暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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カルマの時間

防衛省から帰宅して、私たちはそれぞれに支給された『対先生ナイフ』と『対先生BB弾』を前に作業していた。原則一人ワンセットと言われたが、私の戦闘スタイルはどちらかと言えば手数が多いほうがいいため複数のナイフを支給してもらい、カルマくんも早速最初の仕掛けを思いついたのか数本のナイフを受け取っていた……

そしてそれぞれが思うままに加工し、作戦を話し合った。私たちの目的は先生を殺すこと……前の先生は私たちが手を下さなくても勝手に死んじゃったから、今度はそうなる前に私たちが殺す。別に命を取れなくてもいい、その時は先生として精神から殺す……まずは一番最初を成功させなくちゃ、話にならない。そうして明日の準備が整ってから布団に入って、ひさしぶりの登校……の、はずだった。

 

「……ふぁ……あさ……。……ぇ、あれ……?

………あぁぁ!…や、やっちゃった……!?」

 

始業時間は午前8時30分、現在時刻……午前10時。……完全に寝坊だ。

久々に行う手入れが楽しすぎて、夜更かししてしまったのが一番の原因だけど、もう一つの原因は……

 

「私のバカ……なんでアラーム、こんな時間に…!」

 

スマホのアラームの設定時間を朝6時にしたつもりが、何を考えたのか一周まわって18時にかけるというドジをやらかしたせいだ。確かにアラーム設定画面に映るアナログ時計は6時を示しているが、真ん中に大きくPMと書いてあるというのに、だ。

ちなみにカルマくんはというと……

 

「あ、おはよ〜。なかなか起きなかったねぇ」

 

「起きてたなら起こしてよカルマくん……!」

 

「俺だって、さっき起きたんだって」

 

私より先に起きて、ゲームをやっていた。カルマくんからしちゃえば、遅刻なんて大したことないんだろうけど……私、ここまで盛大にやらかしたのなんていつぶりだろう。

 

「あぁ、もう………ごめんなさい……初日からやっちゃった……」

 

「……はは、

……やっと、俺の前でドジしてくれた……」

 

「……え…?」

 

落ち込んでいたら、パタンとゲームを閉じる音がして……カルマくんの嬉しそうな声がした。私がドジを踏むのを楽しみにしていたかのようなセリフに、私は疑問でいっぱいになった。普通、他人のドジに巻き込まれたら嫌な気分になるものじゃないのだろうか……?

 

「……やっぱり気づいてなかったんだ。結構前にアミサちゃんが自分で言ったんだよ?自分の家では気が抜けてドジ踏んでばかりだって。外では絶対に失敗したことないって」

 

〝うぅ、ごめんなさい……いつもは家でしかこんなドジしないのに…〟

 

「……それって今、俺の前で気を抜いてくれたってことでしょ?」

 

「……ぇ…」

 

「俺の前で気が抜けた……つまり、無意識下でも安心できる場所になったって証拠じゃん。嬉しいに決まってる……そう思ってもらうためにも俺、結構頑張ったんだよ?」

 

そんなに嬉しそうに言われたら、私は何も言えないじゃないですか……。まさかほんの少し口にしたことを覚えていて、今まで接してきた中でそんなことを考えていたなんて、思ってもみなかったから……。

でも、少しは気をつけようと思う。今回は何とかなったけど、やっぱり下手なことに巻き込みたくはないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局遅刻は確定しているし、キリのいいお昼の授業から出る事にした。昨日ぶりの制服に袖を通し、5時間目の体育を行っているという校庭へ向かおうとしたが……ここで忘れていたことが一つ。

──E組の立地場所は旧校舎、つまり1kmはある山道を登って向かう必要があるということを。

本校舎と同じように考えていたから、旧校舎へ向かう山道の入口についた時点で5時間目には到底間に合わない時間だった。もう別にいいか、なんてカルマくんは言うし、私としても5時間目の授業中ということは本校舎の人達に会うことは絶対にないから願ったり叶ったりだ。私が急ごうとするたびにカルマくんが寄り道をしていたのも、この時間についた理由だけど……ある意味今の時間で正解だったのかもしれない。

もうこの際ゆっくり登ってしまおうということで、カルマくんについて本校舎にしかない自動販売機でイチゴ煮オレを買いに行き、二人で声を出さずに動きだけで作戦の最終確認をしながら山道を登っていく。……見せていないだけで鍛えている私や元々の運動神経が良くて喧嘩の強いカルマくんだからこそ普通に登ってるけど、この道……他の人にとってはものすごく大変なんじゃ……?

 

そしてたどり着いた校庭には、これからクラスメイトになる人たちと、何か動きを教えているの様子なのにスーツ姿の男の人、そして……標的(ターゲット)

 

「ふーん……」

 

その様子を見るカルマくんの背中に思い切りしがみついたまま、私は少しだけ顔を出して無言で授業を見る。どうやらスーツの人が二人の生徒を相手に軽くいなしているようで……暗殺に必要な基礎を実際に教えているってところだろうか?しっかり話していることが聞こえるわけじゃないから、ハッキリはしないけど……いきなりすごい技を伝授する、みたいなことはしていないみたいでその辺はしっかりしているみたい。

……と、そろそろ終わるみたいで終わりの挨拶をしている。途端に固くなる私の体……顔をカルマくんの背中に埋めて、小さく息を吐く。後ろに回された手で軽く頭を撫でられて……少し体から力が抜けてきた。

 

さぁ、最初の挨拶だ。

 

みんなの度肝を抜きに行こう。

 

 

 

 

 

渚side

 

まさか体育で暗殺技術について学ぶことになるとは……殺しなんて一般人として生きてきた僕らには早々できるはずないことだし、普通なら必要が無いことだ。それでもここは暗殺教室。基礎があれば何かと役立つらしいから、かなりありがたい。

烏間先生の体育の授業が終わり、E組の敷地にチャイムが響く。僕は杉野と一緒に教室へと戻ろうとしていた……今日の6時間目は毎週恒例の生徒それぞれ内容が違う、個別小テストの時間だ。

 

「6時間目小テストかぁー…」

 

「体育で終わって欲しかったよね、………!」

 

「……?どうした、渚…」

 

校舎へ向かう階段の上に、制服姿の誰かが立っている。

赤い髪で長身、学校指定のブレザーを着ないで、これまた年中着てる黒いカーディガンを羽織り……左手には彼の好物であるイチゴ煮オレの紙パックジュース。……そんな容姿の人物なんて、僕は一人しか知らない。

 

「よー、渚くん。……ひさしぶり」

 

「…!……カルマくん、帰ってきたんだ」

 

「…、…渚くん……?」

 

「ん、そー。……ほら」

 

「あ……アミサちゃんも……」

 

ひょこ、とカルマくんの後ろから少しだけ顔を出したのは……アミサちゃん。後ろから出てこようとしないのは……多分、まだまだ自分のトラウマと戦っていて、ここを信じきれないからだろう。今もこちらへ注目が集まっているのを感じているからか、目をさ迷わせたり何か言おうとしたのか口をパクパクと開閉したりしている。前みたいな明るさは見られないけど、聞いていたよりはだいぶ回復したようだ。

 

「へぇ、あれが噂の殺せんせー?すっげ、本トにタコみたいだ」

 

そういって、二人は運動場へ降りてきてクラスメイトたちの間を進んでいく。カルマくんはいつも通り飄々としているけど、アミサちゃんはカルマくんの背中に隠れながらひょこひょこついて行っている。通り過ぎる時、チラッとアミサちゃんがこちらを見た……直ぐに目を逸らしちゃったけど、少し不安そうに目が揺れていたような…

そうして二人は殺せんせーの正面に立つ。……アミサちゃんに関しては、カルマくんの後ろから少し顔を出すようにしているだけだけど。

 

「赤羽業君と真尾有美紗さん、ですね。今日から停学明けと聞いていましたが……初日から遅刻はいけませんねぇ」

 

「……うぅ、……私のせい、です……」

 

「あ、あはは……生活のリズム、戻らなくて……ついでにこの子はアラームかけ間違えちゃってさ。……下の名前で気安く読んでよ。とりあえず、よろしく……先生」

 

「こちらこそ、楽しい一年にしていきましょう」

 

そういって、カルマくんはポケットに入れていた右手を差し出し、殺せんせーはカルマくんへ触手()を差し出す。二人が握手をした……その瞬間。

 

「にゅ!?」

「へへっ…」

 

……触手が破裂した。

カルマくんは間髪入れずにイチゴ煮オレの紙パックを投げ捨て、左手に仕込んでいた対先生ナイフを振るうが、流石にそれは避けられてしまう。殺せんせーはカルマくんからだいぶ離れたところへ飛び退いていた。

 

「へぇー……本トに早いし、本トに効くんだ、このナイフ。細かく切って貼っつけてみたんだけど……。けどさぁ、先生……こんな単純な「手」に引っかかるとか……しかも、そんなとこまで飛び退くなんて……ビビりすぎじゃね?」

 

そう言いながら殺せんせーとの距離をゆっくり縮めるカルマくん。

……初めてだ……殺せんせーにダメージを与えた人……

それにナイフをナイフとして使わない、なんて戦法……今まで誰も考えていなかった。そんな単純な手に引っかかった殺せんせーは、わかりやすいくらいに動揺している。

……あれ、そういえば、……アミサちゃんは?

カルマくんの後ろにピッタリくっついていたはずの彼女の姿が、カルマくんが左手の一閃をした頃には何処にも居なくなっていた。少し辺りを見回してみたけど見つからない……あの短時間で、いったい何処に……

 

「殺せないから『殺せんせー』って聞いてたけど……」

 

「ぬぅ…っ」

 

「あっれぇ?……せんせーひょっとして……チョロイ人?」

 

目を戻せば、バカにして見下したような表情で殺せんせーをのぞき込んで挑発するカルマくん。それに対してピキピキと、顔を真っ赤にして青筋を立てる殺せんせー……怒りでカルマくんしか見えていないようだし、カルマくんは生徒だからその怒りをぶつけようがなくて何も出来ないでいるのだろう。……カルマくんはそれを分かってやっているんだ。

 

「あはっ、怒んないでよせんせー……そんなんじゃぁ、気づけないよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ねー、アミサちゃん」

 

「うん」

 

「!?」

 

探していた彼女の名前をカルマくんが呼んだ瞬間、……彼女は突如殺せんせーの背後に現れた。一瞬で何かを地面に叩きつけ、ギリギリで気づいた殺せんせーが回避でさらに遠くへ逃げた時には殺せんせーのアカデミックローブから除く触手が3本も切断された後だった。

運動場に残る全員の目がそちらへ行く……無理もない、だって、僕達が一週間かけて色々仕掛けてもただの1発かすりもしなかった相手に、対面して数秒、二人だけで計4本の触手を切断して見せたのだ。

 

「……あは、あはははっ!……触手3本……っ

……もーらった……っ!」

 

「へー、すごいじゃん。よくやったね」

 

彼女が、両手に構えていたのは対先生ナイフ……二刀流で暗殺を仕掛けたのも彼女が初めてだ。様子を見る限り叩きつけたものがあるわけではなく、ナイフを叩きつけるようにして切りつけたようだ。……殺せんせーに対してカルマくんがアミサちゃんを見ることが出来ない……むしろ忘れさせるほどのことを仕掛けた証だ。カルマくんがアミサちゃんのことを褒めながら頭を撫でているのを見ていると、茅野が僕のところへ近づいてきた。

 

「渚。私E組来てから日が浅いから知らないんだけど、あの二人ってどんな人なの?」

 

「うん、カルマくんが1年と2年、アミサちゃんは2年が同じクラスだったんだけど……2年の時続けざまに暴力沙汰で停学くらって……このE組にはそういう生徒も落とされるんだ」

 

茅野に二人のことを聞かれ、僕にわかることを教える……殺せんせーを放ってカルマくんに褒められて嬉しそうなアミサちゃんと、左手からナイフを外して手元だけで器用に振り回すカルマくんを横目に言葉を続ける。

 

「でも、この場じゃ優等生かもしれない……」

 

「?……どういうこと?」

 

「凶器とか騙し討ちなら……多分、カルマくんは群を抜いてる。それに、アミサちゃんは……本当の実力は未知数だ……」

 

何処か壊れたように嬉しそうな(狂った)声を上げたアミサちゃん……こんな姿、カルマくんの次にそばに居たはずの僕でも見たことがない。きっとこれが、カルマくんが僕だけに話してくれた……アミサちゃんの心の傷の深さだ。誰にも認められない環境の中で唯一信じていた先生に、自分勝手な理由で捨てられた……そのせいで教師に、人間に不信感を覚えてしまうほどの。

 

 

 

──…ねー、せんせ……たのシい1年なんていって、どうせ自分の保身ばかりで生徒のことなんて見てないんでショウ?見捨てるんデしょう?……なら、最初から信じなけレばいい、……いなく、なればイイ

 

 

──逃げないでよ?殺せんせー……殺されるってどういうことか……俺らの手で教えてやるよ

 

 

 

アミサちゃんはまたカルマくんに駆け寄って彼のカーディガンが軽く掴み、二人は戦慄する殺せんせーを置いて、固まる僕らの方へ……僕らの教室へと歩き出す。

僕には殺せんせーが、二人によって鎖で固められ、蛇に睨まれている、そんな幻覚が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕と杉野の近くを通り過ぎようとした時、アミサちゃんがカルマくんのカーディガンを引いて立ち止まった。

 

「……カルマくん」

 

「ん、いってらっしゃい」

 

たったそれだけのやり取りで二人には十分なのだろう。カルマくんはこちらを……正確には僕の方を向いて立ち止まり、アミサちゃんは周りを警戒するように、でも不安そうにしながら僕の近くまでやってくる。……それに合わせて僕もアミサちゃん近くへゆっくり近づく。

 

「渚、くん……、えっと……」

 

「……おいで」

 

「!」

 

その場で腕を広げれば、僕よりも小柄な体が飛び込んで来た。そして僕の存在を確かめるかのように擦り寄り、時々目を合わせたり色々なところに触れてくる。きっとこれが僕が許されている距離であり、彼女が今求めている事だ……僕の後ろでなにか声が上がった気がしたけど、無視する。………今は彼女のケアの方が大事だから。

 

「渚くん…、……いる?…いるよね?……ナギサくんは、いなく、ならないよね…?」

 

「うん、いるよ。……大丈夫、僕はアミサちゃんのことを信じてる。ゆっくりでいいから……〝外〟を見て」

 

「………」

 

信じることを怖がるアミサちゃんを軽く抱きしめ、頭を背中を撫でてやると少しずつ体から力が抜けていくのが伝わってくる。

停学にされた時の傷は、そう簡単に無くなるものじゃない……あの時までなら絶対にしようとしなかった、他人の目があるところでのこうしたスキンシップを求める時点で、アミサちゃんは今、心の動きが不安定な部分があるんだと分かる。

初めてあった時から気にかけ続けたカルマくんですら、アミサちゃんの気の抜ける場所になるのに2年近くかかったんだ、僕はもっとかかるだろう……僕の近くも居場所になればいいと願いを込めて触れる。

 

「少し、落ち着いた?」

 

「………ん」

 

「……アミサちゃん、行くよ」

 

そうしてゆっくり彼女は僕から離れた。それを見たカルマくんがアミサちゃんを呼んで、アミサちゃんはカルマくんのところへ戻る。

二人が校舎へ再び歩き出した後、杉野と茅野が口を開いた。

 

「渚、あの子を抱きしめてたけど……!」

 

「それにあの子ってもしかして、本校舎にいた時に……!」

 

「……まずは茅野、僕にとってあの子は守りたい子……あ、彼女ってわけじゃないよ。ただ、詳しいことは言えないけど信じることを怖がってる幼い子どものようなものだから。それと多分、杉野の考えてるとおり……あの子は僕がD組の時から僕とカルマくんとずっと一緒にいたんだ。……椚ヶ丘中学校の中で公然とされている制度を嫌って孤立してた子だよ」

 

今日の様子を見る限り、あの二人はまだ何かやりそうだ。……しかも、危なっかしさを感じる。

僕が今出来ることは……見守ることしかない。

せめてこの場所(教室)が二人にとって警戒しなくてもいい場所になりますように……そう、願う。

 

 

 

 

 

 




「…っ…っ!」

「……渚、殺せんせー何やってるんだ…?」
「……地面を再生した触手で殴りつけてるね」
「でも、変な音は出てるけど……触手が柔らかくて、地面に跳ね返されて……変なことになってるよね」
「してやられたのがよっぽと悔しかったんだろうな……」

「……どーだった?」
「……渚くんは、変わらなかった。渚くんなら、へーき」
「……そ」
「……うん」


++++++++++++++++++++


カルマの時間でした。
原作でも一番最初に一撃を入れた場面でしたよね……せっかくなので、本業のオリ主の実力を披露してみました。
英雄伝説をご存知の方は分かると思いますが、オリ主が今回使ったのは姿を隠し、スピードを上げるクラフトの『月光蝶』です。気になる方は調べてみてください。
……ここでは、クラフトを使うと体力を持っていかれることにしましょうか……。

では、次回は二択の時間。
原作沿いで書いてはいるけど、さぁ、どうなる(キャラクターが勝手に動くことがあるので、作者もわからない)


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