暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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過去の時間

渚side

冬休みに入ってすぐの日、僕等は朝早くからE組教室へと集合していた。理由はもちろん殺せんせーとの約束通り……先生の過去を教えてもらうために。

 

「……オーケー繋いでみて、律」

 

『はい!』

 

『……おはよ、皆』

 

「おはようカエデちゃん!」

 

「調子は?体調悪化してない?」

 

『あはは、大丈夫だよ。むしろそこまで傷があるわけじゃないのに体力だけ戻らないから、どこにも行けないし暇で暇で……』

 

本当ならこの教室の中でも1番関係があると言える茅野の目の前でやるべきなんだろうけど、触手の後遺症で入院が決まってしまったんだ。茅野も嫌がってたし入院を1日遅らせるって案も出たんだけど、死ぬ寸前まで体力を消耗した上に身体を酷使したんだ……何があるか分からないと、殺せんせー必死の説得とE組全員からの反対で泣く泣く頷いていた。代わりと言ってはなんだけど、病室に律がリアルタイム中継をすることで話がついた。電波とかが周りの医療機器に影響しないかって問題も、1度アミサちゃんの入院の時に試していたから大丈夫だって確信をもてる方法だ。

 

「おはよー」

 

「おっす、渚」

 

『……来てないね、アミサちゃん。カルマ君もだけど』

 

「カルマ君と一緒に来るんじゃないかな?」

 

「アミサにはカルマと烏間先生が知らせたんだよね?だったら連絡自体はいってると思うし……いざ休みだったとしても、私達が聞いた話を後から伝えれば大丈夫だよ」

 

「……うん」

 

冬休みに入る前……昨日の出来事は経験したことがないくらい濃すぎる夜で、嫌でも鮮明に思い出せる。まずは茅野の暗殺……彼女曰く、シロがまた微妙に裏にいたらしいことが分かってる。ただ、協力していたと言うよりは茅野に対して一方的に言うことを聞かそうとしてきたのにムカついて、反発してたからよく分からない、という茅野の証言があるから、あれはほとんど彼女1人で行った暗殺なのだとは思うけど。それと顔まで隠した謎の『2代目』の存在、シロが呼び出した日本に居るはずのない魔物、そして今この場にいない、1人の女の子が人外の生き物と戦うところを初めて見た衝撃……。

……アミサちゃん。あれだけE組全員を翻弄していた魔物に臆することなくぶつかり、すぐさま倒してしまった実力……ロイドさん達から聞いてはいたけど、あんなに強いなんて目の前で見ても正直信じられなかった。普段の様子とまるで違う、なんというか……的確に殺りに行っていた、というか。そして魔物を倒してからシロに単身挑んだ後、何があったのか先に帰ってしまって……そのまま会えてない。昨日の今日だし、会えなくて普通なのかもしれないけど……言いようのない不安が僕等の中に燻っていた。

……それはともかく、烏間先生やビッチ先生も教室に来てなにやら2人で話し出しているのに、まだ来ていない人物(生徒)が1人。

 

「……カルマ、まさか遅刻ってことは無いよな?」

 

「いや、でもあの遅刻魔だ。ありえるぞ」

 

「で、でも……明日までには頭冷やしておくって言ってましたし、よっぽどでなければ来ると思いますけど……」

 

『私には朝早くからメッセージ来たよ、これの開始時間の連絡。『律を通して教室に映像送るから、見られてもいい格好をしといた方がいいんじゃない?w』っていう余計なお世話付きで……!』

 

「カルマ君……;」

 

ベットの上に座りながら手を握りしめてプルプルと震えている茅野……女の子にそんなこと言ったらそりゃあ怒るよ。ていうかカルマ君、自分が間に合ってない中そんなメッセージ送ってたの?

そんなことを話していると、前の扉を開けてゆっくりと殺せんせーも教室に入ってきた。「学校でもない日なのに皆さん早いですねー」って空気を変えるように言っているけど、僕等はあまり元気に返事をする気になれなくて、表情は変えないでも少し先生も肩を落としている。これで教室にいないのはアミサちゃんとカルマ君の2人だけ……いよいよカルマ君は寝坊なんじゃないか、そんな空気が流れ始めたところで廊下をバタバタと走る音が……そしてスパーンッと大きな音を立てて後ろの扉が開かれる。

 

「はァ、はァ、は、……ねぇ、アミーシャはッ!?」

 

「え、き、来てないけど……」

 

「はー、はー、……クソッ、ハズレか……」

 

「カルマ君、とりあえず座ってください。そんなに慌てていては大事なものほど取りこぼしてしまいますよ」

 

「……はいはい……あ゙ー、あっづい……疲れた」

 

「今12月だよね、何その汗……」

 

「改札出てからここまで全速力で走って来た。フリーランニング無しの休憩無しはキッツいわー……」

 

そのまま机に突っ伏したカルマ君は尋常じゃない量の汗をかいていて、無言で手を挙げて『5分ちょうだい』と僕等にサインを出してからピタリと動かなくなった。すぐさま無言でカバンの中からタオルを出した磯貝君がバケツリレーのように後ろへ回し、千葉君がカルマ君の頭の上にかける……さすがイケメン、行動が早い。そして、奥田さんが慌てたように水筒を取り出して渡そうとしてるけど、それそのまま口を付けるタイプのだからやめた方がいいんじゃ……と思ってたら速水さんが止めた。代わりに俺のだけど文句言うなよ、と言いながら岡島君が水筒を回してる。

……皆、分かってるんだ、カルマ君がアミサちゃんを探して走り回ってきたんだってことを。誰よりも、もしかしたら本人以上に気にかけている彼だからしょうがない、だから何も聞かずに世話を焼いてる。……ていうか、慌てていても律儀に烏間先生との約束守ってフリーランニングを使わずにここまで来たんだ……茅野へのメッセージといい、こういうところといい、謎にマメだよね、カルマ君って。そして本人の宣言通り5分後、顔を上げたカルマ君は幾分かスッキリした顔をしていた。

 

「……落ち着いた、ごめん」

 

「いや、……分からんでもないしな」

 

「寝坊したんじゃないかって話になってたんだよ、連絡も無いし」

 

「あー……うん、スマホの存在忘れてた。岡島水筒サンキュ、ほとんど飲んじゃったし下行ったらジュース奢る。磯貝〜、このタオルこのまま貸してー」

 

「おまッ、マジで空じゃん……どんだけだよ」

 

「おー、洗って返せー」

 

この重たい雰囲気があったとしても、いつも通りのノリで話せるのがE組のいい所だと思う。だから焦っていたカルマ君も次第に落ち着きを取り戻せたんだと思うし、僕等も慌てなくて済んだ。1人以外は全員揃った教室で、殺せんせーに向き合う……先生は長い長いため息を吐いて、僕等を見回した。

 

「……アミサさんだって私の大事な生徒なんですがねぇ……、彼女本人から皆さんとの約束を果たすようお願いされましたし、いないままですが話すしかありませんね」

 

「録音してもいいなら律に頼んでそれ送って貰うとか方法あるよ?」

 

「一応国家機密の話ですし、流出がコワいのでそれはナシで。責任問題になったら先生嫌です。……誰か、先生の話が終わった後に彼女へ話してあげてください」

 

相変わらずの小心者な殺せんせー……、……教室にしばらく無言の時間が流れた。殺せんせーが僕等へ話すのを躊躇うほどの過去話……一体どれだけ重い話なのか、そして、そこには茅野にとっての真実を覆せるだけの根拠があるのか。……緊張で心臓の音が聞こえてきそうだ……ようやく先生も覚悟を決めたのか口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……カルマ君が血相を変えて教室へ入ってきた理由を聞いてませんでしたねぇ。コレは聞いてもいいことですか?」

 

「「「なんでだよッ!?」」」

 

……、……思わず気が抜けてしまった。教室にいるほぼ全員からの総ツッコミを受け、何事ですかってワタワタしながら触手を動かしているけど、先にこの空気壊したの殺せんせーだからね?

 

「せんせー……」

 

『だから皆に段取り悪いって言われるんだと思うよ?』

 

「だ、だって気になるじゃないですかッ!」

 

「……別に…………今朝、アミーシャの家に寄ってからここに来たんだよ」

 

「あー、そんなこと言ってたな。家にいなかったのはお前の態度で分かったけど……そんなに血相変えるほどのことか?」

 

「……いなかった()()なら良かったんだけどさー……」

 

「「「?」」」

 

カルマ君も話さなきゃ殺せんせーは諦めないと察したんだろう……そっぽを向きながら話し始めた。教室にいないかって駆け込んできた時点でそうだろうとは思っていたけど、やっぱりアミサちゃんは家にいなかったらしい。でも、アミサちゃんは烏間先生に魔獣の流れてきた経路を探すって言ってからいなくなったし、それの調査でまだ家に帰ってないだけかもしれない。一応今日は冬休みだから、招集をかけたとはいえ絶対に学校に来なくちゃいけない理由はないし。

でも、それだけではカルマ君が慌てる理由にならない……僕でさえ思いつく可能性を、僕より頭の回転が早い彼が思い付いてないわけがないんだから。そして、そのまま続けたカルマ君の内容は誰も想像もしていないことだった。

 

「……もぬけの殻だったんだよ、家の中、家財道具全て……アミーシャが存在していたって痕跡すら残ってなかった。だけど家が売りに出されたわけでもなくって……俺の持ってた合鍵が使えたってことがアミーシャのいた証拠になんのかなー……って。ここ1、2ヶ月家に入れてもらえなかったのはこれの準備のためだったとしか考えられない」

 

「「「!!?」」」

 

「そんな……」

 

1、2ヶ月って……確かに僕やイトナ君も一緒にカルマ君の家で集まることはあっても、アミサちゃんの家へ最後に行ったのはだいぶ前だ。どこで集まるかを決める度にそれとなくアミサちゃんは自身の家を候補から外していて……そんなに前からいなくなる準備をしていたってこと?

 

「はー……アレがあるとしたらアミーシャの部屋だと思ってたんだけど……遅かった」

 

「アレ?」

 

「2年前の俺への誕プレ。俺と渚君に直ぐ渡せたってことは、手元にいくつか持ち合わせがあったってことでしょ……アレと同じのがあるって睨んでたんだけど」

 

「…………それを探してどうするのさ?」

 

「どうってそりゃあ……、……いや、渚君が覚えてないならいいや。俺の覚え間違いかもしれないし」

 

2年前にアミサちゃんがカルマ君に誕生日プレゼントとして渡したものといえば……僕にはクリスマスプレゼントとしてくれたあの白い石のことだろう。僕もまだ大事に飾ってある、ホワイトストーン……珍しいもののはずなのに僕等へ簡単にくれたってことは、確かにアミサちゃん用に1つあったとしてもおかしくない。だけど、あれを見つけたらアミサちゃんの居場所がわかる手がかりになったっていうの?……あの石に何か、意味とかあったっけ……?

 

「ま、そーいうことだから。殺せんせー、気にせずはじめてよ」

 

「そうですか……では、そうですねぇ……、……夏休みの南の島で、烏間先生がイリーナ先生をこう評しました。『優れた殺し屋ほど(よろず)に通じる』…、的を得た言葉だと思います。先生はね、教師をするのはこのE組が初めてです……にも関わらず、ほぼ全教科を滞りなく皆さんに教える事ができた。それは何故だと思いますか?」

 

……なんで、殺せんせーの話なのにいきなりイリーナ先生が出てくるんだろう。……まあ、一応聞かれたことだし、整理して考えてみよう。

イリーナ先生が殺し屋なのも、普段の生活では見た事のないピアノ技術を魅せられたのも、僕等と同等か訓練を受けてない分下だと思ってた殺し技の応用に格の違いを見せつけられたのも、先生は普段はアレでも本業ではトップレベルのハニートラッパーなんだって再認識させられたのも間違いないこと。それは全部ビッチ先生が暗殺対象(ターゲット)殺すために必要だから身につけた、殺し屋とバレないためにも様々な技術を磨いたんだって言うことだよね。

……そんなイリーナ先生みたいに優秀な殺し屋ほど、どんな事でもできるってことだ。これが殺せんせーは的を得た言葉だって言った。優秀な殺し屋……万能…………、……殺せんせーは、経験のなかった教師の仕事を、完璧にこなしてみせた。

………………まさか。

 

「そう、2年前まで先生は……『死神』と呼ばれた殺し屋でした。それからもう1つ……放っておいても来年3月に先生は死にます。1人で死ぬか、地球ごと死ぬか、暗殺によって変わる未来はそれだけです」

 

皆がみんな、驚愕に何も言えない中……超生物は語り始めた。秘められた……人間の記憶を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渚side

『死神』は劣悪な環境のスラムに生まれ、何も信じられずに生きてきた中で、子どもの頃から唯一信じられた『殺せば人は死ぬ』という真実……だからこそ、殺し屋になる道を選んだということ。

 

弟子に裏切られ、シロこと柳沢による人体実験の被験者となったこと……そして、その監視役として茅野のお姉さんである僕等の前担任、雪村先生に出会ったこと。

 

教師の仕事を手伝う傍ら、自分を見てもらうことの嬉しさを知り、お互いの事をたくさん話したこと。

 

人間とは活かすものであり、弱者とは育てるものである……たくさん『死神』の知らない世界を雪村先生から教えられたこと。

 

直接ではないものの、触手を介して触れ合って感謝を告げ合い……その数時間後に自分の死の期限を知らされたこと。

 

手に入れた力を殺し屋として『殺すために壊すために』使おうと暴れていた所を、雪村先生が見を呈して庇い……結果的に命を奪うことに繋がったこと。

 

雪村先生の最期の願いを、手に入れた力を教師として『救うために』使おうと……彼女が見続けてきた生徒を代わりに見続け、そして、どんな時でもこの触手()を離さないと誓ったこと。

 

 

 

 

 

──30分かけて殺せんせーが『先生』になった本当の理由を話し終わって、先生の話を疑う生徒は誰もいなかった……それこそ、先生をお姉さんの仇だと信じて捨て身の暗殺に臨んだ茅野だって。だって、全ての理由が繋がったんだ。殺せんせーが万能だったのも、僕等がどんな常識外れでありえないような暗殺を仕掛けても()()()()()()のように避けれた事も……全部、殺せんせー自身が、多くの殺し屋達に恐れられる『死神』であり、そう生きてきた経験があったからだと分かったから。

 

「先生の教師としての師は誰であろう雪村先生です。目の前の人をちゃんと見て、対等な人間として尊敬し、一部分の弱さだけで人を判断しない。彼女から……そういう教師の基礎を学びました」

 

雪村先生から学んだ基礎だけでは足りない部分を殺せんせー自身の知識を足すことで補い、雪村先生が見ることのできなかったE組全員が自信を取り戻して最高の成長をした姿を実現する(見る)ために。殺せんせーは先生自身に残された命を使った暗殺教室を考え出した。そしてそれは、目論見通りに僕等の心の闇を晴らすことに繋がった……だけど、暗殺がなければ、暗殺者(アサシン)標的(ターゲット)でなければ、きっと僕等は闇に囚われたままで……自分を諦めてた僕等は、真剣に向き合おうともしなかっただろう。

 

「だからこの授業は、先生を殺すことでのみ修了できます。無関係の殺し屋が先生を殺す。先生が出頭することで殺処分される。先生が自殺する……期限を迎えて地球と共に爆発する。もしも、それらの結末で先生の命が終わったなら、暗殺で繋がった我々の『絆』は、卒業の前に途切れてしまうでしょう。もし仮に殺されるなら……他の誰でもない、君達に殺して欲しいものです」

 

殺せんせーが来て2週間の頃に、僕等は圧倒的な力の差を見せつけられて……それまで軽く考えていた暗殺が、いかに恐ろしくて難題なのかということを突き付けられたんだと初めて気付かされたんだ。『この先生を殺さなくちゃならないのか』……と。

今だってそう思っていることに違いはない……だけど、その意味は全く違う。殺せんせーの過去を聞いて、雪村先生との関係を聞いて、僕等に殺されたいという先生の覚悟(願い)を聞いて……僕等の頭を、殺せんせーとの思い出が駆け巡ったんだ。

 

本気で怒られて、怖かった事。

 

自分の甘さを見透かされて、腹が立った事。

 

念願の目標を達成して、嬉しかった事。

 

皆で一緒にリゾートで遊んで、楽しかった事。

 

皆で一緒に修学旅行へ行って

球技大会で戦って勝って、

バーベキューをして、

夏祭りに行って、

花火を見て、

遊んで、

立ち向かって、

学園祭をして、

他にもたくさん、たくさん……楽しかった事。

 

殺せんせーがE組(うち)に来て9ヶ月の間、僕等が考えようとしなかった事。だからこそ、何も考えずに楽しく、たくさんの思い出を作りながらのびのびと成長できた代わりに。

──僕等は、恐ろしい難題を突きつけられたと……ここにきて初めて気付いたんだ。『この先生を……殺さなくちゃならないのか!!』……と。

 

「……烏間先生、先生はこの事知ってたんですか?」

 

「……断片的にはな。だが、真実を話してしまえば、俺達国の人間が君達に押し付けた『殺す』という事実を君達が自覚し、暗殺に向き合えなくなるのは目に見えていた。なにより……学生らしく生きる君達の生活を奪うわけにはいかなかった」

 

「…………そんな……、 」

 

殺せんせーを殺すために国から依頼されてE組にやってきたビッチ先生はともかく、殺せんせーが先生をするために交渉した国で働いている烏間先生が……姿かたちや中身の性格までは知らなくても、これらの事情を全く知らないはずがなかったんだ。それでも烏間先生なりに、僕等へここまで重いものを背負わせないために、殺せんせーの教育に便乗する形で隠してくれていたんだ。

僕等は、いつかは知らなくちゃいかなかったんだ……クラス皆が全力で背を向け続けてきた、殺せんせーという思い出を共有してきた恩師を殺すという意味を。少しでも長く、罪悪感を感じなくて済むために、楽しく暗殺を続けるために目を背け続けてきたことを。

 

「……すまない。君達を暗殺に平気で向き合わせようとする俺の態度を懸念して、あの夏休みの時点で既にイリーナは言っていたんだ。『殺すって……』」

 

「……『殺すってどういう事か、本当にわかってる?』……でしょ」

 

「「「!!?」」」

 

僕等を気にしながら淡々と話し続けていた烏間先生の言葉を引き継ぐようにその言葉を言ったのは、烏間先生に直接言ったらしいビッチ先生じゃなくて……カルマ君だった。先生達も驚いている中、話を聞いている間も終わってからも何のアクションも起こさなかった彼は、ここにきて立ち上がった。

 

「殺せんせー」

 

「……カルマ君ですか、どうし……にゅやっ!?」

 

教卓のところで僕等を見つめていた殺せんせーに向かって、1学期の期末テストの時のように前へと向かいながら対先生ナイフを投げたカルマ君。僕等はすぐには受け入れられなくて、今は暗殺なんて向き合えそうもなくて……どうにも動けないのに、彼は。

 

「──俺はたった1人でだろうと暗殺を続けさせてもらう。……知ってたよ、ビッチ先生が烏間先生に言った言葉……あの時アミーシャが聞いてたんだ。だから夏休みの沖縄で、俺はアミーシャから『恩師を殺すこと』の意味をとっくに学んでるんだよ。虫けらを殺すこととはわけが違うんだってことは、もうとっくに知ってるし覚悟だってしてる」

 

「カルマ君……」

 

答案用紙の代わりに彼が握りしめているのは……僕等3人の繋がりでもあるカバンに付けられたキーホルダーだった。どういう理由でいなくなってしまったのかも、いつ戻ってくるのかも、戻ってこないのかも分からない彼女との、今持っている確実な繋がり……カルマ君は、それと一緒に彼女に立てた誓いを守ろうとしてるんだ。

 

「アミーシャは、誰も……俺すらも気付いてなかった頃から先生を殺す覚悟をもっていた。そのアミーシャがこのクラスにいない今、誰も暗殺に向き合わないってなら……俺だけでも向き合わせてもらうから」

 

「……ええ、受けて立ちましょう」

 

そう言って殺せんせーは、カルマ君から投げられた対先生ナイフをハンカチに包んで彼へと返却した。受け取った彼は僕等の方へ1度振り返って数秒、黙ってクラス中を見渡したあとにそのまま1人、教室を出ていった……多分、殺せんせーがこれ以上何か言うつもりもないみたいだし、って帰ったんだろう。その姿を機に、E組の生徒達は1人、また1人と無言のまま教室をあとにしていった。誰1人として、カルマ君のように覚悟をもてず、かといって何か言うこともできないまま。

 

「…………」

 

僕は、この暗殺教室と向き合う上で、考えていた事が少しあった。殺せんせーを殺さないで……このまま僕等の恩師としてずっとお世話になる方法はないのかって。今までは地球爆破の原因でしかなかったからそんなことは不可能だって思ってたけど、こんな過去を聞いてしまったら……もう今までと同じ暗殺対象(ターゲット)としては見れなかった。

──僕は殺せんせーを殺したくない(死なせたくない)、……助けたい。それを皆になんとか伝えられないだろうか。

無意識に僕は、カルマ君のようにカバンに揺れていた青いウサギのキーホルダーを握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 




「……」
「イリーナ」
「……本当のことは、ガキ共には伝えなくていいわけ?」
「……アイツが話したことで全てだろう?」
「違うわ、あの子よ。あの子は──」
「……言わないさ、ここの生徒以上に背負わせすぎた分の願いくらい、叶えるよう努力する」
「…………」
「…………」
「…………はぁ、分かったわよ。というか私だって言う気はないわ……あの子にカルマとの恋愛を諦めさせちゃったのは、私のせいなんだから」
「……?」



「…………」
『俺等と殺人鬼とか殺し屋の生きてる世界は違うんだし、難しく考えなくていいんじゃね?』
『どう頑張っても本職と学生じゃあ、同じ位置には立てるわけないんだからさ』
「……、アミーシャが昨日言ってたことで、心当たりがあるのはこのあたりなんだけどな……、……あー……やっぱり俺、間違えたかなー……」


++++++++++++++++++++


次の日の教室で。
次回、エンド1です。

エンド1のすぐ後に投稿予定の『???』が、ある意味この物語で最大のどんでん返しになる……はずです。

というわけで、次回はエンド1と『???』のお話が両方完成次第の投稿となります。もしかしたら一週間以上二週間未満の間があいてしまうかもしれませんが、気長に待っていていただけると嬉しいです。


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