カルマside
────目が覚めた。
最初は何も考えられなくてただ視界に入っている無機質な部屋をボーッと見ていると、次第に頭がハッキリし始め……何があったのかを思い出す。ビッチ先生を助けに来て、閉じ込められて、死神から逃げて、反撃することも出来ずに……そうだ、俺、気絶して……!
勢いよく体を起こして周りを見てみると、最初に閉じ込められたエレベーター部屋のように三方が壁に囲まれ、一方が鉄格子で塞がれた部屋……牢屋といっていいだろう、そんな場所に俺等は集められていた。何人かは起きているけど、まだ殆どが床に倒れたまま……ズキリと鈍い痛みが走った左頬に手を添えようとしてはじめて両腕が後ろ手に固められていることに気が付く……いつものように腹筋で起き上がって手をつくこともなかったから気が付かなかった。俺が体を起こした音に、その起きていた何人かが気付いて、こちらに駆け寄ってきた。
「カルマ君……!よかった、皆さんまだ目が覚めてなくて……」
「……奥田さん……てことは、起きてるのはC班か」
「私達が連れて来られた時にはもうあんた達はここに倒れてたわ……ピクリとも動きやしない」
「死んではないって聞いてたけどよ……一番戦闘慣れしてるカルマでさえ今起きたなら、他の奴らはこれからだな」
「でも……、やっぱり私、もう一回見てくるわね」
最初に俺の近くへ膝をつけて心配そうに見てきたのは奥田さん……その後ろから声をかけてきた狭間さんにのんびりと着いてきた菅谷と俺の無事を確認していく。原さんは俺が目を覚ましたことだけ確認すると、何かを探すように、心配そうにしながら牢屋の中を歩き回っているのが見える……C班には俺等とは違って戦闘があまり得意じゃないメンバーばかり集められていたけど、傷もなく元気なようだ……俺と同じように後ろ手に縛られていること以外には。
そんなふうに話していると俺以外のA班、そして眠らされていたらしいB班も続々と目を覚まし始めた。そこで気付く……腕を縛られているのがA班とC班だけだということに。はじめから起きていたC班はともかく、A班はほとんどが腕が使えないことで軽いパニックになって体を起こせずにいたことからわかった……流石に戦闘特化のメンバーなだけあって、すぐに立て直して落ち着いてたけど。じゃあ、なんでB班は……?
「……やあ、皆目が覚めたね。イリーナ、残りもよろしく」
「はいはい」
いつの間にか鉄格子の向こう側には死神がいて、牢屋の中にはビッチ先生が入ってくると足元にいくつもの金属の塊を投げ捨てていた。聞けばB班は救出対象である先生によって眠らされたらしい……死神に誘拐された、なんて話は最初から茶番だったわけか。戦える俺等が既に無力化されていて、鉄格子の外には死神中にはビッチ先生……B班は逆らえるわけがなかった。このために俺等は先に縛られていたんだと思う……なす術なく仲間が拘束されていくところを見せつけられるしかない俺等と、動けない俺等を人質に言うことを聞くしかないB班……死神、そうだろうとは薄々思ってたけど性格悪くない?
せめて座り込んでいるよりはと壁を背にして立ち上がると、最初のエレベーター部屋とは違って壁はコンクリート……多分、抜け出せないやつだ。迷いなく拘束具をつけていくビッチ先生の手元を見てみれば、手の拘束具だけじゃなくて首にも何やら巻き付けていることが分かった。可愛いもので発信機、悪いもので爆弾……ってとこかな。見るものもなくなってきたから次に生徒を確認する……A班もB班もC班も、自分の力では歯が立たない相手に囲まれてしまい、更にはビッチ先生の裏切りにショックを受けて、諦めたような呆然としたような顔で黙り込んでいる。ただ、辺りを見回すとどこか違和感があって……それが何なのか気付く前にすぐ近くで渚君が茫然自失となったまま座り込んでいるのが目に入った。これは……死神によって自分の技よりもはるかに上を行く技術を目のあたりにしただけじゃなく、直接受けての衝撃、かな。
「A班は死神に昏倒させられて全滅、B班は話を聞いた限りビッチ先生に眠らされて終わり……竹林、最初から起きてたっぽいけどC班はどうだったわけ?」
「一応C班は全員無傷だ……ただ、僕達をここまで連れてきたのは死神でもビッチ先生でもない」
「は?他に誰が……」
「……どこにもいなかったぞ」
「なっ……!」
「…………《銀》、彼は死神側だ」
いつか見た光景と同じように、ゆらりと鉄格子の向こうで空間が揺らめいて……どこからか現れたのは黒衣の人物。《銀》と呼ばれる彼はE組に何かと力を貸してくれていた存在で、そんな経緯から俺等が無条件に信用していた暗殺者……その彼が死神の元にいる。基本的に仲間がいるわけじゃない彼が死神の近くで普通に報告をしている姿から考えて……夏休みにあのロヴロって人が言っていたことを信じるなら《銀》は死神と契約したということなのだろう。それにしても、〝いなかった〟?……何について話しているのか。
「……いなかった?そんなはずは……」
「お前が探せと言ったのは『真尾有美紗』という子どもだろう?私が見て回れる限りは探したが、どこにもその姿はなかったぞ」
その名前にハッとする……そうだ、それが違和感の原因だ。自惚れなくても何かあれば必ず俺を一番に頼るか近くに来るはずのアミーシャの姿がどこにもない。原さんが探していたのは彼女だろう……多分名前をすぐに出さなかったのは確証がなかったのと、言ったら俺がどう思うかって気を遣ったからなんだと思う……彼女は母親のような性格だから、きっと。すぐさま俺は壁から背中を離して鉄格子の方へと駆け寄って、死神と《銀》の会話に割り込む。
「……ねえ、いないってどういうこと……?」
「ん?ああ、赤羽君か……彼女はね、僕とイリーナが君達を運ぶために戻った時には姿を消していたんだ。反射神経が飛び抜けてよくても、僕は確かに気絶させたはずなのに……不思議だろう?君も恋人が心配かな……?」
「……っ、別に?あんたの計算も大したことないんだなって思ってたところだよ」
「……へえ、なんでなのか聞いてもいいかい?」
「まず過信してアミーシャを逃がしてるところ……あの子は一度目を離したらそう簡単には見つからないよ。それにアンタ、俺等の誰にも大したダメージ与えられなかったじゃん……この超体育着の情報を知らなかったから。この計算違いが俺等じゃなくて殺せんせー相手だったら……速攻返り討ちにされてるよ」
恋人、と言われてそんな情報で俺を揺さぶってくるかとは思ったけど、なんとか堪えて平常心に見せる……内心は動揺してるけどここで負けたら終わりだ、立て直せる自信が無い。彼女は俺等より先に倒されたから死神達が戻って来る前に目を覚まして姿を隠したのか……?そのあたりが一番考えられるけど、それだと俺の見た光景に説明がつかない。
俺の意識が落ちるその瞬間、死神にやられて壁にもたれかかっていたアミーシャがふらつくこと無く立ち上がり、一度俺等を心配そうに振り返ったあと、消えた死神を追って駆け出していく後ろ姿に。
俺にとって大事な守るべき人であり恋人を心配していないわけがない……なぜ、いないことに気付かなかったのかと思ったけど、俺は心配してるのと同時に信頼してるからだ、と考えている。彼女は気配に敏感だし、姿を隠す術を持ち合わせているから……なんとか目を覚まして逃げ延びているのだろう、と。なんならその技術の高さは俺が証人になれる……狭い船の上で6時間、一度も会うことなく船をおりた経験があるのだから。
「……で、結果はどうだ?君等は
……それを言われると何も言えないんだけどね。死神は俺の挙げた計算違いを聞いても全く動じていないようにすら感じる……もしもこれが本物の暗殺だったら、気絶した時点で俺等の命はなかったと見るべきだし。
話は終わったと態度で示すように、次は烏間先生を人質に迎えるための準備だとか死神は言ってるけど……ふと目に入った監視カメラの映像を映すモニターのひとつに変なものが映り込んでいた。よく見るために鉄格子へ近付くと、その正体に自然と笑いがこぼれていた。
「……何かおかしいのかな?」
「死神さーん、モニター見てみ。あんたまた計算違いしたみたいよ?」
「……………、……なぜわかった?」
「「「烏間先生!と、…………なにあれ」」」
この建物の出入口を移したカメラには烏間先生となんかよく分からないコスプレ……四つん這いだし、なんか地面の匂いを嗅いでるし、耳があるし、烏間先生がリード持ってるし……犬、か?何かの格好をした殺せんせーがいた。殺せんせーはともかく、烏間先生がここへ来てくれたことは素直にありがたい……クラスメイト達も同じ気持ちなんだろう、さっきまでの不安そうな雰囲気から安心したような笑顔を見せている。
「……まいったな、かなり予定が狂ってしまった。仕方ない、
「……いや、私は彼等をみていよう。お前が如何にして標的を捕らえるか……お手並み拝見といこうか」
「ふふ、君らしいね……行くよ、イリーナ」
「ええ、私の出番ね」
まずい、烏間先生も殺せんせーも……ビッチ先生が裏切っているということを知らない!殺せんせーは言わずもがな、烏間先生も口では厳しいことを言いつつあの花束を捨てられずに取っておくような人だ……あのビッチが捕まっていると認識したら助けに行くに決まってる。
鉄格子の外側に《銀》一人を残して、死神とビッチ先生はどこかへと歩いていった。あいつは見張りとして残ったのだろうか……彼が何を思って残ったのか分からない。……こうなってみると、《銀》の得物を知らないのはかなりまずい事なんじゃない?銃のように遠距離なのか、ナイフのように近距離なのか……どの位置にいれば安心なのかすら、検討もつかないから。消えた二人の歩いて行った先を見つめていた《銀》がこちらを向いた瞬間に、俺等は全員で警戒を向ける……と、小さく笑い声が聞こえた。
「ふふ……さて、行ったか。死神がここにいない以上声は出してもいい……ここの設備程度では音は拾えない」
「……は……?」
そう言った《銀》を怪訝そうに見ていると、彼は鉄格子の外側と、俺等側の方を軽く顎で示した。なんのことか分からないままに示された場所を見てみると、監視カメラが付いていることに気付く……他の奴らも、モニターには映っていてもカメラの位置まではしっかり把握してなかったみたいでキョロキョロとしていた。
《銀》の言葉を信じるとするならあのカメラには音声を拾えるマイクが付いてない……つまり、聞かれたくない本人さえいなければ、どんなに声を出して作戦を立てようが聞かれることはないということ。だけど、死神に協力しているはずの彼がなぜそんなことを俺等に教えるのか?
「……それを信じろって?」
「別に信じなくても構わない……何せ私は
「幻聴だと?馬鹿にしてんのか!?」
「待ってよ、寺坂。……多分、言葉通りに受け取っちゃダメだ」
「はァ?」
『私は何も言っていない』……ということはあくまでも見張りに徹している姿勢を見せているけど、今なら聞きたいことは応えてくれるのかもしれない。……あいつは、契約という縛りの中で俺等に手助けしようとしている……って考えてもいいのかも……試してみるか。
「……ねぇ、茅野ちゃん。今この場所には何があるんだろうね?」
「か、カルマ君……?いきなり何を」
「……ここの周辺には音声は拾えない監視カメラが2台、それらを映すモニターがひとつか……ひとつだけ砂嵐になっている画面があるな……誰かが破壊したのかな?」
「……あんた、」
「……なるほど、そういうことか」
……やっぱりそうだ。俺が茅野ちゃんに話しかける素振りで《銀》に質問を投げかけたら、彼も自然な動きでモニターを見るように移動し、独り言のように必要な情報を落としていく。砂嵐の画面はアミーシャが壊したアレだろう……彼がそれを見て小さく笑っている気がするのは何故なのか。……それらの言葉を発する時に全くこちらを見ないことからあくまでも『独り言』、彼の言葉を使うなら『幻聴』なのだろう。多分、質問の期限は死神達が帰ってくるまで……殺せんせーや烏間先生が勝てないとは思いたくないけど。それに気付いた何人かの察しのいい奴らは独り言という名の質問を投げかけ始めた。
「……ねぇ、……死神はスマホを持っていたわよね?あれって何なのかしら……誰かに連絡でもとってるとか?」
「……そういえば、私を見ていないがあの端末で基本的なコンピュータ制御はできるらしいな……モニターとも連動していて離れた場所からでもカメラの映像を確認できそうだ」
「死神って強すぎるだろ……勝てるのか?」
「……死神は強い……だが、あくまでも世界一にこだわっているだけだ。一つ一つの技術が優れていても、な」
「もう、仲間はいないよな?ここで増えたら更にピンチだぞ……」
「……、……奴は個人主義だ……仲間と呼べるものはいないだろう」
今、少し答えに迷った……?《銀》の答えに納得して受け取った奴もいれば、今の質問をした磯貝や俺のようにどこか引っかかった部分を考え始める奴らもいる。個人主義なのに、ビッチ先生や《銀》を仲間に引き入れた……?相手にするのは今日まで全ての暗殺者を返り討ちにしてきた殺せんせーだから、念には念を入れてってこともあるかもしれない。だけど、こうして彼は死神の届かないところで俺等に情報を落としてくれているし、死神を中心とした一枚岩ってわけじゃないんだと思う。
《銀》は契約分の働きはしているがそれ以外では自由に動いている、という推測を立てた上で、ふと、ひとつの想像が頭の中に浮かんできた。最初から完全に死神の味方をしているわけじゃないと仮定するなら……もしかして。
「……本トにアミーシャのこと誰も見てないわけ?俺、
「……、……見ていたのか……、…………そういえば、あの場所に隠してきた少女はそろそろ目を覚ましている頃か……恋人が心配していると伝えるべきだったかな?」
「「「!!」」」
死神はアミーシャを見失って《銀》に探すよう命じていた……あれは嘘じゃないだろう。俺に揺さぶりをかけることで、何か知っているのではないかと情報を引き出そうとしていたくらいだ。ビッチ先生も知らないようだったし、いくらアミーシャが気配を限界まで消せるといってもプロに見つけられないとは思えない……それにこの建物中を探し回った《銀》が見つけていないとは思えない。なのに、彼は最初に『どこにもいなかった』と報告していた……これが嘘だとしたら。
案の定、《銀》は彼女を見つけていた。俺等がこの建物に来た頃には彼も中へ入っていたようだし死神が戻る前に起きていたアミーシャを一人だけ逃がしたのか、アミーシャと会って戦闘になって無力化した彼女をどこかへ運んだのか……そこまでは分からないけど、とにかく無事みたいだ。E組の中で一人だけ行方不明とか……全員が気にしていたんだろう、それを聞いた瞬間そこかしこから安心したような息が漏れた。もちろん俺も例外じゃなくて……一気に肩から力が抜けたのを感じた……俺はなんでもないように装っていた裏ではだいぶ緊張していたんだということを自覚した……よかった。
「……そろそろお帰りのようだ。中央部は開けておいた方がいい」
「……へ?中央って……うわぁぁっ!?」
俺等がアミーシャの無事に安心している中、何かに気付いたのか上を見ていた《銀》がいきなり話を止めて鉄格子の外側にある扉の方へと歩き出し、扉の出入口付近の壁へ背を預けて黙ってしまった。あまりにも突然だったせいで、もっと詳しく聞こうとしていた俺等は不思議に思いつつも牢屋の中央を開けて……突然、この部屋の天井が開いた……だけかと思えば上から殺せんせーがすごい勢いで落ちてきた。あと少し、《銀》の言葉が遅かったり彼の言葉を信じないで移動してなかったりしていたら何人か下敷きになってたよ、これ。
……って、え、殺せんせー?
「せ、せんせー!?」
「大丈夫?!」
「……ハッ!皆さん、こんな所に……全員怪我はありませんか?」
「死神と戦った奴らが打撲して気絶したくらいかな……あとは眠らされた奴らが数名」
「ただ、アミサだけ行方不明なんだよね……《銀》が死神に黙って匿ってくれてるみたいなんだけど」
「……なるほど《銀》がいると……契約以外では基本的に協力体制を取らない彼でも、アミサさんなら保護するのも納得出来ます」
「……?アミサならって……」
「……いえ、なんでもありません。それよりも……」
殺せんせーが落ちてきた穴を見上げると、ちょうど鉄格子の蓋が閉まっていくところだった。先生の足の触手がいくつか溶けているのを見ると、上でちぎられてテンパってる間にドボンッてところかな。落ちてきた直後はテンパってた先生も俺等に気が付くとすぐに安否確認をし始めて、A班だけ体のどこそこに傷を負っているのが分かると、静かにその部分が触手で撫でられた。その後にアミーシャが一人だけいないことを伝えたのに、殺せんせーは心配するどころか《銀》が匿っていると話したら何故か安心したように顔をほころばせて我関せずと立っている《銀》を見ているのが気になった。気になったけど……こういう時の殺せんせーは絶対に教えてくれない。知らないといけないこととか、知るべきことならあとから教えてくれるはずだから、今は、我慢しておくしかないんだろう。
言葉を途中で止めた先生は触手を一本檻に触れる……途端に溶けだす触手が、この檻は対先生物質で出来ているということを示していた。溶けた触手を再生させた所で、鉄格子の外側の扉がゆっくりと開き……死神とビッチ先生、それに烏間先生が入ってきた。
「あは、そろそろ生徒との最期の出欠でも取り終わったかな、殺せんせー」
「あなたが死神……ですか。ここは?」
「国が洪水対策で作った地下放水路を僕のアジトと繋げておいたのさ。上の操作室から指示を出せば、ここには毎秒200tの水が流れ込む……その恐るべき水圧によって対先生物質の檻に押し付けられ、トコロテン状にバラバラになるってわけさ」
「「「……!!」」」
「待て!生徒ごと殺す気か!?」
「当然さ、今更待てない」
それは、間違いなく俺等生徒全員を巻き込む暗殺計画……むしろ、俺等ごと殺すことで成り立つものだった。俺等がここにいる限り殺せんせーは生徒を守るためにここから逃げ出せないし、無理やり逃げようとすれば近くにいる俺等の体がもたない。一緒の檻の中に入れられたのも、最初からこのため……!
それを聞いた烏間先生もいつにないくらい慌てて死神へ詰め寄った……先生は知らずにここまで着いてきてたんだ。ビッチ先生はこの計画を理解した上で協力していた……その理由は、皮肉なことに烏間先生の望む通りにプロとして結果優先に動いたから。理由を聞いた烏間先生はそれ以上ビッチ先生に詰め寄ることは出来なくなっていた。
「ヌルフフフ……確かに厄介な対先生物質ですが、私の肉体はついにこれを克服しました。見なさい!私の取っておきの体内器官を!!」
いつかのようなエネルギー砲を撃つかのごとく、物凄いオーラに包まれる殺せんせー……もしかしたら本トに、と全員が期待して見つめる中出てきたものは……その……、舌?
「いや。確かに先生のベロ初めて見るけど!」
「
「「「
「……あのさぁ……そのペロペロ続けるなら生徒の首輪全部爆破するよ?」
「
半日って……本ッッットにいろんな意味で期待を裏切らない先生だよ。ソレで本気でなんとかなると思ってやるところが殺せんせーだなーって気もするんだけどさ……あと、あのほぼ母音ばっかりの発言を解読できちゃった自分のいらないスキルの発達を知った脱力感ね。
殺せんせーが手も足も出ないとなったのを確認した死神が踵を返し、ビッチ先生と《銀》を伴ってここを出ていこうと烏間先生を追い越したその時だった。烏間先生がすれ違いざまに死神の肩を掴んで進んでいた足を止めたんだ。
「……なんだいこの手は?日本政府は僕の暗殺を止めるのかい?確かに多少手荒だが、地球を救う最大の
E組29人が死ぬことで残りの地球に生きている全人類を救うことが出来る……暗殺を主導する日本政府としてはどうなのだろう?殺されようとしている俺が言うことじゃないかもしれないけど、1を捨てて9をとるという死神のいうことが全て間違っているとは思えないんだよね。だけど俺等だって政府が守ろうとしている、守るべき日本の子どものはずだ……むしろ、普通の生活をしていたのに暗殺という重圧を押し付けられた政府の被害者ともいえる。その子どもを犠牲にして生き残るこれからを選ぶか、まだ期限あるものの最大の好機を諦めてまた地道な暗殺に戻るか。
すべての責任が烏間先生にのしかかっているんだろう……それには俺等が口を出せる問題じゃない。だけど、なんとか……死にたくはないなぁ……。と、その時、殺せんせーを暗殺したい思いと俺等を考えてくれている思いとで迷っているのだろう、固まってしまった烏間先生と死神のやり取りをを静かに見ていた《銀》が口を開いた。
「……先に私の意思を伝えておこうか……安心しろ、私は契約主であるお前の判断に従う」
「ああ、それはありがたいね。流石は《銀》、噂に違わぬ忠実さだ」
その言葉に対して、にこやかに死神が笑いながら扉へと足を進める。このまま見過ごすというのか……と思った時だった。
「政府としての見解を伝える」
────ドゴッ!
「28人の命は地球よりも重い。
それでもお前が彼等ごと殺すと言うならば……俺が止める」
歩いていこうとする死神の顔を殴り飛ばしてから俺等を守るように鉄格子の前に立った烏間先生にはもう、迷いが感じられなかった。スーツの上着を脱いでいつもの体育と同じように動きやすくネクタイを緩め、俺等を背にかばって啖呵をきった烏間先生は文句無しにかっこよかった。
「……へぇ、それが君の答えなんだ。だったら話は早い……《銀》、君に足止めを任せるよ。君の実力があれば烏間先生を倒すことくらい容易いだろう?」
「……ああ、そうだな」
そこでようやく《銀》が動き出した。彼は壁から背を離し、黒衣を揺らしながら俺等の方へと歩いてくる……こう、まともに姿を見ようとして見るのは初めてだ。羽のような両袖は手まで覆い隠していて、仮面に隠れた顔はその上からフードで覆い隠し、あれで本当に前が見えているのかと疑いたくなる風貌だ。
死神は死神で、急がなくてはいけないといいつつも《銀》の暗殺に興味があるのか足を止めてこっちを見てるし……どうなるのか。烏間先生は依然として俺等の前から動こうとはせず、死神はともかく《銀》に対する戦闘態勢すらとっていなく、て……え、なんでだ?今先生に向かってきている敵は《銀》じゃないってこと……?
「……死神、私は言ったな。お前が私の道を外れない限り、私はお前の手足となろう、と」
「……?うん、言ってたね。それがどうかしたかい?」
「契約を結び、私はお前のパートナーとなった。だが、必要以上に周りを巻き込むのは私の流儀に反する。──たった今道は違えた」
歩きながら何やら死神に向けて話し始めた言葉を聞いていると、だんだんと内容がおかしく感じてきて……俺が彼の言っていることを理解した時、烏間先生の数メートル手前で足を止めた《銀》は俺等へ背を向け……死神へと向き直っていた。
「契約は今、この場で破棄させてもらおう……私には私の守るべきものがある」
その宣言とともに《銀》の右手にはいつの間に手に取っていたのか、身の丈ほどもある巨大な大剣が構えられていた。
「……、私は、みんなを守りたいの」
「だけど、私じゃあ死神になんて対抗できるはずがない……ここではただの子どもでしかないから、こんなちっぽけな私じゃ……」
「だから、お願い……私に、力を貸してください」
「私は、……アミサはちゃんと隠れてるから」
「代わりに……」
「……、私が助太刀に行く。罪なき子どもが死ぬことは……私としても避けたい。カラスマの依頼でも、それは言われていたからな」
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①殺せんせー、烏間先生がログインしました
②《銀》が登場し次の話で早速死神裏切りました
……色々展開が早かったでしょうか笑
契約破棄してE組側に《銀》がつくのは元々考えていた流れでしたが、敵の立ち位置から裏切って味方になるというパターンは作者の趣味です。こんな展開大好物です。一回出してみたかった……!念願叶って嬉しいです。
今回はずっとカルマ視点から変わらないことや、話の流れに区切れがなくて最初から最後まで流れるように進んでしまいました。読みにくくはなかったでしょうか?
何かありましたら、感想やメッセージで教えていただけると嬉しいです。
では、次回は死神の時間・4時間目です。