力を認め合える相手と全力で
「──それまで!」
暗殺をすることが1番の目標とはいえ、暗殺教室の生徒である以前に私たちは中学生……今、この時間だけは目の前の問題を倒さなくちゃいけない。2学期期末テスト……内部進学のため受験の必要ない本校舎の人たちと、内部進学の資格がないからどこかの学校を受験しなくちゃいけないE組とでは、3学期から授業内容が変わってしまう。つまり、同じ条件で同じテストを受けられるのは今回が最後……1学期から争ってきたE組とA組の因縁も、明確な勝敗が出る勝負も、これが最後ってことだ。
まずは1教科目の英語……最初の数分を使ったヒアリングは、とにかく早いし質問文の単語数が多い。選択肢は似たようなものばかりで、選ぶものだけならいいのに、最後に簡単な虫食いを埋めなくちゃいけない問題まであった。
「ヒアリングエグかったな……ビッチ先生でもあんなにボキャブラリー豊富じゃねぇよ……」
「あんな言葉、使わなくてもこっちの単語で意味通じるのに……」
「ビッチ先生ので慣れてるからこその悩みだよね」
E組はイリーナ先生のネイティブな英語を聞いてるのにこの手ごたえのなさ……イリーナ先生の場合、会話術に重きを置いてるから、難しい言葉を使わなくても自分の気持ちを伝えられる術を教えてくれてるから、発音は完璧に理解できても文章として理解できるかは別なんだろう。むしろ選択肢を見て「こっちの単語で話してたらこの答えなのに」って迷うものが多かった。いかにわかりやすく伝えるかを学びすぎた弊害……なのかな。
もちろん英語のテストはヒアリングだけじゃない……筆記もかなり手強かったし、なにより。
「ダメだー……解ききれんかった……」
「難しい上に問題数が多すぎるよ〜」
「これがあと4教科も……」
陽菜乃ちゃんが言ってるように、50分で解く量じゃないって数の問題があって、最終問題までいけなかった人は1人じゃない。1つのテストを受ければ、何となくだけど今回のテスト全体のレベルが伝わってくるし、そこからペース配分も考えたりするんだけど……まさか最初の1つをこなすだけでこんなに消耗するなんて。
この後、英語とほとんど変わらない難易度の社会、理科のテストを受けて確信した。こんな難しいテストが続くってことは多分……学年全体の平均点ラインは今まで以上に低くなる。今回の期末テストは、できたかできなかったかの差がハッキリわかってしまうものになる。
「あー……次は国語か。そういえばA組の奴らはどうなんだ?」
「休み時間に覗いてきたけどよ、それはもう滾ってたぜ……ただただ狂ったように集中してる。憎悪ってあんな強いパワーになるんだな」
「……三村、お前よく覗きに行く余裕あったな」
「しかもバレずにだろ?」
「いやー……気になりすぎて、つい」
テストとテストの間にある、10分間の短い休憩時間……荷物を置いてる廊下に出て参考書やノートを読み直す人がいれば、教室に残って気分転換におしゃべりをする人もいる。他にもあんな会話がある通り、三村くんのように敵情視察として他クラスの様子を見に行く人も。ちなみに私は……
「どう、テストの出来は?」
「今の所だいじょぶ、かな……うん、見直しする時間も一応取れてるし」
「俺もそんな感じ……五教科はあと2つか」
「だね。……ふふ、なんか不思議。個人でテストを受けてるはずなのに、E組のみんなで1つの
「ま、今回のに関しては特にクラスで達成したい目標だしね」
「その通りダス」
「「!?」」
毎休み時間、カルマと2人で話して過ごして、できる限り根を詰めないようにしていた。ただでさえ今回のテスト内容は難しい……休み時間まで勉強してたら疲れちゃうしテスト中に集中が切れてしまうのが目に見えてるから。カルマも私と同じタイプのようで、ノートも何も持たずに軽く体のストレッチをしながら話していた……ら、突然聞きなれない声が割り込んできた。
「……あ、仁瀬ちゃん」
「アミサさん、今私は律さんの代わりとして来てるダス。だから呼ぶなら『律』、もしくは『ニセ律』と」
「……ニセ律さん、そこなの?気にするとこ……」
「仲のいいお二人の会話を邪魔してしまったのは申し訳ないダス……でも、お二人を含めてE組の皆さんに、できたら聞いてほしいことがあるダス」
私とカルマの机の近くに来てくれてた仁瀬ちゃ……いや、ニセ律ちゃんの声は、試験日だからこそ、そこまで大きな喧騒もないこの試験会場に響いて、そろそろ次のテストだと席に着き始めていたE組のみんながこちらに意識を向けてきた。ぐるりと教室中を見回して大体の人が聞いてることを確認してから、彼女は再び口を開いた。
「律さんから話を聞いてるダス、全員50位以内が目標だとか……本物の律さんはこう分析してたダス。『その目標を達成するには、私のような成績下位組の頑張りにかかっている』と」
「……なるほどね、確かにそうだよ」
「順位は上がってきてるとはいえ、トップランカーに比べたら順位が下なのは事実……10位以内常連が
「……やってやろーじゃねーか!」
それを聞いたE組生が目の色を変えた。今回の私たちのテスト目標は、1学期期末テストのようにどれか1つの教科でトップを狙うという一点集中の方法では達成することはできない。とにかく全教科で高得点を狙う……基礎問題をなるべく早く片付けて、ラスト3問の高得点問題に全力をぶつける必要がある。
成績下位組……ここでは50位以内に入ったことのない人たちとする……は、とにかく少しでも点を稼ぐこと。成績上位組は上位をキープしつつさらに高みを目指す。自分のためだけじゃない……文字通り、みんなで戦ってるんだ。
「──始めっ!」
試験監督の先生が教室に来て、開始の合図を出す。……さあ、あとは国語と数学の2教科を残すのみ……全力で、殺ってみせる!
++++++++++++++++
前原side
「(うわ、数学も問題数ハンパないな……)」
「(攻撃箇所を迷っていたら、あっという間に時間切れだ)」
「(寺坂の方から物凄い
「(あんのタコ……ッ!バカだからってバカにすんなよ!!)」
「(おいおい……普通
「…………、……」
──不思議だ。
テストってヤツは、筆記用具の動く音だけが響く教室で受けてるはずなのに、個人で戦うものだからそこに『誰か』は存在しないはずなのに。同じ紙面で問題に向き合ってるからなのか、俺の周りにはE組のクラスメイト達が一緒にいるような感覚がある……まるで、コイツらがすぐ隣で武器を手に話している声が聞こえてくるようで。あ、ちなみに武器を向ける相手は殺せんせーじゃねーぜ?問題っていうよりも、難しすぎて誰もが問題を問スターだって言い出すくらいの、テスト問題が相手だ。
「(どうせウチら、エンドのE組だしね。カッコつけてないで、泥臭く行かなくちゃ)」
寺坂が公式使えば数行で終わる問題を、まさかの全部書き出すって戦法で解いてるのを鉛筆を動かす音で感じ取り……隣の席で同じようにテストを受けてる岡野が何となくそう言った気がした。……そうだよな、テストでカッコつけんのは〝アイツら〟に任せておけばいい……俺がカッコつけんのは、現実の女の子の前だけで十分だわ。
問題数が多くて間に合うかわかんねーってなら、問題を見た瞬間にどこに時間をかけるかを決めなきゃなんねー。たとえそれが正規の方法じゃなくても……たとえ正解までたどり着けなかったとしても……アプローチさえ正しければ、その分だけ部分点をもぎ取れる!
「(よっしゃ、多分これ殺ったんじゃね!?)」
「(見直してるヒマねーぞ!次だ次!)……ッうお……!?」
確かに
その時、ここで引きたくなくてしがみついていた問題をもう一度見直してみると、さっきまでは何も無かった空間に……E組の中でここまで全然姿が見えなかった、見慣れた2人の姿を見た気がした。
「……っ!カルマ、真尾!」
「(へぇ、しがみつく根性あるじゃん前原)」
「(前原くん、コレは先週カルマが教えた特殊解に持っていけば解けるよ。……ほら、支えてあげる……上がっておいで)」
「…………おう!」
手に特殊解という
「(はは、いいじゃん。殺る気になってんなら完璧に
「(……がんばって。私たちは先に進んで、みんなの
「(間に合うなら見直しでもしてみれば?焦らずに殺れば
そう言って視線を前に向けた2人は、もう俺の事なんて見ていなかった。……そりゃそうだ、コイツらの見てる場所は俺の居る場所で終わりなわけが無い。2人の見つめる
多分……いや、絶対に学年全体の半分がこの漸化式の後に待ち構える数学テスト最終問題、むしろここまですらたどり着けなかっただろう……俺みたいに、とりあえず全部の問題の出来るところまで手をつけてるって奴以外では。きっと、残りの半分も最後まで解く力は残ってない。チラ、と時計を見てみれば残り時間は10分も無いし……これで満点を出せる奴がいるとすれば。
「……あとは頼んだぜ、
赤羽業、浅野学秀、真尾有美紗……コイツらだけだ。
◆
数学最終問題
【右の図のように、1辺aの立方体が周期的に並び、その各頂点と中心に原子が位置する結晶構造を体心立方格子構造という。
◆
カルマside
「…………」
……渚君が昔からよく言ってたっけ。
『はぁ……同じ人間なのに、どうしてここまで差がつくんだろう……やっぱ、カルマ君は才能が違うね』
……よく言うよ。
大人しい顔して鷹岡を倒したり、一応プロの殺し屋であるビッチ先生に気付かれずにサイズシールを剥がしたり……俺に言わせりゃ、本物の天才はどっちだって話。
要するに、人間は皆……他人の
杉野みたく、あっさり人の輪に入っていける奴。
奥田さんみたく、好きな事にはバカみたいに没頭できる奴。
寺坂みたく、何にも考えないで動ける奴。
どれも俺から見りゃ才能だ。
どんな奴にも……俺には見えない才能の領域があって、俺にだって皆から見えてない才能の領域がある……そういう意味じゃ皆同じだ。
……で、問題は……俺の才能でこの問題が見えるかだけど……
「……やっべ、これ絶対時間足りなくね?」
手が付けられなくて、思わず頭を抱えながら問題文をはじめから最後まで何度も読み込む。
……別に、聞かれてる意味が分かんないってわけじゃない。
問題の要点は至ってシンプル……【他のどの原子よりもA0に近い点の集合がつくる領域をD0とする。このとき、D0の体積を求めよ。】ってことでしょ?
ただ、クソ真面目に解いてたら、絶対に制限時間内に終わらないし、そもそも
隣の席でテストを受けるアミーシャの席から、何かに気付いたのか……物凄い速さで鉛筆を動かしている音がする。
……俺が放棄した、大量の計算式を書いてるんだろう。
やっぱそれしか方法はないのか……?
絶対に時間が足りないテストの最終問題に、これを持ってきた、出題者の意図は……?
どこかに見落としが……何か……何かないか……?
もう何度目になるのか、問題文を最初から読み直そうとした時、音が消えた……俺の隣で猛スピードで鉛筆を動かしていたアミーシャの手が止まったんだ。
カンニングになるから様子を見るわけにはいかないけど……耳を澄ませてみたら指で紙をなぞる音がする。
次の瞬間、彼女が小さく笑う声が聞こえて、少しだけ鉛筆を動かした後に……彼女は消しゴムで今まで書いてきたのだろう大量の計算を消し始めた。
って、ええぇ……そこまで頑張って全部消しちゃう……?
でも、裏を返せば必要な計算はそれだけでいいってことだろ……
もう一度問題文を読み返す……、
…………、…………?
今、何か引っかかったような……
……【立方体が周期的に並び】……?
「……ッ、待てよ……コレ、難しい計算なんにもいらなくね……?」
この狭い1つの
つまり、世界は俺のいる
そして、俺から見れば皆が自分の才能を……領域を持っていて、それは皆にとっても同じって事!
俺が箱の中から見ていたのは……皆の欠片にすぎないんだ。
俺が目いっぱい自分の領域を主張したら……他の皆も同じように主張する。
皆同じ大きさで、同じ間隔。
それを1つの箱で切り出すと……8つの箱に同じ比率で分かれるということだから、皆の欠片は1人につき8分の1になる。
箱の中には俺がまるまる1人と、周りの8人が8分の1ずつ存在してる……つまり、この立方体の中で俺と他の8人を合わせた領域の比は、必ず1対1!
箱の中では1対1だから、俺が主張できる領域の体積は……立方体の半分までだ!
「……なぁんだ、小学生でもわかるじゃん」
……長々と計算しなくていい。
……複雑な図形を考えなくていい。
……ただ……
自分の外にも世界があるって気付けたら。
++++++++++++++++
浅野side
……【原子】とか、【体心立方格子構造】とか……余計な言葉に惑わされてはいけない。
問題の要点は至ってシンプル。
【他のどの原子よりもA0に近い点の集合がつくる領域をD0とする。このとき、D0の体積を求めよ。】
……『敵に囲まれたこの箱の中で、自分の領域の体積を求めよ』だ。
力が互角の両者の攻撃は、ちょうど中間でせめぎ合う……つまり、そこから内側が僕の領域。
立方体の中は8体の敵に囲まれている……つまり、せめぎ合った外側の領域8個分の体積を求め、
この空間を完璧に把握すれば、正解となる。
空間の支配、僕にぴったりのテーマじゃないか。
……親とは違う支配者の形。
今の父は、『憎み、蔑み、陥れる事で強さを手に入れる』という自らの合理教育が正しい事を証明するのに取り憑かれてる。
それは人を壊しこそすれ、育てはしない。
……僕が間違いを証明する。
E組に父の合理を崩させ、さらに僕はそのE組をぶっちぎってトップを取り、この
支配する事……それが僕の親孝行だ!
「……っ見えた!領域1個の体積は三角錐3つと六角錐1つの集合体だ!」
『体心立方格子構造において、A0と点A~Hは全て等距離にある。そして、A0と各点の間の各辺の中点を結んで繋いだものが境界となり……』
大量の計算は必要となるが仕方ない……必ず時間内に……!
────キーンコーンカーンコーン
「そこまで!」
「くっ……」
『……よって、(立方体の体積)-8×{3×(三角錐の体積)+(六角錐の体積)}=a³-8×(3×……』
「浅野君、終わりだよ」
……あと1行!
「……くそ、分かっていたのに……!」
++++++++++++++++
……体心立方格子構造ってことは……立方体の中にあるA0も、その各頂点も、同じ原子が配列されてるってこと。
……つまり、立方体の中心って扱いをしてるA0を1つの頂点として立方体を作っても、その中心にまたA0´が生まれるわけだから、私が求めようとしてる答えはこっちで考えても同じってことになる。
問題文で【ある原子】って言ってる時点で、どの場所の原子を使うのかって決まってるわけじゃないし……あれ、これって……
……1つの立方体って区切って考えなくても……立方体は内側にもあるってこと……?
つまり、A0を1つの頂点に含めた立方体で、対角に位置する頂点の間をちょうど半分に区切った領域がA0の領域と対角の頂点の領域……それが8個の頂点分あるから、それを全体の立方体から引けばA0の体積になる!
……作図してみると、わけのわからない図形ができたんだけど……これ、三角錐とか六角錐に分けて考えなきゃダメなの……?
補助線引いて、三角錐をつくって、ここからいらない分の三角錐を引いた方が早い気がする。
で、それが8個あるわけだから……
ガガガッと音がするくらいの勢いで鉛筆を動かしていたら、ふと気がついた。
…………、…………
……あれ、私、さっきなんて考えたんだっけ。
……『1つの立方体って区切って考えなくても立方体は内側にもある』
……『A0を1つの頂点に含めた立方体で、対角に位置する頂点の間をちょうど半分に区切った領域がA0の領域と対角の頂点の領域』
A0を中心とする立方体も、A0´を中心とする立方体も……同じ物質を頂点にしてるから、立方体の大きさが違っても主張してる領域の体積は同じになる。
てことは、別にA0´の立方体で必要ない体積を求めて、わざわざA0の立方体の体積からそれを引かなくったって……答えは同じになるんじゃない?
「……あは、なぁんだ……難しい計算なんて全然必要なかったんだ。……ていうか私、最初から答え出してるのに」
【原子】ってことに着目すれば、この答えはすぐに分かる。
ここまで問題文で何回も繰り返し説明されてるんだもん……重要じゃない情報なわけがないよね。
答えは、
1辺aの立方体の面積×1/2=a³×1/2=a³/2だ。
……さて、余計な情報って判断されたくないし……残り時間でこの大量の計算式を消しちゃわないと。
◆
こうして、怒涛のような期末テストは終わった。
そして、3日後……
「……さて、皆さん。集大成の答案を返却します。君達の刃は……
──ヒュヒュッ、ピピピッ
「「「!!」」」
「細かい点数を四の五の言うのはよしましょう。今回の焦点は……総合順位で全員トップ50を取れたかどうか!本校舎でも今ごろは……総合順位が張り出されているころでしょうし、このE組でも、順位を先に発表してしまいます!」
1学期の期末テストのように、1教科ずつ点数や順位を発表することなく……殺せんせーは固唾を飲んで結果を待っている私たちに、マッハで答案を返却した。みんなが1つ1つのテスト結果を確認する間もなく、殺せんせーは黒板に期末テストのトップ50までの大きな順位表を貼り出している。
私以外のE組全員がテストを片手に、順位表を見ようと席から立ち上がって黒板へと近寄っていく。……1人自分の席に残った私は、そんなみんなの背を見てから自分の答案に目を落とし……赤ペンで大きく書かれた数字を確認して、それを机の中に押し込んでから、席を立った。
渚side
「「「…………」」」
皆、無言だった。最初に自分の順位を探し、その後に寺坂君の名前を探す。50位以内に入ってるかどうか……E組29人全員の名前が載っている事を確認するよりも、……言い方は悪いけど、僕等の中で最下位の成績である彼の名前を探した方がすぐに結果がわかるからだ。
……果たして、寺坂君の名前は……
「……うおおっ……」
「……お、俺が……46位……」
「
「その寺坂君が……46位……ってことは!」
トップ50の順位表に、彼の名前が載っている。つまり……!
「「「やったぁ!!」」」
「全員50位以内、ついに達成!!」
皆、顔を見合わせて思わず手に持っていたテストを投げるほど、跳んで、ガッツポーズで、手を取り合って、喜びの歓声を上げた。
「ふー……」
「どうですか、カルマ君?高レベルの戦場で狙って1位を取った気分は?」
「……んー、別にって感じ」
「完璧を誇った浅野君との勝敗は……数学の最終問題で分かれたそうです」
「ああ、……あれね。なんかよくわかんないけど……皆と1年過ごしてなきゃ解けなかった気がする。……そんな問題だったよ」
口ではあんまり興味無さそうに話してるカルマ君だけど、ホッとしたように1つ息を吐いてる……少しだけ照れたように頬を染めてるところを見ると、緊張はしてたんだろうね。
この時、喜びあっていた僕等は気付いてなかったんだ。最初からめんどくさがらずにE組全員の名前を確認していればよかったのに……
「俺さ、数学のテストで……どれだっけ……そう、漸化式!最初は詰まってたんだけど、最後の最後でカルマと真尾に引っ張りあげられたんだよ。『先週教えた特殊解に持っていけば解ける』『殺る気になってんなら完璧に
「あ、お前も?俺もE組の奴らがすぐ側で一緒に戦ってるように感じたんだよな〜。てか漸化式で満点とかよくやったな!」
「本当にスゲーよ!それに上位争いも五英傑を引きずり下ろしてほぼ完勝ってな!そして1位は初のカルマでまさかの500点満点!……って、あれ……?」
「……どうした?」
「……、……真尾の名前は……どこにあるんだ?」
「…………え?」
前原君と杉野がテストを見せ合いながら話していた声で、E組皆が1つの目標に向かって1つの敵を倒そうとしていた感覚が僕だけじゃないって事がわかった。そして、僕も会話に混ざろうと杉野の近くに行こうとした時だった。前原君が杉野と話すために順位表から目を離し、バッと勢いよく二度見して……少ししてからポツリと呟かれた言葉は、喜びの声でざわざわとしていた教室に何故か響いて。ピタリと教室の中の歓声が静かになった。
慌てて順位表を上から確認していく……1位:赤羽業、500点……2位:浅野学秀、497点……3位:中村莉桜、461点……4位、5位、6位。そのまま最後まで見ていったけど、どこにもアミサちゃんの名前が書かれていない。
「……どういう、事だよ……」
「アミサちゃんが、トップ圏内どころか50位にすら入ってないなんて……」
ざわざわとしだす教室。
殺せんせーも結果は知らなかったらしく、慌てて何度も確認したり順位表を裏返してみたりしてる……って、さすがに裏側には書いてないと思うんだけど。ふと教室を見回してみるとアミサちゃんの姿がなかった。
「あっ、カルマ君!」
何かに気付いたのか弾かれたようにカルマ君がアミサちゃんの机に向かっていき……全く遠慮のない手付きで彼女の机の引き出しの中に手を突っ込んだ。
「ちょ、何してんの!?」
「カルマ君、さすがにプライバシーとかあるし……」
「………………見て」
「「「!!?」」」
彼氏だとしてもさすがにその行為はやっちゃいけないんじゃ……そう思って止めようと駆け寄った僕等の前に突き出されたものは、彼女の答案用紙で。
そこには赤いペンでこう書かれていた。
1000
……と。
「うそ、アミサちゃんが0点……?」
「しかも、全教科って……」
「これ、おかしくない?白紙ってわけじゃないし、回答だってしっかりされてる……採点されて全部〇が打ってあって、100点とも書いてあるのに」
「……上から、消されてますね。横に大きく0点と書かれてます。……全教科同じで……なんで、カルマ君と同率1位の500点満点じゃないんですか?」
「…………これだ」
「カルマ君?」
「名前の記入欄、見てみなよ」
「「「!!」」」
「なんで、名前書いてないの……?」
「そんな……」
「……なんで、いきなりこんな事したんだ……?」
++++++++++++++++++++
二学期期末テスト・2時間目でした。
今回はアニメを少し参考にして前原君視点を入れてみました。みんなで漸化式の問スターを倒そうとしている時に、一斉射撃をしながら「効かない」って言っている中、前原君だけ(足元から問スターが現れたのも理由でしょうが)しがみついて上へ……カルマが特殊解の手榴弾を投げ入れた場所に誰よりも近づいていました。ということは、ほかの問題はいざ知らず、ここでは唯一正解に近かったのでは?と解釈した結果、今回のような立場に。この時を誰視点にするかでだいぶ迷っていたので、これを思いついた瞬間に採用しました。
次に、数学の最終問題は、カルマ、浅野君、オリ主の順でそれぞれ解決させました。
カルマと浅野君は原作通りです。オリ主に関しては、作者が体心立方格子構造やこの問題の解き方を考えている時に思いついたことです。カルマは【立方体が周期的に並び】という言葉に着目していましたが、問題文では別にどの原子に着目すると明言されていません。と、いうことは、8個の立方体の中心がA0と考えて、カルマと逆の見方もできるよね、となったわけです。ここで、カルマが気付いた【自分の外にも世界が広がっていること】と、オリ主が未だに【内側に閉じこもって外を見ていない】という姿を対比させてみました。
あとは……名前ですね。
感想でご指摘頂き、一部修正しました。
作者の方でも『テストを無記名にした場合』について調べましたが、学校内ではセーフなことが多いみたいです。テストの回収時に書かせてもらえたり、注意ですんだり、-何点かですんだり……模試で偽名を使い、成績通知に変な名前が載る事もあるのだとか……。ただ、作者自身が書き忘れで0点にされたことがあるという点、入試などでは受験番号などとの照らし合わせでも判明しない場合など(たまにあるらしいです)では0点扱いになるという点などから、大きくは変えないことにします。
次回のお話で、何故無記名で書いたのかなどを明らかにする予定です。教員試験の時間にも入ります。
……気が付いたら1学期期末テストのカルマとオリ主が逆の立場になってました、びっくりです。
長くなりましたが、捕捉と次回予告でした。