暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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展開の都合上、少しお話が前後します。



後悔の時間

「死んで!死んで!!死んでェッ!!!

 

止まない嵐のような触手の猛攻に、私たちの中で誰1人として間に入ることが出来る人はいなかった。……ううん、唯一渚くんがあの中へ飛び込もうとしてたんだけど……何の対策もないままあの場所へ行ったら、ついていけなくなって終わりだ。カエデちゃんが『殺せんせーを自分の手で殺す』目的を果たすことに対して、部外者でしかない存在に配慮することなんて頭にないだろうから。私たちには無理でも……と、普段なら頼ってしまいそうな烏間先生やイリーナ先生も、あの中にはさすがに入っていけないらしく、難しい顔をしている。

 

「なんとかなんねーのかよ……茅野が侵食されてるのを見るしか……ッ」

 

「でも、どうしたらいいの……?」

 

こんなの、見ていられない……見ていたくない。多少の違いはあれど、そうみんなが思った時だった。「みなさん!」という呼びかけと一緒に、目の前に殺せんせーの顔だけドアップの分身がいくつも現れたのは。殺せんせーが言うには、カエデちゃんの攻撃に隙が見つけられなくて、顔だけ伸ばして残像を作っているんだとか……器用なことをしてるとは思うけどこっちの方が難しい気がするのは、どうなんだろ。

 

「手伝ってください!一刻も早く茅野さんの触手を抜かなくては!!彼女の触手の異常な火力は……自分の生存を考えてないから出せるものです!一分もすれば生命力を触手に吸われて死んでしまう!」

 

触手とカエデちゃんの殺意が一致している間は、触手の『根』が宿主の神経に癒着している……だからカエデちゃんは『殺せんせーを殺す』ために、触手を自分の手足のように自由自在に操れるんだ。時間があるのなら、イトナくんの時みたいに時間をかけて意思を切り離せばいい……だけど生命力がギリギリな状態のカエデちゃんには、もう説得している時間が無い。戦闘を終えて時間をかけて触手を抜くのでは間に合わないなら……

なんとか戦闘を終える前に、戦いながら抜くしかない。

 

「彼女の……というより、触手の殺意を叶えるため、先生はあえて最大の急所である心臓を突かせます。触手が先生の心臓に深々と刺さり、〝殺った〟という手応えを感じさせれば……少なくとも『触手の殺意』は一瞬弱まる。その瞬間、君達の誰かが『茅野さんの殺意』を忘れさせる事をして下さい」

 

「……殺意を……」

 

「一致している殺意を切り離すためってことは分かるけど、どうやって?」

 

「方法は何でもいい、思わず暗殺から考えが逸れる何かです。寺坂君がイトナ君にやったように、君達の手で彼女の殺意を弱めれば……一瞬ですが触手と彼女の結合が離れ、最小限のダメージで触手を抜けるかもしれない」

 

確かに、その方法なら……カエデちゃん助けられる確率は上がるかもしれない。でも、触手を抜くまでの間、殺せんせーの心臓にはカエデちゃんの触手が刺さったままってこと……。先生は上手いこと死なない程度の場所を狙わせるつもりらしいけど、急所には変わりない。それでも、クラス全員が無事に卒業できないのが、自分が死ぬよりも嫌だと、こんな状況なのに先生は笑って言った。

猶予はもうほとんどない……30秒ほど交戦したら決行すると言い残して、殺せんせーの残像は消えてしまった。またカエデちゃんの攻撃を受け流すことに専念し始めたんだろう。

 

「あの闘いに乱入してカエデの殺意を忘れさせろって……どーすんのよ、ガキ共に一発芸でもさせろっての?」

 

「一発芸……ハッ、そうだ三村」

 

「ん?」

 

「エアギターやれ、テメーの超絶技を見せてやれ」

 

この局面で!?いい事思いついたってドヤ顔するなよ吉田!むしろ俺に殺意が向くよ!!」

 

「いいからやれって!」

 

「いや無理でしょ!!」

 

「じゃあどうすんだよ!!」

 

……猶予はたったの30秒……いきなり殺意を忘れさせる何か、なんて言われても、そうすぐには思いつくはずがない。吉田くんは三村くんに無茶振りし出すし……さすがのカルマもこんな場面ではからかったり軽口を言ったりは出来ないみたいで、口元に手を当てながら考え込んでいる。

カエデちゃんの好きな物、思わず驚くようなもの、見入ってしまいそうなもの……思いついたものを上げてみてもどれもしっくりこない。実行する人に危険があったり、間に合いそうもなかったり、カエデちゃんが傷ついてしまうようなものしかなくて……ダメだ、もう、時間が……!

 

「……アミサちゃん」

 

「!」

 

「茅野が殺せんせーの心臓に触手を刺した瞬間……僕があのリングの中に入れるように、あの炎の壁をなんとか出来る?」

 

渚くんが私の肩に手を置いて話しかけてきた。私に話しかけてるけど、目はカエデちゃんをじっと見つめていて……きっと渚くんには、何か考えがあるんだろう。みんながみんな慌てている中、決心したように前を向く彼が、その一手のために私を頼ってくれた……だったら、私の答えは1つしかない。

 

「……やる、やってみせる!」

 

「……お願い」

 

そう言って炎の壁に向かって歩き出した渚くんを見つめながら、導力器の蓋を開け……いくつかのクオーツをなぞる。あそこまで動き回っている対象を避けてアーツを放つのは出来なくはないけど難しい。周りを巻き込まず、攻撃しないで、炎だけに対して直接的に働きかけるなんてちょうどいいアーツは存在しない……だけど、これなら上手くいくかもしれない。

 

──ズドンッ!

 

「殺ッ……タ……、──ッ!?」

 

「君のお姉さんに誓ったんです。君達からこの触手()を放さないと」

 

ついに殺せんせーが、今までかばっていた心臓を守る触手をどけてカエデちゃんの攻撃を受け入れる……作られたその大きな隙をカエデちゃんが見逃すはずがなく……殺せんせーの体に勢いよく触手が突き刺さった。一瞬動きの止まった彼女の体を、殺せんせーが触手で抱きしめて動きを止めているけど……カエデちゃんはトドメを刺すために捕まったまま触手をねじ込もうとしていて、殺せんせーは堪らず口から体液を吐いた。……ここだ、

 

「──A─リフレックス(魔法反射アーツ)

 

「!」

 

「渚……!」

 

「渚君……」

 

《空》の金色の光が渚くんに集まっていき、彼が炎の壁を通り過ぎる瞬間に炎を弾いて道ができた。《A─リフレックス》は本来は1度だけアーツや導力現象を反射することが出来るアーツ……炎を物理的なものと考えないなら、これで体から弾くことが出来るかもしれないと思っていた。近くにクラスメイトがいたら、炎が反射されて火の粉が飛んでいたから危なかったかもしれないけど……、うん、範囲外でよかった。

……静かに、だけど足を止めることなく真っ直ぐに、渚くんはカエデちゃんへと近づいていく。誰も手を出せずにいた中、たった1人で何かしようとしている。みんなが固唾を飲んで見守る中、渚くんは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──カエデちゃんにキスをした。

 

「「「なぁっ!?」」」

 

「「わぁ……」」

 

「ふふ……」

 

「「チャンス!」」

 

目が飛び出るほどに見開いて驚く人がたくさんいる中、いきなりのラブシーンに頬を染めている人、不敵に笑う人、……写真なのかムービーなのかスマホを構える人。みんながみんなそれぞれが()()()反応を見せる中、渚くんはカエデちゃんに向き合い続けている。……あれって、もしかしなくてもイリーナ先生直伝のキステクというやつなのでしょうか……カエデちゃんに危害を加えず、尚且つ殺意を忘れさせる手段にこれを選ぶって。……むしろ、よく思いついたと思う。

最初は殺意をもったまま抵抗していたカエデちゃんだったけど、途中で自分を取り戻したのか違う抵抗に変わっていたように見える。渚くんが逃げないように頭を押さえていたせいで、最終的に意識を飛ばしてしまったみたいだ。

 

「殺せんせー、これでどうかな?」

 

「満点です渚君!今なら抜ける……ッ!!」

 

触手の殺意が薄れ、カエデちゃん自身の殺意も渚くんによって鎮められた瞬間、殺せんせーは猛スピードで触手の根を抜き始めた。初めは目の近くまで赤黒い血管が浮かんでいた皮膚が少しずつ元の色を取り戻し始め……ズルンと2本の触手がカエデちゃんの首元から摘出された。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

「茅野さん……!」

 

「待って、火を消すから……、ブルードロップ(水属性攻撃魔法)

 

「サンキュ、真尾!」

 

駆け寄ろうとしたクラスメイトを止めて、まだ炎を上げているすすき野原に大きな水泡をいくつか落とす……攻撃性があるから、さっきはどうしても使えなかったアーツだ。火元であるカエデちゃんの触手は摘出されたし、このまま火は消えていくと思う……今度こそ、私たちはカエデちゃんと殺せんせーの元へと駆け寄った。

 

「これで……茅野さんは大丈夫になったんですか?」

 

「……ええ、おそらく。しばらく絶対安静は必要ですが」

 

愛美ちゃんがカエデちゃんを膝に乗せて楽に寝られる体勢を作る……呼吸も穏やかだし、命の危険はなくなったんだと思いたい。殺せんせーからの要請とはいえ、気絶させてしまった渚くんも安心したように大きく息をついていた。

……と、ここで今回の功労者(渚くん)の元へと近づく影が……

 

「王子様〜、キスで動きを止めるとはやるじゃないか」

 

「ちゃんと写真も動画もバッチリ撮れてるから、後でグループに流しとくね」

 

「殺意を一瞬忘れさすには有効かと思って。茅野には後でちゃんと謝るよ……って、やめてよカルマ君!?」

 

「え、もう送信しちゃった」

 

「カルマ君ッ!!?」

 

「その動画、私にも後で送りなさい。そ・れ・よ・り・も……キス10秒で15HITなんて……まだまだね。この私が強制無差別ディープキスで鍛えたのよ?40HITは狙えたはずね」

 

「……へ、HIT……?」

 

あ、メッセージアプリの3年E組グループチャットに早速動画と写真が……早速ネタにしているカルマと莉桜ちゃんが渚くんをからかいに行ったかと思えば、イリーナ先生まで乱入してる。……でぃ、でぃーぷきすって、授業中にご褒美だとかお仕置きだとかで問答無用にイリーナ先生からされた、あの舌を入れるキスのことだよね……あれってHITとかあったの?ちょっと前の放課後塾でイリーナ先生が作ってた『3年E組キステクランキング』なるものの上位に入ってた前原くんやメグちゃんは20HITは超えるって漏らしてる。でも、今回の渚くんのは目的がキスじゃないわけだし、そんなにHITが上がらなくても……イリーナ先生的にはよくないみたいです、ごめんなさい。

 

「……ゲホッ」

 

「「「殺せんせー!?」」」

 

「……平気です。ただ、さすがに心臓の修復には時間がかかる。先生から聞きたい事があるでしょうが……もう少しだけ待って下さい」

 

やっぱり、心臓……致死点を何とかズラしたのだとしても急所を貫かれて、何ともないということは無いようで。ボタボタと口から液体……色は違うけど、私たちで言う血液なんだろうそれを吐き出した殺せんせーは、どこか冷や汗をかいているようにも見えた。

ここまで弱っている殺せんせーを見るのははじめてで……ホントなら、これをチャンスと考えて暗殺を仕掛けるべきなんだろうけど……できなかった。多分みんな、この1年の間隠されてずっと気にし続けてきた殺せんせーの過去を聞くって、決めていたからだと思う。

 

「……う、ん……」

 

「っ!おい、殺せんせーは後でいいだろ、それよりこっちだ……目ェ覚ましたぜ」

 

「茅野さん……よかった」

 

弱々しく微笑みながらもカエデちゃんが無事に命を繋いだことを喜ぶ殺せんせーの声を聞いてか、彼女はゆっくりと首を傾けながら周りを見回している。E組のみんなで……先生もみんな揃ってカエデちゃんを見ていることに気づいたのか、少し気まずそうに視線を落とした。

 

「……最初は、純粋な殺意だった。けど、殺せんせーと過ごすうちに殺意に自信が持てなくなっていった。この先生には私の知らない別の事情があるんじゃないか、殺す前に確かめるべきじゃないかって。でもその頃には……触手に宿った殺意が膨れ上がって、思い止まることを許さなかった。……バカだよね、皆が純粋に暗殺を楽しんでたのに、私だけ1年間ただの復讐に費やしちゃった」

 

悲しそうに俯きながら、自分の思いを吐き出していくカエデちゃんを、私たちは黙って見つめていた。だって、そんな思いを抱えていたなんて……全然気づいてなかったから。いつも明るく楽しく、笑って、怒って、……そんな表面上の顔ばかり見ていて気づいてあげられなかったから。

 

「……茅野にさ、この髪型を教えてもらってから……僕は自分の長い髪を気にしなくて済むようになった」

 

そんな空気の中、話し始めたのはやっぱり渚くんだった。1番、誰よりもカエデちゃんの近くにいて、1番彼女のことをよく見てきたから。

 

「茅野も言ってたけど、殺せんせーって名前……皆が気に入って1年間使ってきた。目的が何だったとかどうでもいい、茅野はこのクラスを一緒に作りあげてきた仲間なんだ」

 

隣にいても、カエデちゃんの苦しみは分かってあげられなかった。

隣にいても、カエデちゃんの心の奥のことは察してあげられなかった。

……隣にいても、たくさん一緒に笑った毎日が全部(演技)だなんて思えなかった。

だって笑顔で過ごしている彼女も、復讐に真っ直ぐ全力をぶつける彼女も、全部ひっくるめての『E組の茅野カエデ』なんだから。そんな彼女とこの1年、同じクラスで過ごしてきたんだから。

 

「……ね、だから先生の話、皆で一緒に聞こうよ」

 

「……うん、ありがと……もう演技、やめていいんだ」

 

ボロボロと涙を流し始めたカエデちゃんは、もう復讐にとらわれた表情をしていなかった。今まではきっと、殺せんせーを殺すために……そして触手の意思に飲まれないためにって、たくさんたくさん自分を押し殺してきたんだと思う。それこそ、本心なんてないし全部を演技だって言いきれちゃうくらいだったし……。だけど、そうやって溜め込み続けた感情を、やっと、ダムが決壊するように一気に吐き出すことが出来たんだと思う。

そんなカエデちゃんの様子を確認してから、私たちみんなを代表して、磯貝くんが殺せんせーに訴えかけるように話し出した。多分、今、この時……E組みんなの求めているものは1つになっていたから。

 

「……殺せんせー、茅野はここまでして先生の命を狙いました。並大抵の覚悟や決意じゃできない暗殺だった。これは……先生の過去とも、雪村先生とも、そして俺等とも関わりがあるって言えます。……話して下さい。どんな過去でも、真実なら俺等は受け入れます」

 

「……できれば、過去の話は最後までしたくなかった。けれど……しなければいけませんね。君達の信頼を、君達との絆を失いたくないですから」

 

誰も何も言わない時間が流れ、ザザザ、とすすき野原を冷たい風が通り過ぎていく。ゆっくりと殺せんせーが体を起こし、重たい口を動かして話出そうとした……それと同時に、

 

──ヒュ……ビシッ!

 

「「「!?」」」

 

「な……」

 

「銃撃……!?どこから……」

 

……空気をきるような鋭い音が響き、狙われていた殺せんせーが慌てて地面に体を伏せる。伏せたそのすぐ上を通っていったソレは、先生が避けたことで地面に当たって小さな穴を開けている……勢いからしてライフルによる銃撃だと思う。

12月の午後7時過ぎって、野外では電灯がなければだいぶ暗くて視界が狭い。さっきまではカエデちゃんの炎で明るかったけど鎮火してしまったから、私たちを照らすものといえば月明かりくらいだ。だからといって何も見えないわけじゃないし、だいぶ暗闇に目が慣れてきた。静かに射線の先をたどると私たち以外に立っている人物たち……離れたところの小さな丘に2つの人影が見える。

 

「使えない娘だ。自分の命と引き換えの復讐劇なら……もう少し良いところまで観れるかと思ったがね」

 

「……シロ!」

 

「大した怪物だよ……いったい1年で何人の暗殺者を退けて来ただろうか。だが……ここにまだ2人ほど残っている」

 

私が声を挙げなくても、名前を呼んだイトナくんを筆頭にみんなシロさんたちの存在に気づいたみたいだ。この暗さの中でも目立つ白い衣装のシロさんはハッキリ分かる……でも、あそこにいるのはもう1人で……、……誰?銃を持っていることから、殺せんせーを狙撃したのはこの人なんだろうけど、真っ黒な服で顔までファスナーを上げているのか……性別すらも判別できない。

 

「最後は()だ。全て奪ったおまえに対し……命をもって償わせよう」

 

「…………」

 

口元でゴソゴソと、何かを取り外すような手の動きを見せていたシロさんは、次の瞬間声色が変わっていた……、……ううん、逆だ。多分、今取り外したのは変声機なんだろう……それを外したから元の声に戻ったんだ。シロさんと、彼曰く『2代目』というらしい黒い人は、何かしら殺せんせーに関係があるのだろうけど……なんのことだか全然わからない。黒い人に関しては全く読み取れないけど、殺せんせーの納得したような表情とシロさんの恨みが篭もった声色から、私たちが知らない過去の因縁の相手同士だとは予想できる……でも、それだけだ。

それだけ宣言をして去っていくかと思えたのに、シロさんは私たちに背を向けてすぐに立ち止まった。何かを思い出したようにもう一度こちらへ向き直る。

 

「……ああ、そうだった。最近触手以外にも面白いものを手に入れてね……ぜひ遊んでやってくれたまえ」

 

「え……」

 

シロさんがゆるく手を挙げ、私たちに向かって振り下ろした……瞬間、ザワりと肌が泡立つような感覚を覚えた。

──上からなにか、降ってくる。

 

────ウオォォォォン!

 

「え、え、犬……?」

 

「なんか、死神の時に烏間先生が相手したやつに似てる気がするけど……赤い装甲?」

 

「いや、あの時は銃器背負ってたよな?あいつ、なんかくわえてねーか……?」

 

警戒する私たちの目の前へ大きな遠吠えと共に現れたのは、殺せんせーまでは行かないけど大人より少し大きな体格の〝犬〟。唸り声を上げながらこちらに近づいてくるソレを見て、みんなが戸惑ったように色々と予想を立てている。シロさんが連れてきたようなものだ……今までの周りを巻き込む戦術や犠牲を厭わない策略から考えても碌でもないものに決まってる、そんな思いがあった。

 

「──ッ!!あれって、まさか……」

 

「……心当たりでもあんの?」

 

「確認する……エニグマ駆動、アナライズ(幻属性情報解析魔法)!」

 

でも、多分ソレの正体に気づいたのは私だけだろう……あんなの、ただ可愛いだけの〝犬〟なわけが無い。それに……ホントなら日本(こっち)に存在するはずのない生き物なんだから、私しか違和感をもてなくても当たり前だ。隣で私の驚きように声をかけてきたカルマへ返事をしながら、導力器を駆動する。

 

『……アミサさん……?』

 

「……ッ!ブレードクーガー……!なんで、魔獣なんて……!」

 

「は、魔獣……?」

 

いきなりアーツを起動した私へ不思議そうに声をかけた律ちゃんを半ば無視したまま、《アナライズ》……アーツの対象となった相手の情報を解析する、ティオさんのクラフトのアーツ版の結果を展開する。出てきたのは、あの〝犬〟が魔獣である結果とその情報の類だった。

シロさんが連れてきた魔獣とはいえ、制御しているわけではないのか……私が視線を戻す頃にはこちらへと突っ込んでくるところだった。さすがに戦闘指示は出すと思っていたのにいきなりだったから、対応が遅れてしまった……油断してた。

 

「きゃあぁッ!!」

 

「うお、あぶな……っ!」

 

「下手に固まるな!距離をとるんだ!」

 

ブレードクーガー……結社《身喰らう蛇(ウロボロス)》によって調教された、見た目は大型の軍用犬だけど名前の通り剣を口にくわえて切りかかってくる立派な魔獣だ。その攻撃はかすっただけでも最悪死に至る効果がある技があるし、その他上手く体を動かせなくなったり目潰しされたりなどと状態異常を引き起こす技も合わせ持つ……加えて一撃が重たい。幸い、状態異常耐性のないタイプみたいなのが救だと思う。

……今は暗殺っていう非日常に身を置いてるけど、基本的に平和な日本で生きてきたみんなが、あのレベルを相手に出来るわけがない。時間が経てば経つほど、何人かのクラスメイトが自分の体に起きた異変……状態異常を引き起こしたそれを訴え始める。もう、このままにしておくには時間がなさすぎた。イリーナ先生だって専門はハニートラップってこともあって至近距離からの小型ナイフでの暗殺や小型銃器での射撃以外で戦闘はからっきしだし、みんなに大声で指示を出して退避させている烏間先生なんて近接()()戦闘のスペシャリスト……都合よく、武器なんて持ってるわけがない。殺せんせーは手負いで無理させるわけにいかないし……覚悟を決めるしか、選択肢は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────伏せて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルマside

茅野ちゃんによる捨て身の暗殺後、突然現れたのは幾度となく俺等の邪魔をし続けてきたシロ。……話ぶりからして茅野ちゃんの事情を知った上で利用してたみたいだし、何度もクラスメイトを利用してくれた分お返ししてやりたいくらいなんだけど、そう簡単にやらせてくれるわけもなかった。隣にいる黒い変な奴もわけが分からないのに、シロが呼び出したのはアミーシャ曰く魔獣の存在。彼女が解析した情報を横から覗かせてもらうと、〝戦闘用魔獣〟という文字……あのアルカンシェルへ行った日に魔獣を見てみたいとは言ったけど、こんな対面は望んでないんだよね……。

こんな状況なのにいつも通りに見えるアミーシャの隣にいたから、俺も通常心でいられたんだけど、すぐにのんびりしている余裕はないことを思い知らされた。シロの指示を待つことなく、突っ込んできたソレを避けるのに精一杯になったからだ。いかなり方向転換をするような動き方ではなく、かなり直線的に突っ込んできて口にくわえた刃を振るうという動きのみではあるけど、そのスピードが尋常じゃない。1年間、普段の生活の中で殺せんせーのマッハな動きを見てきたから楽に避けられるけど、あまりにも続くようだと体力的に辛い。

 

「イッ……な、なんだコレ……腕が重い……ッ」

 

「菅谷、無理すんな!腕だけなら足は動くな?!とりあえず距離取れ!」

 

「……ッ、千葉、悪いけど手、引いて……急に見えなくなった……」

 

「!?……目潰しか……了解、いくぞ」

 

一部の奴等から、あの魔獣の攻撃が当たったのかかすっただけで済んだのか……自分の体に異変が起きたようでそれぞれ近くにいる者同士でかけ合う声が聞こえ始めた。だいぶ前の話だけど、夏休みの肝試してアミーシャが怖がっていたのも突然自分に起きる状態異常だったことを思い出す。……俺自身が傷ついたわけじゃないけど、目の前でその様子を見てしまえば、傷つくのを怖がる彼女の理由が分かった気がする。……何も出来ないままに仲間が傷つくのを見るしかないのは、確かに怖い。

 

「……っ茅野、平気?」

 

「うん……ごめん、渚……」

 

「神崎さん、こっち!」

 

「うん、わかった」

 

「奥田さんも近くに来といて……アミーシャはこっち」

 

「は、はい!」

 

「…………、…………」

 

もともと戦闘があまり得意じゃない奥田さんや神崎さんの2人を避ける方向へ誘導するために近くに立つ俺と杉野、そして何やら悩んでいる表情のアミーシャ。ちなみに茅野ちゃんはまだダメージが抜け切ってなくて動けないから、渚君が抱えている。……こんな状況じゃなければ写真撮った上でからかってやるのになー……そんなことを考えられるだけ、俺は余裕だったのかもしれない。

あちらこちらへと突っ込んでいる分、安全な時もあったのに、俺等の中に明らかな非戦闘要員(茅野ちゃん)がいることに気付いてしまったのだろう……魔獣は俺等へと進路を変えて飛び込んできた。俺等や杉野達は多分なんとかなる、でも渚君や茅野ちゃんは大きく動けない……どうすればいい!?その時だった。

 

「──伏せて!」

 

「「「!!」」」

 

────ギィンッ

 

誰かが()()叫んだ瞬間、俺は反射的に起こしていた身体を屈めたんだと思う。狙われていた神崎さんと奥田さん達が頭を抱えて体勢を低くし、渚君がしゃがみながら茅野ちゃんの頭を抱え込むように覆いかぶさった直後に突っ込んできたあの犬……曰く『ブレードクーガー』っていう名前らしい奴の前へ、いつの間にかアミーシャが割り込んでいた。俺等の代わりにあの直撃をくらったんじゃ……そう思って血の気が引いたし慌てたんだけど、よくよく見れば違うと分かる。

 

「……っ、」

 

「アミーシャ……!」

 

「平気……この程度なら、軽いから……!だから、今のうちに下がって……ッ!」

 

どこから取り出したのか……いや、いつから持ち歩いていたのか、が正しいのだろう。人間に大して影響のない柔らかい対先生ナイフとは違った、鈍い光沢のある金属……彼女は本物の刃物(武器)を手にしていた。言われた通りに急いで距離を取りながら確認すれば、ブレードクーガーの刃とアミーシャの武器……少し見えた形からしてクナイのようなものだと思うそれが鍔迫り合いをしている。

時間にして十数秒もなかった……その位の時間で拮抗していた両者の間で突然、ギイイ……という嫌な音を響いた。ブレードクーガーの刃がアミーシャのクナイの表面を滑った事で、金属と金属を引っ掻き合わしたような嫌な音が鳴ったんだ。刃を滑らせた事で体勢を保てなくなったブレードクーガーがバランスを崩す。その隙を見逃さず直ぐに後ろへ跳躍したアミーシャは上着の中へ手を突っ込み、何かを取り出して……

 

「────《爆雷符》!」

 

……それを魔獣に向けて投擲した。かなりの速さで真っ直ぐ投げられたそれは、当たった瞬間に小規模な爆発を引き起こし……甲高い悲鳴を上げたブレードクーガーは動きを止め、その場で弾けるように消えてしまった。あれだけ俺等を翻弄した魔獣を瞬殺してしまった驚きもだけど、ここまでの実力を全く悟らせなかった彼女に話しかけられる人は誰もいなくて。その場へパラパラと7色の石が飛び散り、それ以外には何も残さなかった魔獣のいた場所へ、アミーシャがクナイ片手に警戒したまま近づいていく。

……俺等は全員、しゃがみこんで地面に落ちている7色の石を拾って上着のポケットへ入れている彼女をただ見ているしかできなかった。と、そこへ全てを見ていた俺等E組以外の奴……シロの笑い声と拍手の音が響き、彼女は立ち上がる。

 

「ほう、躊躇うこともせずに瞬殺か。見たところ《爆雷符》は即死耐性がない限り一撃必殺のクラフト技といった所か?流石は全てを偽り続けた化け物……生きる世界の違う者は別物だな」

 

「────ッ!」

 

──キィンッ!

 

シロの言葉を聞いた瞬間、冷たく締め付けられるような感覚が襲ってきて身体が震える。それはアミーシャより後ろにいる俺等まで感じられるほど強いもので、よく知っているはずの彼女を『怖い』と思ってしまった……俺等は後にそれが、1度受けたことのある烏間先生によってアミーシャによる殺気だったということを知る。

そして誰かが止める間もなく飛び出した彼女は、クナイを構えたままシロの元へと走り、躊躇い無くそれを振るう……が、その刃はシロに当たることは無かった。隣にいた黒服の奴が、手に持っていたライフルで盾となってシロを庇ったからだ。

 

「クク、図星を刺されたからと俺を狙うのは感心しないな」

 

「……黙れ!なんで、なんでみんなを狙ったんですか!政府との契約でも生徒を狙うことは禁じられています……殺せんせーを暗殺するならE組のみんなは関係ないはずで……っ!」

 

お前がいるからだとは考えないのか?

 

「………………………………………え……、ッ!」

 

「戦闘に長けた者を相手にするにはそれ相応の相手をぶつけるに限る。だが、ここにいる2代目はまだ調整中……だったらお前と同郷の戦力を当てるのが手っ取り早いだろう?ちょうど手に入ったことだしな」

 

シロの話す言葉は俺等のところまで届いていたけど、何について言っているのか……何がアミーシャの怒りの琴線に触れたのかまでは全然読み取れなかった。ただ、シロに言われた何かによって動揺したのか動きを止めた彼女を黒服が突き飛ばす。体勢を崩しながらもバク転を駆使して着地したアミーシャは、もうシロへと向かっていこうとはしなかった。その様子を見て、シロは今度こそ背を向けて歩いていく。

 

「行こう、2代目……3月には……呪われた生命(いのち)に完璧な死を」

 

最後まで黒服は一言も話さないまま、シロの後を追って夜の闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

カルマside

シロたちが去った後、アミーシャは明らかに様子がおかしかった。シロによって唯一小さく、彼女にのみ聞こえるように告げられたのだろう言葉……多分、それのせいなんだろうけど。

しばらく誰もが動かず、何も話すこともない沈黙の時間が流れていたけど、呆然とシロ達が消えていった方を見ていたアミーシャが立ち上がってクナイをしまった所でようやく時間が動き出したように感じた。少しの躊躇はあったみたいだけど、全員でアミーシャへと近寄って声をかける。

 

「……アミサちゃん、ありがとう」

 

「助かったぜ……お前、本当に強いんだな!」

 

「な、ロイドさん達がお前を絶賛してたわけがよく分かったぜ!」

 

「すごくかっこよかったよ〜!」

 

「…………………………駆動、……レキュリア(状態異常回復魔法)

 

でも、彼女は誰の感謝や賞賛にも返事をすること無く、静かにアーツを発動させた。これは確か……状態異常を回復させるアーツだったか。さっきのブレードクーガー戦によって、身体に異常が出ていた菅谷や速水さんなどの数人が、回復した部分を動かして確認している。

……おかしかった。人見知りでもE組には懐いて、みんなの妹分としてかわいがられていたアミーシャが、壁を作ったのか心を閉ざしてしまったのか、何の反応を見せないことが。当然俺以外の奴等だって気付かないはずがなく、不安そうに彼女へ呼びかけている。

 

「……アミサちゃん……?」

 

「真尾、アイツに何か言われたのか?」

 

「…………何も、変なことは言われてないよ。強いて言うなら考えないようにしてたことを……私がここに居るってことの意味を、思い出させてもらったの」

 

アミーシャが、ここに……E組にいる事の意味……?分からないまま見ていると、そのままみんなを素通りして烏間先生の前へと歩いていったアミーシャは、真っ直ぐ先生の顔を見つめた。烏間先生も彼女を見つめ、何を言い出すのかと待っている。

 

「烏間先生……アレの流れてきた道を洗い出してきます。もしアレが、何も知らない人たちの前に現れたりしたら……対処できるのは、私しかいないから」

 

「真尾さん……防衛省を使ってはいけないのか?俺をはじめとして戦闘訓練をつんだ精鋭も多く在籍する。今回は手持ちがなかったために全面的に任す形にはなったが、普段なら……」

 

「……魔獣や魔物との戦闘をしたことがない人たちでは、特徴や弱点を知らないでしょう?銃の効かない相手、アーツしか効かない相手だっています。さっきのブレードクーガーのように即死の状態異常攻撃を持つ魔物もいます。それに……普段以外でも戦える人でなければ、今回のように意味が無いです」

 

「……だが……、それに、君は俺が認める限りこの教室の〝生徒〟だろう?」

 

「……いいんです。少しだけ、タイムリミットが早くなっただけですから。あと……申し訳ありませんが、依頼はこの場で破棄させて下さい。私のこともみんなに伏せておいてくれると嬉しいです……光の中に住んでるみんなは、こんな世界、知らなくていいから」

 

「…………そうか」

 

見たことがないほどの無表情で、烏間先生と言葉を交わしたアミーシャは、言外に普段から戦えなければ足でまといだと言っているようだった。次にビッチ先生へと視線を向ける。魔獣と戦っていたあたりから何かに気づいた様子だった先生には驚きの表情が浮かんでいた。

 

「……《爆雷符》って……アミサ、もしかしてアンタ……」

 

「……イリーナ先生、この教室でまた会えて嬉しかったです」

 

「やっぱり……全然気付けなかったわ……さすがね。それよりも、……ねぇ、行くの?ガキ共を全員置いて?カルマとの事はどうすんのよ?」

 

「少しでも、みんなを危険から遠ざけたいですから。それに……私に恋愛なんて無理だったんです……〝死と隣り合わせで生きてきた時点で悪〟なんですから……」

 

「……ぁッ!そ、それは私の事であってアミサの事だなんて……!」

 

「でも、今回の件は完全に私のせい……後のことを考えられなかった、私がダメだったんです」

 

「……アミサ……」

 

ビッチ先生とアミーシャは、この教室で出会う前から知り合いだったというのか。

そして何故か2人の会話に俺の名前が出てきた。それで何となく……アミーシャがやろうとしていることに検討がついた。彼女は、俺等の前から居なくなろうとしているのだ、と。

 

「アミサさん、あなたは……」

 

「殺せんせー、……先生の過去を話す約束、みんなに果たしてあげてください」

 

殺せんせーにかけた言葉はとても少なかった。それだけ言って殺せんせーからの返事を待たず、アミーシャは俺等に一言もないままに背を向けて歩き出す。

 

「「「アミサちゃん!!」」」

 

「「「真尾!!」」」

 

「……アミサちゃん、」

 

「アミーシャ……ッ」

 

慌ててみんなで呼びかけたけど、彼女は足を止めることがなく……シロ達がいなくなった丘の先でようやく足を止めた。

 

「…………なに?」

 

「……どこに、行くの」

 

「…………私とみんなが生きている世界は違うから。カルマも言ってたでしょ、同じ位置に立てるはずないんだから深く考える必要は無いよ……私さえここにいなければ……みんなは危険じゃなくなるはずだから。────だから、バイバイ」

 

答えになっているような、いないような……そんな、どこかで聞いたことがあるような言葉を残し、止めることも出来ないまま、アミーシャは宵闇の中を駆けて行ってしまった。

彼女の言う通り生きる世界が違うのは、なんとなく伝わってきていた……俺等が逃げ惑うしかなかった魔獣に立ち向かい、いとも簡単に倒してしまった実力者……そしてあとのことも淡々と処理して、シロへと単身向かっていった。実力のあまりの差に、動くことが出来なかったのは事実だったから。

でも、それって魔獣のいるゼムリア大陸で戦闘経験がある、戦わなければ生きていけないってだけじゃなかったのか……?分からない、分からない事だらけでムカつく。

 

 

 

 

 

時間が遅くなってしまったこと、アミーシャがこの場からいなくなってしまったことから、殺せんせーは過去の話を明日に回したいと提案した。正直俺等は、茅野ちゃんの事、シロの事、魔獣の事、そしてアミーシャの事と色々な事が一気に起きすぎて混乱していたから……必ず話すとも約束されたしその方がありがたくて、二つ返事で頷いた。先に帰ってしまったとはいえアミーシャに対する連絡手段はあるし、何やら烏間先生から直通でなにか連絡できる方法もあるらしいから、明日以降のことも伝わるだろう。

この時、俺は疲れていようがアミーシャを追いかけたり、何か事情を知っていそうな烏間先生とビッチ先生に問いただすべきだったんだ。先生達も、理解者だからと諦めずに話すべきだったのかもしれない。それに、もっと前から……色々な面で気を付けておくべきだったのだろう。でも、きっと今彼女は何かを悩んでいて整理する時間が必要なんだと、そう考えていたから全然大した事じゃないとさえ、思えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺等は全員……先生達も含めて全員が、きちんと双方が納得できるまで話さなかった事を後悔することになる。

……冬休み以降、アミーシャが学校に姿を現すことは1度も無かったから。

 

 

 

 

 

 




「イトナ、何持ってんだ?」
「……多分、セピスだ。色も小さいのを合わせれば7色あるし」
「セピス?……うわぁ、すごく綺麗な石……」
「どうしたんだ、それ?」
「……アミサが倒した魔獣の跡に残ってた。ほとんどアミサが拾ってったみたいだけど」
「いつの間にそんなことしてたんだよ……」
「お前らがアミサを囲んでた時……俺はアミサが力を隠してるのはなんとなく分かってたから」
「…………は……?」
「どういうことだよ?」
「初めて目にした時から、アミサは一般人じゃないとは思っていた、ということだ」
「イトナ……」
「……はじめてって……お前が転校初日の壁突き破ってきた日か?」
「ああ。あの日、俺はカルマがこのクラスで1番強いと言った……そう思った事に嘘はない。だが、アミサを見た瞬間気が変わった。全てを押し殺している小動物のくせに、端々から感じる気配のおかしさ……俺の触手が怯えていた」
「……俺にも言ったやつか?『爪を隠した小動物にすら勝てないだろう』って」
「……寺坂に言ったことは覚えてないが、言ったんならそうだと思う」
「……お前の言い方はとことんムカつくが、……アレ、やっぱり真尾の事だったのかよ……」
「仕方ないだろう、触手を移植されている時は頭が働かないんだ」



「………………」
「カルマ君……」
「……、アミーシャの……バイバイって言葉が、頭の中をグルグル回ってるんだ……胸騒ぎしかしない」
「あ、明日のことは伝えるんですよね?烏間先生からも連絡入れてくれるらしいですし……」
「僕等では無理でも、カルマ君の言葉ならアミサちゃんは聞いてくれるよ。だから、きっと……うん、きっと届いてるって信じよう?」
「……俺、何か間違えた気しかしないよ。……あー……悪い、一人で帰るわ……明日までに頭冷やす」
「あ、はい、……おやすみなさい、カルマ君」
「また明日ね」



「……カルマ君、へこんでましたね」
「だね……いつも自信たっぷりのカルマ君はどうしちゃったんだろ」
「アミサちゃん関係の事だから、で説明できちゃいそうなのがあのカップルですけど……」
「奥田さんも言うようになったよね……その通りなんだけどさ」
「…………」
「…………」
「……でも、私も引っかかってるんです」
「……バイバイって言葉?」
「はい。だって、普通友達が相手でしたら別れる時の挨拶は『またね』ではありませんか?先程の渚君のように……」
「確かに…………明日になったら、全部無かった事になってればいいのにね」


++++++++++++++++++++


カエデの後悔、ある意味シロの後悔、オリ主の後悔、殺せんせーの後悔、E組の後悔。後悔することの無い人はいないと思いますが、ここまで1話の中に集結することはほとんどないと思います。書き終わって私もビックリ。

カエデちゃんを止めるシーンはほとんど原作そのままです。ただ、あれだけの炎のリングを作り上げておいて渚がサラッと中に入るのは難しいのでは……と思ったので、そこだけオリ主に手伝ってもらいました。適当な技もアーツもなくて、かなり無理矢理な感じにはなりましたが、無傷で入れた理由にはなったかな、と思ってます。

シロさんによる、魔獣投入の件について。
オリ主の離脱は元々考えていて、そのために決定打となるあるセリフを言わせる必要がありました(透明文字にしてあります)。ちょうど良かったのがこの魔獣:ブレードクーガー……碧の軌跡では傭兵が引き連れていたり中ボスだったりと、対策さえしていれば敵じゃない代わりに素早いので色々めんどくさい相手です。戦闘範囲内を移動しまくりますし……。オリ主の強さを強調するために、一撃でお亡くなりになっていただきましたが、本当は強いんです。こんな所で魔物の弁護をされてもとか、え、本当に?と思う方は、ぜひぜひゲームをれっつぷれい←

暗殺教室のお話はまだ3ヶ月分あるのにもうエンドなのか、という理由は今回のオリ主の離脱にあります。次回、先生の過去話の回なのですが、オリ主不在ということで場面が一気に飛ぶからです。
もちろんもう1つのエンドでは残り全てのお話を回収するのでご安心下さい!では、また次回の物語で会いましょう。



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