暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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今回は完全オリジナルになってます。
前半は前話の続きですが、読み飛ばして後編を読んでもお話は繋がるようになってます。


学園祭の時間~1日目・中編~

カルマside

それは、五英傑とアミーシャのバンド演奏が始まってすぐのことだった……明らかに前奏の途中、まだ歌は始まらないというのにマイクを構え、息を吸い込んだアミーシャが目に入ったのは。

 

「……Ah────ッ!!」

 

直後、会場に響き渡ったのは高音域のシャウト……低い音から高い音へ、発された彼女のフェイクが、クレッシェンドするように音程が上がると同時に声量も上がっていく。しかも長い。浅野クン達五英傑がギョッとしたように彼女に顔を向け、やってくれたなとばかりの笑みを浮かべたことから、これは完全に彼女が打ち合わせもせずに独断でやったオリジナルのアレンジだったんだろうことが分かる。まあ彼女の事だし、もしかしたら無意識にやってる可能性も捨てきれないけど。……ギョッとさせられたのは彼らだけじゃなくて聞いてる観客もだったんだろう。あの小さな体のどこから出てくる声なのかってくらいの声量と音域……大人しく、人から逃げるように縮こまっていた本校舎時代の彼女しか頭になかった奴等にとっては、信じられないんじゃない?

 

 

 

夢を追いかけて ボクは理想に迷う

信じた道、進む道

それが間違いなんて知らなかった

外の世界が 信じた世界が

みんながボクを嫌って見えた

 

ここには居られない 居たくない

一人外に飛び出した

逃げ回って走り疲れて

隠れたくてうずくまって

……もう何も見たくない!

 

信じてついて行ったって

キミもいつかは裏切るんでしょ?

それで傷つくくらいなら

最初から信じなければいいのかな……

 

 

 

「……この歌……なんか、」

 

「E組の境遇に……アミサちゃんに似てる気がします……」

 

ポツリと零された渚君や奥田さんの一言で歌声だけでなく歌詞にも注目を向ける事になる。確か、演奏する楽器を指定したのは浅野クン達で、選曲したのはアミーシャだったはず……E組(クラスメイト)には衣装や当日の付き添い、浅野クン達への要求は考えさせてくれた代わりに、何を歌うのかとかは全く知らされてなかった。というか頑として彼女が教えてくれなかった。ただ、ステージに立つことを決めた彼女は、その日のうちにE組全員を見ながら一つだけはっきりと告げた。自分は不器用だから普段言いたいことがうまく伝えられない分、頑張って歌ってくる、と。

 

 

 

一人戦う強さ ボクには無かったから

信じること、進むこと

全て諦めようとしてた……なのに、

閉じた世界、暗闇の世界に

キミが手を差し伸べてきたんだ

 

一人は怖い でも不器用なボクは

手を取ることすらできなくて

迷って悩んで その手を

振り払って立ち止まって

……どうすればいいか分かんないよ!

 

 

 

──俺等に全く話そうとしなかったその答えが、きっとこの歌なんだろう。

歌詞の主人公と同じようにどこか泣きそうな……それでいて訴えかけるような歌声が、マイクを通してではあるけど会場中に響き渡る。きっと、撮影してる律を通してE組の飲食店にもこの歌声は届いてるんだろう……律の事だし、音量調整とかも音割れハウリングなくバッチリなんだろうね。映像を通してでも、きっと歌に重ねられるアミーシャやE組生の思いに、感情移入してしまうほどの迫力だと想像出来る。

そんな歌を、映像ではなく目の前で生の声として聞いてる俺はといえば、頭の中で様々な彼女やE組での場面が駆け巡っていた。

 

出会った頃から、この学園で公然とされた『E組差別(当たり前)』を嫌っていた異端(正義)のアミーシャ。俺や渚君と波長があって、結構早い時期から懐いてくれた可愛い妹のような……後の愛しい存在。……なのに、信じていた先生に捨てられて、数少ない裏切らない相手以外は信じることをやめようとしていた。

 

2人してE組に落ちて、反発しかなかった俺等に手を伸ばし続けた殺せんせー。そしてなんだかんだと俺等が受け入れ、俺等を受け入れてくれたE組のクラスメイト達。少しずつ様々な問題を解決して、仲間も増えていって……大きな壁に何度も立ち向かった、今では信じてもいいかと思えるもう二度と出会えないだろう居場所。

 

 

 

うずくまったボクに キミは言った

『大丈夫 泣かないでよ』って

『僕だって ずっと立ち止まってた

でも今はみんながいる

外の世界は案外優しいから

……君は一人なんかじゃない!』

 

あれだけ迷ったその手を

掴むのはすごく簡単で

握り返された温かさに

そっと涙がこぼれた

 

一人で戦う強さなんか

失う強さなんか 持ってないけど

ここでなら キミとならきっと頑張れる

……そんな気がしたんだ

 

 

 

最後まで力強く歌いきり、程なくして五英傑のバンド演奏も終わる……シン、と静まり返った会場に聞こえるのは、マイクが微かに拾ったステージ上の6人の荒い息遣いのみだった。額の汗を拭ったアミーシャは、あまりに観客の反応が薄いせいで、マイクを握ったまま歌っていた時の真剣な顔つきとは打って変わって不安そうに視線をゆらゆらと揺らしているのがわかる。静かすぎてどうしていいか分からないって思ってるんだろうけど、多分みんな圧倒されて動けないだけだ。悲しい一人ぼっちが仲間を得て前を向く、そんな歌を歌いあげたアミーシャに。歌を邪魔することなく、それでいて各々の楽器の個性を全く殺すことの無い五英傑のバンド演奏に。

五英傑はどうでもいいけど、流石にこの静けさの中に彼女を放置しておくのは忍びなくて、乱入してやろうか、なんて思い始めたその時。俺の隣から……正確には奥田さんから一つの拍手が響いた。それを皮切りに、神崎さんが、渚君が、杉野が……当然俺も。そして息を吹き返したと言わんばかりの会場には、割れるような拍手の音が鳴り響く。普通なら反応があってホッとする場面だろうに、拍手の大きさに逆にビビって逃げようと後ずさってるのがなんとも彼女らしい。

 

『さて、これで僕がE組とはいえ彼女を招待した理由がわかっただろう。ここまで他人(ひと)を圧倒させる才能の持ち主を一重にE組だからと埋もれさせるのはもったいないからね』

 

「……っ、さすがは浅野君だ!」

「E組なんかでも目を配ろうとするなんて!」

「五英傑、演奏最高だったよ〜!」

「浅野せんぱーい!」

 

「……浅野君達だって圧倒されてたよね……」

 

「よく言うよな〜、しかもいい感じにA組有利にまとめやがった……E組(うち)には埋もれさせちゃいけない奴はまだまだいますよーっと」

 

「そんなのどうでもいいからアミーシャの肩から手を離せよ浅野……マイクくらい自分で持てよ離れろ」

 

「ちょ、どうでもいいって;」

 

「ほんとブレないね、カルマ君……」

 

後ずさるアミーシャを支えるように近付いてきた浅野クンは、彼女の肩に手を置くと持ったままだったマイクに顔を近づけて話し始めた。渚君と杉野は浅野クンのスピーチに色々ボヤいてるけど、俺にとってはあの距離感の方が気になる……近いんだよ、離れろ。アミーシャが持ったマイクにわざわざ顔近づける必要ないだろ離れろ。

今にも飛び出してやろうと足を踏み出した俺が、観客側にいた4班(アミーシャについて行った茅野ちゃんを除いた全員)に抑えられた頃……浅野クンがようやくアミーシャにそろそろ宣伝をと促したようだ。……こっちを見てどうだとばかりに鼻を鳴らしたように見えたのが無性に腹が立つんだけど!アミーシャはといえば、軽く浅野クンに押し出されてオロオロしてたけど、楽屋側、多分茅野ちゃんが見てるんだろう場所を確認したあとに俺等の方を見て、俺を押さえつけようとする杉野と渚君、なだめようとそれぞれ手を伸ばす奥田さんと神崎さんっていう謎の状況に小さく笑ってから前を向いた。

 

『……E組では、今、たくさんの挑戦をしています。みなさんから見て、落ちこぼれでもいい。……異端だって、言われてもいい。その分、あそこでしか学べないことを学んでます。その、ひとつの集大成が今回の学園祭……私たちがE組だからこそ作ることができた、山の幸を使った食べ物たちです。…………その、きっと、もうお腹いっぱいな人もいるでしょうけど……まだ、明日もありますし……。……え、と…………ぜひ、この2日間でしか味わえない、私たちのお店に……きて、欲しいです……!……もうムリです……ッ

 

わ、わぁっ!?……もう、アミサちゃんったらぁ……よく頑張ったね……

 

『……A組のステージに出てもらう代わりにE組の出店の宣伝をしてもいいことにしてたんだけど……えっと、真尾さんは人前に立つのがだいぶ苦手だから……うん、頑張ってくれた彼女にもう一度大きな拍手を。……それから、椚ヶ丘の学園祭はまだまだ続く。皆、楽しんでいってくれ』

 

最初は結構スムーズに宣伝できていたのに、後半になるにつれて……特に一番大事な客寄せのセリフを言う頃に「多くの人に見られている」という状況だと思い出したんだと思う。だんだん声が小さくなって詰まり始め、最後には顔を真っ赤にして逃げ出した……アミーシャにしては、かなりもったほうだと思う。浅野クンに押し付けられたマイクには、楽屋入口で飛びつかれたんだろう、茅野ちゃんの驚きとアミーシャを労う声が入ってたけど、きっと本人達は気づいてないんだろうね。浅野クンも照れるなり言葉に詰まるなりは想定していただろうけど、まさか終わりの宣言もなしにステージからアミーシャが逃げるとまでは予想してなかったのか、少し戸惑ったようになんとかまとめていた。

パラパラと再び響いた拍手にようやく俺も力を抜く……ちょっと、そこの渚君と杉野(二人)、ため息つかないでよ。飛び出そうとはしたけど暴れてはないじゃん、失礼な。

 

「何はともあれ、今日最大のミッションは達成かな」

 

「ですね……強いて言うなら、緊張とかで疲れきってるアミサちゃんのケアかな?」

 

「ほとんどカルマ君の役割になりそうですけどね……」

 

「ま、なんにせよE組に戻り次第シフトだし、少し腹に入れつつ帰ってくるのを待とうぜ」

 

能天気にせっかくタダなんだからと料理を取りに行く杉野を横目に、俺等はアミーシャと茅野ちゃんの帰りを待つ。何か予想外でも起きない限り、今回の学園祭の中でもかなりの大舞台を終えたとも言っていい俺の恋人と、かなりアウェーだっただろう空間まで付き添ってくれた茅野ちゃんに、どう声をかけようかどう労おうかを考えながら。

 

 

 

 

 

……まさか、予想できるはずがないよね。浅野クンを除いた五英傑に付き添われた2人が、戻ってくるなり俺を避ける、なんてさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どうしたのよ。帰ってくるなりこっち逃げ込んでくるとか……ステージは成功だったんでしょ?」

 

「さっきよりはお客さん増えてるもんね〜」

 

「カルマ君はカルマ君で、不機嫌なのかどうしていいか分からないって微妙な顔してるし」

 

「…………」

 

E組の山に帰ってくるまで、私はほとんど話さなかった……ううん、正確にはカルマとほとんど話さなかった、かな。私から話しかけることもなければ、話しかけられても程々で切り上げて避けるのを繰り返し、不機嫌そうに私を捕まえようとする手からも自然な動きで避けては女性陣の中に逃げ込んでいた。ケンカ、したわけじゃないし……多分カルマが悪いわけでもなくて……私が信じられないだけ、なんだけど。

今もシフトに戻ったには戻ったんだけど、なんとなくカルマと顔を合わせづらくて、相談を兼ねて何人かの女の子たちと裏方に回っていた。

 

「茅野ちゃんは何か知らないの?」

 

「……うーん、知ってる……というか、一緒にいたから私も聞いてるんだけど、だからこそ、どうにも納得いかないって言うか……」

 

「なに、その煮え切らない反応」

 

私があまりにも反応なく黙りだったからか、本人じゃなくても何か知ってるんじゃないかってカエデちゃんにも同じ話題がふられていた。カエデちゃんは私と一緒にいたわけだから、もちろん理由を知ってはいる……んだけど、私と同じく困惑してることだろう。嘘ではないんだろうけど信じられない、というか……。

うんうん唸っていた彼女は、まずは疑念の根本から確認していくのが1番だろうと、独り言のように疑問をこぼし始めた。

 

「……カルマ君ってさ、アミサちゃんに一途だよね」

 

「何よ突然」

 

「恋愛でってこと?」

 

「私は本校舎時代はあんまり絡みなかったし、E組に来た時からのカルマ君しか知らないけど、……あの様子を見てる限りはアミサちゃんに一途じゃない?」

 

「一番近くで見てきた渚もそう言ってたもんね」

 

「そうだよね……うーん……やっぱり信じられないなぁ……」

 

「……で、なんなのよ結局」

 

「それがさ……」

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

カエデside

五英傑とアミサちゃんのステージが終わってから……次のイベントの打ち合わせがあるからって私達から離れた浅野君に代わって、あとの4人が観客としてついてきてくれた4班のところまで送ってくれることになったんだよね。

 

「そういえば……お前、いつからかは知らねーけど、赤羽と付き合ってんだろ?……浅野、気付いてるぜ」

 

「……!そ、そういえば付き合い始めた頃からバタバタしてたし、ちゃんと浅野くんに返事もできてない……!」

 

「おいおい、してやってくれよ……ま、どんな返事でも浅野君は受け入れるんじゃないかな?」

 

「むしろ略奪してやるって燃えたりしてな、キシャシャシャ!」

 

「略奪愛……なんだか禁断の愛を感じるね、そういうのも嫌いじゃないよ」

 

「あ、あはは……カルマ君、がんばって……」

 

足を進めながら世間話のように軽いノリで、アミサちゃんが浅野君からの告白にタイミングとかがなくて実はまだ返事ができてないことを瀬尾くんに指摘されたんだ。慌てる彼女に対して何故か、浅野君ならこうするんじゃないか、いっそこんな関係になったら面白いのにって盛り上がる瀬尾くんたち4人……。この場にいないのにいろんな意味でひどい扱いされてるカルマ君と浅野君には手を合わせるしかないよね、……2人して不憫すぎるけど、日頃の行いだろう。アミサちゃんが前に言ってたけど、いろんな意味で似たもの同士だから……なんて、なかなかなカオスな憶測の話題が繰り広げられてた時だった。その爆弾を落としたのは確か瀬尾くんだったと思うんだ。

 

「てか、赤羽って6月くらいに他の女と付き合ってなかったか?」

 

……って。

 

「…………え、」

 

「ま、まさかぁ……だって、あのカルマ君だよ?」

 

「嘘なんかじゃねーよ。俺と元カノが見てるし、なんなら会話もしてる……正直俺が欲しいって思うくらいものすごい美少女だったぞ?まあ、あんだけ仲睦まじいとこ見せつけられたら俺も諦めざるを得な」

 

「瀬尾?」

 

「ンん゙っ……いや、なんでもない。てか、そう簡単に別れるようには見えなかったが……」

 

「…………カルマ……」

 

「……ア、アミサちゃん……」

 

 

 

 

 

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「……っていう」

 

「「「……………………」」」

 

何があったかをカエデちゃんが話し終わった時には、みんなが黙り込んでいた。瀬尾くんが悪いわけじゃない、彼は単に疑問を口にしただけなんだから。 だからと言って怒りたいわけでもなくて……私たちと同じように、本当の話なのかよく分からなくて判断に困ってるんだと思うけど。

 

「いろいろ確認したいんだけどさ……それ、ほんとにカルマ?」

 

「らしいよ?瀬尾くんも最初は信じられなかったけど、その子の兄に確認したらそうだって言ってたって」

 

「ありきたりだけど、プレゼントを買いたいけど分からないからその子についてきて欲しいって頼んだとか?」

 

「手を繋いで腕組んで相合傘して帰ったらしいけど」

 

ますます事実が見えなくなってきた……どうしようもないと言えばそうなんだけどね。だって今から半年くらい前の話だし、又聞きのようなものだから正しい情報とも言いきれない。それに……今、私は嫌われてるわけでもないし……でも、その子に隠れて会ってるとかされてるとしたら……それは、気分が悪い、嫌だ、な。

 

「……ん?待って、それって6月……なんだよね?」

 

「……やっぱり、そこが気になるよね」

 

「当たり前でしょ!運動会くらいまで分かってなかったアミサと違って、確か()()の修学旅行でカルマは自覚したんでしょ?好きな人を自覚した直後にそんな誤解を招くようなこと、するかしら?」

 

「だよねぇ……」

 

そこでカエデちゃんがチラ、と手元のスマホへと目をやった……注文でも来たのかと私も同じように目を落とした私は知らなかった。私を除いたこの場にいる女子のスマホが、律ちゃんを通して別の場所に繋がっていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渚side

「……ということらしいけど、カルマ君、身に覚えは?」

 

「あるわけないじゃん!」

 

「だよねぇ……」

 

所変わってこちらも動けるウエイター陣……事の中心であるカルマ君を僕と杉野で連れて、ちょうど動けた磯貝君と前原君をも巻き込んで、校舎裏に集まっていた。といってもカルマ君に心当たりがあるわけでも、僕等が詳しく知ってる訳でもないから、女子でも話を聞くという茅野に協力してもらって何があったのかを中継してもらった。

結果として……スマホの向こうからはショックを受けてるからなのか、何を言えばいいのかわからないからなのか、アミサちゃんの声が全く聞こえてこないし……カルマ君はカルマ君で心当たりがないみたいで八つ当たり気味にキレてるし。とにかく情報が少なすぎるよね、目撃者が本校舎の……しかも五英傑の一人っていうのがまた難しい。

 

「一応整理するぞ……目撃されたのは6月、見たのは瀬尾と元カノでいいんだよな?」

 

「時期的に……俺が果穂と別れたくらいか。ならその瀬尾の元カノってのも果穂なんじゃねーか?」

 

「とりあえずそうだと仮定するか。で、手を繋いで腕組んで相合傘……仲のよすぎる兄妹説は本人が否定してるし……」

 

「相合傘ってことは雨が降ってる日なんじゃねーか?」

 

「なるほど……で、兄に確認したってことは……その美少女は誰かの妹……」

 

「瀬尾が思わず確認とるほどか……どんな子だったのか逆に気になるな。……俺も見てみたいし声掛けてみたい」

 

前原?

 

「すんません!」

 

磯貝君と前原君とで女子側から出た情報をまとめてくれてたんだけど……前原君の興味が途中で脱線した。彼らしい情報で、分からなかったことも少し詳しくなったと見直しかけたのに……さすがはコードネーム女たらしクソ野郎。

 

「はは、なんか前原の話すこと聞いてるとアレ思い出すなー」

 

「アレ?」

 

「ほら、雨の中前原の元カノと瀬尾に俺等が暗室技術を使って復讐したやつ!アレも女性関係じゃん、懐かしくね?」

 

「そういえばそんなこともやったよね。烏間先生、最初の雷……カルマ君とアミサちゃんだけうまく逃げてたけど」

 

「当たり前っしょ、デートの邪魔されたんだから最低限の関わりだけで」

 

「まだ付き合ってなかったじゃん」

 

「うっさい」

 

杉野が思い浮かべたのは、6月の梅雨の時期……前原君が本校舎の土屋さんと付き合っていたら五英傑の瀬尾君と二股をかけられて、「E組だから」と見下す相手に「E組だから」できる方法で見返してやろうと決行した雨の日の復讐の事だ。あの時は暗殺技術を一般人に使うなって烏間先生からはじめて特大の雷を落とされたっけ……もうアレから半年も経ってるんだ、早いなぁ。

 

「確かアミサちゃんも前原君と兄妹って設定で参加したんだっけ」

 

「そうそう!」

 

「彼女役って言った最初は殺そうとも思ったけどね……」

 

「あれは悪かった、だから落ち着けカルマ……兄妹に見せかけるといえば、ウィッグとメイクであそこまで前原に似せれたのには驚いたよな」

 

「ホントそれな、菅谷様々だわ。役作りのためとはいえ、あん時の『陽斗君』呼びは嬉しかったぜ……、……ん?」

 

カルマ君、終わったことなんだし殺気をしまって……なんて杉野と一緒に止めていたら、磯貝君のお説教から逃げてきて会話に加わった前原君がいきなり固まった。何か考えるようにあごに手を当ててるけど……だんだん青ざめていってるような。

 

「どうかしたか、前原」

 

「あ、いや…………まさかな〜……」

 

「もしかして、何か知ってるの?」

 

「い、いや、勘違いかもしれないし〜……」

 

殺気をしまいきれてないカルマ君からならまだしも、ただ純粋に心配して声をかけただけの僕と杉野からも徐々に後ずさる前原君……これはもう、なにか心当たりがあるってみていいよね。そう思って聞き出そうとした時にはカルマ君が動いていた……静かに前原君に近づき、その肩へ手を置いて……それはもうニッコリと。

 

「……前原……吐け

 

「痛ダダダダッ!はい!申し訳ありませんッ!……そ、その瀬尾が見たっていう兄妹……俺と真尾かもしれねぇ……」

 

「「「『はぁ!?』」」」

 

あ、スマホの向こうからも声が上がった。

 

 

 

 

 

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渚side

カルマ君とアミサちゃんを一緒にして今回の話し合いをすると、避けてるだけのアミサちゃんはともかく、わけの分からないまま避けられる状況にカルマ君は不機嫌になる一方だろうからって男女別々の場所で話していた。だけど、原因がまさかのE組(身内)にあったとは……ここまではアミサちゃんに内緒でスマホを 繋げていたけど、ややこしいことになる前にちゃんと面と向かって共有したほうがいいということになり、僕等が女子達の方へ合流することになった。

そしてただ今、前原君は正座中……なんか前にあったイトナ君の戦車を使った覗き事件がバレた時みたいな状況だけど、あの時と違って前原君一人な上に女子だけじゃなく男子数人にも囲まれてるから……威圧というか圧迫感というか……は、今の方が断然怖い。

 

「前原とアミサが兄妹として行動したのって、あの雨の日だけだったよね?てことは瀬尾の言ってた『確認した兄』ってのが前原なのは理解したわ。……でも、カルマとアミサを恋人って瀬尾が考えてた意味がわからない」

 

「確かにな……真尾の所に急遽カルマを投入したのは覚えてるけど、……あれって確か、瀬尾(自分)に優しくしてくれる女性が、見下す立場(E組)でも下に見れない(成績上位)の奴と仲良くしてる姿を見せるだけじゃなかったか?」

 

「それらしく見せるためにも、擬似恋人のように振舞え〜とはカルマに言った気もするけど……瀬尾と元カノには伝えた奴いないよな?」

 

「……すんません、俺が瀬尾達に『あいつらこそが恋人同士だ』って言いました!」

 

「「「お前か」」」

 

前原君の弁でみんな薄々色んなことを察してたけど、彼がガバリと勢いよく頭を下げながら言った言葉で諸々の犯人はハッキリと判明した。……そういわれてみればあの時には、既に男子の中でカルマがアミサちゃんに好意をもってる事は周知の事実だったわけで……どうせA組なんてそうそうかかわり合いにならないだろうからと事実に近い嘘で心を折りにいったのか。実際はなんだかんだと突っかかりあうせいで、ものすごく関わることになっちゃったけど。今回の件は大事にならず何とかなったからよかったものの……誰にも相談せず、軽率に設定を付け加えたせいで危うく別問題を引き起こすところだった前原君を、岡野さんや磯貝君が中心になって説教している。

それを他所に無事に仲直り……というか、安心したように寄り添ってる2人は見て見ぬふりをしてあげる方がいいんだろう。……とりあえず、もうすぐ午後のお昼時だし、宣伝効果もあってお客さんが増えてくる頃……主戦力のアミサちゃんや()()()()()()()イケメンウエイターとして働いてくれそうなカルマ君、程々に二人の世界から戻ってきてね。

 

 

 

 

 

 

 




「安心してくれた?」
「……うん、その……ごめんね、カルマ。どうすればいいかわかんなくなっちゃって……」
「何、少しはその美少女相手に嫉妬してくれてたの?」
「…………、えっと……、『しっと』、がよく分からないけど……カルマ、私のことを好きって言ってくれたのになんでって……ホントはなんとも思ってないんじゃないかって思って……モヤモヤして、なんかやだなって……」
「それが嫉妬っていうの。……クク、それにしても自分に焼いて自分に怒ってるとか……」
「そ、んなこといったって、それが私だったなんて思わないもん……!」
「ごめんごめん。俺も見た目は別人でも中身はアミーシャだって知ってたから腕組んだりしたんだし……そのへんは信じてよ」
「……見た目違っても?」
「見た目違っても。アミーシャはアミーシャでしょ?そもそも前原に妹はいないわけだし」
「……うん」


++++++++++++++++++++


中編はここで締めます。
今回のお話で入れたかったことは次の点。
・歌で感謝を伝える
・湿気の時間の勘違いを回収

歌は、結構悩みながら歌詞を考えました。韻というか、リズムというか……揃ってないのは作者の力不足です。もし直せそうなら後日修正します。普段大人しいオリ主が、E組にメッセージを伝えるために力強い歌を歌っているんだとイメージしてもらえればいいかと。多分、選曲している最中に自分の境遇と重なるところを見つけてこれを歌うことにしたんですよ、きっと。

湿気の時間については、読んでくださった読者さんならわかると思いますが、あの状況では瀬尾くん……と、元カノの土屋果穂さんは勘違いしてると思うんですよね。作者も投稿したあとから思いました……このままだとカルマ、二股疑惑をかけられないか?と。前原君は前原君の妹(オリ主の変装)とカルマの仲を認める発言してたのに、オリ主と付き合ってるとかどうなってるんだ!?となる気がしまして、丁度いいタイミングということでここにもってきました。お互いに意味がわからないからこそ喧嘩になるわけでも険悪になるわけでもなく、ただカップルの仲が深まって終わる結果に。平和平和(一部除く)


では、次回は1日目の後編を投稿予定です。
……少し危惧してるのは、後編(1)とかになりそうな事です。長くなっても一つにまとめたい……と、思ってます。


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