綱手様は自来也様、大蛇丸様と共に掛け出す。
「行くぞ!」
「おお!」
「ええ。」
三人は一旦、別々の方向へと駆け出した。
「サクラ!構えろ!」
「はい!師匠!」
綱手様はサクラを呼び、地面を殴りつける。と、振動が地面を伝わり10mぐらいありそうな巨大な分裂体を宙に打ち上げた。
「ラァ!」
打ち上げた分裂体に瞬身の術で近づいた綱手様は、分裂体の腹に思いっきり拳を叩き込む。それに耐えた分裂体には何かいいものを贈ってあげたい。しかし、それは無理そうだ。
高く打ち上げられた分裂体の更に上にチャクラが青く灯っているのが見えた。
「しゃーんなろー!」
上からサクラの拳が叩きつけられた分裂体はその体を弾き飛ばせられながら地面に深々と埋まる。可哀そうに。
「邪魔だよ!」
背後に落ちてきた身動き一つしない分裂体に綱手様が最後の言葉を贈った。聞こえていれば、そして、言葉を理解ができるならば、きっと立ち上がれないほどの衝撃だっただろう。
そんな分裂体を地面にめり込ませた張本人が綱手様の横に着地する。
「サクラ!よくやった!」
「あ、ありがとうございます!」
頭を撫でられて少し顔を赤らめながら、嬉しそうな様子のサクラ。
その横ではナルトと自来也様がお互いに笑い合う。
「行くってばよ、エロ仙人!影分身の術!」
「その呼び方はやめんか!土遁 黄泉沼!」
黄泉沼に足を取られ動けない分裂体の頭上から、雄叫びと共にナルトの影分身たちが一斉に迫る。
「大玉螺旋帯連丸!」
分裂体が回転する青い光に次々と飲み込まれていく。
「サスケくん。私たちも行こうかしら?」
「言われなくても、そのつもりだ。」
「フフ、期待しているわよ。万蛇羅ノ陣。」
大蛇丸様の口から飛び出した大量の蛇が分裂体たちに絡みついて動きを止めていく。
「須佐能乎!」
須佐能乎の持つ矢を分裂体に絡みついた蛇の隙間を狙い、サスケはそれを射る。その矢は寸分違わず分裂体に突き刺さり、分裂体を絶命させる。
新旧三竦みがその数を減らしたものの、分裂体の数は増え続けている。本体を攻めないと止まらないようだ。それに気づいたのかサイが超獣偽画で作り出した鳥に乗り、空から本体に攻撃を仕掛けようとする。しかし、一体の分裂体がサイに気づき、空にいるサイに向けて手に持つ自分の体から作り出した槍を投げる。
「サイ!」
槍が刺さり、その形を崩した鳥から落ちたサイの体をナルトが形態変化させた手で受け止める。
「大丈夫か?」
「うん。……ナルト、また皆にチャクラを渡せないの?」
「今は無理!九喇嘛のチャクラがまだ溜まり切ってねーんだ。」
「本体を倒すには、あのデカブツを薙ぎ払いつつ間をすり抜けていくしかありませんね。一気にジャンプして近づける距離でもない。敵の攻撃を弾き、印を結ぶ時間もいる。ナルトのチャクラがない以上……深手を負う可能性が高いのに医療班は前に出れない。」
サイの分析を聞いた旧第七班の三人はそれぞれの指を噛む。
「なぎ払い…すり抜ける。何の造作もない。」
「一気にジャンプして近づける上に攻撃も弾く力もあんぜ、コイツァ!」
「皆が深手を負っても常に側にいて回復してあげられる。今の私なら…!」
効果音で表すとすると、『ババン』かな?
『口寄せの術!』
煙を上げ現れる蝦蟇、蟒蛇、蛞蝓。
その新しい三竦みを見た旧三竦みは優しい表情を浮かべる。
「サクラ、やったな。」
「アナタたちもなかなかの忍を育てたものね。」
「まぁ、ナルトが最も成長したがのォ……行けィ!」
自来也様の声を合図にしてナルト、サスケ、サクラの三人はそれぞれの口寄せした生物に指示を出した。
大きく跳び上がり、分裂体の槍を投げる攻撃を弾いて十尾本体へと近づく蝦蟇。分裂体の間を通り抜けながら上に乗る須佐能乎が加具土命を使った黒い炎の剣で切り開いていく蟒蛇。数多くの人間大の大きさに分かれながら連合の忍を癒していく蛞蝓。
「サスケェー!」
手に螺旋丸を作りながらナルトが叫ぶ。それだけでサスケはナルトの意図が分かったようだ。
「風遁 超大玉螺旋手裏剣!」
「炎遁 須佐能乎加具土命!」
灼遁 光輪疾風漆黒矢零式が十尾本体の体に当たる。前世でこれを見た時、ミナト先生の真似をしてこの術の名前を言おうとして舌を思いっきり噛んでしまったことを墓まで持っていこうと思っていたが、もう一回死んだし、いけるんちゃうかな?ちゃうかな?
「灼遁 光輪疾風漆黒のにゃ零式。」
よし、決めた。これからはもう二度とこの術の名前は言わない。言った奴が猫キャラになってしまうとは、大したネーミングだ。
「ヨロイ様。十尾の攻撃によって殉職した仲間の回収が完了しました。」
突然の後ろからの声にビクンと体が反応した。しかしながら、俺は音隠れの長。ここで、不用意に感情を出してしまうと士気に影響が出る可能性がある。
「そうか。ご苦労。」
感情を隠して後ろから聞こえてきた声に返す。報告しに来た忍が入っている部隊の任務は死体回収。忍の死体は里で使われた秘薬などといった口外できない情報を持つ宝の山。そして、穢土転生を使えるカブトがいるので、その必要性と貢献度は非常に高い。音だけではなく他の里全ての忍を編入させられたのは、音が信頼されていない証拠だろうが問題はない。戦争が終わった後は戦後の賠償などは考えなくてもいい世界になっている。
「我々も参戦しなくてよいのでしょうか?」
「参戦したいの?」
「ハッ!忍として任務は絶対であることは重々承知しておりますが、それでも!ナルトの側で戦いたい、仲間の側で戦いたいのです!」
「それは部隊全体の総意?」
「ハッ!」
首を後ろに回すと約300ほどの忍たちが待機していた。さて、どうするか。
黒ゼツに関しての報告が少し頭を過るが、黒ゼツ一人では死体をそれほど回収できない。それに、マダラを倒した直後に隙を見せてやれば、マダラの精神の一部である奴は俺の輪廻眼を狙って攻撃を仕掛けてくるだろう。そこをカウンターで仕留めればいい。
そう結論を出して、一つ頷く。
「よし、なら、いいよ。」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。ここで最大戦力を使ってマダラとオビトを倒す。そうなったら敵はいないし、大丈夫だ。ああ、そうそう、戦場に行く前に俺の手に触れていけ。ナルトのチャクラを渡す。」
「ハッ……ところで、先ほど言われていた灼…」
「聞かないでください。」
「…はぁ、分かりました。」
丁寧な言葉遣いをすると分かってくれた。何も言わずに両手を広げると、次々に忍たちが触れては瞬身の術を使って戦場に走り去っていく。彼らを見送って、再び黒レンズに遠眼鏡の術で戦場の様子を映し出す。
マズイな。
ナルトとサスケが大量の分裂体、しかも、大きさがガマ吉と同じぐらいの大きさの奴らに囲まれている。助っ人として……。
近くにいる忍を捜そうと目線を動かすと、木ノ葉の三忍たちが目に入った。
綱手様と大蛇丸様は指を噛み、自来也様は俺の血が入った金属製のケースを取り出した。そして、三忍はそれぞれの手に血を付けると印を組んでいく。
『口寄せの術!』
既に口寄せの術で蝦蟇、蟒蛇、蛞蝓を呼んでいたナルトたち第七班に続いて、三忍も口寄せで呼び出した生物の上に乗る。ブン太、マンダJr.、カツユを呼び出した三竦みは見ていて壮観だった。手打ちのゴタゴタがあると原作で言われていたから、戦争前に自来也様を妙木山に派遣して問題を解決させたのが良かった。そして、ブン太にはナルトからの呼び出しにガマ吉を繰り出させるように自来也様経由で伝えていたことで、やり口がしっかり分かっている自来也様とブン太を組ませることができた。計画通りだ。
「ワシらも行くぞ、ブン太ァ!」
「分かっとるわい!邪魔じゃ、どけい!」
小刀を振り回し分裂体を斬りながらナルトたちの方へ向かう自来也様とブン太。
「ウオオオオラァ!」
「ハイッ!」
弾力のある巨体で分裂体を圧し潰すカツユ様と彼女を投げた綱手様。
「さぁ、アナタの力を見せてみなさい。」
「ククク。このオレを試そうというのか。面白い。」
マンダJr.こと、マンダの息子のマンダ。親子揃って名前がマンダ、というより襲名制らしく先代のマンダが俺の予言という名の原作知識と同じように爆発の盾にされてお亡くなりになったようで今はJr.が取れるようだが。
そして、マンダJr.は速かった。
囲まれているナルトたちにいち早く近づいた大蛇丸様は印を組む。
「口寄せ 羅生門!」
分裂体を三角に囲むように羅生門が地面から抜け出てきた。そして、羅生門が出ていない四方の内、三方にはブン太、Jr.、カツユ様がナルトとサスケを守るように控えている。
「蝦蟇口縛り!」
その閉じた空間を自来也様が時空間忍術で岩宿の大蝦蟇の食道に変える。蝦蟇の食道はうねり、その中にいる分裂体を絡めとって動きを止める。
「行け!綱手!」
「ハァアアア!」
綱手様の攻撃でスプラッターショーのような光景が作り出される。精神安定上あまりよくない光景だと判断して、遠眼鏡の術を解除してレンズを外した。
「ウオオオオオ!」
月下に傷を負った獣の声が響いた。
「オビト……か。」
胸に穴が空いた彼の声は遠くまで木霊した。
「ヨロイ。」
「ああ。」
隣に歩いてきたリンが俺に声を掛ける。
俺はそっと目を閉じた。
///
「火影になるかァ。これじゃ無理だな。」
「ぐう。」
「仲間一人助けられないなんて、火影になる資格はないよ。」
「だぁー!分かった!分かったから手伝ってやるよ!何を買ってくればいい?」
「焼きそばパンだ。お前の奢りでな。」
「ふざけんな!」
「まぁ、あれだ。火影は多少の無理を自分の身を切ってしなくちゃならない。そういう役回りだが、それでもお前は目指すの?」
「当たり前だ。……お前が初めてだったんだ。」
「え、何が?身に覚えがないんだけど。」
「優しいって誉めてくれたのはお前が初めてだった。初めてお前と会った日、オレたちはアカデミーの入学式に遅刻しそうになっていただろ?それで、お前の肩を担いだ時に言われたんだ。『お前は優しいな』って。」
「その一言でお前は火影を目指そうと思った訳?」
「いや、その前から火影は目指してた。けど、それは今、思えばオレが生きてていいんだって思うために目指していたのかもしれない。誰かに必要とされてオレは一人じゃないんだって思いたかったんだと思う。けど、お前の一言と笑顔でオレのやってきたことは間違いじゃないって思えたんだ。」
「いたたまれない。お前ぐらいの歳の時にニンジャごっこして千年殺しとか友達とやってた俺がバカみたいじゃね?」
「どういうこと?お前、オレより年下なのに。」
「気にすんな。で、お前は優しい火影を目指す。」
「何か改めて言われると照れるな。」
「照れることはない。立派な夢だよ。」
「そうか?」
「ああ。」
///
思い出を振り切り、オビトの前に飛雷神の術で現れると赤い血飛沫が月に向かって立ち昇っていた。
「ミナト先生。」
「……。」
彼の心の内はいかほどの物か。亡くなったハズの教え子が今は大罪人。それを自分の手に掛けた。火影の座についた一流の忍であるミナト先生でも心は揺れているだろう。
「ヨロイ、戦争はまだ終わっていない。オレは大丈夫だから、君は君の仕事を。」
俺に言葉を掛けるミナト先生は自らを落ち着かせたようだ。十尾の頭の上に降り立った俺とミナト先生の元にサスケが駆け寄ってくる。
「あっけなかったな。後はあの生き返り損ねたマダラを封印すれば、この戦争も終わりだ。後、このデカブツもな。」
「何を以って終戦と決めつける?…裏切り者の同胞よ。」
下から暗い声がしたと同時に足場であった十尾がオビトの体に吸い込まれていく。足場を失った俺たちをナルトが形態変化させて伸ばしたチャクラの衣で掴んでガマ吉の頭まで引き寄せた。
ナルトはオビトから目を離さず、口を動かす。
「マダラに操られてるのを振り払って、こいつは最初からずっとこれになるために印を結んでた!」
体中を覆う外殻に空いた顔の近くの穴の端を右腕は掴む。
「十尾の……人柱力だってばよ!」
外殻が剥がれ落ちると共に軽やかな音が響いた。それと同時に押しつぶされそうになるほどのエネルギーの奔流も眼に映る。
しかし、これから先の未来は俺の眼には映ってはいなかった。これから先の未来は自分が創る。そのためには……。
「お前を見極めてやる。俺のこの“眼”で。」