初めまして。ハーメルンでは初投稿になります。君の名は。の糸守を舞台にした牙狼、空の軌跡、閃の軌跡のクロスオーバーです。ちなみにpixivの方では既に数話投稿しています。こちらにも続けて投稿していきます。

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君の名は。に雷牙、ケビン、リィンやその仲間達が登場したら…そんな事を考えて書き始めました。話の流れは君の名は。をベースにしてますが、かなり独自設定や独自解釈が入ってます。また、各原作の資料等も参考にしているためネタバレも含みます。


The Legend of Goldens 黄金伝説 ムスビの軌跡

プロローグ

 

 

熱い……痛い……苦しい……死にたくない………

 

幾百人もの負の怨念が漂う山奥の廃墟の町。かつてその町には少なからず人々が暮らしていた。だが、町の住民の三分の一、およそ数百人の命を一瞬で奪った前代未聞の災厄に見舞われ、生き残った人々も次々と町を離れ、二年も経たずして町という自治体は消滅し今では誰も人は住んではいなかった。そう、生きている人は……

 

う……ううう……………

あ……あああ……………

 

災厄から数年経った今でもその地には、数百人の犠牲者の魂が彷徨っていた。中には自分が既に死んでいる事に気付かず、何故苦しんでいるのか分からないモノもいたが、次第にそれらは負の怨念に染まり、集まって巨大な集合体になった。そして今は湖と化したその地に巨大な陰我が生まれ、時空を超えた場所にいるある存在がその強大な陰我に目を付けたのだった。

 

??「ほう……これ程強大な陰我、使わぬ手は無いな。それにこの陰我、我の力で別の時空に移せばそれだけでその地は邪気に満たされよう。それに、他の時空で見つけた興味深い者等も引き寄せれば、更なる混沌が生まれるであろう」

 

時空を超えた思惑はやがてある事態を引き起こし、別時空の世界から様々な者達がこの地に導かれる事になった。とある山奥にある田舎町、糸守町へと…

 

 

 

第一話 邂逅

 

 

??「ハアッ!フッ!ハアッ!!」

 

西洋風の豪邸の庭で、一人の青年が剣の修練をしていた。

 

??「ハアッ!ヤアァァァッ!!………ふう…」

 

そしてカチンと音を立て剣を鞘に納めた時、庭の中程にあるガーデンテーブルの方から声が聞こえてきた。

 

??「お疲れ様です雷牙様。お茶の御用意が出来ております、どうぞこちらに」

 

雷牙「ありがとう、ゴンザ。頂くよ」

 

ゴンザ「マユリ様もいかがですか?」

 

ゴンザは庭に咲いていた花を見つめていた少女にも声をかけた。

 

マユリ「ああ、貰おう」

 

雷牙と呼ばれた青年とマユリと呼ばれた少女は、お茶の用意がされたガーデンテーブルに向かい、チェアに腰掛けると、テーブルの上に置かれてあった骸骨の様な指輪が喋り始めた。

 

 

??「相変わらず性が出るな、雷牙」

 

雷牙「今は比較的ホラーの出現も少ないしね、だからこそ腕が鈍らない様にしないとね、ザルバ」

 

 

冴島雷牙。黄金騎士牙狼の称号を受け継いだ魔戒騎士であり歴代最強の黄金騎士になるかもしれないという可能性を持つ若き青年であり、その仲間である魔導輪ザルバ、雷牙の祖父の時代から冴島家の執事をしているゴンザ、そしてエイリスとの戦いの後雷牙の下に留まったマユリとここ最近は比較的平和な日々を過ごしていたのであった。だが……

 

ザルバ「ん!気を付けろ、雷牙!!」

 

雷牙「どうした、ザルバ?」

 

ザルバ「あれを見ろ!」

 

ザルバの掛け声に雷牙、マユリ、ゴンザは揃って空を見上げるとそこには時空の捻れが発生していた。

 

雷牙「なっ、アレは確かエイリスの…何故だ、エイリスは確かに倒した筈だ!」

 

マユリ「恐らく別の時空のエイリスだ。私が封じたヤツとは別のな……くっ!」

 

そしてそうこうしているうちに、時空の捻れから強力な引力が発生し雷牙達を時空の狭間に引き寄せ始めた。

 

雷牙「くっ!……ゴンザ、マユリ!俺の側を離れるな!」

 

マユリ「ああ、分かってる!」

 

ゴンザ「ら…雷牙様、マユリ様ーー!!」

 

ザルバ「こりゃまた、とんでも無い事になりそうだ…」

 

そして雷牙達は時空の狭間に引き寄せられていった。

 

 

 

西暦2013年8月30日

 

とある地方の山奥に、湖を囲む様に存在する田舎町があった。名を糸守町。人口千五百人程の小さな町であり、町のシンボルとして千数百年の歴史を持つ宮水神社がある。そしてその宮水神社の御神体は、神社から離れた龍神山の山頂にある巨大なカルデラ状の窪地の、小川に囲まれた中心に存在していた。そしてその御神体の真上に時空の捻れが発生し、中から雷牙達が飛び出て来た。雷牙はマユリとゴンザを抱えながら地面に着地し、二人は礼を言って雷牙から離れた。

 

雷牙「どこなんだろうな、ここは?ザルバ、お前は知ってる場所か?」

 

ザルバ「さあな。だがな雷牙、俺達が今いる此処は一種の聖域だな。とてつもない力を感じるぜ。まあ、だから感じからしてここは人里じゃあなさそうだな」

 

雷牙「ああ…取り敢えずあそこに上がってみようか。何か分かるかもしれないからね」

 

雷牙達は窪地の縁に向かって歩き出した。途中、小川を越える所で一瞬変な感じがしたが特に問題は無かったためそのまま進み、そして縁を登りきりそこから目にした景色に三人はそれぞれ感嘆していた。

 

雷牙「へぇ!綺麗な所だね」

 

マユリ「ゴンザ、遠くに見えるアレは湖か?」

 

ゴンザ「そのようでございますなマユリ様。それによく見ると、あの湖の周囲には人里があるみたいです」

 

ザルバ「おいお前ら、そっちも良いが後ろも見てみな!」

 

ザルバの掛け声に三人は振り返り、後ろに広がるカルデラ状の窪地を見下ろした。

 

雷牙「凄いな!あそこから見た時は分からなかったけど、こんな風になってたんだ!」

 

マユリ「ゴンザ、此処は何でこんな形をしているんだ?」

 

ゴンザ「さあ、私にはさっぱり……火山の噴火の跡でしょうか?」

 

雷牙「ザルバ、何か分かるか?」

 

ザルバ「さあな…それより雷牙、久々の仕事だぜ」

 

雷牙「何?」

 

ザルバ「何処の世界でも、人がいる限り陰我は無くならないって事だ。あの人里の方だ!」

 

雷牙「分かった!ゴンザ、マユリ、俺は一足先に向かうから後であそこで合流しよう」

 

マユリ「分かった」

 

ゴンザ「かしこまりました。どうか、お気をつけて」

 

雷牙「ああ!」

 

白の魔法衣を翻し、人里こと糸守町へ向かうため雷牙は山を駆け下り始めた。そして、遅れ馳せながらマユリとゴンザも雷牙の後を追って糸守町へ向かうため山を下り始めたのであった。

 

 

 

日が暮れ始めた頃、舗装が良くない道路を買い物袋を下げた少女が歩いていた。彼女の名は宮水三葉、高校二年の十七歳。この糸守町のシンボルでもある宮水神社の娘であり、また巫女でもある。

 

三葉「今年の夏休みも、特に何もなく終わりそうやな…」

 

三葉は常日頃からこの閉鎖的な山奥の田舎町に息苦しさを感じながら生活していた。

 

三葉(別に家族の仲が悪いとかはないんやけど……はぁ、早よ卒業して東京行きたいな……)

 

三葉の家族は祖母の一葉と父親の俊樹、妹の四葉の四人暮らしであり、母親の二葉は三葉が十歳の時に亡くなっている。その頃一時的に祖母と父親の関係が悪化した事があったが、互いに腹の内に溜め込んでいた二葉を亡くした悲しみを吐露した事でお互いの気持ちを知り、三葉と四葉の為にお互い手を取り合って二葉の分まで生きていこうと誓ったのであった。そして現在、一葉は宮水神社の宮司を。俊樹は宮水神社の神主をしながら学者としての活動を続けていた。一葉は三葉と四葉の事を大切にしているし、俊樹は仕事柄家を空ける事が多いが仲は悪くないし、町の人達からも頼りにされている。そしてそれは、宮水の名の影響力が大きく関わってるという事でもあった。

 

三葉(そう言えば市街の方で若い女性が変質者に強姦されたとかで騒ぎになっとるみたいやけど……糸守は大丈夫なんやろか……)

 

??「おや、三葉ちゃん?」

 

「!?」

 

ちょうど町の外れに差し掛かった時、三葉は背後から声を掛けられ、振り向いて声の主を確認した。

 

三葉「あ、星戸のおじさん…こんばんは」

 

星戸「ああ、こんばんは。買い物からの帰りかい?」

 

三葉「あっ…はい、そうです…」

 

星戸「やったらちょうど良かった!実はウチの畑で作った里芋がぎょうさんできてな。宮水さんとこ持って行こか思うとったんやけど、良かったら持って行ってもらってもええかい?」

 

三葉「えっ、良いんですか?」

 

星戸「ああ!ワシ一人だけじゃとても食べきれんきに。それに、三葉ちゃんも二葉さんに似て別嬪さんになったしな!」

 

三葉「あ……ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて…」

 

星戸「じゃあすまんが、ウチの畑まで取りに来てもらってもええかな」

 

三葉「はい、じゃあ…」(星戸のおじさんってもう六十を越えているの割には若々しくて何時も笑顔で人当たりもいいんやけど…なんか苦手なんよね…)

 

三葉は帰り道を外れ星戸の後に付いて行った。その時星戸の口許がニヤリと笑っていた事に三葉は気付かなかった。

 

三葉(確か星戸博さんって一月前に奥さんを亡くしてるんよね。不幸な事故だったって聞いたけど…顔を見る限りもう立ち直ったんかなぁ…)

 

星戸博の家は町の最端の外れに建っていた。この辺りは糸守の中でも特に人通りが無い所で、星戸家以外に三軒建っていたが現在はどれも空家である。そして星戸の家の隣には家の敷地の倍ほどある畑があり、そこには先程言っていた収穫した里芋が積まれており、星戸はそこで両手を広げて三葉を迎えた。

 

星戸「さあ、三葉ちゃん!ここにある物は好きなだけ持って行ってええからね!」

 

三葉「わぁ!美味しそうな里芋やさ〜!本当にありがとうございます!」

 

星戸「さあ、早くこっちに来て。私も腹が空いていてね。早いところ美味しい夕飯を食べたいんやさ……」

 

三葉「あっ、じゃあ急いでもらって行きますね!」

 

??「へえ、そんなに美味しそうな里芋なら是非俺も食べてみたいな」

 

三葉「えっ!」

 

三葉が星戸の下へ掛けていこうとした時、突然背後から声がしたので振り返ると、数メートル先に雷牙が笑顔で三葉と星戸博を見つめていた。

 

雷牙「もっとも…お前の腹を満たす美味しい夕飯とやらは要らないけどね」

 

星戸「な…なんやお前は!余所もんか!?三葉ちゃん、危ないからこっちにおいで!」

 

三葉「あ…えと……」

 

雷牙「大丈夫!確かに俺は余所者だけど………あいつよりかは危なくないからさ」

 

三葉「え?」

 

雷牙は数メートルの距離を目にも留まらぬ速さで掛けて三葉の横で止まり、言葉を交わすと先程と同じ速さで今度は星戸博の目の前まで移動した。そして…

 

カチッ……ボウッ………

 

懐から取り出したジッポライターの様な物を星戸の眼前にかざし火を点けると緑の炎が噴き出した。すると…

 

「!!」

 

星戸の眼に魔導文字と呼ばれる三葉が見た事もない字が浮かび上がった。すると先程までの星戸の様子が一変し、顔は狂気に満ちた笑みになっており、後ろに大きく跳び退いて距離を取った。

 

星戸「お前…魔戒騎士か!何故こんな山奥の田舎町にいる…」

 

雷牙「さあね、だけど………貴様らホラーを討伐するのに理由がいるのか?」

 

三葉(え…ホラー?)

 

魔戒騎士と呼ばれた青年は、鞘に納めたままの剣、魔戒剣を取り出して構えをとり、戦闘態勢に入った。

 

星戸「くそっ!もう少しで念願だった三葉ちゃんをゆっくり味わう事が出来た言うのに!」

 

三葉「えっ…な…何言ってるんよ、星戸さん…」

 

星戸「三葉ちゃん、やはり女は三葉ちゃん位若いのがワシの好みなんじゃよ。ワシの嫁も若い頃はまだ良かったんやがなあ…年老いてからは見る影も無くなりおった。しかもあいつ、ワシのこの性癖に感づいてきておってな。じゃから事故に見える様にして消してやったのよ!」

 

三葉「えっ…!!」

 

星戸「三葉ちゃん。ワシはな、ずっと君のお母さん、二葉ちゃんを愛しておったんじゃよ。だが当時の二葉ちゃんの周りには何時も人が沢山おってな。とてもワシの愛を伝える事など出来んかった。そしてそうこうしているうちに二葉ちゃんは歳を取り、ワシ好みの若さではなくなってしまった…」

 

三葉「うっ…!」

 

雷牙「・・・」

 

余り聞きたくなかった異常性愛者の実の母と自分への歪んだ想いを耳にした三葉は気分が悪くなり口に手を当て、雷牙は唯々話を聞いていた。

 

星戸「じゃが今は三葉ちゃんがおるし、なんなら妹の四葉ちゃんでもええんや!家内が死んでからは糸守から離れた街で若い女を味わっておったが…こうなったらこの魔戒騎士を殺した後でゆっくり三葉ちゃんを愛しながら味わうとしようか!」

 

三葉「ヒッ…!!」

 

雷牙「聞くに耐えないな…ザルバ、コイツの名は!?」

 

ザルバ「コイツはペドリア。どんな邪心が好みかは…説明するまでもないな」

 

三葉(えっ?今何処から声が…)

 

雷牙「ああ……さてと、三葉ちゃんだっけ?」

 

三葉「え…あ、はい!」

 

雷牙「危ないからさ、ちょっと離れてて」

 

三葉「あ…は…はい!」

 

三葉は十メートル程右斜め後ろにあった木のもとへ行き、隠れながら二人の様子を伺い始めた。

 

ペドリア「ワシの邪魔をするんやない!魔戒騎士ーー!!」

 

ペドリアは星戸の姿のまま、雷牙迄の数メートルの距離を一度の跳躍で詰め、振り下しの一撃を加えようとしたが、雷牙に難なく捌かれた後、魔戒剣の斬撃による一撃を受けていた。

 

三葉「うそ…」

 

かつて知っていた星戸からは想像すら出来ない人間離れした動きと、それを難なく捌いた魔戒騎士の動きに三葉は驚愕していた。

 

ペドリア「くっ!………ゔぁあああ!!」

 

三葉「あ…あれが…ホラー!ば…化け物やさ……」

 

ペドリアは星戸の姿からホラーとしての姿へと変貌した。その顔は不気味な笑顔がそのまま固まった様で、体は黒い岩肌の様にでこぼこした異形の姿であった。そして…

 

雷牙「本性を現したな…なら!」

 

ホラーの姿を確認した雷牙は、魔戒剣で自分の真上に円を描いた。すると円の中から黄金の光が照らされ、雷牙に金色の鎧が装着され先程までの魔戒剣は牙狼剣へと姿を変えた。そしてその顔は金色の狼の様な姿をしており、その姿を見たペドリアは驚愕と恐怖に襲われたのであった。

 

ペドリア「な!…き…貴様!その金色の鎧はまさか…」

 

雷牙「そのまさかさ……我が名は牙狼!黄金騎士だ!!」

 

三葉(ガロ…?黄金騎士…?)

 

ペドリア「くそっ………はぁあああっ!!」

 

ペドリアは体内に陰我の波動を溜め込み、牙狼目掛けて口からサッカーボール程の大きさの黒い球を数発連続で撃ち出した。だが、その黒弾は全て直撃したにも関わらず雷牙は平然としていた。そして牙狼剣に緑の炎、魔導火を纏わせ一気にペドリアとの距離を詰め…

 

雷牙「おおおおおお…はああっ!!」

 

ペドリア「グゥえアぁああアーーー!!」

 

炎を纏った烈火炎装の剣で横薙ぎからの縦斬りで十字に斬られた後、ペドリアの身体は魔導火に焼かれながら爆散した。そしてホラーを倒したのを確認した後、雷牙は鎧の装着を解除したのであった。

 

三葉「凄い……」

 

雷牙「さてと………大丈夫、怪我とかなかった?」

 

三葉「あ…はい!」

 

雷牙「そっか、良かった!」

 

三葉「あの……た…助けてくれて…ありがとうございました!」

 

マユリ「雷牙」

 

ゴンザ「雷牙様ー!」

 

雷牙は木の影にいた三葉に近づき無事だったのを確認していると、マユリとゴンザが、雷牙を呼びながら駆け寄ってきた。

 

雷牙「ゴンザ、マユリ。遅かったね」

 

マユリ「雷牙、ホラーは?」

 

雷牙「たった今倒したよ」

 

ゴンザ「流石は雷牙様!ところで、そちらのお方は?」

 

雷牙「ホラーに襲われそうになっていた所を助けたんだ。えっと名前は確か」

 

三葉「宮水三葉です…雷牙さんには危ない所を助けていただいたんです…」

 

ゴンザ「それはまた…さぞ恐い想いをなされたのでは…」

 

三葉「いえ……あの、雷牙さん!さっきの化け物は一体!それと星戸のおじさんはどうなったんですか!それに貴方達は一体!」

 

雷牙「それは…」

 

ザルバ「そいつは俺から話してやるよ、嬢ちゃん」

 

三葉「え?」

 

雷牙「じゃあ頼むよ、ザルバ」

 

すると雷牙は自分の指にはめている指輪、魔導輪ザルバを三葉に近づけた。

 

ザルバ「よう、嬢ちゃん!俺の名はザルバ、よろしくな!」

 

三葉「ひっ…!ゆ…指輪がしゃべっとる!」

 

ザルバ「まあ落ち着け、別にとって食いやしねえからよ。それで、何から聞きたいんだ」

 

ザルバにそう言われた三葉は一旦息を整えて、ザルバに話しかけ始めた。

 

三葉「じゃあ、さっきの化け物。ホラー言うんは?」

 

ザルバ「魔獣ホラー。陰我が籠ったオブジェをゲートにして魔界からこの世に現れる魔物だ。この世に現れたホラーは陰我、つまり邪心を持つ人間に憑依してその姿形を手に入れ、人間を襲いその血肉を喰らう。それがホラーさ」

 

三葉「人間を…喰らう!じゃあ星戸さんは!?」

 

ザルバ「ホラーに憑依された時点でそいつの肉体は滅びる。つまりあの男は既に人としての生は終わっていたって事だな」

 

三葉「そん…な…!」

 

余りの事実に三葉は手で口を覆ったが、気を取直して雷牙達の事を聞いてみた。

 

三葉「えっと…じゃあ雷牙さん達はあのホラーを倒すためにこの町に来たんですか?」

 

雷牙「いや…多分なんだけど、ここは俺達のいた世界じゃ無いと思うんだ」

 

三葉「えっ…それってどうゆう事なんですか?」

 

雷牙「信じられ無いと思うんだけど、俺達は時空の捻れに呑まれてこの世界に飛ばされて来たんだ。そこでホラーの気配を察知したからここへ駆けつけたんだ」

 

まだ全部の話を飲み込めてない様子の三葉にゴンザが話しかけた。

 

ゴンザ「ところで三葉様、少々お聞きしたい事があるのですが?」

 

三葉「あっ…確か、ゴンザさん。何ですか?」

 

ゴンザ「ここは一体何処なのでしょうか?日本なのは間違い無いと思うのですが…」

 

三葉「ここは岐阜県の飛騨にある糸守町です」

 

ゴンザ「なるほど、ここは飛騨でございましたか!」

 

雷牙「となると、この世界と俺達の世界は全くの異世界って訳じゃ無さそうだね」

 

ザルバ「そのようだな。ところで雷牙、これからどうするつもりなんだ?」

 

雷牙「とりあえず、今日の所は俺達が現れたあの山の中の窪地に戻ろうか。もしかしたらまた時空の捻れが起きて帰れるかもしれないしさ」

 

三葉(山の中の窪地って…それってもしかして、うちの神社の御神体がある所なんじゃ…)

 

ザルバ「それじゃあな嬢ちゃん。もうホラーの気配は感じないが、家までの道中気を付けてな」

 

雷牙「じゃあね、三葉ちゃん」

 

マユリ「気を付けてな、三葉」

 

ゴンザ「それでは三葉様。失礼いたします」

 

三葉「あっ…!」

 

三葉は雷牙達に宮水神社の御神体の事を話そうとおもっていたが、すでに雷牙達は三葉から離れていってしまった。

 

三葉(雷牙さん達が今いる場所について聞こうおもったんやけど…)「はあ……今日の事みんなに話しても…信じてくれんやろな……はっ!そうや、急いで帰らんと!」

 

その後、三葉は買い物袋を手に取り急いで家路についた。帰りが遅かった事について家族から何かあったのかと問われたが、三葉は適当な理由をつけて誤魔化した。

 

 

そしてこの時、三葉はまだ知らなかった。先程の出来事が、後に糸守で黄金伝説と語られていく出来事の始まりであった事を。そしてそれは、時空を超えたある世界でも始まろうとしていた。

 

 

 

七曜歴1205年

ゼムリア大陸中央部 アルテリア法国 西側国境付近

 

一組の男女が街道を首都方面へと進んでいた。男の方は法衣を着た若い巡回神父で女性の方は修道服姿で大型のバックパックを背負い、更に大きめのキャリーケースを片手に持った若いシスターであった。

 

??「はぁ…千の護手たるこの俺が新型ARCUSを受け取るための使いっ走りをやらされるとはな…」

 

??「メルカパを派手に壊したケビンが悪い。あれだけの無茶をして総長からのお叱りとメルカパが治るまでの間使いっ走りで済んだんだから良しとしないと」

 

ケビン・グラハム。表向きは翠色の髪をツンツンヘアーにした七曜教会の神父であるが、その正体は七曜教会の実動部隊、聖杯騎士団の中でも特別な力を持つ守護騎士(ドミニオン)の一人で第五位の存在であり、通称千の護手(まもりて)。そして同じく聖杯騎士団でケビンの従騎士であるリース・アルジェントは、騎士団総長から直々に命じられたエレボニア帝国へのお遣いを済ませ、新型ARCUSを入れたケースを持って帰途についていた。因みに徒歩なので道中野営をする事は多々あり、リースのバックパックには野営に必要な道具一式と、魔導機(オーブメント)の整備に必要な道具等も入っておりバックパックの重量はかなりの物になっているが、当のリースは平然としていた。

 

ケビン「まぁ…確かにそうなんやけどな……しっかしまさか、飛行艇使わずに街道を行けとは……!?リース!」

 

リース「どうしたの、ケビン……ッ!!」

 

突然、前方の上空に時空の捻れが発生しケビンはボウガンを、リースは法剣を構えた。

 

ケビン「なんなんやアレは…って!なっ、う…ウソやろーー!!」

 

リース「ケビン!……ダメ、引き込まれる!」

 

ケビンとリースは時空の捻れに引き込まれ、別時空の世界へと飛ばされて行った。そして……

 

 

 

同時刻 ゼムリア大陸北部 ノーザンブリア自治州上空

 

後に北方戦役と呼ばれる戦場の上空を、一体の騎士人形が哨戒飛行していた。灰の騎神ヴァリマール。この全高およそ七メートルの意志を持つ人型兵器には、契約者たる起動者(ライザー)がおり、現在ヴァリマールのコックピットの中から操縦を行なっていた。

 

??「ヴァリマール、敵の姿は?」

 

ヴァリマール「コノ周辺ニ居ルノハ味方ノ識別ノミ。既ニコノ辺リ一帯ハ完全ニ味方側ノ勢力権ニナッテイル」

 

??「そうか…」(北方での戦いも帝国側の勝利で間も無く終わるだろう。だが…本当に、こんな力の使い方を続けていて良いのだろうか……)

 

リィン・シュバルツァー。ゼムリア大陸西部にある大国、エレボニア帝国にあるトールズ士官学院の学生であり、灰の騎神ヴァリマールの起動者(ライザー)でもある彼は、昨年起こった帝国の内戦を終結させた事で本人が望まぬ形で英雄と祭り上げられた。その事もあり、まだ学生の身でありながらこのノーザンブリアの戦いにおいても帝国軍の強大な戦力として騎神と共に参加しており多大な戦果を上げていた。そして戦闘も終結に向かいつつある現在、哨戒の任務についてい

たリィンとヴァリマールの前方に異変が訪れた。

 

ヴァリマール「ム…コノ反応ハ!」

 

リィン「どうしたんだ…ッ!何だ、アレは!?」

 

ヴァリマール「アレハ…マサカ…」

 

リィン「くっ…避けろ、ヴァリマール!」

 

ヴァリマール「間ニ合ワヌ…」

 

灰の騎神は突如目の前に現れた時空の捻れに突っ込むような形で引き込まれ、別時空の世界へと飛ばされて行った。

 

 

そして…ムスビの軌跡が始まろうとしていた

 

 

 



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