一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@102 新たなる三竦み

「ナイスタイミングだってばよ、父ちゃん。」

 

ナルトは目の前に立つ父親に笑顔を見せる。

 

「ミナトッ!」

 

ミナト先生に飛び掛かるクシナさん。イチャイチャしだす二人を無視して、頭の中に響いてきた通信に耳を澄ます。

 

-全員、突風に備えろ!……方角はどうッスか?ヨロイさん。

-後方だ。結構、遠くに飛ばしていた様子だったから戦場に影響はないだろう。精々、髪が煽られる程度のハズ。

 

背中に風が当たった。それも猛烈な勢いで。飛雷神の術で飛ばした十尾の尾獣玉の爆風の規模は俺が想定していたものよりも大きかったらしい。風に煽られて倒れる忍があちらこちらに見られる。

 

-さーません。俺の見込みが甘かった。

-いいッスよ。あんなのを放たれて全員無事っていうのが大きな成果ですから。

-サンキューな、シカマル。……で、どうする?シカクさんが戦場に着くまではお前の意見を聞くことが賢明だと考えているが。

-じゃあ、まずは十尾の尾獣玉を撃たせないようにするのが第一の目標です。前、本部から撃った光線はまだ出せますか?

-ああ、出せる。けど、尾獣玉を撃たせないようにするにはもっといい方法がある。結界で囲めばいい。

-けど、そんな強度の結界は……。

-助っ人にやってもらう。歴代の火影にな。

-そういうことですか。じゃあ、その結界についてはヨロイさんに任せます。結界に閉じ込めて尾獣玉を撃ったら十尾まで自爆するような状況にした後に全員でマダラたちを仕留める。それでいいですか?

-問題ない。

 

頭の中からシカマルの声が消えた後、新たに三人の声が聞こえてきた。

 

「ミナト…相変わらず速いの!」

「四代目、貴様、ワシ以上の瞬身使いよの。」

「よぉーしィ!始めるぞ!」

 

戦場に降り立った三人の姿を見て、信じられないといった様子の秋道マカロが大きく口を開く。

 

「初代様、二代目様、それに三代目様…四代目ミナト様まで!」

「そうか、さっきの攻撃を止めてくれたのは…火影様たち!いったい誰が穢土転生を…ああ。」

 

マカロに続いて状況の確認をしていた木ノ葉の忍が俺の方を見る。

 

「おい、蔑んだ目で俺を見るな。連合軍にとってベストな選択だろうが。」

 

そんな戦場のほっとする一幕に声が響いた。

 

「待っていたぞォー!柱間アアアー!」

「お前は後!」

「……。」

 

柱間にあっさり振られるマダラ。

 

「マダラ、これは奢りだ。元気だせよ。」

 

氷遁を使い、マダラの足元まで氷を伸ばした後、口寄せした瓶をマダラに向かって氷の上を滑らす。岩の上に立っているマダラまで届けるためにスキージャンプ台のように先の方をくるりとした氷の板を滑る瓶は実にマーベラスな動きだ。

自分の目の前に来た瓶を片手で上手くキャッチするマダラ。

 

「中身は?」

「ボツリヌストキシン。」

「フン!」

「危ねェ!」

 

瓶を俺に向かってブン投げてくるマダラ。優しく受け止めて瓶を巻物に封じる。

 

「毒って知ってた?」

「どうせ碌なものではないだろうとは思ったが、やはりか。中身がなんであれ、お前に投げ返すつもりだった。」

 

飲めば天国に行けるというのに。

 

「それじゃ、こっちは?」

 

今度はちゃんとした酒瓶をマダラに向かって滑らせる。

 

「何だ、これは?」

「ジャガイモ原料の酒。……マダラさんの!ちょっといいとこ見てみたい!!はい、イッキイッキイキ、イッキイッキイキ!」

「は?」

「イッキイッキイキ、イッキイッキイキ!」

 

困惑しているマダラ。もう少しだな。

 

「パーリラパリラパーリラ、ハイハイ!パーリラパリラパーリラ、飲んで?」

「一体…?」

「ビンだビンだァー!ビンだビンだビンだァーアッ!」

 

ジェスチャーで酒を飲むように伝える。

意を決したマダラ。流石、敵に背を向けない男である。もう一度、言う。流石、敵に背を向けない男である。

マダラは瓶の蓋を開け、それを口に当てる。グイッと煽ったマダラの目がカッと開かれた。

 

「!!!!!!!」

 

声にならない声が響いた。なるほど、自分で言っていてなんだが声にならない声という表現は今のマダラの様子を的確に示していると思う。

しかし、勿体ないな。噴き出した酒が霧を作っていた。酒を噴き出すとは実にけしからん。

うん、お約束だね。

 

「御馳走さまが聞こえない!パーリラパリラパーリラ、ハイハイ!パーリラパリラパーリラ、飲んで?」

「飲めるかァ!」

 

瓶を地面に叩きつけるマダラ。

そんなマダラを半目で見るマカロに話しかける。

 

「マダラさんだから瓶をグイッといったけど、本当はダメだからね。マカロって、歳いくつだっけ?」

「18です。」

「未成年は、お酒はダメだから気を付けてね。あと、成人していてもイッキとかは急性アルコール中毒が危険だから絶対しちゃいけないよ。もし、イッキをするなら死んで欲しい人にするべきだね。」

「はい。」

「ヨロイ!」

 

マダラが大声を出して俺を呼んだので、やれやれとマダラに向き直る。いつの間に出したのか十尾の周りに出した四赤陽陣が大きく膨らんでいるから、そっちに注目しておきたいのだが…。

 

「なんですかァ?クレームはお断りなんですけど。」

「なんだ、アレは!?酒じゃないだろう!?」

「いえ、アルコール度数96度のお酒です。本来ならショットグラスで飲むのをオススメするんですけど、瓶ごとイクとは……。マダラさん、“漢”ですね。」

 

ちなみに、この酒、普通に木ノ葉のスーパーに売っていた。まさか、ナルトの世界にスピリタスが売っているなんて考えもしなかった当時2歳の俺。スピリタスの瓶をしげしげと見ていた俺は、きっとスーパーの店員のおばちゃんに怪訝な目で見られていたことだろう。

酒が買えるようになった成人後、何本か買って、それをイタズラに使ったことが懐かしい。アスマとの修行後に水筒に入れ替えたスピリタスを渡すと、修行後で喉が渇いていたらしいアスマは、今のマダラのようにグイッと飲んでくれた。その後の流れは面白みもないもの。そう、怒ったアスマの奴は刃物を持って切りかかって来やがったんだ。その時にアオバを囮にして逃げたのが懐かしい。

コメカミに青筋を立てるマダラ。昔のアスマと同じ表情だ。

しかし、そんなマダラの表情を一瞬で変える人物が現れた。

 

「マダラ…待たせたなァ。」

「イヤ…。」

 

マダラは座り込む。

 

「気分が悪い。少し待て、柱間。」

「今です!初代様!ボコボコにしてやってください!」

「ヨロイ、貴様ァ…。」

 

マダラが俺を睨みつけるが、酔っ払いの戯言は聞き流すのが一番だ。

 

「ヨロイとか言ったの?」

 

柱間の冷静な声が響いた。

 

「はい。」

「それはできん。」

「今がチャンスなんですけど?」

「それは分かっている。だが、マダラにそのような卑怯な手は使いたくない。マダラのことはオレに任せてくれ。マダラと話し、なぜマダラがこのようなことを起こしたのか知りたいのだ。」

「話しても無駄だと思いますけど。」

「それでもだ。可能性が少しでもあるなら諦めたくない。」

 

頑固そうだな。

柱間についての詳細なプロファイリングはしていないが、多くの人たちを見てきた俺の観察眼はそう間違っていないだろう。そして、このような人物には“言葉”が通じ難い。やっても皮肉などは通じず無駄なばかりか、琴線に触れた瞬間、何の前触れもなく攻撃を行うタイプだ。

ここで俺が取れる手段は少ない。そう判断した俺はマーキング付きのクナイを地面に突き刺す。

そして、マダラに背を向け、印を組む。

 

「では、マダラは初代様にお任せします。その代わり、キチンと止めて置いてくださいね。」

「ああ、勿論だ。」

 

飛雷神の術で飛び、森の中に移動する。木の上を移動する長門とイタチの背中が目に飛び込んできた。

 

「イタチ、ヨロイが来たようだ。」

 

呟く長門。イタチは少し首を傾け、俺の姿を捉えた後、シカクさんに呼びかける。

 

「シカクさん。ヨロイさんです。」

 

本部の人員を引き連れ、先頭で走るシカクさんはイタチの声に反応し、すぐに振り向いた。

 

「ヨロイか!今の戦況は?」

 

俺の姿を認めたシカクさんがすぐに反応した。木の上から地面に降り立つ。シカクさんに付き従っていた本部の人たちもすぐさま後に続く。彼らの前に俺も降り立ち、口を開く。

 

「オビト、マダラ、そして十尾を分断することに成功しました。」

「なら……。」

「今が攻め時です。セオリー通りではないですが、直接、戦場に向かった方がいいでしょう。」

「そうか。」

 

司令官は前線に出てはいけない。戦場で最も危険なことは混乱だ。そして、混乱を収めるために一番有効なことが、立場が上の者が音頭を取ること。

つまり、混乱を避けるために司令官は自らの身を守り、守らせ最後まで指揮を執り続けなければならない。リスクを回避するためにも、戦場の状況が分かるようにしてできるだけ遠く離れた場所にいるべきである。

しかし、士気を上げるためには司令官が近くにいると兵に知らしめ、兵を安心させて、更に評価がされるという状況が必要だ。意志決定の最高機関である五影がいない今は全権を任せられたシカクさんが戦場にいることでその効果を発揮できる。

俺は五影と共に最上位の椅子に座っているが、新興で規模が小さい里の長でしかない。そんな俺からの評価に説得力があるかと言えば、ないと答える者が多いと予測できる。こういう時は大国火の国木ノ葉隠れの里のネームバリューが役に立つ。

そして、シカクさんもそのことは重々承知している。

 

「皆、行くぞ!」

 

木ノ葉の重役であるシカクさんは、すぐに決断を下して本部に居た人員を俺の近くに呼び寄せる。

 

「では、捕まってください。飛雷神の術で戦場へと向かいます。」

 

飛雷神の術は術者に対象が直接、又は、間接的にでも触れていたら時空間移動ができる。俺の目の前には、いい歳した大人が電車ごっこみたいになっているが、その表情は至って真面目。それを間近で見てなお、ポーカーフェイスを貫いた俺にはアカデミー主演男優賞ものだと思う。

時空間移動し、合流する前に足元に突き刺したクナイの場所まで戻ってくる。周りの状況を掴むため、顔をあちらこちらに向けるシカクさんの表情が硬くなる。

 

「ヨロイ、マダラはなぜ動かない?」

「んーと……ちょっと気分が悪いようですので、初代火影様に任せました。」

「また何か下らないことをしたのか。」

「……。そんなことより、今は……」

「マダラは初代様が止めてくれるとすると、十尾が先決か。……皆、行くぞ!散ッ!」

 

四赤陽陣に初代火影が開いた穴から本部の人員の多くが結界の中へと飛び込んでいく。必要最低限な人員、シカクさん、いのいちさん、青さんはマダラと柱間の闘いに巻き込まれないようにとこの場から素早く離れていった。

クシナさん以外の五人も呼ぶか。

頭の中で考えを出した瞬間、側で五つの音がした。

 

「弥彦?小南?自来也先生?」

「久しぶりだな、長門。おっと、感動の再会は全部が終わってからにしよう。」

「…そうだな、弥彦。でも、小南は…。すまない。それに、先生は……。」

「そう自分を責めないで、長門。私が死んだのはアナタのせいじゃない。マダラ、いえ、うちはオビトが原因。だから、アナタは悪くない。」

「小南……。」

「お前が出した答えは変わったようだのォ。今はワシらと同じ考えだろう?なら、共に歩むのが師弟というものだ。」

「先生……。」

「行こう、長門。」

「ああ、弥彦。」

 

顔を綻ばせ、自来也様、それに、弥彦と小南と共に駆け出す長門。犬耳カチューシャをつけてやりたいぐらいのやり取りだった。戦争の時に彼らと別れたチビがきっと長門に乗り移っていたに違いない。

 

「私たちも行くよ、シスイ。」

「分かりました。オレがサポートに回ります。」

「お願い。」

 

橙ツチとシスイも駆け出した。

ペイン六道たちが十尾へと向かっていくのを見送って、マダラの方を確認する。

マダラの体調が落ち着いたのか、マダラと柱間は昔話をしながら、そして、拳と拳をぶつけ合いながら遠くの方へと駆けていった。

この場に残ったのは俺だけ。ボッチノコー。俺を置いていく奴らとかマジ、ゴートゥーヘールッしちゃいたい。1秒間に10回、レ○プって言おうとして舌を噛んじゃえばいいのに。僕がしたかったのはこんなバンドじゃないんだ、バンドじゃないけど。そう……膝を抱えてソファに座ってチョコレートを齧りながら一人でチェスをしておきたい。

と、思いきや……。

後ろからジャリという着地音がした。

 

「やっと私の出番ね!」

 

ウズウズしている声が夜の帳に響く。

 

「油断するんじゃねーぞ。」

「誰に言ってんのよ。」

 

ニヤリと笑みをこちらに向けたアンコは次の瞬間、瞬身の術で結界の中へと飛び込んでいった。

 

「あら、あの子ったら先走っちゃって。随分と鬱憤が貯まっていたみたいね。あんな状態のアンコをアナタが止めないのは珍しいわね。」

「いつの話をしているんですか?アイツはもう特別上忍。立派な忍ですよ。そう易々とやられません。それに、ここ最近は捜索と監視の任務でしたからね。十尾の分裂体を生贄にガス抜きをして置かないと絡まれるし……。」

「あら、それは大変ね。」

「大変さが分かっていないッスよね?ストレスが貯まるとアイツは俺を自棄酒に付き合わせながら、これでもかというほど甘いもんを食べさせてくるんですよ。数時間経てば、甘いもんが悪魔に見えてきます。しかも、断ったら子どもみたいに泣くし。発泡酒とみたらし団子の合わなさはこっちが泣きたくなるほど酷いって知らないですよね?」

「惚気話はいらないわ。」

 

バッサリと切られた。やっぱり嫌いだ、この人。

一度、頭を振り気持ちを切り替える。

 

「イタチ、封印を解け。」

「分かりました。」

 

イタチはチャクラを全身から放出し、自らの周りにそのチャクラを固める。須佐能乎を作り上げたイタチは、須佐能乎の手に神器、十拳剣を握らせた。

霊剣、十拳剣。突き刺したものを封印する霊剣であり、輪廻眼所持者と言えど、封印されてしまえば自力で抜け出すことは不可能だ。十拳剣の所有者であるイタチが封印を解かない限りは。

ズルリと霊剣から抜け出してくるもう一人の彼を見ながら、つくづく悪運の強い人だなと思う。

 

「随分と寝過ごしたようね。」

「そうですね。」

 

自来也様、そして、シスイ、準備を。

頭の中で戦場の二人に呼びかける。

 

「あら、そっちの私は……アンコに仕込んでいた私の仙術チャクラね。」

「もう20年近くになるかしら。アナタが私をアンコの中に埋めてから。」

「そうなるわね。……昔話はいいでしょ?どうせ私の中に戻れば知識は共有されるしね。」

「フフ。影分身でもない自分自身と話すのは中々おもしろい経験じゃないかしら?」

「ゆっくり時間が取れるならアナタの意見に全面的に賛成するのだけど、今はそれどころじゃないでしょ?」

「あら、封印されている間にせっかちになったのね。もう少しおしゃべりがしたかったのだけど…。」

「同じ気持ちよ。まぁ、同一人物だから当たり前なのかもしれないけど。」

 

イタチの十拳剣から抜け出してきたオリジナルの大蛇丸様は目の前に立つ自分自身に手を差し出す。もう一人の大蛇丸様は躊躇わずに、それを取る。

と、吸い取られるようにアンコから出てきた大蛇丸様の姿が消えた。

 

「ククク……面白いじゃない。」

 

ニヤリと笑う大蛇丸様。

 

「ヨロイ、自来也を呼び寄せなさい。」

「はい。」

 

一瞬だった。

大蛇丸様の瞳孔が少し丸くなる。と、煙を立てて自来也様が隣に現れた。地面に少しだけ立った土煙を見て、俺は全てを理解する。

目線を上げ、後方に視線を向ける。

 

「何か用かのォ、大蛇丸?」

「久しぶりの再会だというのに随分と冷たいのね、自来也。」

「そりゃ、そうだ。お前がしたことは許されんこと。とはいえ、世界を救うためにワシらに協力するというなら、話は別だがのォ。」

「無限月読とやらは認められないわ。アナタたちに協力してあげる。その証拠に……。」

 

空から影が降ってきた。

 

「大蛇丸?自来也?お前たち……何で?」

「助っ人ですよ、綱手様。」

 

綱手様の後ろに他の五影たちも次々と降り立った。五影を代表して綱手様が俺に目を合わせる。

 

「……お前の仕業か、ヨロイ。それに、自来也の眼も、か?」

「はい。俺の輪廻眼の力を分けたせいです。」

「戦争が終わったら覚えていろ。道徳をしっかり教えてやる。……だが、今だけは感謝する。」

 

綱手様は俺たちの横を通り抜け、前に出る。綱手様に続いて、大蛇丸様と自来也様も五代目火影に続く。

 

「二人とも!腕は鈍っていないだろうな?」

「愚問よ、綱手。」

「ワシを誰だと思っておる?当然、鈍ってなどおらん。」

「フン。」

 

綱手様は顔を二人に向けると、少し笑顔を溢す。

 

「なら、行くぞ!今度は奴らに“木ノ葉の三忍”の力を見せてやる!」

 

そう言って、綱手様は大きく笑った。

 


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