暗いです。少しだけ、閲覧注意かもです。
私が髪をバッサリ切ってしまったあの事件のあと、なんとか落ち着いた私はカルマくんに連れられて表通りへ戻った。手元も何も見ないで髪を切っちゃったから、きっと今はバサバサになっているだろう……今はよくても、流石に整えなければ学校に行けない。カルマくんは分かれ道までずっと自分が責任もって整えるから、って言ってくれてたけど、流石に申し訳なくて断った(それでも最後まで残念そうに私の髪を触っていたけど)。
そして、今日。
昨日と違って軽い頭で学校へ行くと、クラスメイトの何人かでまだ話す部類に入る子達に「ここまでバッサリ切るなんて失恋でもしたのか」とすごく聞かれたけど、失恋も何も恋をした事ありません。……そう答えたら、みんな残念そうというか、かわいそうというか…とにかく複雑な顔をして目をそらしていました。……何か、答えを間違えてしまったのでしょうか…?でも、いくら考えても答えは出ないので置いておくことにします。
「……それにしても、本当バッサリいったね…」
昨日の一部始終を見ていない渚くんは、私の髪を伸ばす意味を知っていることもあって「何があったの!?」と朝一番で詰め寄って来て少しびっくりした。だから渚くんには何があったのかを話すと、最初はカルマくん同様怒られて……それでも今の髪型も似合ってると褒めてもらえたんだ。
今の髪型は、長さを肩口までに揃えてハーフアップを左に持っていき、お姉ちゃんとお揃いの紙紐で留めている。
…………ちなみにカルマくんは私の短くなった髪をいまだに残念そうにしていて、短くなった後ろ髪をずっといじっていたりする。……切った本人よりも残念そうってなんなんだろう……。自分のせいでって考えてないよね?私が決めたんだから、カルマくんのせいでも何でもないのに。
「でも、……よかったの?確かアミサちゃんの家って、髪を切ったら……」
「……家業を継ぐ決意、ね…実はもう切ってもいい頃合ではあったの。小さい頃……それこそ物心ついた頃から継ぐこと自体は決まっていて、あとは私の心次第……きっかけが欲しかっただけだから。ある意味ちょうどよかったんだよ?」
確かお姉ちゃんも私くらいの時に、いつの間にか決意してたな。それで私以上に当たり前って感じに道を進んで行ってた……といっても今は自分の在り処をみつけて、毎日頑張ってるみたいだけど。
「だから、カルマくんのせいとか私、全然思ってないからね?」
「……べっつに〜。そんなん思ってないし」
じゃあそろそろアミサちゃんの髪いじるのやめなよ、と渚くんに言われて、カルマくんはハッとしたように私の髪をいじる自分の指を見て…………渚くんの背中を音が出るくらい思い切り叩いていた。
渚くんは痛がりながら、ボソリと「無意識だったんだね…」って呟いてた。……無意識だったんだ。
◆
「カルマってのはてめぇか。よくも人の連れ、ボコってくれたな」
三人で歩く帰り道。
それが起きたのは突然のことではあるけど、もう今更ってくらい良くある
カルマくんは喧嘩早いけど、自分から好き好んで仕掛けているわけじゃない。カルマくんは自分の考えている『正しさ』に真っ直ぐなだけで、それから外れているのを見つければ見て見ぬ振りをせず、カルマくん自身の持つ強い力を奮って
「え、知らねぇし。先に因縁つけてきたのはそいつだよ」
「嘘つけ!こいつが言うには…」
「よっ」
カルマくんが、カバンを真上に投げる。
男たちがそれを見て、一瞬の隙ができる。
目を戻した時にはもう遅い……そこからはカルマくんの独断場だ。
「聞こえなーい。なんつったの?もう一回言ってよ!ほら、ほら!」
渚くんがカルマくんのカバンをキャッチすると、その目線をカルマくんの方へと向けた……。私から見る限り、渚くんはカルマくんに対して怖がっている様子はないと思う、けど、なんだろう……この目は、何かを諦めてしまっているような……。
私はといえば、もう下手に巻き込まれてカルマくんの迷惑になりたくないから、渚くんと一緒にいて舞台へは上がらない。ただ、怪我をしていないか……それだけを見守っている。
そして今日もカルマくんの圧勝で喧嘩は幕を閉じる。私はまずカルマくんに駆け寄り、力を奮っていた彼の手を確認する……よかった、強く殴っていたから赤くなってはいるけど怪我はしていないみたい……。カルマくんが大人しく手を見せてくれているのは、聞き出した渚くん曰く、あの日のことがあって、見せないと私が納得出来ないと分かっているから、だそうだ。その間に適当に投げ出されている男たちを渚くんが壁際まで引きずって(……誤解がないように言っておくけど、別に害を与えようとして引きずっているわけじゃない。単に力と身長が足りなくて引きずるしかないだけだ)、道の脇に寄せて軽くハンカチで血を拭ってやっている。カルマくんは相手がふっかけてきた喧嘩を買っただけだし、そんな奴にこんなに丁寧に対応しなくてもいいって言うけど、そのまま放置っていうのはなんとなく良心が咎める。……喧嘩を止めない私が言うことじゃないんだろうけど。
「……ねぇ、いつも俺が喧嘩してるとき、渚くんって離れたとこで見てるよね……俺が言うのもあれだけどさ、こーゆーことが起きたらどうすんの?喧嘩とかしないの?」
「僕が喧嘩?怖いから、多分一生できないよ……まぁ、やらなきゃ死ぬってんなら別だけど……」
……あぁ、あの日、私が感じた通りだったんだ。二人はやっぱり似ていない。
……でも、本質は似ている。
カルマくんは目に見える〝力〟
渚くんは多分…自分でも気づいてない〝力〟
渚くんの、目に見えないそれは相手が警戒しなくて済む……でも油断出来ない何かなんだろう。どちらかと言えば私の力に似ているそれは……何か、なんて私にだってわからないのだけど。
「……ふーん。……アミサちゃんは怖くないの?」
「……私は、怖くはないよ。でも、その……」
「……ごめん、無神経なこと聞いた。……忘れて」
「………………」
……私はどうかなんて、答えられるわけがなかった……二人にはあのことを伝えていないんだから。カルマくんも、渚くんも知らない……私の本当の姿。信じられる二人だからこそ、話すわけにはいかない。ここは比較的平和な日本、知られたら……ここには居られなくなる。それに、私が怖いのは自分のせいで誰かが傷つくこと。だから喧嘩自体は怖くない……故郷でもチンピラ、と呼ばれる不良グループは普通にいたし、人間より怖いものがうじゃうじゃいるのだから。
だから私は改めて決めた。
この秘密は、私が意味を見つける時までは誰にも明かさない。もしかしたら永遠に明かさないままかもしれない、でも、それならそれでいいと。
……この日を境に、カルマくんと渚くんが少しずつ離れ始めたのを感じた。全く関わりがなくなったわけじゃないけど、今までとを比べるとどこか遠い。
私はそれに気づいていたけど、止めることはできなかった。
◆
カルマくんと渚くん……表面上はかわりないように見える二人の間が日に日に広がっているのを見ているしかなかった。今まで私が知っている限り、いつも一緒に勉強して……一緒にご飯を食べて……一緒に遊んでいたと思う。今でも話すことには話しているみたいだけど、長い時間を一緒に過ごす姿を全然見なくなった……そう、まるでただのクラスメイトに戻ったかのように。
渚くんは一歩引いてどこか諦めているように見えるし、カルマくんは、何かを警戒してる。お互いがお互いの中へ踏み込みきれずに、留まってしまっているような……
反面、私が一緒にいる時間は変わってないと思う。カルマくんとも、渚くんとも一緒に過ごしているし……帰りだって……あれ、それでも三人が揃ってる日が、ほとんどないや。
……私、まだ知らないことがいっぱいあるんだよ。教えて欲しいことだっていっぱいあるのに……なにより私はまだ、二人に何も返せてない。
今日も私は、二人を見ていることしか出来ずに一日が終わっていた……部活もないし、もう下校するだけだ。最近私はどちらかと一緒に帰るか、一人で帰る日が多くなってきた。今日は一人で帰る日……あの日、三人で買ったキーホルダーへ目を落とす。おそろいが嬉しくて、ずっとカバンで揺れているそれを見て少しだけ泣きそうになった。
「……キミはあの時から何も変わらないのにね」
軽く撫でて、顔をあげる。私もいつか、離れなくちゃいけない日が来るのかな……でも、離れられる?ずっと一人ぼっちだとばかり思っていた私が見つけた居場所、そこは離れ難いくらい居心地が良くて……彼らも受け入れてくれるから余計に。そこを離れて、私は私でいられるの?
と、その時
────!
「………?」
……今、なんか聞こえた。こういう時はたいてい彼が関わってる。一人の時に危なそうなところへ絶対行くなと言われていたことも忘れて、私は引き寄せられるようにその物音が聞こえた通りへ近づいて覗き込んでいた。
はたしてそこには、ほぼ想像通りの光景が広がっていた……ただ、思っていたのと違ったのは登場人物。
制服を着た、多分の椚ヶ丘の男の先輩とその相手の頭を掴んで壁に押し付けるカルマくん……それともう一人、呆然とその様子を見ながら座り込む椚ヶ丘中学校の男の人。座り込んでるとはいえ意識はあるようだし、カルマくんが相手にしたならもっと……凄いはず、……この表現しかできないのだけどそんな様子もなさそうだ。ということは、カルマくんはこの人を助けに入ったんだろう。
「大丈夫?先輩。……3ーE……あのE組?大変だね、そんなことで因縁つけられて。ん?俺が正しいよ?いじめられてた先輩助けて、何が悪いの?」
「そうですよ……怪我、だいじょぶですか…?これ、使ってください」
「!……アミサちゃん」
ほら、やっぱりカルマくんは人助けのためだったんだ。迷わず私はうずくまっている先輩へ近寄り、ハンカチを渡す。呆然としていた先輩は最初、ハンカチと私の顔を行ったり来たりとして困った顔をしていたけど、私がハンカチを濡らした方がいいかと思って水筒の水を取り出そうとしていたら慌てて受け取ってくれた。
「ありがとう……でも、よかったのかい?僕は……」
「……カルマくんも言ってました。いじめられている人を助けて、何が悪いんですか?」
「でも、僕はE組だから……」
「……私、いつも疑問でした。なんでE組はダメなんですか?いじめられて当然、なんて人はどこにも居ないです。なのに、それも知らずに同じ人を見下して優越感に浸る……かわいそうな人」
「…………」
「……本ト、かわいそーだよね……アミサちゃん、帰ろー。送るよ」
「あ、うん!」
「あ、あの、ハンカチ…!」
「あげます。……負けないで下さいね、先輩!」
先輩に笑顔を向けて、私たちは帰路についた。
このあと起こることなんて、考えてもいなかった。
「…………あいつら、覚えておけよ……っ!」
◆
次の日、学校が終わり放課後……帰ろうと準備をしていた時だ。
【2年D組、赤羽業君、真尾有美紗さん……教員室、大野の所へ来てください。繰り返します、2年D組、……】
「?なんだろ……」
「アミサちゃん」
「あ、カルマくん。……呼ばれた、よね?」
「だね〜……一緒に行こっか」
そうして二人で教員室へ向かう……廊下では隣に並んで歩いていたけど、二人して無言だった。なんで呼ばれたんだろう、なんにも思いつかないんだけど……もしかして、何か提出物とかに不備があったとか?
そんな風に私は軽く考えていた。実際は全然軽いものじゃなかったのに。
「……来たか」
「あれ、昨日の先輩じゃん」
「あ、あの……大野先生、何か、御用でしょうか……?」
待っていたのは私たちの担任の大野先生と、昨日カルマくんにやられていた先輩……が、包帯だらけで松葉杖をつき、大野先生の隣に立っていた。そこで察した……話の内容はコレだ、と。
「……昨日の事は彼から一通り聞いた。お前たちがその場にいたらしいな……だから一応話を聞こうと思ってな」
「昨日……?あぁ、先輩がE組の先輩を一方的にいじめてたやつね。いじめっていけないことじゃん。だから俺が止めに入ったんだよ……どこから見たって悪いことはしてない先輩をリンチしてたんだからさ」
そうだよ、確かにちょっと怪我をさせすぎてるとは思うけど、一方的なリンチをカルマくんが止めただけ。カルマくんが『正しい』ことを話してるんだから、大野先生だって味方に……
「……いいや赤羽。どう見てもお前が悪い!」
「……えっ」
…………せんせー?……なに、いってるの?
「頭おかしいのかお前!三年トップの優等生に怪我を負わすとはどういうことだ!……お前もだ、真尾!その場に居たのになぜ止めない!?しかもE組には手を貸しておきながら、こいつには〝かわいそう〟だとかぬかしたらしいな!何を考えてるんだ!」
「え、待ってよ先生……」
「いじめられて当然の人なんていません、いじめられる人が悪いなんてこともない。だから、私はE組の先輩を助けたんです……同じヒトを見下しているようなヒトがかわいそうでないなら、なんなんですか…?」
「何を言ってる、E組に落ちたヤツが悪いに決まってるだろう。自業自得だし、全てそっちに原因があるんだ!お前らはE組なんぞの肩を持って、未来あるものを傷つけた。……彼の受験に影響が出たら、……俺の責任になるんだぞ!?」
……マモルべきとかいっといテ、そんなこト、いっちゃうンだ……
「お前らは成績だけは
「俺のほうでお前たちの転級を申し出た。真尾は自分の言葉を改めて反省すれば撤回してやるつもりだったがな……おめでとう赤羽、真尾。君たちも3年からE組行きだ!」
────そこから、記憶が無い。
sideカルマ
アミサちゃんの様子がどこかおかしくなっていくのは分かっていた。
……途中から俺も。
──そいつに絶望したら、俺にとって……そいつは死んだと同じだ。
死体は要らないもの、なら、その死体の処理をして何が悪い?
両手を握りしめた時、フッと、周りの音が消えた気がした。
「ひぃっ!?……あ、…ぁ、あ……!」
……声を上げたのは目の前の
「……………」
アミサちゃん。
両の目の瞳孔が開き、金色に鈍く光ったような気がした。
何の言葉も発せず、ただ、見つめただけで死体を自分の支配下に置いた。死体は動かない、動けない。……俺もそろそろ限界だ。
…………気がついたら、死体の周囲を破壊し尽くしていた。
少しだけ、肩で息をする…もう、ここにいる意味は無い。どうせここまで暴れたんだ、停学でもくらうだろう。……別に、どうでもいいけど。
ふと、隣にあった気配が見えなくなった。
あれ、アミサちゃんは…?
「……イラナイ」
ポツリと呟かれたその言葉。
それを聞いた瞬間、俺は手を伸ばしていた。
「やめなよ」
間に合った。
移動したことが全くわからないほどのスピードを、ギリギリで掴んだアミサちゃんの手には元々机の上にあったのだろう……鉛筆が。その先端は……死体の喉元に。あと一歩遅ければ、それは……。
「…………」
「そいつはもうイイじゃん。既に死んでる死体をさらにいたぶる必要なんて、無いでしょ?」
全く俺に視線を合わせようとしないアミサちゃんは、少しの間そのままだったけど、ゆっくりと鉛筆を手放し……体の力が抜けたように倒れ込んだ。
慌てて抱き止めれば、気を失っていた。
そのまま抱き抱えて教員室を出る。
周りは静まり返っていた。
はじめて知ったよ、そんなコト。
……二人とも停学か…期間は……3年が始まって1週間後まで、か。
……まぁ、いいや。
どーせ、2年の範囲はもう終わってるし。
3年になったらE組確定
俺たち二人は、同じクラス確定
……さて、渚くんはどうなるのかな。
「…………、」
「あ、起きた?」
「………カルマ、くん?」
「うん」
「……ここ、どこ?」
「俺の家。気を失ってたし、どうせ家で一人なら同じだから、連れてきた」
「……カルマくん、…いなく、ならない?…もう、信じるの、やだよ……」
「……うん」
あーあ、こわれちゃった、オヒメサマ。
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暗殺教室の小説を書くと決めてから、書きたかったシーンの一つです。完全に作者の独断と偏見で書きました。
原作では回想として出てくる場面ですが、ここの小説は過去話から始めているので時系列順に並べて書いてみました。
カルマが絡む話を書くと、渚をいじるかケンカしてるシーンしか書けなくてどうしようもなかったです。一応普通に中学生してる場面もありましたよ?(カットしましたが。書いた方が面白いのでしょうか…?)
次から原作軸へ入ります。
堕ちる時間
いったい何が堕ちたのか
(このままではないので、ご安心ください)