたりすることができる世界観だ。
必要な箇所はチャクラを使い、それ以外はチャクラを使わない技術によって成り立つのが今の忍界。電気の発電方法も実にクリーン。再生可能エネルギーを使ったり、忍の体力修行として回転する輪の中に入れてハムスターのようにハムハムさせたりと中々のぶっ飛んだ発想をされる二代目火影。ナルトスで仙人の開発力を受け継いでると言われていただけはある。
そんなこんなで一気に経済成長を遂げた忍界は摩天楼が聳え立つ所も多く見られる世界となった。確実に便利な世界となっているのにも関わらず、昔の光景に心を癒されるなんて人間って贅沢だなと苦笑する。
「おっ、鳥の声」
「あー、あれはモズかな?」
「モズと言えば、早贄で有名だな」
「捕らえた虫なんかを枝に突き刺すというあれね。そういえば、昔、地面に四か所ほど杭を打ち込んで、あえて、その上で腕立て伏せをしていたろ?」
オビトが呆れた目でカカシと話していたガイを見る。
「ガイ……バカじゃないのか?」
「修行バカだな」
取り敢えず、俺も頷いておいた。
「懐かしいな。あれはいい修行になった」
昔を思い出し何度も頷くガイ。
「地面から離れているからな。力尽きたら落ちる。落ちれば当然痛い」
「痛いで済むのかよ」
「相当痛かったぞ、アレは。だからこそ、落ちないようにがんばらねばならないというナイスな修行法だ!」
「ナイスじゃねーよ!」
冴え渡るオビトのツッコミ。
「カカシ。俺さ、今回の旅行でオビトはツッコミのし過ぎで声が枯れる方に100両賭ける」
「勝負が成立しないからなしで」
「ふざけんな! 二人ともオレの声が枯れる方に賭けるんじゃねーか!」
『そうそう』と言ってカカシは話を無理矢理変える。
「いつだったか、杭の上で普通の腕立て伏せをした後に、今度は腕だけで逆立ちのまま腕立て伏せをしてみせると言い出したことがあったろ?」
「そういえば、そんなこともあったような、なかったような。確か、いくらオレがお前を、杭を使った修行に誘ってもお前が木陰で呑気に本なんぞ読んでいるものだからオレとしても、つい、ムキになってな。『見てろよ、カカシ!』ってな」
「なんか努力の方向が違くねーか?」
「ガイはこういう奴だ」
「あの時、手を滑らせたお前が、そのまま杭に腹を打ち付けて嘔吐したろ? 杭の上で体を『へ』の字にしながらぐったりとしているお前を見て、まるでモズの早贄のようだと思ったのを今でもよく覚えているよ」
「……助けないのかよ!」
「そりゃあ、自分の責任だからね」
カカシはニッコリと笑う。
「あれ以来、モズの声を聞く度にお前のぐったりとした姿を思い出すんだ……」
「ええいっ! そんなもの思い出すんじゃない! 忘れろ!」
顔を赤くして叫ぶガイ。
思えば、こんな風にゆるりとした時間を過ごすのは、いつ以来か。俺は他里との調整や新技術の管理などで飛び回っていたし、オビトは六代目火影だ。それに、カカシは六代目の相談役として、下手すればオビトよりも働いていた。ガイは修行に打ち込んでいたし。
今度はもう少し多く同期、アスマや紅にリン、エビスやゲンマにアオバ、そして、シスイ。皆でワイワイと賑わう旅行もいいかもしれない。
目的地へと歩きながら次の、普通の旅行に俺は期待を寄せた。