一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@116 Epilogue

「フンフンフン♪」

 

鼻歌を歌いながら一人の女が忍者学校(アカデミー)の廊下を歩いていく。

 

「フフン♪」

 

彼女はある教室の前で立ち止まると、その扉を勢いよく開ける。

 

「チョウチョウ!今日はだんご屋行ってからあんみつね♡」

「あ!アンコ先生♡」

 

色黒の少女が扉を開けた女性に駆け寄る。その体型は彼女の父親の談を用いると『ぽっちゃり系』である。

 

「待て!デブ!」

 

チョウチョウを呼び止める一人の男の子が居た。彼の父親と同じく、歯に衣を着せない言い方、簡単に言うと毒舌であるが、彼の言葉はチョウチョウには全く響かないようだ。

 

「デブですけど何か?じゃ!」

「なら、修行は中止だな!いのじんも来いよ!」

 

チョウチョウに向かって伸ばした手を下したいのじんに話しかける少年がいた。うずまきボルト。木ノ葉隠れの里長である七代目火影の息子である。

 

「イタズラも修行もめんどくせーや……。」

「ハァ……。」

 

ボルトがイタズラに誘っていたシカダイという少年は彼の提案を断る。その横で自由奔放なクラスメイトの行動に頭を抱えるいのじん。いのじんには、更に不幸な出来事、母親がブチ切れている中に飛び込んでいかなくてはならないが、それはまた別の話。

 

「じゃーねー。」

 

チョウチョウは扉の近くに立つ女性の元へと駆け寄り、彼女と忍者学校(アカデミー)を後にする。行先は彼女たちのお気に入りの甘味屋だ。

 

+++

 

日向一族。木ノ葉有数の名家であり、血継限界である白眼を有する一族である。その本家の玄関から入っていく青紫の髪の人間が二人。

その内の一人である少女が庭にいる一人の男性へと駆け寄っていく。

 

「おじさん、来たよー!」

「いらっしゃい、ヒマワリ。元気だったか?」

「うん!」

 

元気な声を挙げながら、少女は男性へと飛びつく。少女を窘めるように少女と共に日向本家の邸宅へと入ってきた女性が声を挙げた。

 

「ヒマワリ、飛び掛かっていったらダメ。」

「気にしなくてもいいですよ、ヒナタ様。」

「ごめんなさい、ネジ従兄(にい)さん。」

 

ヒマワリを抱き上げながら、ネジは笑顔を見せる。

 

「ヒナタ様もお変わりはありませんか?」

「うん。ネジ従兄(にい)さんの方は?」

「オレも変わりありません。ヒナタ様、ナルトは大丈夫ですか?」

「うん。シカマルくんが付いてくれているから大丈夫。」

「そうですか。なら、安心だ。」

 

ヒナタと話すネジを見上げ、ヒマワリは疑問を口にする。

 

「ネジおじさん。ハナビおばさんは?」

「もうすぐ来るハズだよ。少し待っていてくれ。それに、おじいちゃんも来るよ。」

 

ドタドタと慌ただしい音が縁側に続く廊下に響き渡った。感知能力に優れた日向一族だ。白眼でヒマワリの姿を確認したのだろう。

ヌッと縁側に一人の男性が姿を現した。

 

「あ、おじいちゃん!……じゃなくってヒザシおじいちゃん!」

「よくわかったねぇ、ヒマワリちゃん。」

「父さん!?」

 

スタスタと下駄を引っかけながら庭に出てきたヒザシはネジの手からヒマワリを優しく奪い取る。

 

「ネジよ、孫が欲しい。」

「いきなり現れてその発言はどうかと思う。」

「ネジ、子どもが欲しい。」

 

ヒザシとは打って変わって忍び寄った音が全くないままネジの後ろへと女性が瞬身の術で姿を現した。

 

「その話はまた後にしましょう、ハナビ様。」

「ネジ、孫が欲しい。」

 

ハナビに続いてヒアシも音を立てずに現れる。

 

「ヒアシ様、自重してください。」

「フフッ。」

 

その様子を見ながら、ヒナタはその唇で孤を描く。このような光景を見ることができるとは子どもの頃は思いもしなかった。しかし、ここには夢見た時以上の幸せな光景がある。

 

「ナルトくん、ありがとう。」

 

ヒマワリを巡って言い争いを始めた四人にはヒナタの言葉は聞こえなかったが、それはそれでいいとヒナタは考える。この夫への想いは彼が今夜、家に帰ってきたら伝えよう。

ヒナタは目の前の光景を見て、また微笑んだ。

 

+++

 

墓の前に立つ一人の男が口を開く。眠る友に語り掛ける彼の顔は優しかった。

 

「エノキ、今日の話が最後になる。前に話したのはヨロイが黒ゼツとの戦いに勝った所だったよな。その後で……。」

 

///

 

ヨロイが黒ゼツに取り込まれた後、すぐに黒ゼツは行動を起こした。つまり、ヨロイの体を使った完全な十尾復活だ。オビトの体を消滅する前に、オビトの体からヨロイが出していた外道魔像を使って尾獣たちを外道魔像の中に取り込んでいく。それを防ごうとしたサスケは胸を貫かれ、そして、ナルトは九尾を抜かれてしまった。あの時以上に自分の無力を呪ったことはなかったよ。死んだ後も修行をし続けたっていうのに……。

それから、十尾が復活したと思ったら、その体の形が変わって人型になっていったんだ。

大筒木カグヤ。

オレが切り落としたヨロイの腕に残っていた六道仙人のチャクラが語ってくれた。何でも、目の前にいる奴は六道仙人の母親らしい。で、そのカグヤが凄い速さで空に向かって飛んだんだ。

そして、世界が変わった。月の光が強くなって世界を照らした。とは言っても、六道仙人が教えてくれた輪廻眼の力を使った結界術でオレたちは助かったけど。それから、カグヤの神・樹界降誕で世界中の人たちが囚われてしまった。

で、オレたちは決めたんだ。ヨロイが言っていたことを信じようって。ナルトとサスケは六道仙人の息子たちの生まれ変わりらしい。それで、彼らを助けるために地獄道の力で二人の体を感知させて、ナルトにはクシナさんが九尾のチャクラを、そして、サスケには橙ツチが口寄せした柱間細胞を埋め込んだんだ。

そしたら、六道仙人のチャクラが消えた。六道仙人はナルトとサスケの精神世界で彼らと問答をするんだって。全く、参るよな。目の前には見たことがないほどの強敵。そして、そいつ相手に時間を稼がなきゃならない。カグヤとオレたちの戦いについては割愛させて貰うよ。ボロ負けした戦いを語るなんてのは、流石にキツいし。

ま、そんな訳で、ボロボロなオレたちから復活したナルトとサスケに興味を移したカグヤは時空間忍術で二人の後ろにいたカカシさんとサクラっていう女の子と一緒に消えてしまった。

何時間か待つと、突然、ナルトたちが口寄せの術をされたようにこっちに戻ってきたんだ。それで、彼らに聞くとカグヤを倒してヨロイにこっちまで送って貰ったそうだ。これで終わったんだな。

と、思ったんだ。けど、サスケとナルトが言い争ったと思ったら、サスケが駆け出した。それに続いてナルトも。嫌な予感がした。その感覚に従い、他の五人と顔を見合わせる。

オレと自来也様、それからクシナさんがミスティッカーを自分の腕から剥がして切り落としていたヨロイの腕に付けたんだ。オレたちが持っているミスティッカーの麒麟シリーズは三枚貼り付けてなぞると、時間を巻き戻すことができる。そうして、ヨロイを生き返らせた。

そうして、無限月読を解こうとしたんだが、無限月読を解くために必要な尾獣たちのチャクラがなかったんだ。輪廻眼と十尾のチャクラが無限月読の解術には必要だったんだが、黒ゼツが計画を狂わせたから尾獣たちのチャクラを用意できなかった。

けど、ヨロイの輪廻眼の力で無限月読のコントロールができるようにして、オレの別天神を作用できるようにしたんだ。そして、世界中の人々が他人に優しくなるようにという幻術を掛けた。

そして出来上がったのが今の世界。人が人を思い合える世界だ。エノキ、お前も見ていてくれているといいんだけど。

 

///

 

「シスイ、ここに居たのか?」

 

彼の背後から声がした。

 

「イタチか。」

「ああ。ここは、確か……。」

「オレの大切な人が眠っている所だ。また来るよ、エノキ。……イタチ、行こうか。」

「いや、その前に少し付き合ってくれ。」

「ん?どうしたんだ?」

「サラダとサクラに甘味を買って行きたい。」

義妹(いもうと)と姪に関しちゃ、お前はタガが外れるからな。付き合うよ。」

 

二人は瞬身の術で姿を消す。

少し風に煽られた白百合は見送るように揺れていた。

 

+++

 

「父さん、行ってきます。」

「あの……アスマおじさん?」

「ああ、アスマおじさんですけど?で、シンゲン。お前、ミライに手ェ出したらどうなるか分かってるよな?」

「もちろんです。ミライ先輩とは清いお付き合いをさせて頂いています。」

「あぁん!?」

「アスマ!」

「あいたッ!」

「ゴメンね、シンゲン。ミライのことお願いね。」

「もう、母さん!私の方がシンゲンより先輩なんだから!」

「もちろんです、紅おばさん。」

 

頬を膨らますミライとアスマを横目に紅と笑い合うシンゲン。紅の視線が時計へと移った。

 

「そろそろ時間じゃない?」

「あ、そうだった!早く行くよ、シンゲン。」

「はい。」

 

一度、ミライは両親へと振り返った。シンゲンもアスマと紅へと視線を向ける。

 

「それじゃ、行ってきます!」

「お邪魔しました。」

 

玄関から出ていく二人を見つめながら、アスマは呟いた。

 

「あれからもう15年か。早いもんだな。」

「そうね。そろそろ子離れする時期じゃない?」

「いや、それはダメだ。絶対にダメだ。」

「強情ね。」

 

呆れたような表情を浮かべながらも、紅は聖母のようにアスマを見つめていた。

 

+++

 

とあるホテルのロビー。いくつも置いているテーブルの一つに向かい合わせで座る二人の男がいた。

 

「カカシ。お前、今日はあいつについてやらなくていいのか?」

「ああ、あいつはもう立派な火影だよ。いつまでも先生面するのはな……。」

 

カカシは肩を竦める。

 

「ま!あいつのことだ。何だかんだ言っても上手くやるでしょ。そう思わない、オビト?いや、六代目様?」

 

目の前に座っていたガイの後ろへとカカシは声を掛ける。

 

「うっせーよ、カカシ。それに、ナルトのことはお前が一番分かっているだろうが。」

「そうでもない。昔からナルトは意外性ナンバーワンの忍者だったしな。」

「そんな奴が今じゃ、火影だ。オレが火影に成ったってのも含めて、世の中、何が起こるか分からねェよな。」

「む?そうか?お前もナルトも人一倍努力したからこそ、皆に認められたとオレは思うぞ。そして、そんな奴が火影になるのは自然なことだ。そう、努力の勝利だ!」

 

オビトはポカンとした表情でガイを見つめるが、次の瞬間、少年のような笑顔を浮かべた。

 

「ハハハ!ありがとな、ガイ。」

「そういえば、オビト。リンはどうしたの?」

「ああ、里にいるってさ。男同士の旅行に割って入りたくないって。」

「ま、それもそうだな。それにしても、まさかオビトが最後に到着しないなんて雨でも降るんじゃない?」

「カカシ、お前が遅刻魔になったってことは色んな奴から聞いてるぞ。お前がそういうのはおかしいだろ。」

「いや、オレが遅刻するようになったのはお前の遅刻癖がうつったせいだから。」

「人のせいにすんな!」

 

少年時に戻ったような彼らの会話はホテルスタッフが注意するまでオビトの大きな声が響いていたという。

 

+++

 

「全く、お父さんったら。いつまで経っても私を子ども扱いして。」

「ミライ先輩、落ち着いてください。」

「シンゲンも!」

 

ミライはシンゲンの顔をジッと見つめる。

 

「確かに、アナタは優秀な忍だよ。けど、私の方が年上なんだからそういう窘める感じの言い方とかは私がしたいのに。」

「心配することぐらい許してください。アスマおじさんもミライ先輩のことが大切なんです。もちろん、オレも。」

「……そういうことを平気で言う。」

 

頬を赤く染めたミライはシンゲンから目を離す。と、ミライの視界の中に良く知る人物が映った。

 

「あれ?」

「どうしたんですか?」

「あそこにいるの、アンコおばさん?」

 

ミライの目線をシンゲンが辿っていくと、団子屋で頬を大きく膨らませたアンコの姿を見つけた。

 

「ハァ……何してるの、母さん。」

「ヒィンフェン!?ひょっとまっふぇふぇ。」

「ヤッホー、アンコおばさん。それに、チョウチョウも。」

「ミライさんにシンゲンさん。どーも。」

 

決して、口の動きを止めないアンコ。彼女に代わって、チョウチョウが頭を軽く下げた。

 

「チョウチョウちゃん。ウチの母が一体何をしているのか教えて貰ってもいい?」

「ええっと、あれです。」

 

チョウチョウが指す壁のポスターには『団子早食い、一時間以内に100本食べれたら無料!』と書いてあった。シンゲンは思わず頭を抱える。

 

「全く……。また太るよ。」

 

シンゲンの忠告に首を振りながら口の中の物を飲み込んだアンコは力強く言葉を口にする。

 

「大丈夫!太ったら旦那にダイエット付き合わすから。」

「ヨロイのおじさんも大変だね、シンゲン。」

「そうですね。あの人のことよりも、ミライ先輩。時間が迫っています。」

「あ!もうこんな時間?急がなくちゃ!」

「ええ、行きましょう。母さん、くれぐれも無茶はしないように。」

「ウルサイ!」

 

二人は瞬身の術で姿を消した。

 

「全く……。口煩い所は父親に似ちゃって。」

 

アンコは口を尖らせる。

 

「ま、気を切り替えて……チョウチョウ、食べよう。」

「おい。」

「っていうのは冗談で。」

 

アンコの頬に汗が流れる。

 

「あ、ヨロイのおじさん、久しぶり。」

「おう、久しぶりだな、チョウチョウ。」

「今日は帰ってこないってアンコ先生が言ってたけど。」

「おやつ代をこうして使い込むんじゃないかって思ってな。少し抜け出してきたら、案の定、団子を食べている訳だ。」

「100本食べたら無料だし……。」

「いや、無料だからって話じゃなくて糖分を取り過ぎるなって話だし。」

 

思い出したというようにチョウチョウは手を打ってヨロイに尋ねる。

 

「そう言えば、ヨロイのおじさんって何をしてる人なの?」

「俺?忍だけど。自分で言うのもなんだけどさ、一流の忍として結構有名だと思うんだよね。」

「何というか外交官、みたいな人かと思ってたし。ヨロイのおじさんって強いの?そうは見えないんだけど。」

「強ぇーよ。超強い。世界で……そうだな、七代目火影のナルトとその親友のサスケ。その次に俺は強い。例えば、忍界武闘祭とかあったら銅メダルを貰えると思う。んーと……。」

 

ヨロイは顎に手を当てる。

 

「一流の銅ヤロー……って感じかな。」

「ただし、夫婦喧嘩は私が勝つ。でしょ?」

「そうだけど!でもさ……。」

「六代目たちを待たせているんでしょ。早く行きなさい。」

「でも、このままじゃチョウチョウに信じて貰えないままになってしまうじゃん!」

「行ってらっしゃい。」

「……行ってきます。」

 

ヨロイは彼女たちに手を振って、背を向ける。

世界は変わった。それは、いい変化だと俺は信じている。多くの国で幸せが咲く世界になってきた。

目の前に広がる木ノ葉の里を目に収め、彼は一つ呟く。

 

「眩しいな。」

 

世界は綺麗だった。きっと、世界が輝いて見えるのは……。

答えに思い至った彼は、後ろを振り返り軽く笑みを溢した。

 

+++

 

昔、仙人ハゴロモありけり。彼の者、安寧秩序を成す志の半ばで、その命散りけり。

幾許の時を経て、仙人、青年と出会い、その志を託す。

命を新しくせし青年、使命を背負い世界に生まれ落ちん。赤子となりし青年、幾多の試練を乗り越え、忍となりけり。

仙人封じし厄災、十尾復活す。十尾を消さんとした忍の者、絶望に抗い救世を諦めず使命を全うす。

やがて、忍の者、輪廻の理を悟り、それを愛と口にす。

その者、名を赤銅ヨロイと申す。一つの世界を創り上げし者と讃えられん。

 


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