一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

10 / 122
@9 誇り低き失敗者

木々の間を音もなくすり抜け、監視対象を上手く見ることのできる位置に陣取る。もし、失敗したら命はない。いつも以上に慎重に、そして、細心の注意を払いながら腹這いになって進む。目を上げ、俺の前の白髪の大柄な男を見る。

 

「ぐへへ。」

 

何やら危ない声を出している怖い人だ。まるでドスケベにしか見えない。

 

「そんな笑い方してると綱手様に見つかりますよ、自来也様。」

 

大蛇丸様の勧めで、皆大好きエロ仙人こと自来也様に透遁術の修業をつけて貰ってるんだけど、命を賭けた修業法なんて聞いてない!もし、バレたら社会的な地位どころか体がバラされる危険性もある。怖い。

 

「お前はまだまだだのォ。あえて声を出すことで興奮を高める。それが覗…忍の極意なんだのォ。」

「毛も生えていない子どもに覗きの極意とか言われても正直ピンと来ないと思うんですけども…無視ですか?」

 

自来也様の透遁術は超一流。あのプライドの高い大蛇丸様が自分より上と認めただけはある。素晴らしい。けど、興奮するとその透遁術のレベルが下がるのは難点だなぁ。透遁術のレベルが下がったらすぐに綱手様に、あ!おっぱい揺れた。

 

「ぐへへ。」

「ぐへへ。」

 

突然、綱手様がタオルを巻き始めた。それまで、素っ裸で堂々としていたのにも関わらず、だ。そして、何の準備運動だろうか?屈伸を始めた。

 

「ああっ!」

 

自来也様が残念そうな声を上げる。

 

「ふむ。だが、濡れた体に張り付くタオルでボディラインが浮き出とる。これはこれでアリだのォ。しかも、そのまま屈伸するとはヒップが誘ってるようにしか見えん!随分とけしからん体だのォ!」

 

一転、気色に塗れた声を上げる。

 

「む、ヨロイ。目を隠すとはまだまだガキだのォ。大蛇丸の秘蔵っ子というのに情けないのォ。」

 

最後、いや、最期になるかもしれない。

自来也様は両手で目を覆い隠した俺に向かって疑問に溢れた声を上げる。小さい声が自来也様の声を掻き消した。小さくてもそれは聞く者を皆、恐怖に陥れる正に大魔王のごとき声だった。

 

「遺言はそれでいいんだな?自来也。」

「つつつ綱手!?」

 

温泉地から500m離れていたハズなのに、自来也様の一瞬の隙を見て瞬身の術で背後に回るとは…。流石、三忍。

ちなみに、俺が目を両手で覆った理由は綱手様が準備運動をしていたことから、まず間違いなく覗きに来ていた自来也様を痛めつける前準備をしていたと予測したからだ。そして、俺は目を隠すことで自来也様に無理やり連れてこられたって感じを出し、覗きなんてしてませんよアピールをしたわけだ。

 

「こ、これは新作の取材で、決して覗きではなく、純粋に芸術作品を高めるためのプロセスであってのォ。」

「問答無用ォ!」

 

綱手様の右フックが自来也様の腹に突き刺さった。ミシッと嫌な音が一瞬した後、自来也様の体が木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく。いや、ありえないよ。自来也様は両腕で完璧にガードしていたのに全然意味をなしていない。

 

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

おれは 奴の裸を覗いていたと思ったら いつのまにか隣にいたハズの師匠の体が吹き飛んだ

な… 何を言っているのか わからねーと思うが おれも 何をされたのか わからなかった…

頭がどうにかなりそうだった… パンチだとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

 

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

 

綱手様がギンッと俺を睨む。怖い。

どのぐらい怖いかと言うとおちょくり過ぎた後の大蛇丸様よりも、言葉攻めで泣かした後の六道仙人よりも怖い。

 

「ヨロイ。あの変態からにはもう近づくなよ。」

 

綱手様の迫力のある御言葉に誰が逆らえようか、いや、逆らえない。首をものっそい速く上下に振る。

 

「いい子だ。」

 

ニッと笑顔を俺に向ける綱手様はむちゃくちゃかわいかった。なんというか二十代後半の笑顔じゃなくて、天真爛漫な少女が浮かべる笑顔。ちくしょう、故ダンさんはもし生きていたら、むちゃくちゃいい嫁さんを貰っていた訳か。もったいない。

…『故』?亡くなってしまわれた方を呼ぶ時に使う言葉である。亡くなる。死ぬ。

…死にかける。

 

「あ!」

「どうした、ヨロイ?」

「あの、非常に言いにくいことなのですが…。」

「何だ?急に改まって。」

「その…自来也様のことなのですが。」

「知らん!あのバカのことは放って置け!」

「ひぅっ!申し訳ありません。」

 

綱手様の人の上に立つ者のオーラがパネェ。流石、五代目火影になるお方だ。思わずシズネみたいな話し方になってしまった。そんな今にもおしっこをチビリそうな俺に背を向け、温泉地の方向に歩き出した綱手様が呟いた。

 

「わかっていると思うが…すぐにここから離れろ。もし、お前がまだ覗き足りないと言うなら…。」

 

俺に背を向けたまま綱手様は拳を握りしめ、ボキボキっと手の骨を鳴らす。

 

「いくら三歳児といっても容赦はせん。」

「はい、かしこまりました!」

 

去っていく綱手様の後ろ姿に敬礼をしてみせる。今の脅しで『綱手様のタオル姿ヤベェ。眼福眼福』という煩悩は一瞬で消え失せた。綱手様の御姿を見送り後姿が完全に見えなくなった所で走り出す。…死んでないよな、自来也様。

俺が現場についた時そこは血溜まりができて…いなかった。少しがっかりする。

 

「思ったより元気そうですね、自来也様。」

「だれがごふっ。元気そうだがふ。と言っておるのかのォ?ごふっ。」

 

一言一言を振り絞るように言葉を紡ぐ自来也様。よくよく見てみるとその顔はかなり青白い。まるで怪我人だ。

 

「は、早く医者を…。じぬ。」

「大丈夫ですか!?」

 

かなり苦しそうだ。状況からして、アバラが折れているのかもしれない。下手したら内臓が破裂している可能性もある。一刻の猶予もないとはこのことだ。

 

「少し待っててください。すぐに医者を呼んできます!」

 

振り返り、街に向かって走り始めたと思ったら顔から何かにぶつかった。鼻を擦りながら見上げると、そこには金髪の美丈夫がいた。

 

「ミナト先生!」

「ヨロイ!自来也先生は一体誰にやられたんだい?自来也先生をここまで追い込むなんて只者じゃない。」

 

油断なく辺りを見渡すこの男は『波風ミナト』。爽やかイケメンだ。声もまた、とてつもなく甘く、世が世なら全てを自由に「選べる」権利を持つというチート級の能力の持ち主であり、黒髪の癖毛で容姿端麗のタレ目、その左目の下に泣きぼくろがあるイケメンに違いない!ちなみに、俺がミナト先生の班員であるオビトと仲良くしていたら、いつの間にか仲良くなったという訳だ。俺が一人暮らしと知ったミナト先生に家に呼んでもらって飯を食べさせて貰ったのはいい思い出だ。

と、ミナト先生について語ってきたがそれは置いといて…。

 

「いや、これやったの綱手様っスよ。」

「…そういうことか…。」

「ええ。覗きがバレて思いっ切り殴られてました。」

 

ミナト先生が頭を抱える。

 

「先生!だから、あれほど…。」

「仕方ないだろう。あれほどの乳。…覗かずにはいられないのォ。のォ?」

 

血反吐を吐きながらも全くブレない自来也様。その他とは比べようもないドスケベを見るミナト先生の目が冷たい。

 

「先生。同意を求められても困ります。」

「そうですよ。ミナト先生にはクシナさんがいるんですから。」

「ははは。」

 

頭を掻いて照れ隠しをするミナト先生。イケメンは何をしても様になる。ちくしょう。

 

「ねぇ、自来也様。ミナトのヤロー、女ができたからってチョーシ乗ってません?」

「それだ!初恋の女を手籠めにするとはなんという純情ヤローだのォ!この○○!覗きの一つでもしてきたらお前を一人前の男として認めてやる!さぁ、覗きに行け!」

 

伝説の三忍と謳われる自来也様ですが、言葉と性格に難有りですので発言の一部を私の口笛に代えさせて放送させて頂きます。視聴者の皆様にはご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません。

そして、ミナト先生もさーません。いや、冗談ですんでそんな厳しい顔で俺を見ないで欲しいんですけども…。

 

「…。ヨロイ、君はどっちの味方なんだい?」

「んー、どっちかと言えば弱い者の味方ですね。自来也様は虫の息の上に、ミナト先生にルックス、性格、忍としての器、全て負けてるような気がするんで。」

「ヨロイィイイイ!ぐはっ!」

 

自来也様が再び血反吐を撒き散らしながら地面に沈み込む。汚い。

 

「ふぅ。流石に自来也様でもこれは危ないな。俺は一旦、里に戻るけど、ヨロイ…君はどうする?」

「あ、俺もいっしょにお願いします。ここでモタモタしてると綱手様に殺されかねないんで。」

「はは、そうだね。さぁ、俺に掴まって。」

「ういっす。」

 

俺が裾を掴んでいるのを確認してミナト先生はとうとう気絶してしまった自来也様の体に手を当てる。と、一瞬で周りの景色が変わった。見慣れた木の葉病院だ。こんな所にまで飛雷神の術のマーキングを付けているなんて。風邪を引いた時とか超便利じゃん。

 

「やっぱ速いですね。」

 

自来也様を病院に預けて俺とミナト先生は外に出る。自来也様を連れてきた時は大騒ぎになった。あの三忍の自来也様が大怪我を負って里に帰ってきたという一大スキャンダルが落ち着くまでには時間は大してかからなかった。誰にやられたのかを説明したら里の人たちは皆、いつもの事だと納得したようだ。病院の近くにある甘味処でミナト先生に和菓子を奢って貰った時には、もう噂は掻き消えていた。

 

「そういえば、ミナト先生。飛雷神の術を今度教えてくれません?」

「飛雷神の術を?けど、この術は君にはまだ早いと思うな。上忍レベルの忍でも扱い切ることのできる忍は稀だよ。」

「そこはまぁ、大蛇丸様や綱手様に修業を付けて貰ったりしたら後々上がっていくと思うんで大丈夫なハズです。それに術の理論を知っていれば反復練習もできるでしょうしね。」

「ん。それならいいか。…いいかい?この術は超高等忍術レベルの更に上を行く会得難易度Sの術だ。時空間忍術の一つで…術の説明は演習場に行ってからしようか。まずは腹ごしらえをしてからね。」

「ういっす!」

 

こうして、ミナト先生にも修業を付けて貰えるようになった。その修業中、ミナト先生に螺旋丸を教えられたものの、会得難易度Aの螺旋丸すらできるまでに5年の歳月が掛かった。先に習得した自来也様のドヤ顔に悩まされたのは今となっては昔のことだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。