体育の授業が終わり、他の子達が教室へ帰っていく中……私とカルマくんはさっきの体育の授業をしていたスーツの人に呼ばれ、教員室へ足を運んでいた。
「君たちが今日から復帰の赤羽君と真尾さんだな。俺は防衛省の烏間という……今回の体育から教師を務めることになった。アイツが担任という契約ではあるが明らかに人じゃないからな……書類上の担任は俺ということになる」
「へー……じゃあ烏間『先生』ってワケ。……アミサちゃん、どう?」
「……せんせー…なんだ。防衛省のままなら……少しは信用してあげようと思ったのに……。あの体術指導は、下手な指導者より良かったから……」
この男の人、指導者としてだったら私の父と同等の
「……、……まあいい。君たちは早速やってくれたが、我々から依頼するのは学業をこなしつつ、あの超生物の暗殺をすることだ……ちなみに今回のあの作戦、立案はどちらだ?」
「へー、さっすが。二人で立てた作戦じゃないって気づいたんだ……どっちも個人だよ。俺がナイフの威力を試すついでにアレの意識を俺に持ってこさせておいて、威力を確認したアミサちゃんが切り落とす……その流れだけは話してあったから、あとは好きに動いただけ」
「なるほどな……」
カルマくんと烏間さんが話しているのを話半分に聞きながら、私は外を見ていた……別に私が会話に参加する必要は無いだろうし。こうして窓の外を見てみるとおんなじ自然、おんなじ空が広がっているのに……私の住む世界もだけど、ここも大概変な場所だと思う。向こうより発展しているのに、向こうでは主流のものがない……逆もまたしかり、だ。まあ私は、私達は目的さえ果たせれば別にいいんだけど…
そうしている間にお話は終わったみたいで、カルマくんに軽く体を揺さぶられて意識がこっちへ戻ってきた。私がカーディガンの左袖を掴んだことをカルマくんは確認すると、教員室を出ようとし……ふと思い出した様に見回して言った。
「あ、そーだ烏間先生。この教員室であのタコの席ってどこ?」
◆
──ブニョンッ
──ブニョンッ
──ブニョンッ…………
私達が教室へ入るともうみんなは小テストを始めていた。渚くんに教えてもらった私たちの席、一番後ろに並んだ二つの机へ向かう……私は左隣が空いていて、右側がカルマくんだ。後ろの扉から入ったのだけど、扉を開けた瞬間クラスの大半が振り向いたのに驚いて、1度足が止まってしまった……カルマくんが引っ張ってくれなきゃ、無理だったと思う。
席につけば机の上にはみんながやっているものと同じだと思われる小テスト……1度カルマくんと視線を交わしたあと、私はすぐに解き始めた。学校に長い間通ってなかったからって見くびらないでよ、せんせー…?……さっさと終わらせて次の準備に入る。
……それより、教室へ入る前から響くこのブニョンブニョンっていう変な音は……なに。
「……なぁ、さっきから何やってんだ殺せんせー ?」
「さぁ……壁パン、じゃない?」
「ああ……さっきカルマと真尾さんにおちょくられて、ムカついてるのか」
「触手がやわらかいから壁にダメージ伝わってないな」
……アイツの触手で壁を叩いている音だったらしい。私たちのせいって言われても、チョロいアレがいけないんだと思うんだけど……とりあえず、うるさいというか気が散ります。
「あーもう!ブニョンブニョンうるさいよ殺せんせー!!小テスト中なんだから!!」
「ここ、これは失礼!!」
……ほら、怒られた。
と、そんな(一応)小テスト中という静かな空間だったのが、触手パンチへの抗議がはっきり出たことでみんなの集中力が途切れたみたいだ……テストの緊張したような、張り詰めていたようだった教室の空気が緩やかなものに変わった気がした。
「よォカルマァ。大丈夫かぁ?あのバケモン怒らせちまってよぉ」
「どーなっても知らねーぞー」
「チビちゃん共々、またおうちにこもってた方が良いんじゃなーい?」
「殺されかけたら怒るのは当り前じゃん、寺坂。しくじってちびっちゃった誰かの時と違ってさ」
「な、ちびってねーよ!!テメケンカ売ってんのかァ!!」
「こらそこ!!テスト中に大きな音立てない!!厳しい先生ならカンニングとみなされますよ!?」
(((いやあんたの触手もうるさいよ)))
……なんだかうるさく喋りはじめた。しかも私をチビって言ったのダレ。
絡んできたのは、体が大きくて声の大きい男子……カルマくんが呼んでたし寺坂くん、でいいのだろう。後の二人は、……残念、覚えてないや。……むしろこの教室にいる人のこと、私は全然わからない。……私とカルマくんは停学明けってことで、一応2年生までに関わりがあった前提で教室に入れられてるから自己紹介の時間とかなかったし、
その時、カルマくんが教員室から持ってきたクーラーボックスを足元に引き寄せて、静かに中身を取り出すのが見えた……それによって意識を切り替える。……そろそろなんだ、次の作戦。
「……っと、ごめんごめん殺せんせー。俺もう終わったからさ……ジェラート食って静かにしてるわ」
「ダメですよ!授業中にそんなも…の…、……ん?そっ…それは……!昨日先生がイタリア行って買ったやつ!!」
(((お前のかよ!!)))
烏間さんにアイツの机の場所を聞いて物色してもいいか尋ねたら、生徒の個人情報にさえ触れなければ今のうちに漁っても黙認する、という返答をもらい……あのジェラートはその時に見つけたもののうちの一つだ。
「あぁ。ごめーん教員室で冷やしてあったからさ……アミサちゃんも、どう?」
「……(ペロッ)……味はおいしーけど、持って帰ってきて日本の冷凍庫で保管したからかな……食感、ヘン。買ったその場で食べた方がおいしーのに……ソフィーユさんもそう言ってた」
「ごめんじゃ済みません!!溶けないように苦労して寒い成層圏を飛んで来たのに!!……というかアミサさん、今サラっと舐めましたよね!?しかもコメント辛辣すぎます!あと誰ですかソフィーユさん!?」
「……突っ込み、お疲れ様です」
「へー……でどーすんの?……ん、……殴る?」
「殴りません!!残りを先生が舐めるだけです!!そう、ペロペロと、ぉ!?」
カルマくんが挑発するようにジェラートをひと舐めし……ニヤリとした笑みをアイツに向ける。案の定簡単にその挑発に乗って、ジェラートを取り返そうとカルマくんの元へ近づいて……あっは、……きた。
その瞬間、足の触手が何かを踏みつけ、
──バシュッ
「(対先生BB弾!!……っ!)」
……溶ける。
それとほぼ同時に私は驚いているソイツの腕を目掛けて素早く発砲した……顔はカルマくんが狙う手はずになっている。
「あっははっ!まァーた引っかかった……ナイスアシスト〜、アミサちゃん」
「……でも、命中はゼロ……あ、でも煙が上がってるってことは、かすりはしたのかなぁ…?」
完全に破壊を狙って撃った私とは違い、パン、パン、パン、と3発……間を空けて顔を狙うカルマくん……ソイツは慌てて避けていた。
音を立てて椅子を引き、小テストの答案を持ったカルマくんが銃を構えたまま立ち上がり……そいつへ触れるくらいの位置で銃を突きつける。私は自分の席から銃をそいつへ向け、反対の手で教員室で見つけたもう一つの
「……何度でもこういう手使うよ。授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら……俺でも俺の親でも殺せばいい」
「……でも、その瞬間から、もう誰もアナタを先生とは見てくれない。ただの人殺しのモンスター……タダでさえ『先生』っていうのは腐ってるのに、さらに私たちからの評価も落とす」
カルマくんは話しながら、銃とは逆の手に持つジェラートをソイツの胸元へ押し付ける……もし、それが対先生物質だったなら突き刺さっていただろう……。それを見てから、私も答案を持って立ち上がる。
「あんたという『先生』は、…俺達に殺された事になる…………はい、テスト。多分全問正解……アミサちゃんも終わった?」
「ん……あ、…ねぇ『せんせー』…?教員室でこんなの読んじゃ……ダメじゃない?」
「にゅやっ!?な、なぜその秘蔵雑誌を……!?」
「「烏間先生(さん)が持っていっていいって言ったから。」……あと、カルマくんが、渡すんだったら私の方が精神的にダメージでかいからって……なに、その本…?」
「烏間先生ィッ!?というか、アミサさん、内容わからない本を軽々しく扱っちゃいけません!あなた女の子でしょう!」
「……えっと、……女の子だと、触っちゃいけない本なんだ…?」
「あー、うん。俗にいうe…「わかってない子はわからないままでいいんですよカルマくん!!!」……うっさいな〜……行くよ」
渚side
「じゃね『先生』~明日も遊ぼうね!」
「………ばいばい」
そう言って一時の嵐を巻き起こした二人は教室から出ていった。僕達教室にいるメンバーはもう、テストどころじゃなくなっていた……だって今日だけでもう、2回も暗殺を仕掛けて2回とも触手の破壊を達成してるんだから。
カルマ君は頭の回転がすごく速い……今もそうだ。先生が先生であるためには越えられない一線があるのを見抜いた上で、殺せんせーにギリギリの駆け引きを仕掛けている。……けど本質を見通す頭の良さとどんな物でも扱いこなす器用さを、人とぶつかるために……使ってしまう。
そして今までの暗殺を見る限り、アミサちゃんは不意打ちや機動力に優れてる。それに相手の感情や雰囲気、気配を悟るのが上手い。やっぱり、頭の回転も早いのだろう……でも、今は一部を除いて全部拒絶しちゃってるせいで周りを見ることが出来ていない。その負の感情の向くまま、殺せんせーにぶつけている。
殺せんせーもそれに気づいているのかな……先生は、カルマ君に押し付けられたジェラートをハンカチで拭い、それを静かに、じっと見つめていた。
……と、いう所で、今までの一件をすぐ隣で見ていた岡島くんが、多分僕達みんなが聞きたくても聞けなかったことを聞いた。
「……殺せんせー、ちなみにその本は何だったんですか?」
「!?い、いえ……別に、エロい本とか持ち込んだりなんてしてませんからね!……ね!?」
(((なんつーもん、持ち込んでんだよ!?)))
「てか、真尾さん気づいてなかったんだ……」
「……アミサちゃん……変な所で知らないこと多いから……多分エロ本がなんなのかも分からないと思う」
◆
教室を出た私とカルマくんは、全員が旧校舎の中にいるのをいいことに、山の中を探索していた。校舎の裏手、裏山の中の小さな沢、少し奥へ入れば山葡萄の茂み……様々な自然の立地を見て回る。そして最後に、切り立った崖に一本松が生える場所を見つけてここまで来るあいだに見つけたものを話し合う。カルマくんが言うには、こうやって早めに探索しておけばサボり場も見つかるかもしれないし、なにか使えそうなものを得られるかもしれないということだった。
使えそうなものを話し合い、もしすべて使えなかった時の最後の手段も一応想定し、気がつけば放課後になっていた。
「じゃーな渚!」
「うん。また明日~」
家へ帰る前に近くの店で飲み物を買う……この店にはあまり見たことのない瓶コーラが置いてあって、なんとなく手に取っているとカルマくんが自分の分と合わせて2本、レジへ持っていって……しまった、奢らせちゃった。その分夜ご飯にカルマくんの好きな物をひと品追加しようと考えながら駅へ向かうと、渚くんとクラスメイトの……なんか爽やかそうでスポーツ系の男の人がいて、ちょうど別れるところだった。これは丁度いいと私たちは渚くんに近づく……その時、聞こえた声。
「……おい渚だぜ。なんかすっかりE組に馴染んでんだけど」
「だっせぇ。ありゃもぉ俺等のクラスに戻って来ねーな……しかもよ、停学明けの赤羽と異端児の真尾までE組復帰らしいぞ」
「うっわ、最悪。マジ死んでもE組落ちたくねーわ」
遠くから見ていてもわかる。渚くんにもその声が届いていて、でも何も言い返せないでいることに。チラ、とカルマくんに目をやれば瓶コーラの空ビンを手に歩き出したところだった。
──ガッシャン
「えー、死んでも嫌なんだ。……じゃ、今死ぬ?」
色々言っていた男子生徒たちの頭上にの柱に空ビンを叩きつけ、割れて尖った
「あはは、殺るわけないじゃん」
「……カルマ君」
「ずっと良い玩具があるのにまた停学とかなるヒマ無いし、」
「認められて堂々と殺る、そんなこと、さすがにやったことないから……だったら全力で楽しまなきゃ、でしょう?」
「アミサちゃんまで…」
まだ中身の残っていたコーラを両手で持って飲みながら、二人の近くへ追いつく。飲みきってからふと思う……瓶コーラはガラス、ということは簡単に捨てられないじゃないか、と。カルマくんが普通に武器にして、割って、投げ捨てた分は見ないことにして、王冠を一応つけ直しカバンに入れる。
自然と駅の改札を通りながら、話す私たち……あ、ひさしぶりに3人揃ったんだ。
「でさぁ渚君。聞きたい事あるんだけど。殺せんせーの事ちょっと詳しいって?」
「……う、うんまぁ……ちょっと」
「あの先生さぁ……直接タコとか言ったら怒るかな?」
「……タコ?うーん むしろ逆かな、自画像タコだし。ゲームの自機もタコらしいし。この前なんか校庭に穴掘って『タコつぼ。』……っていう一発ギャグやってたし……まあまあウケてたし先生にとってちょっとしたトレードマークらしいよ」
「……ふーん……そ~だ、くだらねー事考えた」
「……じゃあ、明日は朝一番に起きて準備、だね?」
「明日はアラーム間違えないでよ〜?」
「うぅ〜……」
「……カルマ君達……次は何企んでんの?」
じゃあ、今アラーム設定するから確認してね、なんて話を続けていた時に、渚くんの疑問が聞こえた。もちろん、そんなの決まってる……
私たちはホームを背に渚くんへと向き直る……私たちの表情(かお)を見た渚くんが目を見開いた気がした。
「……俺さぁ、嬉しいんだ。ただのモンスターならどうしようと思ってたけど……案外ちゃんとした先生で。……ちゃんとした先生を殺せるなんて、さ。…………前の先生は自分で勝手に死んじゃったから」
「いらないモノは、壊してもいいでしょ?みんなが傷つく前に、私たちでお掃除するの……もう、信じて裏切られるくらいなら……最初から壊してあげる」
「…………」
ちょうど来た電車で夕日が反射し、カルマくんの
◆
私たちは朝一番である所に寄り、誰もいない教室へ入る。そして……
「…………」
「……ん?どうしましたか皆さん?」
教室へ入ってきたばかりの『せんせー』はまだ気付いていない……教卓の上にタコが1匹アイスピックで刺された状態で死んでいることに。みんなの視線がそこへ向いていることに気づいたソイツは教卓へ釘付けになった。
「あ、ごっめーん!殺せんせーと間違えて殺しちゃったぁ。捨てとくから持ってきてよ」
わざとらしくカルマくんがソイツを呼ぶ……自分をタコって表現するくらいなんだもん、ちょっとくらいは精神的に来て欲しいよね。
「……わかりました」
……きたきた。私はエアガン、カルマくんはナイフを背中に構える……近くまで来たら、…今日は何本もらおうかな……
……来いよ、殺せんせー
……おいでよ、せんせー
身体を殺すのは今じゃなくても別にいい
体を殺すのは後でいい…いつでも出来る
まずはじわじわ……心から殺してやるよ
まずはじわじわ……精神から殺ってあげる
ソイツはタコを持ったまま、私とカルマくんの間の列を通ってこっちに来る。……あと少しで射程に入る、というところで……上に掲げた触手の先がドリルになった。
「「!?」」
「見せてあげましょう。このドリル触手の威力と自衛隊から奪っておいたミサイルの火力を……先生は暗殺者を決して無事では帰さない」
「!?あッつ!!」
「うくっ…!」
何をする気?生徒に危害を加えられないはずじゃ……そんなことを考えながら、目の前の光景を怪訝に思っていれば、一瞬で口に入れられた出来立てのたこ焼き。そんなの予期しているはずもなくて、二人して慌てて吐き出す。
「二人ともその顔色では朝食を食べていないでしょう。マッハでタコヤキを作りました。これを食べれば健康優良児に近付けますね」
「……ッ…」
「……、…」
「先生はね、手入れをするのです。錆びて鈍った暗殺者の刃を……。今日1日二人とも本気で殺しに来るがいい。そのたびに先生は君達を手入れする」
「「……!」」
「放課後までに君達の心と身体をピカピカに磨いてあげよう」
……そっか、なら言質はとった。好きにやらせてもらおう。
「やってくれたね……殺す」
「まず、朝からたこ焼きの方がやだ……」
「まぁ、授業関係なく仕掛けてこーよ」
「本人がいいって言ったんだもん…」
「……ていうかさ、」
「あちっ、アチチチチッッ!!!!?」
「「(そんな一気に口に入れたら当然だと思うんだけど……バカなの?)」」
++++++++++++++++++++
アニメを見ていて思った疑問。
殺せんせー猫舌なのに、あんな大量にたこ焼きを口入れて平気だったのか?と。
というわけで後書きです。
書いてたら思った以上になりまして、もう一つにわける事にしました。わけないと、これ、長すぎるものになりそうだったので……もっと長くてもいいよって人がいましたら教えてください。
次回からは長くてもわけずに行こうと思います。
実はカルマと渚と一緒にいる時と、他の人がいる時ですこーしだけ、オリ主の話し方が変わってます。……あんまり変わりませんね!反省です。
では、今度こそホントに次回は二択の時間…!
あ、ちなみにソフィーユさんは英雄伝説碧の軌跡の歓楽街でジェラートの売り子さんです笑