一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@99 繋がれるもの

先ほど上に投げた巻物を右手で受け取る。それを合図として、呼び出した穢土転生の忍たちが散開していった。

流石は自来也様。俺の行動を読んで穢土転生組に伝えてくれていた。

穢土転生に呼び出す前に、俺のペイン六道の一人である自来也様が穢土転生組と短い時間ではあるが、予め面談をしている。その面談で、状況の説明と協力してくれるかどうかを見極めてくれた。また、実力はありながらも協力してくれないであろう人物はこちらでコントロールしている。“暁”だったサソリ、デイダラ、角都。そして、殺戮が大好きな栗霰串丸や無梨甚八などは説得するよりこちらでコントロールした方が早いと判断してだ。

外道の術で繋がっている俺のペイン六道との情報共有は他の追随を許さないほど完成されている。傍受や妨害は俺が作り出すチャクラ受信機を用意しないとできない上に、情報はほぼ同時に同期させることができ、チャクラの送受信には音隠れが開発した電波塔を利用しているので距離の問題も解消されている。

今回はその特徴をフルに活かし、素早く、そして、正確に情報をやり取りした。

 

「さぁて、どうする?マダラ、そして、オビト?」

「なるほど。うちは一族でオレたちの動揺を誘おうというのか。……だが、無意味な行動だぞ、それは。」

 

マダラが心底おもしろくないという表情を浮かべる。

 

「先に約束を破ったのはオレだ。うちは一族を見限ったのはオレだ。だから、もう一族に思い入れはない。そして、オレが復活するまで“マダラ”だったオビトもまた…。」

 

存外、冷静だ。何も動揺を誘えていない、か。少し当てが外れたが、うちは一族の皆さまは戦力として見込める人たち。ちょちょいと万華鏡写輪眼を開眼させたので十尾の分裂体が相手でもかなり優位に立ち回れることだろう。問題は何もない。

それに、オビトに対しては動揺を誘える“者”を持っている。

後ろから足音がした。いいタイミングだよ。

 

「……リン?」

 

オビトがその眼に昔と変わったリンの姿を写す。穢土転生の設定を弄って俺たちと同年代に成長したリンが声を発する。

 

「うん。久しぶりだね、オビト。それに、カカシ。」

「そうか!ヨロイの穢土転生で。」

 

オビトはギリッと歯を噛みしめる。

 

「ヨロイ!貴様はどこまで!リンの穢土転生を弄ったのか!?」

「ごめんな、オビト。やっぱり、死んだ時のリンの姿の方が良かったか?ほら、お前、ロリ系の女の子が好きだっただろ?」

「黙れ!……なぜ、リンを生き返らせたんだ!?」

「それは…」

「私から説明する。いいでしょ?ヨロイ。」

 

俺より前に出たリンは少し振り返り、俺に尋ねる。元より、リンに説得させるつもりだった。頷くと、リンはオビトに向き直る。

 

「私はオビトを止めるために生き返ったの。オビトが一人にならないように。迎えに来るのが遅れたけど、まだ間に合うよ。だから、オビト。いっしょに帰ろう?」

「オレは……オレは帰ることはない。帰る場所もない。」

「そんなことないよ。」

「そして、オレの中のリンはオレと共に夢の世界に行くべき存在。だから、オレは引き返せない。」

「そんなことないよ!オビトは世界を救うんでしょ?なら…」

「そう、オレは世界を救う。無限の月読の中で世界を一つにして救う。そして、その中にはお前たちもいるんだ。だから、もう何もするな。」

「そんなことできない!オビト、アナタは間違っている。この世界は…」

 

右手を後ろに回し、オビトに見えないように手首を軽く振る。

 

「こんな世界はどうでもいいんだよ。リンは死んだ。リンをオレの手に取り戻すためには無限月読しかない。穢土転生で蘇ったお前はリンの偽物だ。」

「偽物なんかじゃッ!?」

 

リンの声が上擦る。少し笑みを浮かべ、オビトを見上げる。

 

「リン?……お前、リンに何をしてるんだ!ヨロイ!」

 

オビトの目の前で黒刀をリンに突き刺す。

 

「いやね。偽物って言ったからいらないと思ったんだ。けど、偽物に執着するのはどういうことかな?」

「それは…」

「そう、お前はリンに、そして、この世界に思い入れがあるってことだよ。今なら間に合う。お前はマダラに利用されただけだ。だから、忍連合軍の中で発言力を持つ俺が恩赦をお前に出そう。隣のマダラを殺せ。そうしたら、ここにいるリンをお前にやる。」

 

リンの背中から黒刀を引き抜く。倒れるリンをオビトは見つめていた。

 

「オビト。奴の甘言に乗り、オレを裏切るのか?それとも、本物のリンを取り戻すために無限月読を、夢の世界を取り戻すのか?どちらだ?」

「オビト、夢の世界への行き方なら俺が教えてやる。まず、電車で舞浜駅まで行く。その後、バスに乗り換えて…」

「黙れ!二人ともだ!オレはオレ自身で夢の世界を作り出す!そして、全てを手に入れる!」

 

オビトが手を上げる。それと同時に十尾の尾が上がっていく。誘導は完了した。瞳術を使うまでもなかったな。プランAへの外堀を完全に埋めることができたし、後はオビトが十尾の人柱力になるのを待つだけだ。おっと、言い忘れていた。

 

「オビト、最後に一ついいか?」

「何だ?」

「あのさ……アカデミーの時……リンの縦笛、盗んだのお前だろ?」

「貴様はもう口を開くな!木遁 挿し木の術!」

 

ブチ切れたオビトは十尾の尾から木の雨を降らせる。

 

「お前はホント何しちゃってるの!?」

「カカシ。シリアスは俺には似合わない。だろ?」

「だろ?じゃないでしょ、全く!」

「カカシ。ヨロイはこんな人だから諦めて。」

 

復活したリンがカカシに笑いかける。

 

「リン…。そうだな。ヨロイの行動より今は目の前に集中するべきか。黄ツチさん、山土の術で十尾の動きを止めてください!」

「分かっている!だが、もう少し時間が掛かる!」

「それまで時間を私とヨロイが稼ぎます!ヨロイ!」

「了解。神羅天征。」

 

俺たちの方向に飛んできていたいくつもの挿し木の術で発生した木を吹き飛ばす。だが、木は次々と降ってくる。

 

「水遁 水陣柱。水遁 水陣壁。」

 

地面から水陣柱で噴出させた水を使い、水陣壁で水の壁を作り出す。

 

「ウオオオオ!」

 

雄叫びと共に黄ツチさんが山土の術で発動させる。

 

「今だァ!」

 

次々と十尾に忍たちは向かうが、途中でその足を止めた。十尾が山土の術でできた土壁を崩したからだ。

 

「仲間は殺させないんじゃなかったのか?ナルト!」

 

ナルトの方に目を向けると、ナルトが一人の忍を抱きかかえているのが目に入った。

 

「『仲間は絶対、殺させやしない』と言ったお前のその言葉…さあ…辺りを見て…もう一度言ってみろ。」

 

ナルトの表情が絶望に染まっていく。

 

「もう一度言ってみろと言っているんだ!…冷たくなっていく仲間に触れながら実感しろ…死を!」

 

ネジが死んだ。戦争では仲間が死ぬことはよくあること。ナルトはそのことが分かっていなかっただけだ。そして、その仲間の死を利用するということができない人間。眩しいね。

ナルトの成長のためにネジを見殺しにした俺にはネジの死で自責の念に震えているナルトが眩しくて仕方ない。そして、ナルトの頬を叩き、ナルトを真っ直ぐ覗き込むヒナタもまた…。

 

「これからコレが続く。お前の軽い言葉も理念も偽りになる。理想や希望を語った結果がコレだ。これが現実なんだ。…ナルト、この現実に何がある!?父も母もいない。師の自来也も…。そして、お前が対立する限り、これから仲間もそうやって次々いなくなる。お前を認める者が存在しない世界だ。」

 

カカシが小声で呟く。

 

「オビト…。」

 

その言葉は風に消えた。

 

「その先に待っているのは、お前もよく知る最も恐ろしい……孤独だ!現実に居る必要がどこにある?いい加減、こっちへ来い!ナルト!」

 

ナルトに向かって手を伸ばす。その手はナルトの頬を叩いた。ナルトの目が据わる。

 

「さっき…ネジ兄さんが言った“ナルトくんの命は一つじゃない”って意味……分かる?」

 

ヒナタはナルトの目に自分の目を合わせる。

 

「仲間は絶対、殺させない。その言葉も信念も偽りじゃない。それを胸にちゃんとやってのけたの……ネジ兄さんは。」

「……。」

「ナルトくんだけじゃない。皆がそうやってその言葉、想いと同じものを胸にお互いに命を繋ぎ合ってる。……だから仲間なの。その言葉と想いを皆が諦め、棄ててしまったら、ネジ兄さんのしたことも無駄になる。それこそ、本当に仲間を殺すことになる、もう仲間じゃなくなってしまう。そう思うの。」

 

ヒナタはナルトに微笑む。

 

「だから、私と一緒に立とう、ナルトくん。まっすぐ、自分の言葉は曲げない…私もそれが忍道だから!」

「ヒナタ、ありがとう!…お前がオレの横にいてくれたおかげだ!」

 

ヒナタの手を引いてナルトは立ち上がる。

 

「行くぞ、ヒナタ!」

「う…うん!」

 

チャクラの衣を纏うナルト。ああ、それでこそ“ナルト”だ。

黄色に光るナルトの姿を目に収め、笑みを浮かべる。

もうすぐだ。後、少しで手に入る。

早く来い……サスケ。

 


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