それではどうぞ
「ちょ、ちょっと待ってください!場所過ぎてますって」
「ちっ、言うのが遅いんだよ。殺されたいのか」
たく、人間の扱いはどうも俺には無理みたいだな。
「あなたといたらこの短い寿命ももっと縮みそうですよ。リコスがいるのはあの真ん中の窓です」
「わかった。じゃあ先お前いってろ」
「え?」
俺はチャクロという少年の体を持ち上げ、その窓の方へ、投げけた。
「うわっ、うわああああ!!」
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「え?」
先に言ってろって、もしかして登り方がわからないということなのかな?
チャクロは一瞬そう思った。
突然、体を掴まれ持ち上げられた。突然起きたことにチャクロはその場の状況が理解できなかった。
キャスファーという男は少し後ろに下がると、その距離で助走をつけ、窓の方へチャクロを投げた。
「うわっ、うわああああ」
突然のことに叫び声しかでなかったチャクロはそのままリコスの部屋へと入っていき窓枠の縁に頭が当たった。
「痛っつ…」
「チャクロ…?」
突然何の前触れもなく、投げられたかのように入ってきたチャクロを見て、リコスは驚いたが、その時身体全体が熱くなり、何かが込み上げてる感覚になった。
「リコスどうしたの?」
彼女の顔には大粒の涙が流れていた。チャクロはリコスに慌てるように近づいた。
「私がいた船『リコス』はもともと…もともとファレナを襲うつもりだった…!」
リコスはチャクロのに叫ぶように今まで押さえていた感情というものを叫んだ。
「みんな何も知らなかった。ここは地獄の島だと教えられていたのよ…地獄を連れてきたのは私たちだったのに…」
「リコス、そんなに感情を出せるようになったんだね。心配しないで、俺は二度も君の心を見た。リコスを信じてる」
自分を信じる。今までかけられたことのない言葉、感情があるからこそわかる暖かさに、リコスはチャクロの胸の中でさらに涙を流した。
「おいおい、さっきの女といい、その女といい、あれなのか?お前は人間的に言うとプレイボーイというやつか」
チャクロとリコスは突然の声にその方向を見ると、そこにはあるはずのない足場があるように立つキャスファーの姿があった。
「キャスファー!?」
「おいおいどうしたんだよそんな驚いてよ」
「キャスファー?」
「それじゃ邪魔するぞ少女」
「キャスファーどうやって…」
「足場を自分で作ったんだよ。それより…」
俺は少年の両頬を両手で広げた
「急いでるって自分で言っておいてどれだけ待たせるんだ」
「痛いです…!!それにそこまで時間たって…痛い痛い!」
「俺に口答えするのか少年、殺すぞ」
「チャクロこの人…はだ…れ?」
身体が…震えてる?
あの目、あの瞳…この人、命を奪ったことがある人だ。それも何千、何万、私が思っている以上に殺している。この感じ、昔を思い出す、『恐怖』という感情だ。
「リコス、リコスどうしたの!?」
「なるほど少女、人を殺したことがある目をしているな。その震えはお前が感じているとおり『恐怖』だ。それ以上、それ以下でもない。戦う上での本能がそうさせてるんだろう。俺も何人かは同じ光景を見たことがある」
「あなたは…誰なの?」
「俺はキャスファー、世界の外からきた存在だと思っていい」
外の世界?でも私が見たところ彼のような人物は必ずどこかの戦場で戦っているはず、なのに名前も容姿も記憶にない。
「少年、早く用件を済ませて次いくぞ」
「あ、えっとリコス、実は協力してほしいんだ。泥クジラはもっと大変なことになってるんだ。このままじゃみんな砂の海に沈んじゃう」
「!」
ここが沈む?もしかしてここの人達、ヌースを殺す気でいるの?
「これで変装して」
チャクロはリコスに上着を渡した。
「用件はすんだな。次は何処へいくんだ?」
「多分…この船を沈める方法…私…わかるかも知れない」
「えっ?」
「長老会の人が隠している場所…誰も立ち入ったことのない場所が泥クジラにはない?」
「………」
チャクロは少し考えると、まるで閃いたような雰囲気でその場所を言った。
「『胎内エリア』だ!地下だよ。一部は牢獄として使ってるけど…他は誰も入れない秘密の空間があるんだって」
「話は済んだみたいだな。それでその胎内エリアという所にいくんだな?」
「あなたも行くんですか?」
「悪いか?確かに今余所者の俺がうろつくと騒ぎになるが、それはお前もそうだろ?」
「でも…あなたはここにいる僕達以外、泥クジラで知っている人がほとんどいません」
「私は数日前に来たばかりですが、それでも顔は知られていると思います」
私は真剣にその人ではない、黒々とした冷たい目をした生物を。
「わかった。ただ、顔は隠せても、この身体の大きさは隠せん。他に会う奴がいるのならすぐに説明しろ」
「わかった。リコス、キャスファーいこう!」
「マソウさん!ネズ、ロウ!」
「ああ、チャクロ」
僕たち三人は、胎内エリアに移動している途中で、泥クジラを沈めないために協力者を探していた。
「ほらこれ狩りの武器。メンテナンスしてんだよ。次あいつらが来たら…ってチャクロ。また、あの島から来たお嬢ちゃん連れてるじゃないか!それに、その顔を隠してる奴、お前誰だ?ここの船の奴じゃねぇな!!」
マソウは手入れしてあった弓を持ち、キャスファーに照準を合わせた。
「待って!!その人は前に来た軍隊の人じゃない!」
「じゃあ誰なんだ。チャクロ。そっちの女の子の方のは知っているが、そっちの男はもしかしたら前来た奴らの仲間かもしれないんだぞ!」
「それは…」
ネズ、ロウも真剣な眼差しでチャクロを見た。
確かに、この人があの軍隊の人ではないという確証はない。むしろあの軍隊の中にいたと考えた方が妥当だ。でも、さっきギンシュを襲ったあの力、サイミアを使ってなかった。
「この人は、私たちの軍の人ではありません…!この人の力はサイミアを使っていませんでした。それに、ここの人と同じように感情があります。感情がある兵は私たちの軍隊ではかなり上の立場の人間です。ですが、私はこの人を見たことがありません」
「と言われてもな、俺たちはまだあんたを信用できているわけじゃない。まだ俺たちはあの軍隊が俺たちにしたことがそうさせているんだ」
いまだ癒えぬ心を抱えている彼らにとって、今の状況でのその者の来訪は望まないものだった。しかしチャクロは信じていた。リコスの言葉には嘘がない、そう信じて。
「でも…俺たちはチャクロのダチだろ?チャクロが困っていたら俺たちが助ける。そうだろ?」
「そうだな。そうだったな」
「たく、それでお前名前は?」
「俺は、ccs-fa呼びづらいならキャスファーでいい。それより少年言うことがあるんだろ?」
キャスファーの一言で目的を思い出したチャクロは、三人に泥クジラが今置かれている状況などを短く話した。
「ちょっと待てよ。長老会に反対するってことは、自警団とやりあわなくちゃならないってことだろ。このメンバーでなんとかできる話なのか」
「・・・」
それなら心当たりがある。でも協力してくれるかどうか、いや考えていても仕方がない。可能な限り人を集めよう。
「キチャ……オウニは?」
「・・・」
「?」
彼らの拠点としている所に着くと、膨れた顔をしてあぐらをかいた少女キチャと、欠けた壁にもたれかかったニビたちがいた。
キチャは部屋の中を膨れた顔で指差した。
「オウニ…!」
「泥クジラのみんなを助けてっ!僕たちに力を貸して下さい…!!」
人を殺し、殺され、私たちはここに立つ。どれだけ残酷であろうと、ここで死ぬことが楽であろうとも、されど僕たちは生きようと思う。この泥クジラが沈まぬ限り