暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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泥棒の時間

────ガタン

 

「……?」

 

夜ご飯を食べてお風呂にも入ったし、明日の準備もすべて完了、もうそろそろ寝ようか……というそんな時間。窓の外で何か音がした、気がした。私の家にはベランダとかはないし、何も外に出してないからこんな時間に音が出るようなものだってないはず。……もしかして、不審者……?

一応、エニグマを手に持ち、家に置いてある武器になるものを近くに備えてから、音の聞こえた方向の窓にかかるカーテンをそっとめくる。

 

「…………何も、いない……?」

 

窓の外はただ、暗がりが月明かりに照らされているだけで、何も見えなかった。念の為、窓も開けて確認してみたけど何も見つからない……外はいつもと変わらず浮かぶ三日月と、静かな住宅街の景色だけ……気の所為、だったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー!」

「おはよう」

「はよーっス!」

「3人とも元気だねー……ふぁあ……」

「ふぁ……う、カルマのあくびうつった……おはよ、ござい」

 

 

「アミサ!あんたFカップだったよねッ!?」

 

 

「み゛ゃっ!?」

「「「んぐ……っ!?」」」

「中村さんっ!?」

 

……おはよございます。朝一番、登校して教室に入った瞬間莉桜ちゃんに飛びつかれ、結構な声の大きさで胸のサイズを暴露されましたアミサです。変な声が出た上に、いつも通り一緒に登校してきていたカルマと渚くんと杉野くんは一斉に顔を背けて吹き出してむせてるし、カエデちゃんには前から抱きしめら、れ……カエデちゃん、胸の大きい人(サイズに関しては私にも)敵意もってなかったっけ、……いいの?

恥ずかしさから一気に顔へ集まった熱をそのままに、いきなり何を言い出すの、からかおうとしてるの、なんてことを言おうと思って莉桜ちゃんの方を見てみると、全然そんなことなくて……すごく、真剣な顔をしていたから、向けようと思っていた少し怒った感情は引っ込んでしまった。同じようにその様子を疑問に思ったんだろうカエデちゃん共々、莉桜ちゃんに引っ張られる形で、先に登校していたみんなが集まっている場所に連れてこられて……見せられたのは、雑誌や新聞……どれも同じものを特集していた。

 

【椚ヶ丘市で下着泥棒多発!狙われるのはFカップ以上のみ】

【犯人は黄色い頭の大男】

【『ヌルフフフ』と笑い、現場には謎の粘液を残す】

 

「これ……」

 

私は新聞を取ってないし、雑誌も買ったことがないから、こんなことが起きてたなんて全然知らなかった……莉桜ちゃんがいきなりあんなことを言ってきた理由がやっとわかった。カエデちゃんが抱きついたまま私の背中側に回り、私が広げる新聞を2人で読み進める……カルマたちも落ち着いたのか、若干顔が赤いままだけど他にも教卓に出してあった雑誌などに目を通していた。掲載されている地図を見る限り、どこかに集中してるってこともなく、あちこちで被害があるみたいだ。

 

「皆の前で叫んだのは悪かったわ、ごめん。……でも、うちのクラスで私がサイズ知ってて該当するのってアミサだけだから、いてもたってもいられなかったんよ……」

 

「騒ぐくらいはするかな、とは思ってたけど、まさかコレ見た瞬間、中村が教室飛び出そうとするとまでは予想できなかった。……あー……不可抗力共々、スマン」

 

「てか、中村はなんで知ってんだよ」

 

「沖縄旅行の水着選びで私が付き添ってたんだから当然でしょ!」

 

「「「あー……」」」

 

「そういえば、あの時は2人で測りに行ってたね」

 

「それはともかく……アミサ、被害はない?」

 

「う、うん……外には干してないから……、…………被害は、ないよ」

 

メグちゃんに確認されて頷いて肯定したけど……一瞬昨日の夜のことが頭をよぎった。……アレはまさか、その下着泥棒だった……?でも何もなかったし、何も盗られてないし、何も見つからなかったし……きっと関係ないことだと思うから、気にしなくていいはず……

 

「そっか、じゃあ……」

「片岡さん、少し待って。……アミーシャ、()()はあったんでしょ」

 

「「「!!」」」

 

「そ、そうなの?」

 

「…………」

 

「やっぱりね……言って。下着泥棒じゃなくても、気になることはあったんでしょ?……身の危険があるかもしれないから」

 

「…………」

 

「ほら、」

 

「……、……昨日、窓の外で物音がした気がして……でも、私の家にベランダないし、窓の近くになにか置いた覚えもなくて……開けて確認したけど、何にも見つからなかったの」

 

メグちゃんは気づかずに流そうとしてたのに、ホントになんで分かるんだろう……きっと関係ないから言うつもりはない、っていうのを態度で示したのに、そんなまっすぐ「心配してます」っていう目で見られたら答えるしかない。

ポツリポツリと昨日の夜の出来事を話すと、聞いていたクラスのみんなも考えてくれていて……うぅ、実害あったわけでも怖かったわけでもないから、そんな大事にもならないと思うのに。でも、もしあの時、ホントに何かがいたのだとしたら、猫とか動物の類ではないと思う。閉じた窓の外の音を聞き取れたんだから、それより大きいもの……あれ、よくよく考えたらもしかして結構大事だった……?

 

「……一応聞いとくけど、開けたのって()()()()()()だよね?」

 

「…ぅ……、………窓も、開けた……イタいっ!」

 

沖縄旅行ぶりにデコピン貰いました。カルマがものすごくいい笑顔で質問してきたから、これはホントのこと言ったら多分怒られるだろうと思って言わなかったのに……カエデちゃんが抱きつく力を強くしてきて、質問からもデコピンからも逃げる暇がなかった。

痛むおでこを押さえながらちょこっとだけ睨んでみたけど、サッと2発目の構えをされたので慌てて目をそらすことになった……あれ痛いもん、もう1回なんて受ける必要が無いんだったら避けるよ。

 

「うー……おでこイタい〜……」

 

「よしよし、でも今のはアミサちゃんが悪いわね」

 

「そうよこのおバカ!女の子の一人暮らしで何があるか分からないんだから、軽率にそんなことしたらダメ!何のためのスマホとモバイル律がいるのよ!」

 

「だ、だって、夜中だったし……律ちゃん起こすのも、」

 

「夜中だ・か・らでしょうが!!」

 

「ま、まあ2人とも、その辺にしとこ?」

 

「……ていうかさ、真尾のことで流れかけてたけど……この犯人って……」

 

「……やっぱり、そう思う?」

 

「だよなぁ……?」

 

おかーさんには頭撫でられつつやんわり怒られ、メグちゃんや莉桜ちゃんにはガクガクと揺さぶられながら怒られ、やっぱりもう一発いっとく?とばかりに指を構えるカルマから逃げようとカエデちゃんに捕まったまま私はもがき、怖くて泣きそうになっていた……泣いてないですよ、断じて。……でも、私が悪いんだろうな、とは思ってます。

とりあえず私には下着泥棒の被害はないということで、周りの雰囲気は新聞や雑誌に載っている事件についての話題へと戻っていた。特に、被害にあった女性が語る犯人像について……これが、私たちには心当たりがありすぎた。

 

「ふんふんふ〜ん……今日も生徒達は親しみの目で私を見つめ汚物を見る目!!??

 

タイミング良く……悪く?殺せんせーが教室に入ってきた。その瞬間、私は桃花ちゃんと一緒に教室の出入口……もとい殺せんせーから1番遠くへと連れていかれ、正面にはクラスメイトによって築かれた壁ができる。

 

「これ、完全に殺せんせーよね」

 

「正直ガッカリだよ」

 

「こんな事してたなんて……」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?先生全く身に覚えがありません!!」

 

「じゃ、アリバイは?この事件が起きた当日深夜、先生、どこで何してた?」

 

「何って……高度1万m~3万mの間を上がったり下がったりしながらシャカシャカポテトを振ってましたが」

 

「「「誰が証明できんだそれ!!」」」

 

「待てよみんな!決めつけてかかるなんてひどいだろ!」

 

すぐさま近くにいる生徒が雑誌や新聞を突きつけて、殺せんせーに尋問する……先生には身に覚えがないって言ってるし、私自身そんなことをしていたなんて信じられないけど、ここまではっきりした目撃証言があると、庇いようがない。それに吉田くんや綺羅々ちゃんが言うように、殺せんせーにとってのアリバイはあってないようなものだ。だってそれがあるから同時に私たち全員を相手に、一人一人違うテスト勉強、なんてことができるんだもん。

磯貝くんも、なんとか庇おうとしているのだけど……

 

「確かに殺せんせーは小さい煩悩満載だ。だけど今までにやった事といったらせいぜい、エロ本拾い読みしたり!水着生写真で買収されたり、休み時間狂ったようにグラビアに見入ってたり……『手ブラじゃ生ぬるい、私に触手ブラをさせて』と要望ハガキ出してたり…………先生、自首してください……っ」

 

「磯貝君まで!?」

 

日頃の行いの積み重ねで、殺せんせーならやるんじゃないか……っていう疑いに戻ってきてしまい、庇えなくなっていた。

味方しようとした生徒まで疑いをかける様子から、殺せんせーは自分で身の潔白を証明しようと、教員室の自分の机にコレクションしているグラビア雑誌というものを全て生徒の目の前で捨てる、と言い出した。教員室の机の中に、そのよくわからない本を集めている時点でありえない気もするけどね……と誰かが言っていたけど、殺せんせーは教員室へ着くなり言葉通り何やら女の人が写った写真集らしき本を、机の中からバサバサと取り出していく。

……が。

 

「!?」

 

「マジか……」

 

「ちょっとみんな見て!クラスの出席簿……!」

 

出てきたのは本だけじゃなくて、大きいサイズのブラジャーが。それも1つや2つじゃない。殺せんせーのもの……なわけがないから、盗まれたものなんだと思う。

目に見えて現れてしまった証拠品に、みんなが引いた目をして固まっていると、教室の方からひなたちゃんが出席簿を抱えて走ってきた。

 

「女子の名前の横にアルファベット……これ、みんなのカップ数調べて書いてあるのよ!」

 

「うわ、なんで……!」

 

「私だけ永遠の0って何よコレ!!」

 

「名簿以外にも何か挟まってんぞ……おい!コレ、椚ヶ丘Fカップオーバーの女性リストって……!」

 

先生が教室へ入ってきた時から大事そうに抱えていた出席簿……女子の名前の隣に大きく記された胸のサイズ、そして1人だけ違う書き方で貶され、怒ったカエデちゃんが取り落とした出席簿を調べていた前原くんが見つけた、Fカップ以上の女性情報……ひなたちゃんが前原くんから受け取って調べてくれたところ、私の家の住所も生徒名簿にもあるだろうにわざわざ抜き出して記録してあったらしい。

極めつけに、殺せんせーが放課後にみんなを誘ってやろうとしていたらしいバーベキューを今からやる!と言い出し、蓋を開けたクーラーボックスから取り出したのは、肉や野菜の代わりに串刺しにされた女性物の下着の数々……

 

「ヤベぇ……」

 

「信じらんない……」

 

「不潔……」

 

「アミサ、こっち。近づいちゃダメよ」

 

突如湧いた、殺せんせード変態疑惑……場所が教員室だったこともあり、生徒だけでなく烏間先生やイリーナ先生からも厳しい視線を向けられた。あまりにもボロボロと出てくる物的証拠の数々に、少しの疑念はあったものの……殺せんせーを庇おうとする人はもう、誰もいなかった。

 

 

++++++++++++++++

 

 

「きょ、今日の授業は……ここまで……また、明日……」

 

一日中、ずっと生徒から疑いと不快感溢れる視線に晒され続けた殺せんせーは、最後の授業を終える頃には完全に憔悴しきった顔で、とぼとぼと教室を出ていった。いつもならもう帰り始める生徒、教室を出る殺せんせーに話しかけに行ったり放課後の訓練、補修のために教員室へ向かおうとしたりする生徒などがいてざわついている時間なのに、今日はお通夜のように静かすぎる。その空気を破ったのは、私の隣の席から響いた笑い声だった。

 

「……ははっ、今日一日、針のムシロだったねぇ〜、居づらくなって逃げ出すんじゃね?」

 

「でも殺せんせー、本当に犯ったのかな……こんな、シャレにならない犯罪を」

 

「地球爆破に比べたら可愛いもんでしょ。でもさ、仮に俺がマッハ20の下着ドロなら、こんなにもボロボロ証拠残すヘマしないけどね。それに……渚君、パース」

 

「?……うわぁ……」

 

「こんなボロボロ証拠を残したりしたら、俺等の中で先生として死ぬこと位分かってんだろ。あの教師バカな怪物にしたら、E組(おれら)の信用を失う事をするなんて……暗殺されるのと同じ位避けたい事だと思うけど?」

 

「……私、朝からずっと不思議だったの……磯貝くんが言ってた通り、殺せんせーは小さいことは今までもいっぱいやってた。でも、それ全部、隠してなかったよね……?いきなり、今になってこんな……私たちがハッキリと嫌がるような形で出てくるものなのかな……?」

 

カルマが見つけてきた、体育倉庫に転がっていたらしいバスケットボール……そこにはブラジャーが付けられていた。私も、いくらなんでも、おかしいと思う……殺せんせーがグラビア雑誌を読んでいたり、女の人に反応していたのは4月に出会ってから変わらない姿だ……岡島くんなんて、それを利用して暗殺しようとしていたって聞いたし。

私とカルマが暗殺を仕掛けた時、先生として死ぬよう仕向けても……何があっても生徒を守ろうとする姿勢も……『先生ですから』って、先生であることを誇りに思っていた殺せんせー。そんな先生が、誇りを投げ捨ててまでこんな不自然なことをやるだろうか。

 

「じゃあ、一体誰が……」

 

「偽よ……ヒーローもののお約束、偽物悪役の仕業だわッ!体色、笑い方……犯人は殺せんせーの情報を熟知している何者か……律、協力してちょうだい」

 

『はいっ!』

 

優月ちゃんが、誰もが『殺せんせーがやった』と見ざるをえない状況で犯人は別にいる、と言いきった。彼女の洞察力と観察力はホントにすごい……マンガ的展開っていうのはよく分からないけど、こう、どんでん返しみたいにグワーッとくるものらしい。

 

「その線だろうね……何の目的かは知らないけど、いずれにせよ、こんな噂が広まって賞金首がこの街に居れなくなったら元も子もない……俺等で真犯人ボコって、タコに貸し作ろーじゃん?」

 

「「「おう!」」」

 

こうして、言い出しっぺのカルマと優月ちゃん、個人的に真犯人へ文句の1つでも言わなくちゃ気が済まないというカエデちゃん、殺せんせーを信じたいからこそついていくことを決めた渚くんと私、そして、巻き込まれる前に帰ろうとしていたけど、カルマに襟首を掴まれ、壁役として強制参加になった寺坂くんとともに、真犯人探しをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──深夜。

私たちはある建物の外壁近くに集合していた。ここは某芸能事務所の合宿施設であり、この2週間は巨乳ばかり集めたアイドルグループが新曲のダンスを練習しているという情報を律ちゃんが得たんだとか。……私、アイドルあんまり興味が無いから知らないけど、そういう集め方をするものなのかな。

 

「先に見てくる……15秒後、律ちゃんを通して連絡するから」

 

「……真尾、先に言っとくぞ」

 

「1人で動かないこと」

 

「先走らない……調べたら終わりね」

 

「15秒できっちり連絡すること」

 

「あ、あと余計なこともしないも追加で」

 

「う……、わかった……」

 

クラフトで姿を視認できなくすることができる私は、先発として安全かどうか状況を調べると飛び出そうとした……んだけど、この潜入メンバーは沖縄のホテル潜入メンバーでもある。ホテルのロビーを突破した時に烏間先生へ事前に伝えていたこと以外の調査を、私が自己判断で勝手にしたことを知ってるから……先に私がやりそうなこと全部に釘を刺された。いらない部分に信用がついてしまったことがちょっと悲しい。

 

《──月に踊る蝶たちよ──》

 

あの時と同じように、体内の気を操り、大きな動きで引き付け小さな動きで気配を絶つ……その後、瞬きのうちに、建物の塀へと飛び上がって敷地内へと侵入した。着地した場所からざっと周りを確認して、6人全員が姿を隠して中の様子を伺える場所に検討をつける。それにしても……静かだ、アイドルグループがいるのだとしても、こんなに人の気配がしないものなんだろうか。

 

『──どう?』

 

「侵入地点から大体10歩左手側に、大きめの車がある……塀との幅は1mはあるから、十分隠れたまま降りられるよ」

 

『了解』

 

時間通りの報告をしたあと、5つの黒い影が壁を飛び越えて私の隠れる車の近くに降り立った。無事、侵入完了だ。

 

「へへっ、体も頭脳もそこそこ大人な名探偵参上!」

 

「やってることは、フリーランニング使った住居侵入だけどね……」

 

「……あ、あれ!殺せんせーじゃない?」

 

私たちの隠れる場所は建物の裏手側……そこにはシーツで周囲を囲った中に女性物の下着がたくさん干してあった。犯人がこの獲物を狙うとしたら、合宿最終日である今夜が最後のチャンス……だからきっと、真犯人はここに来る。そう思って見張っていたら、私たちとは違う場所……茂みの奥に、見慣れた姿を見つけた。

黒装束に黒い布を被り黒いサングラスをかけた……まるで、いかにも盗みに入りますと宣言しているかのような格好をした殺せんせーだ。先生も次はここが狙われるって同じことを考えていたんだ……見た目が、ものすごく悪いけど。干してある下着をガン見している際で、真犯人にしか見えないけど。

 

────………

 

「っ!!」

 

「どうかし……!ねぇ、あっち……」

 

「黄色い頭の大男……!」

 

……今が夜だからか、この場が静かすぎるからか、微かな物音だけど確かに何かが聞こえ、急に気配が増えた。場所まで特定できなくて少しだけ体を乗り出して周りを伺っていると、1歩下がった位置にいた私がいきなり周りを気にしだしたことに気づいたのか、楽しそうに泥棒のような殺せんせーを無音カメラで撮っていたカルマが、同じように辺りを見回す。

先に見つけたのは彼の方だった。私たちの注意を促し、指を向ける方を見てみれば……ご丁寧に殺せんせーを真似た目・口が描かれた黄色いヘルメットを被り、全身真っ黒なピッタリとした服を着た人物が現れたところだった。その人物は暗殺訓練を受けてきたE組の生徒たちと同等……ううん、それ以上の身のこなしで物干し竿へと近づき、手を伸ばす。このままだと盗られちゃう……!私たちが隠れていたところから飛び出そうとした、その時。

 

「捕まえたーーーっ!!」

 

殺せんせーが先に飛び出して、黄色い頭の人物の上にのしかかった。ヘルメットを抑えてじたばたと暴れるその人物の上で、殺せんせーがお得意の手入れをしようと躍起になってる姿は下着泥棒を捕まえたはずなのに悪いことをしている人のようで、私たちは呆れて車の後ろからゆっくりと出る。殺せんせーが直々に捕まえたもん、私たちの出る幕は多分ないから……あとは、真犯人を見届けるだけ。

 

「さぁ、顔を見せなさい、偽者めーーっ!…………え」

 

ついに先生へ軍配が上がり、真犯人のヘルメットが投げ捨てられる。月明かりに照らされたその素顔は……私たちも見たことのある顔だった。

 

「あの人……烏間先生の部下の人……」

 

「なんで、あなたがこんな……」

 

その時だった。

下着を干すにあたっての目隠しだったと思われるシーツが()()し、殺せんせーと部下の人の周りを囲む。さながらシーツで作られた檻のよう……いきなりのことで、殺せんせーも私たちも驚愕でその場から動くこともできず、ただ、見ていることしかできなかった。

 

「国にかけあって烏間先生の部下をお借りしてね……この対先生シーツの檻の中まで誘ってもらった。君の生徒が南の島でやった方法だ……当てるよりまずは囲むべし」

 

突如、私たち以外の声が響く……それは、聞いたことのあるもので、だけどあまりいい印象を抱けないもの……さっき私が感じた()()()()()()()、そのうちの1つが彼のもの。そして、彼がいるということは必然的にもう1人もどこかにいるということ。

忘れもしない、

 

「さぁ、殺せんせー……最後のデスマッチを始めようか」

 

「……殺せんせー……お前は俺より……」

 

2度の襲撃でどちらもE組の生徒を巻き込み、クラスメイトたちの命を奪いかけ、私自身も生死の境をさ迷いかける原因となった、危険な暗殺を仕掛けたために暗殺から遠ざけられた、保護者役のシロさんと、

 

「────弱い」

 

イトナくんだ。

 

 

 

 

 

 

 





今回は、フリートークはなしです。
次回は、この続きとなります!

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