暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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学園祭の時間~1日目・前編~

──よく晴れた11月のある土曜日。

私たちの通う椚ヶ丘学園は、いつもと違って賑やかで……生徒たち以外にも多くの一般人が出入りしていた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「こっちで焼きそば売ってますよー!」

 

「あ、うちの店どうですか?カフェやってるんですけど……」

 

今日と明日の2日間は、ここ椚ヶ丘学園で学園祭が開催される。生徒たちは自分たちで考え、経営するお店にお客さんを呼び込もうと声を上げ、少しでも満足してもらおうと精一杯のサービスをしていく。……ここでの結果が将来の履歴書に載せられるほど重要なものとなれば、それはそれは必死になるもの……特に、就職や進学を控えた高等部3年生ならなおさらだ。もちろん、真剣に取り組んでいるのは高等部だけじゃない……私たち中学部だって同じなわけで、中学部のエリアにも呼び込みの声、お客さんたちの楽しむ声が響いていた。

ただ、ここまで声や音が響いているのは中学部も高等部も設置されている本校舎だからこそ……私たちのE組は、山の上なだけあってそんな喧騒は届いていなかった。

 

「やだやだやだぁ!!」

 

「あ、コラ待ちなさいアミサ!」

 

……届いては、なかったけど、別物の喧騒でザワついていた。別物を響かせてるわけだけど。学園祭は始まっているとはいえ、流石に山のてっぺんだとまだお客さんは来ていない。……のに、バタバタとE組校舎の中に響いてる追いかけっこの足音は、逃げる私と莉桜ちゃん、メグちゃんの3人のものだったりする。

こうなった原因はとても簡単……私の役割はウエイトレス役、つまり接客に回ることになってしまったからだ。E組女子の役割分担は、イリーナ先生の手ほどきを受けて交渉術に磨きをかけた山道の麓で客引きをする人、料理の腕を活かしてメニュー全般の調理を担当する人、そして接客役のウエイトレスだ。当然といえば当然だけど、お店を経営する以上知らない人を相手にして接客するに決まっている。でも、私はやっぱり慣れてない人を相手にすることは苦手だし、目立ってドジを踏みたくないのだ……だから基本裏から出ることの無い調理担当がよかった。……最悪、ただのウエイトレス役ならまだ頑張れそうだったのだけど。

 

「……よっと、はい、捕獲」

 

「ナイスカルマ!観念しなさいアミサ!」

 

「はーなーしーてーッ!」

 

「はー、はー、なんで開店前からこんな疲れてんのよ私達……アミサ、アンタは男女含めてそれの方がいいって推薦されてんだから、諦めなさい!」

 

「……あそこまで嫌がられるとなんか罪悪感が……」

 

「いや、でも店には看板マスコット的な存在は必要だろ!」

 

「真尾さんはA組のステージでも宣伝をしてもらうんだ、少しでも目立った方がいい」

 

「……とかいって、あの衣装って竹林君と岡島君と前原君が選んだんだよね?」

 

「あとは寺坂と中村な」

 

「猫耳メイドは正義だろう?」

 

「まっっったく悪びれてないね、竹林君」

 

「お、俺は竹林(コイツ)の言う『萌え』って奴を選んだだけだ!てかほとんど竹林の趣味と悪ノリした奴らが原因だろ!」

 

……確かに人前に出るのは怖いけど、まだ同じようにウエイトレス、男子ならウエイターをする人たちはいるから、いざとなれば頼ってなんとかなると思ってる。ただ、ここまでの会話でわかってくれたと思うけど……私だけ違う格好で目立たなくちゃいけないことが嫌なんだ。ただでさえ苦手なことをするのになんでこんな恥ずかしいことを……!?

結局待ち伏せしてたのかサボってたのかは分からないけど、偶然空き教室から出てきたカルマに捕獲された私は、服を選んだ人たち曰く猫耳メイドな衣装に着替えることに。中学生の手作り衣装ということで、そこまで凝ってるわけじゃないけど、エプロンドレスというものに猫耳付きのヘッドドレス……これでA組のステージ も出るってことだよね……?私も制服の上からただのエプロンと髪飾りだけがよかったなぁ……

 

「おーけーおーけー、可愛いわよ!」

 

「ふっふっふ……私達の目に狂いはなかった……!」

 

「うぅぅ……確かにカワイイけど……ッ」

 

「ほら、戻るよ。……カルマに見せてあげたら?」

 

「……変って、言われない……?」

 

「むしろ嬉しいと思う」

 

「反応に想像つくもんねぇ……」

 

諦めて着替えてから、手伝ってくれた莉桜ちゃんとメグちゃんと一緒にみんなの元へ戻ると、私を見たみんなの反応は『予想通りだ』『かわいい!』『余計小動物感が増した……』などなど三者三様だった。でも、誰一人として『似合わない』とか『変』みたいな否定的なことを言う人はいないし、……少し、がんばってみようかなって思えた。

 

「ほら、固まってるアイツのとこ行ってやんなよ」

 

「うん……か、カルマ!……どう、ですか……?」

 

「……う、………………ねぇ、」

 

「「「却下」」」

 

「……まだ何も言ってな「どうせこの姿で表に出したくないとかそーゆーことでしょ?これでもだいぶ抑えた方なんだから妥協して」……チッ」

 

莉桜ちゃんに促されて、こっちを見たまま……見たままというか凝視してるようにみえるカルマの所に行って、軽くエプロンの裾を持ちながらくるりと回って見せた。……ら、何か少し考えてたカルマが私の肩を軽く掴みながらみんなに何か言おうとして、即座に却下せれて不機嫌になってた。あの、肩に置いてる指、だんだん食い込んで痛い……何か、気に触ることしちゃったのだろうか。

 

『みなさん!麓で客引きをしている矢田さんから連絡が来ました!「何人か呼べたよ!これからお客さん向かうから対応よろしく!」とのことです!』

 

「律、ありがと!」

 

「よし、皆!俺等の学園祭はここからスタートだ……気合い入れていくぞ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

律ちゃんからの連絡で、ついにお客さんの初来店が近づいていることを知る……私はA組のステージに出るために1時間くらいで下山しなくちゃいけないから、その間でしっかり働かなくては!……服なんて誰も見てないよね、頑張るしかないよね、……やろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お客さんが来始めて30分くらいが経ったけど、やっぱり山の上にあるっていうことでここまで来てくれる人が限られてるのが現状かもしれない。一応足腰が弱い人のために、寺坂くんと吉田くんが足になってくれてる……それでも全員に出すわけにいかないから、そのへんはふもとの桃花ちゃん判断だ。

 

(した)でこのサイドメニュー持ち帰りたいって頼んだんだけど」

 

「え、と、……はい、承ってます。ただいま準備中ですので……あの……お兄さん、少しだけ待っててくださいね」

 

「あ、は、はい。……あ、あの、つけ麺追加で食べてきます」

 

「……!ホントですか?ありがとございますっ!では、お席にご案内しますね」

 

1人違う衣装が注文をとるためにフラフラしているのはちょっとおかしいかもしれないってことで、私は山を登りきった旧校舎の看板前あたりに設置された受付で案内役をすることになった。E組は衛生面の問題からナマモノはあまり長いこと置いておくことはできない……だけどこの校舎にたどり着くまでにかかる時間もあれば、麓で注文してもらえれば上につく頃には採れたて新鮮な食材が届いていることになる。その注文の連絡は調理担当、調達担当以外に私の手元にも逐一送られてきていて……私はその人たちへの対応や席への案内をするのがお仕事だ。

あれだけ衣装には抵抗したけど、いざやり始めたらどうでもよくなってきたのか、対応がだいぶスムーズになってきたと思う。少しならお客さんとお話できるようになってきたし……たまに追加で注文したり食べていってくれたりする人も出てきた。これなら乗り切れそうかな。

 

「アミーシャお疲れ。もう一組くらい接客したら俺等と本校舎に行くから交代だよ」

 

「あ、うん!優月ちゃんお願いします」

 

「まかせといて!カルマ君、写真……いや、動画よろしく。律をテレビってことにしてステージでの映像流すらしいから」

 

「おっけー」

 

「律ちゃんがテレビ……」

 

「三村君がついて、律をアバターとして動かしてる体にするんだって。実際は律が自分で動くわけだけど」

 

人の流れが途切れたところで、私がいない間の受付役として、カルマを伴った優月ちゃんが来てくれたのを見て席を立つ。みんながうまく予定を調節してくれて、始まって1時間やそこらじゃまだそこまで混まないだろうってこともあってか、カルマ、渚くん、カエデちゃん、有希子ちゃん、愛美ちゃん、杉野くんという4班が休憩時間として本校舎に着いてきてくれることになった。急いで校舎の中に入り、山道を歩くわけだからと衣装とはいえエプロンを外して外に戻れば、玄関前で6人はもう準備して待ってくれていた。

簡単な荷物だけ持ってさあ向かうぞ、となった時……前を向いた杉野くんが声を張り上げた。

 

「あーッお前等!修学旅行の高校生!!何しに来たんだよ!?」

 

「あれれ〜?また女子でも拉致るつもり?」

 

「……チッ、もうやってねーよ。化け物先公に出てこられちゃたまんねーしな。だが、別に力を使わなくても台無しにはできる」

 

さり気に男性陣が私たちの前に立って隠してくれた相手は……京都での修学旅行で男子を傷つけ、私とカエデちゃん、有希子ちゃんを誘拐した高校生たち。彼等はあの時も制服から私たちの学校とかを特定してたし、殺せんせーも学校での立場は底辺だって確か言ってた……それでE組のことを知ったのかな。反射的に隣のカエデちゃんの腕を掴むと、有希子ちゃんも反対側から一緒に握り返してくれた。

高校生たちは言う……殺せんせーに手入れされても台無しにする機会は狙っているのだと。私たちのお店は飲食店だから、ちょっとしたことでお客さんの印象はガラッと変わってしまう。嘘の情報でもちょっと口にされただけで大きな影響があるかもしれないのに、それがネットにでも流されたら……。

 

「お前等、心配すんなよ」

 

「……村松くん……」

 

「うちのこだわり抜いたどんぐりつけ麺だ。まずいわけがねぇ……この一週間、思わずうめぇって言わせる味を目指したんだぜ」

 

調理室として使っている教室の窓から、村松くんが顔を出した……話しているあいだに料理ができていたみたいで、声をかけてくれたみたいだ。窓の1番近くにいた愛美ちゃんが料理を受け取りに行って、そのまま高校生さんたちに出してくれるとまでいってくれて……そっか、愛美ちゃんは唯一無事だったから、高校生さんたちもあの時の関係者かどうかわかってない可能性があるんだ。

 

「ど、どうぞ……看板メニュー、どんぐりつけ麺です」

 

愛美ちゃんが出した山菜たっぷりのどんぐりつけ麺を前にして、興奮してる高校生さんと、よく分からないけどものすごく怒ってるリーダーっぽい人がつけ麺に口をつけるのを、固唾を呑んで見守る。他のお客さんの反応は上々だけど、この人たちにはどうだろうか、と。

 

「う、うめぇ……!」

 

「確かにラーメンだけど……食ったことねー味だ」

 

「村松にしては奇跡の味だ。マズさが売りのキャラが崩れる」

 

「うるせーイトナ!テメーも働け!」

 

「ちゃんと金は払ってるぞ」

 

「そういう問題じゃないんじゃないかな……」

 

……お口にあったようで何よりです。何故かお客さんに混ざってつけ麺をすすってるイトナくんを村松くんが叱ってる中、涙を流して箸を止める高校生さん。村松くんの試作スープを味見しては批評を繰り返す殺せんせー、ねちっこいし細かかったもんね……そのおかげで誰もが満足できるつけ麺の豚骨醤油スープになったわけだけど。こっそり窓の方を見てみれば、その村松くんと目が合ってドヤ顔しながら親指立ててた……ホントだ、全然心配なかったや。

 

「な、これがこんだけうめぇんだし、他のも食おうぜ他のも!」

 

「なんだこのタマゴタケって、俺食ったことねぇ!」

 

「テメーらマズイって言え、マズイって!」

 

え、マズイの?あらぁ……うちの生徒の料理、お口に合わなかった?

 

「「マブい!!」」」

 

と、ここで様子を見てたらしいイリーナ先生が声をかけてきて、高校生さんたちがみんな挙動不審な上に敬語まで使い始めた……先生、普段の姿見てない人にとってはものすごい美人さんだもんね、照れるよね。しかも服装を落ち着いたものに変えたから、前以上に色気が全面に出てる気がする……自分の魅力を自覚して、それを巧みに料理を進めるのに使うイリーナ先生は流石だと思う。

 

ふふ、料理もいいけどね……今はもう準備でいないけど、うちの看板娘が午後から無料のステージやるのよ。料理を食べながら見てくれると、先生嬉しいなぁ?

 

「え、で、でも金が……」

 

駅前にあるでしょ……?……A・T・M♡

 

「「「お、……下ろして来るッス!」」」

 

「はぁい、待ってるわね〜」

 

「……貢ぎコース確定した」

 

「何よ渚、ダメなの?……アイツらって私の可愛い生徒を襲ったヤツらなんでしょ?別に傷つけるわけじゃないしE組の利益にもなるんだし、気づけば金欠っていうカワイイ復讐くらいやってもいいじゃない」

 

サラッと私の出番を……ホントはここにいるけどいないって体で隠しながら宣伝してくれたイリーナ先生の言葉を聞いて、高校生さんたちはお金を下ろすために山道のを駆け下りていった。……お兄さんたち、武力行使での台無しを仕掛けるどころか、イリーナ先生に取れるだけお金を搾り取られることが決まったね、きっと。結構お金の復讐は冗談じゃすまないと思うんだけど。

直前にアクシデントはあったけど、無事に出発できそうだ。今度こそクラスメイトたちに引き継いで、私たち4班は山道を降りる……A組の、浅野くんからの依頼をこなすために。あとは、移動の分も考えた少し長めの休憩時間で本校舎の偵察……もとい他のE組生より一足先に出し物を楽しむために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、やべぇ……体育館が異世界だ」

 

「なんて言うんだっけ、このわーって流れてる文字……」

 

「『弾幕』だよ。動画のコメントを打つとリアルタイムで流れるの」

 

「へぇ〜……神崎さん、詳しいね」

 

「私、ゲームの参考とかにこういう動画とかよく見てるから」

 

中学部のA組が出し物をするために借り切ったらしい体育館は、杉野くんの言う通りまるで異世界に放り込まれたかのようだった。暗い室内に明るい照明が踊り、周りの壁には背景画像とともにステージに登るアイドルさんへのコメントがとめどなく流れる……ってこれ、中学生がやる出し物なのかな?もはやこれ、ひとつのお店なんじゃ……

 

「浅野せんぱーい!」

 

「やぁ、よく来てくれたね。楽しんでくれたら嬉しいよ……君等も来たか、丁度いい」

 

「やっほー、浅野クン。ここに来た俺等6人が裏か表で待機させてもらうからよろしく〜」

 

「ああ。E組の要求通り……僕等五人の演奏の中で真尾さんが出演することは本校舎の生徒も教員も誰にも明かしてないし、演奏が終わった後にE組の飲食店の宣伝時間を設けよう。だが……果たしてここに来た客が君等の店へ行くかな?」

 

「……どういうことだよ」

 

何か企むような顔で得意げな浅野くんに杉野くんがイライラしたような声色で尋ねると、彼はA組の出し物である『イベントカフェ』の仕組みを説明してくれた。

まず、この体育館は真ん中にステージを置く形で半分に仕切ってあるらしい……道理でどこか普段の集会の時に比べると狭いと思った。片方のステージを開いたらアイドルや芸人など浅野くんのお友だちがイベントを行い、終わり次第仕切りを閉じてすぐさま反対側のステージで次のイベントが始まる……これが1時間単位でずっと続くんだそうだ。飲み放題食べ放題な代わりに、ステージの開かれる部屋へ入る時に1回500円払って入場するから、入るたびに500円……そこで利益を出す。

ここでさっきの浅野くんの言葉に繋がるのだけど……飲み物と食べ物が無料だから、生徒たちは無計画に飲み食いする。イベント会場から出る頃にはお腹いっぱいになっていて、E組を含めた飲食系統のお店には入る気にもならないだろう、というのが浅野くんの読みらしい。

 

「うーん、確かにお腹いっぱいになったら他のお店には入る気なくなるよねー……」

 

「強いて、デザート系でしょうか……」

 

「うん、でも……送迎を使うにしてもわざわざ1kmも山を登ってきてくれるかっていうのがネックかもしれないね」

 

「ふっ、今回は僕の作戦勝ちかな。せいぜい悩めばいいさ……さぁ、真尾さん、裏へ準備と打ち合わせに行こうか」

 

「え、あ、はい!」

 

「今のままの制服でも隠しきれない芳しき花の香り……衣装という名の水を与えられてどう育つのかが楽しみだ。さ、お手をどうぞ?僕が着替えを手伝うし、その可憐さに磨きをかけてあげよう」

 

「ちょっと、アンタ何言って、」

 

「せ、制服の上から着るものなので1人でへーきです榊原くん!」

 

「アミサちゃん、ツッコミどころはそこじゃないです……」

 

「男が女の着替えを手伝おうとしてるところに違和感もって……!」

 

「(ほんっとよかった着いてきて!合流してすぐにこれじゃ危なすぎる……!)」

 

浅野くんの話す作戦を聞いて早くも相談し始めてる私以外の女性陣を横目に(多分スマホから聞いてる律ちゃんがE組のみんなにも中継してるから、相談してるのはE組の面々もだけど)、手を取ろうとしてきた榊原くんから逃げつつ、一旦楽屋になってるらしいステージ横のスペースに移動することに。楽屋はそこまで大きくスペースをとってるわけじゃないし、椚ヶ丘と関係の無い外部から来てくれている著名人もたくさんいるから、あまり部外者が入るわけにはいかない……らしいので、とりあえず何かあった時のために楽屋までカエデちゃんが着いてきてくれることになった。

カルマたちと別れて楽屋に入ると、浅野くんは椅子に座ってギターの調律をし始めた……手を動かしながら私たちの動きを確認していくのはさすがだなぁ。

 

「──と、いう流れだ。……最終確認だけど……真尾さん、本当にこの曲でいいのかい?」

 

「確かに……真尾の雰囲気だとロックな歌は想像がつかないぞ」

 

「僕等だって選ばれし者……本番前に軽く曲を変えたって完璧に演奏してみせるよ?」

 

「アミサちゃんの歌はすごいからね!4月にかなり激しいの1回聞いたけど、一瞬意識持ってかれそうになったもん!」

 

「……だいじょぶ、いけます」

 

「そ、そうか」

 

「てか……なんでお前が自慢気なんだ」

 

「ふふん、アミサちゃんはE組みんなの妹だから!」

 

打ち合わせの時に心配されたのは選曲……普段大人しい私にはテンポも曲調も激しいものは合わないんじゃないかって。自分では似合う似合わないとかは全然わからないんだけど……1度音楽の授業で、殺せんせー暗殺の情報集めのために波長に歌声をぶつけたアレを、カエデちゃんは覚えていたみたい。自分の事のように嬉しそうに話す姿を見てたらいける気がしてきた。

先に2、3曲弾いてくる間に準備を整えておけといって、浅野くんはひと足早くステージへと歩いていった。ギターをかき鳴らす浅野くんの姿にイベント会場は爆発したような大歓声……確かに浅野くんは何でもできるけど、気持ち悪いってのは言い過ぎじゃないかな、小山くん。

 

「だが、なんでも出来る彼にだって敗北はある」

 

「もう相手がエンドのお前らだなんだと言ってられないな」

 

「どんだけ腹黒かろうが……俺等のトップが負ける姿はもう見たくねぇ」

 

「……じゃあ、なんで、私を……?」

 

どんな扱いをされても、腹黒い考えや普通思いつかない作戦を出してきても、それでもたった1人のリーダーだからついて行くのだと4人は言う。負ける姿が見たくないから、全力で協力するのだと言う。……なら、なんで敵である私を呼ぶことに反対しなかったんだろう。なんで受け入れてくれたんだろう。隣で聞いていたカエデちゃんも不思議そうに彼らを見ていて、4人は1度舞台を確認してから気まずそうにこちらへ向き直った。

 

「あー……本当は言うなって言われてたんだが……」

 

「僕が言うよ。……浅野君は一年の頃から真尾さんに好意があったんだ。それでもクラスは違うしそばにいるキッカケをなかなかもてなかった。その上今年は真尾さんがE組で余計に接点をもてない……一度くらい、どんな形でもいいから一緒に学校行事に参加したかったらしいよ」

 

「だいぶ強引だとは思ったけどな」

 

「…………」

 

……そっか。2学期末テストが終わったら、本校舎はエスカレーター式で高等部にあがるけど、2学期末テストが終わってからもE組に残る生徒は外部受験で他校へ進学することになる。きっと、暗殺以外に目標としてきた本校舎復帰のボーダーラインである『テストで50位以内』を達成できても、E組生の中であの教室を出て行く人は私も含めて1人もいないんだろう。そう考えたら、私と浅野くんが同じ学校で同じ行事に参加することは二度とない……今年が最後のチャンスといえばそうなんだろう。

A組の出し物にE組を呼ぶなんて、下手すれば大バッシングを受けてもおかしくないのに、浅野くんは躊躇いもせずに実行した。ステージの境となるカーテンから覗いてみれば興奮して叫ぶ観客を前にして、すごく楽しそうに、だけど真剣にギターを弾いている彼の姿……この彼が作り上げた空間に私も立つんだ。

 

「……私、がんばるね」

 

「……おう、任せたぜボーカル」

 

「いっちょ支えてやりますか!」

 

「私はここから見てるね。……いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルマside

 

「……浅野君って、楽器もできるんですね……」

 

「ああいうのなんて言うんだっけ……超中学生級(スーパー中学生)?」

 

「ですね」

 

「あ、やっと繋がった……!おい進藤、お前今どこにいんだよ!?昨日から連絡してんのに無視しやがって……!あー、もうなんでもいいから体育館のイベントカフェ来いよ!……今E組行くところだった?そっち行ってもいねぇって!」

 

「……で、さっきから杉野は何やってんの?」

 

「真尾が出るんだから、進藤にも生で見せてやりたくて。……はぁ?もう山道半分登ったあと!?あー……間に合うかなー……」

 

「……無理ならE組でのステージ推してやればよくね?」

 

「……それだ。進藤、彼氏様から許し出たから、時間あるならそのままE組目指してそっから見ればいいんじゃね?中継するし!午後にはうちでもステージやるからさ!」

 

「……なんか意外だね。カルマ君がアミサちゃんの舞台に他の男の人を呼ぶことに抵抗が無いなんて」

 

「進藤のアレは好意ってより信仰だと割り切った」

 

「あ、あはは……。……あ、五英傑の残りの4人が出てきたよ」

 

勉強に運動、語学、その他諸々……の上に楽器までとか、なんか逆に出来すぎて烏間先生達とは違った意味で人間やめてるよね浅野クンって。それにしても浅野クンのギターに会場は大歓声……特に女子の悲鳴。……そんなにいいか、アレ。別にアミーシャが浅野クンを気にすることにならないならどーでもいいんだけどさ。その大歓声に負けないように、半ば叫びながら野球部主将(進藤)に電話する杉野へ、売上アップも兼ねてE組の飲食店に居座ればいいと吹き込めば、すぐさまそれを伝えた……絶対何も考えずに言ったよな、杉野。

渚君の言葉にステージへ目をやれば、ドラムにキーボード、ベースなどを準備し始めた奴ら……楽屋について行ったカエデちゃん曰く、1曲バンド演奏した後にアミーシャの出番が来るらしい。始まったソレのクオリティが、部活に入ってたわけでもないのに悔しくなるくらいに高いのがムカつく。

 

「……アミーシャ、なんか五英傑に意趣返しでもしてくんないかな」

 

「カルマ君は心配じゃないの?バッシング受けるとしたら、招待した浅野君よりE組のアミサちゃんじゃない?」

 

心配、か。

 

「……アミーシャの実力を信じてるし、あの声があれば非難も全部吹っ飛ぶ気がするから」

 

……さあ、五英傑の曲が終わる。

次はE組(うち)の、俺の可愛いお姫様の出番だ。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

曲が鳴り終わる。

 

 

 

割れんばかりの拍手の音が聞こえる。

 

 

 

それを確認して私は目を閉じた。

 

 

 

ステージから新たにマイクを設置する音が響く。

 

 

 

また出演者が増えることに、会場からざわめきが起きているのが聞こえてくる。

 

 

 

私は衣装を軽く握りしめた。

 

 

 

『皆、察してるとは思うが……ここでもう一人ステージに呼ぼうと思う。プログラムにも載せてなかった特別ゲストだ』

 

 

 

……浅野くんの前口上が始まった、ステージに向かわなくちゃ。目を開いてカーテンをめくり……

 

 

 

『……これは僕のわがままだ。だからどんな文句もブーイングも僕が許さない』

 

 

 

……浅野くんは、急に何を言い出すの?

 

 

 

思わず、前に出しかけた足を止めてステージを凝視した。

 

 

 

『何か言いたいことがあるなら終わった後に、僕に直接言いに来ればいいさ……さあ、ラスト一曲、始めようか』

 

 

 

……何か言われるんじゃないかっていう私の心配を取り除いてもらえちゃった。

 

 

 

浅野くんも、他の4人もこちらを見ている。

 

 

 

──だいじょぶ、さっきよりも少しだけ落ち着いた。

 

 

 

それに今、なんだかドキドキしてるの。

 

 

 

先程よりもしっかりした足取りで歩き出す……ステージの上に私が現れた途端、ザワつく観客たち。スタンドからマイクを外している最中にも「なんであいつが」「E組を呼んだってこと?」「なんで榊原君はあいつを手伝ったり……」色々な声が響いている……浅野くんがああやって先に言ってくれてなかったら、もっとザワザワしてたんだろうな。

準備ができたことを知らせるように後ろの5人を振り返れば、少し心配そうにこちらを見る顔が並んでいて……まさかそんな表情をしてるなんて思わなかったから、あっけに取られてしまった。……私はへーきだよ、ひとりじゃないから、怖くない。そんな言葉を届けるようにニコリと笑って見せれば、1度目を見開いたあとホッとしたように同じように笑った5人は楽器を構えた。ドラムの荒木くんが拍子を取り、音楽が奏でられる。客席に視線を動かせば、中程の席にはこの距離でも分かる赤・青……私はお客さんだけじゃなくて、E組(みんな)にも届けたい────私は、大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 




「……お、真尾こっちみたんじゃね?」
「あ、ホントですね。小さく手を振ってます」
「いや、舞台でそれは……」
「それにしても、こっちの客席結構暗いのによく分かったよね」
「そりゃあ……暗くてもお前ら2人は目立つからなぁ……」
「「え?」」
「なるほど、髪の色ですね」
「ふふ、杉野君よく気がついたね」
「お、おう!」
「……確かに、紛れることは無いのかも」
「……髪以外で気づいてくれてると嬉しいけどね」


++++++++++++++++++++


学園祭1日目の前編が終わりました!
次回はA組ステージに軽く触れたあとに、諸々の接触がある予定……です。多くても前中後編で終わる予定です。

懐かしいあの人や、……も、きっと学園祭に遊びに来ますよ!

では、また次回をお楽しみにです!



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