一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@113 忍び舞う者たち 其の肆

それは同時だった。

俺が二代目火影の背中を錫杖の石突で貫くのと、二代目火影が手に持つ刀で突き刺した俺の姿が煙を上げるのと、土遁で忍び寄った俺の影分身が黒ゼツの背後を取るのは。

 

「影分身か。」

 

二代目火影の姿が煙となって消える。

俺と同じように様子見の、しかし、上手くいけば相手を殺せるレベルの影分身の運用。敵に回すと、この術は本当に嫌になる。

錫杖を構え直し周りを見渡しながら、仕込みについて思いを馳せる。

三代目風影の砂鉄が俺を地面まで運んだ際、砂鉄を吹き飛ばすために行った神羅天征によって舞い上がった戦塵で一瞬、敵の目から離れた俺は畜生道の口寄せで呼んだ犬に象転の術を掛け、身代わりとした。そして、本体は土遁で地面に隠れつつ、影分身を黒ゼツに向かって差し向けたという訳だ。尤も、黒ゼツには上手く逃げられてしまったが。周りにいたゲンマたちを使って飛雷陣の術で飛んだのだろう。これじゃ、飛雷神の術を使えないな。既にミナト先生を出して彼のマーキング付きのクナイをどこか別の所に設置していることも十二分に考えられる。飛ぼうとマーキング付きのクナイを作った瞬間、卑劣切りを喰らう可能性が高い。そう、先ほどの二代目火影が俺の()にしたように。

 

「ん?」

 

大きな音を立てて後ろに着地した一尾に目を向ける。大きく口を開けた一尾の口から暴風が玉となって吐き出された。風を圧縮させた練空弾だ。

 

「封術吸引。」

 

餓鬼道の力で練空弾を無効化する。

しかし、これは陽動だ。感知を拡げると、後ろにいた忍たちが編成を変えていた。それに、一尾が俺から距離を取っているのを見るに、広範囲の攻撃か搦め手を使って来るのは想像に難くない。どちらにしろ、神羅天征で吹き飛ばせばいい。

俺が一尾の攻撃を全て無効化するのを見計らったのか、後ろの忍が動いた。彼が口から大量の水を吐き出す。水遁 大爆水衝波で作られた水は巨大な水のドームとなって俺とその男を包み込む。術者に視線を注ぐと、その男、干柿鬼鮫が手に持つ刀と融合していく様子が見て取れた。黒ゼツが操るには、その手の内を知っている鬼鮫さんが鮫肌を持っていた方がビーさんやフグ鬼くんよりもやり易いという訳か。鬼鮫さんの次の動きを観察しつつ、水中をゆっくりと浮上する。

俺の前で印を組んだ鬼鮫さんの目の前の水が次々変化した。水遁 千食鮫。視界を埋めるほどの大量の鮫となった水が俺に殺到する。それを迎撃するため、俺は印を組み、術を発動させる。

 

「土遁 土流槍。」

 

地面から発生した無数の槍が水の鮫を貫いていく。水は土に弱い。性質変化の優劣関係だ。

これで、千食鮫は対応できたが、後ろの亀が厄介だな。

 

「口寄せの術。」

 

畜生道の力で最大級の(カニ)を三体呼び寄せる。これで、時間を稼ぐことができるだろう。

後ろで泡に包まれていく四代目水影。水の中ならば、周りの邪魔が入らず鬼鮫さんと一対一で対処していけると思っていたが、四代目水影も水の中で自由に動けることを失念していた。

蟹を囮に、背を向けて足を動かす。大爆水衝波の水のドームから抜け出して、空中に跳び出しながら振り返ると、水のドームの天井から首だけ出した三尾と目が合った。

三尾の口が開き、そこから出てきた圧力を掛けた水が敵に襲い掛かる荒海飛沫が俺を襲う。蟹に手足を挟まれているというのに、丈夫な奴だ。ショタコン御用達みたいな顔付きにタフガイとかいう要素はいらない。大人しく死んでおけ。

餓鬼道の力で荒海飛沫を無効化しつつ、蟹にチャクラを送り込み、蟹の出力を上げる。チャクラの残りは約3割程度。そろそろ適当な人間を捕まえチャクラを吸収しないと戦えなくなる。地獄道の力でスタミナを完全回復してもいいが、それだとチャクラを初めから練らなくてはならないため相手の隙を素早く突くことができないのが痛い。自殺して回復というのは時期尚早だ。

水浸しの地面に着地した瞬間、待ってましたと言わんばかりにワラワラと忍たちが群がってきた。……違う。眼を細めて忍たちの後ろにいる人物に視線を注ぐ。

万物創造の術で起爆札を創りながら力を溜めていく。……今だ。

足に集めたチャクラを開放し、一気に狙いへと近づく。後ろに置いてきた起爆札が爆発し、通り道の忍たちを爆発に巻き込んでいく中、俺の手は目標を掴んだ。

 

「お前だ、再不斬。」

 

水飛沫が舞う中、再不斬の喉元に手を伸ばして捕まえる。が、その姿は水に変わった。水分身だ。その水分身の後ろで再不斬の本体が首斬り包丁を構えていた。

だが、それは予測済みだ。二代目火影の件からして、黒ゼツの運用は慎重を極める。俺と似通った性質の持ち主だ。そして、次の行動も大体予想は付く。足止めだ。

足に氷が絡みついたが、それを餓鬼道の力で消す。白の氷遁との運用。そして、後ろに迫る鬼鮫さんと再不斬の挟撃。悪くない。しかし、俺の攻撃範囲と術の展開スピードを見誤ったな。

 

「ぬのぼこの剣!」

 

求道玉の形状を一瞬で変える。そして、体を回転させて、それを振り切ると遠くの方の人間まで胴を薙いだ。音の500倍で13kmまで伸びてくれたらもっと使えるのにと思いつつ、手を求道玉から離し印を組む。

 

「千鳥流し。」

 

全身から発した雷撃が足元の水へと流れていき、そこに潜んでいた兄弟を浮かび上がらせた。彼らに向かってチャクラの鎧を形態変化させた手を伸ばして捕まえる。

 

「貰うぞ……水月、満月。」

 

チャクラの掌の中から水月と満月の体が無くなっていく。もちろん、彼ら鬼灯一族の固有体質を用いた水化の術ではなく、俺のチャクラを吸収され、その形を保てなくなった訳だ。雷の性質の術を当てたら少しの間、鬼灯一族の体は水へと変化しにくくなるのは、過去の実験で証明が済んでいる。大蛇丸様に付き合わされた外道な人体実験が役に立った。

それはそうと、黒ゼツの遣り口が分かってきた。これなら、行けるか。

 

「黒ゼツ!」

 

遠くの方にいる黒ゼツに向かって声を出す。優勢である奴ではあるが、おそらく、声を出すのは自分の姿に変化させた中忍レベルの忍だろう。そして、自分はどこか別の所に隠れて高みの見物。俺なら間違いなくそうする。

 

「どうした、赤銅ヨロイ。もう降参か?」

「んな訳ねーだろうが。逆にお前が降参することを勧めるぜ。」

「この有利な状況で降参する。面白い試みだな。」

 

忍たちが一際多く集まっている所に黒ゼツがその姿を見せる。皮肉めいた言葉を紡ぎながら俺を嘲笑う黒ゼツは絶対に許さない。もはや楽には殺さぬ。肺と心臓だけを治癒で再生しながら、つま先からじっくり切り刻んでやる!

 

「その言い様、降参する気はないと捉えていいんだな?」

「ああ。なぜ、オレが降参しなければならないのか教えて欲しいものだ。」

「お前の攻撃パターンが読めてきたからだよ。」

「ホォ……。」

 

表情は非常に読みにくいが、声色や仕草から鑑みて黒ゼツはどうやら愉しんでいるらしい。

 

「連携攻撃。好きだろ、お前?」

「クク。見応えのある演出。お前は嫌いか?」

「嫌いだな。受ける側となっちゃ、避けるのに一苦労だ。」

「だからこそ、数多くの連携でお前を刈ろうとしている。そこに何か弱点でもあるのか?」

「ああ、ある。詰将棋のように型に嵌った場合は、確かに強い。抜け出せないほどにな。だが、こう考えてみるのはどうだ?俺とお前が将棋の盤の向かい側に立っているとする。」

「玉だけで戦っているお前と、お前の使う駒まで持つオレを想像したが、それでいいか?」

 

人の神経を逆撫でするような物言いだな。目を逸らしておきたかった事実を突き付けられるのは、ドMでも嫌な行為だろうに。

 

「まぁ、それでいい。お前と俺は盤上で命の取り合いをしている。そこで、だ。俺が目の前に座っているプレイヤーであるお前の顔を殴ったら、その時点で終わる。そう思わないか?」

「つまり、超高等忍術、いや、仙術で直接オレを叩けばいいと言いたいらしいな。確かに、その方法ならオレを殺すことができる。次元が違う攻撃はオレと言えど、避けることなどはできない。だから、少し強がってみよう。」

 

黒ゼツを守るように彼の前に八人の忍が躍り出た。

 

「ただの駒として扱うには、オレにとって荷が重い尾獣たちで以ってお前を殺そう。」

 

嘘付きめ。八体もの尾獣たちを操りつつ、体から九尾を出すような奴が“荷が重い”なんて笑わせる。

黒ゼツの前に並んだ一尾から九尾までの尾獣たちを見て、俺は眼を見開く。

 

「クッ!」

 

視界が暗転した。

呼吸が止まり、全てが黒に包まれる。

 

「はぁあああ。……死んだ甲斐があった。尾獣たちは頂いたぞ。」

 

地獄道で呼び出された閻魔の口の中から出ていく。水月と満月から奪い、更に俺が残していたチャクラを全て使い切って尾獣たちに首輪を付けた。正確には、オビトが使っていた尾獣たちをコントロールするための杭に近いが、些細な差だ。

重要なことは尾獣たちのコントロール権を俺がアメノウズメで書き換えて、尾獣たちを黒ゼツから奪った。これだけ把握していればいい。

 

「さて、反撃の狼煙を上げようか。」

 

尾獣たちがすぐ後ろに居た黒ゼツに向かってそれぞれの尾を振り下ろす光景を見ながら、俺は次の戦闘に備えてチャクラを練り上げた。

 


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