あの時の体育の授業を思い出して……それに、今の鷹岡先生の様子を見て、私はひとつの結論に達した。鷹岡先生は対峙する相手が自分より下だと考えると、見せしめにしよう、持ち上げて落とそう、そう考えて自分の思いどおりにして楽しむことを優先するところがあると。その状態にさえなれば、楽しみで自分が満足することにだけ意識が向くから……きっとそこが隙になると。
だから先生が渚くんに土下座を指示して足蹴にし始めた時、私の中に言い表せないくらい黒い感情がぐるぐると渦巻いていたけど……なんとか耐えて、その瞬間を待った。バクン、バクンと緊張からか心臓が嫌な音を立てていたけど……ただ、待った。案の定、最初は私のことも視界に入れていたのに、途中からは渚くんをいたぶることだけを考え始めていたようだった。待ち続けた私にとっては、それで十分な隙だった。
「やめろーーーーッ!!」
「……させない」
烏間先生の声が響き、渚くんが手を伸ばす……まるでスローモーションのように、コマ割りのように進む景色を横目に私は走って……先生が投げ飛ばした治療薬をキャッチした。そこからは時間との勝負。遠目で見た限り爆弾は埋め込まれているのではなく、スーツケースに貼り付けられているのは分かっていたから、遠慮なく思い切り剥がしてやる。それだけじゃ、至近距離で爆発に巻き込まれるのはわかってたから、少しでも遠くに投げ飛ばして……あとはスーツケースで爆風を受けて、それを利用して鷹岡先生から距離をとった。
爆風程度ならスーツケースは耐えられる、だけど衝撃を与えられたら中身が壊れるかもしれない。この高いヘリポートから投げ落とされるのだけは防ぎたかったから、自分の体勢を整える前に治療薬を遠くに移動させることを優先させた。
「……ハァッ……ハァッ……これで、私たちが……あなたの、言いなりになる必要は、ない……ですよね……」
鷹岡先生は治療薬を目の前で壊し、私たちの絶望した顔を見ることを目的としていた……ということは、治療薬を奪い取った今、もう言いなりになる必要なんて無いはずだ。あとは、なんとかしてみんなの元へ戻ればいい……思い切り走ったからか、手足が震えてうまく立てない中……そう、思っていた。
「チィッ…………そうだなァ……だが、その様子だとようやく効果が出てきたみたいだな。……
なにを、と言い返そうとした時だった。
────ばクん
また、心臓が嫌な音を立てた気がした。と、思ったら、喉の奥から何かがせり上がってくる感覚がして目の前が真っ赤に染まって……血を、吐き出していた。何が起きたのか理解できなくて、その時には体を支えることすらできなくて、一瞬意識が途切れた。
そんなに時間が経たずに息苦しさで意識が戻って……足が宙に浮いていることと、首を掴んでいる手があったことから、私は目の前の男、鷹岡先生に持ち上げられているのだと、なんとなく分かった。目の前で色々言ってるけど、私には意味のある音として入ってこなくて……なんとか意識をそらすなり、体力を戻すなりして対応しようとエニグマへ手をかけて……何も反応がなくて、やっと思い出した。……私、今日はもう、アーツが使えない。……だめだなぁ私、助けようとしたのに、結局、足手纏いに……
息苦しさで、再び意識が落ちる……そう思った時だった。
「渚ァ!!」
聞こえたその声と、体に走る衝撃、首が解放されて一気に流れ込んできた酸素……むせ込んでいると体を誰かに支えられた。
「……待ってて、アミーシャ。すぐに終わらせてくるから」
こんな状況なのに、いつもと変わらない渚くんの声が聞こえて……なぜか、安心と共に得体の知れない恐怖を感じている、私がいた。
++++++++++++++++
ぼーっとかすむ意識の中、渚くんが鷹岡先生に向かっていく姿が見える。
ナイフを持って、鷹岡先生に暗殺を仕掛ける……だけど、私たちは戦闘方法は学んでいない。前とは違って最初から戦闘を仕掛けてきている鷹岡先生には通用しなくて……渚くんが戦闘に持ち込む前に勝負を決めようと仕掛けても、蹴りを入れられ、殴られ……一方的な闘いになっていた。体格……技術……経験……一般人である渚くんは、狂気と憎悪に染まっていても軍人である鷹岡先生にすべて劣ってしまう。勝負になるはずがなかった。
体が動けないことで思考も動かなくなっているのか……見ていることしかできない現状も、今何が起きているのかも、よく分からなくなってきた。それでも、私たちのために闘ってくれている渚くんのことを見ていたくて……閉じそうになるまぶたを、なんとか持ち上げた。今まで肉弾戦を仕掛けていた鷹岡先生がナイフを持ち出した……対する渚くんは息を整えて、
……笑った……?
見間違いかもしれない、この不利な状況で笑うなんて……だけど、渚くんは躊躇うこと無くまっすぐ、鷹岡先生の元へ歩き始めた。……まるで、あの一騎打ちの時とと同じように。
一方的にやられていた渚くんがまるで、何事も無かったかのように歩く姿を見て……鷹岡先生は焦ったように構え直したようにみえる。あの時と同じ状況に、渚くんが次に何をしてくるのか、何を考えているのかを一挙一動から読み取ろうとしている。あと少しで鷹岡先生のナイフの間合いに入る……と、いうところで、渚くんは
────パァンッ!
……まるで、音の爆弾が爆発したかのようだった。間近でそれを受けた鷹岡先生は何が起きたかわからないままのけぞり、それで、
────バチッ!
渚くん、いつの間に寺坂くんのスタンガンを受け取っていたんだろう……電気の弾ける音を響かせて、決着はついたようだ……鷹岡先生が膝から崩れ落ちる。……あはは、渚くん、あの戦力差で勝っちゃった……すごいなぁ……。
これで、もう勝てただろう……安心した私はまばたきをした、つもりだった、でも、次に見えたのは真っ暗な世界で、あれ、ここは、渚くんは……みんなは?どうなったのかな、へいきかな、治療薬とどけなくちゃ、あやまらなくちゃ、……だれに?……それで、…………………、
────プツン。
◆
カルマside
「鷹岡先生……ありがとうございました」
────バチィッ!
「「「…………!っしゃーーー!
笑顔で鷹岡にお礼を言って、スタンガンの電気を流す渚君……はは、俺が参戦する間もなく勝っちゃったよ。みんながみんな胸をなでおろしてヘリポートへと駆け寄っていく。暗い屋上で備品の中からロープを見つけてきてくれた岡野さんと千葉が協力して鷹岡に落された梯子をかけ直す。……これで、やっと向こうへ行ける。
みんなは健闘どころか勝利を収めた渚君の元へ、烏間先生は電話をかけながらアミーシャが蹴り飛ばした治療薬の元へ、俺は真っ先に彼女の元へ駆け寄る。1時間近く、誰にも心配かけまいと自分の不調を隠し続けていたんだ……その精神力には恐れ入るけど、さすがにもう意識はないみたいだった。地面に広がる彼女の吐いた血が、これが嘘じゃないことをまざまざと見せつけてくる……動かしていいものかわからないけど、こんな雑菌だらけの場所に寝かせておく方が怖いから、上半身だけ体を起こして抱き寄せる。……やっぱり、冷たいし、顔色が真っ青だ。胸が動いているから、息をしているのは分かるけど……プールの時みたいに、俺がどうこうできるものじゃない。
「カルマ君!アミサちゃんは大丈、夫……なわけ、ないよね……」
「渚君……烏間先生……」
名前を呼ばれて顔をあげると駆け寄って来る渚君と烏間先生の姿……それに、心配そうにこちらを見るクラスメイトたちの姿が目に入った。渚くんは俺の顔を見て1度足を止めて、悲痛そうな表情を見せた……何事かと思ったけど、俺の顔色が見たこともないくらい真っ青だからってボソリと言われた……そんなにひどい顔してるのか。2人は俺等のすぐ近くに膝を付いて、俺と渚君が見守る中……烏間先生がバックから取り出したペンライトでアミーシャの様子を見始める。
「……瞳孔が開き始めている……植物性の神経毒か」
「鷹岡先生、治療薬の予備を3人分位持ってたんだ。多分、爆破した後に最後の希望、なんて言って、僕が戦闘から逃げられなくするつもりだったんだと思う。でも、探してみたんだけど……アミサちゃんの治療薬を持ってる様子がなくて……」
「……そんな、じゃあ、何も出来ないってわけ?冗談でしょ?……ねぇ!!」
「……っ…」
今までのは自分で突っ込んでいったことだからまだしも、今回はこの子、全然悪くないじゃん……!つい、声を荒らげてしまった……渚君が悪いわけじゃないって分かってるけど、何かに当たらないと耐えられそうになかった。……動かない、冷えきった体を抱き直す……少しでも、俺の体温が伝わればいい……そう思って。
「……とにかくここを脱出する。ヘリを呼んだから君等は待機だ……俺が毒使いの男を連れてくる」
そうだ、毒を盛った張本人なら……俺等に盛ったっていう毒薬もオリジナルのもので解毒薬もオリジナルの1つだけって言ってたし、対処策もあるはずだ。毒使いの殺し屋は一番最初の敵だったから、一番遠くに転がってるけど……ヘリを待つ時間で丁度いいでしょ。
どうにかなるかもしんない……そう思った時だった。俺等のいる屋上に扉が開く音が、聞こえないはずの声が響いたのは。
「ふん、テメー等に薬なんぞ必要無ぇ……ガキ共、このまま生きて帰れるとでも思ったか?」
そこには、ここに来るまでに倒し、ガムテープでぐるぐる巻きにして放置してきたはずの殺し屋たち3人が立っていた。あれだけの拘束、どうやって解いたんだよ……とにかくまた油断出来ない状況になったのは間違いない。みんなが各々の武器を持ち、構えをとり、烏間先生は何も構えないながらも隙のない立ち方だ……俺は自分の体でアミーシャの盾になる。……俺の守るべき最優先は彼女だし、なにより手持ちの武器はわさびとからしくらいだし。
「お前達の雇い主は既に倒した、もう闘う理由はないはずだ。俺は充分回復したし、生徒達も充分強い。これ以上互いに被害が出る事はやめにしないか?」
「ん、いーよ」
臨戦態勢をとる俺等を代表して、烏間先生が説得に入る。まだ発症してないし、渚君と寺坂以外はまだまだ力が有り余ってるから充分戦える……それに、こっちの最強の人外(仮)も復活した。これで拒否するなら…………え、いーよ?
「ボスの敵討ちは俺等の契約にゃ含まれてねぇ。それに今言ったろ?そもそもお前等に薬なんざ必要無ぇって」
「お前等に盛ったのはこっち。食中毒菌を改良したものだ……あと3時間位は猛威を振るうが、その後急速に活性を失って無毒になる。アーツ使いのお嬢ちゃんの回復が効かないのは当たり前さ……
そう言いながら薬剤が入ってるんだろうアンプルを手に持つ毒使いの男……じゃあ、治療薬も何も必要ないってこと……?彼等が言うには、最初から治療薬を渡す気がなさそうな鷹岡を見て、毒を盛る直前に殺し屋3人で話し合ったんだそうだ。鷹岡の設定した交渉期限は1時間……だったらわざわざ殺すウイルスを使わなくても取引はできるし、俺等が命の危険を感じるには充分だろうからって。プロとしての評価が下がることか、カタギの子どもを大量に殺した実行犯になるか……それらを天秤にかけて、今後のリスクを考えたそうだ。
アミーシャのアーツが効かなかったのは、そのアーツが『状態異常を回復する』だけだから。症状が軽くなったのは病気として発症する前に体に残っていた毒物を取り除いたから……つまり、病気を治していたわけじゃないということ、……納得はできる。……でも、今の説明の中に彼女のことだけが抜けていた。明らかに彼女だけは症状が違うし、今も危険だ。
「……ねぇ、俺等のことはわかったけど……アミーシャのは?」
「お嬢ちゃんに関してはお前等のとは契約が別、確実に盛れって指示だったからな……マジもんの毒だ。……ある組織が開発していた特殊な神経毒……開発中だったそれを俺が完成させたもので、そのまま昏睡状態が続けば最悪死に至る」
「なっ……!?」
「「「!!」」」
思わず、彼女を支える腕に力がこもる。……プロとして契約を履行することは当たり前だってわかるけど……俺等は命の危険を感じることで済ませて、アミーシャだけマジで命の危険に晒すとか……普通にそう言い放った毒使いを殺してやろうかって、本気で睨んだ。
「そう殺気立つなって。俺等としてもお嬢ちゃんを殺すつもりはなかったし、ちゃんと解毒薬も準備してある……ほらよ」
「っ!?」
「わ、」
そう言いながら毒使いの殺し屋は、磯貝に錠剤の入った薬瓶、渚君には液体の入ったプラスチック製の試験管を投げ渡した。2人して突然のことに驚きつつもなんとかキャッチしたそれは……話の流れからして、多分。
「そっちの錠剤は栄養剤だ……患者に飲ませて寝かしてやんな。『倒れる前より元気になった』って感謝の手紙が届くほどだ」
「「「(アフターケアも万全だ!?)」」」
「で、お嬢ちゃんの分はその液状薬……そいつは即効性の薬だから口から飲ませてやりゃーいいが……赤髪の坊や、彼氏か?」
「……違うよ。………………まだ」
「「「(ボソッと本音言ったなカルマ……)」」」
「まぁ、その様子を見る限り1番近しい存在ではあるんだろ。……知らん奴にやられるのは嫌だろうから、お前が押さえつけて飲ませることをおすすめしとくぜ」
「は……?」
やっぱり俺等に盛った毒薬の対処策だった。まさか以前より元気になれる栄養剤を渡してくるとは……殺しとは真逆の薬を作ってるとはね……毒と薬は表裏一体ってことか。
気になったのは、アミーシャに対しての言葉。……は、彼氏かどうか聞かれたこと?何人かが呆れた顔で見てくるから弁解しとくけど、俺は欲しいと決めたからには手に入れるつもり。だから『まだ』で正しいでしょ。それよりも……たかが薬を飲ませるためだけに押さえつけるって、なんで……
「……赤羽君、今こいつがいる間に服用させよう。知識のない俺達だけの時よりも、何かあった時に対処ができる」
「……うん。……渚君、お願い」
「う、うん……」
烏間先生のいうことも最もだから、これ以上悪化させる前に薬を飲ませることにして、手が塞がっている俺の代わりに渚君に頼む。俺は毒使いの殺し屋が言った通り、念の為アミーシャをキツめに抱きしめて体を固定し……準備が出来たことを渚君に伝え、渚君はアミーシャの口へ薬を流し込んだ。
みんなが固唾を飲んで見守る中、アミーシャはゆっくりと薬剤を飲み込んで……
「ぐ、……うぅ、……あぁぁぁあぁあぁっ!!」
「!!アミーシャ、ちょ、なんで……!?」
「ちょっと、解毒薬じゃなかったの!?さっきよりも苦しんでるじゃん!」
「……いえ、大丈夫。それでいいんです」
突然、苦しそうに声を上げ、腕の中で暴れる彼女を見て、俺は慌てて彼女が自身を傷つけることがないよう押さえつける力を強くした。さっきまでなんの反応もなかったのに、薬を飲んだ途端この暴れよう……俺も含めてみんなが慌てている中、茅野ちゃんが毒使いの殺し屋に抗議して……なぜか、茅野ちゃんの腕の中にいる殺せんせーが答えた。……苦しむのが、正しい?
「彼の渡した薬は解毒薬と言うよりも免疫力を高めて自然治癒を促す薬でしょう……苦しんだり痛みを感じたりする、ということは……体の機能が回復してきている証拠ですから。ですよね、〝スモッグ〟さん」
「あぁ、これで危険な昏睡状態からは抜け出しただろう」
「……そう、なんだ……」
「まぁ、もうしばらくは発作のようなものも起きるし苦しむことになるだろうが……それさえ過ぎれば完治する」
痛みや触れられた感覚がなかったのが戻り始めたってこと……声は上げなくなったものの、苦しそうに荒い息を繰り返すアミーシャを見下ろして……俺はもう1度、強く抱き締めた。あれだけ冷えきっていた体に体温が戻り、やっと、あたたかさを感じるようになってきて……ようやく安心できた。この小さな体で、よく最後まで抱え込んだよ……
ババババ……と大きな音を立てて、大型のヘリコプターが降りてくる。あれが烏間先生の呼んだ飛行機なんだろう……間違いない、防衛省ってロゴ入ってるし。
「…………、信用するのは、生徒たちが回復するのを見てからだ。事情も聞くし、しばらく拘束させてもらうぞ」
「……まぁ、しゃーねーな。来週には次の仕事入ってるから、それ以内にな」
ホテルの中にいた鷹岡の手下として見張りをしていたヤツら……そして今回の黒幕だった鷹岡本人は厳重に拘束され、ヘリの中へと消えていった。烏間先生の言うこと聞く限り、機密費盗むわ勝手に軍事情報持ってくわと色々やらかしてたみたいだし、今後どうなるかはわかんないけど……二度と姿を見せないでくれるならそれでいーや。……いや、本当は俺直々に仕返ししてやりたかったけどね。
殺し屋たちがヘリに乗り込んだら次は俺等だ……そろそろ立ち上がった方がいいかとアミーシャを抱え直していた時、やってきたのは唇やら鼻やらを真っ赤に腫らしたおじさんぬだった。
「……少年戦士よ」
「っ、なーに、おじさんぬ。リベンジマッチでもやりたいの?悪いけど今は……」
「殺したいのはやまやまだが、俺は私怨で人を殺したことは無いぬ。誰かがお前を殺す依頼を寄越す日を待つぬ……だから狙われる位の人物になるぬ。……それよりも、……」
じっとおじさんぬが見つめているのはアミーシャで……なんとなくその視線に晒すのが嫌で、体ごとおじさんぬに背を向ける。
「…………何」
「……いや、あの時に少女術師から馴染みの気配を感じたぬ。だから確かめようと思っただけぬ……Yuèguāng、もしそうであるならば、また会うだろうぬ」
「…………」
よく分からない言葉を言って、すれ違いざまに俺の頭を軽く叩き……おじさんぬは満足気な笑みを浮かべながらヘリに向かって歩いていった。先に乗り込んでいる2人の殺し屋も、搭乗口で姿を見せている。
「そーいうこったガキ共!本気で殺しに来て欲しかったら偉くなれ!そん時ゃ、プロの殺し屋の
殺し屋達は去っていった。殺し屋なりの
「……なんて言うか、あの3人には勝ったのに勝った気しないね」
「言い回しがずるいんだよ、まるで俺等があやされてたみたいな感じでまとめやがった」
こうして、大規模な潜入
ヘリの中はまぁまぁな広さがあったから、俺の膝を枕替わりにしてアミーシャを横に寝かせてやる……男の膝だし固いだろうけど、布団に入れてやるまではこのままで。荒い息使いながらも寝息を立てる彼女の髪をすいてやる……少し熱も出てきたし、毒使いのおっさん、まだ苦しむとか言ってたっけ……ホテルでもついてちゃダメかな……女子の部屋だから無理か。
「寺坂君……ありがとう、あの時。スタンガン投げてくれたからアミサちゃんを助けられたし、最後のロヴロさんの技も使えた」
「……ケッ、テメーのためじゃねーよ。……チビが俺のために無理しやがったんだ、その借りを返しただけだ」
「……うん」
なんだ、寺坂気にしてたんだ……なんだかんだ言いつつもE組にしっかり馴染んでるし……いい傾向なんじゃないの?栄養剤も潜入組全員から今すぐ飲めって言われたのに『ホテルに戻って他の奴らが飲むまで飲まねぇ!』って啖呵切ったくらいだし。バカだけど、仲間思いの所もあんだね……バカだけど。
「……んん……」
「……!……起きたの?」
小さく声が聞こえて視線を落とすと、うっすらと開けた瞳と目が合った。ぼーっとしてるし……これ多分、起きたら覚えてないやつだ。近くに座ってた渚君や茅野ちゃんにも聞こえてたみたいで、こちらを覗き込んでいる。
「……とーさま……」
「!」
「……へへ、あみさね、おねーちゃんくらい……つよくなる。……とーさまに……はじない、……、……に……」
……俺を、父親と勘違いしてる……?父親は亡くなってるって前に言ってたから、多分体が弱ったからかなにか夢でも見ていたのか、まるで子供がえりしたかのようだ。ほんの少しの笑みを口元に浮かべながらそれだけ呟くと、アミーシャは再び目を閉じた……今度はだいぶ落ち着いた、静かな寝息だ。不思議なうわ言は気にはなったけど、今は休むことが最優先……ふぁ……俺も眠くなってきたかも。
「(なんか、いい雰囲気だね……)」
「(思いがけず、カルマ君の珍しい顔も見れたしね……アミサちゃん、まだ整理しきれないんだろうなぁ)」
「(整理って?)」
「(アミサちゃん、僕にもカルマ君にも……もちろんみんなにもだけど、まだ話してないことがあるんだと思う。それで多分、いっぱいいっぱいなんだよ……だから、新しい感情とか気持ちを受け入れきれない)」
「(そーいえば、ロビー突破した後のアミサ、パニック起こしてたわ……あとからそれについても聞かなくちゃ)」
「(女子はみーんな、アミサちゃんの味方だからね)」
「(男子はカルマの味方ってか?それはさすがに場合によるぞ)」
「(日頃の行い……)」
俺は疲れていても、こうやってクラスメイトであっても無意識に警戒しているのか普段は全然寝付けない……でも、不思議とこの時はアミーシャの頭を撫でながらうつらうつらとしていて、他の奴らが何か話しているのはわかっていても、内容が入ってこなかった。
そして、ヘリはゆっくりと到着を告げる。
「……!帰ってきたみたいだね」
「!みなさんっ、おかえりなさい!」
「みんな、もう大丈夫だよ!」
「盛られた毒、なんかこれから無毒になるって!」
「なんか栄養剤貰えたし、倒れる前より調子よくなるらしいよ」
「……あれ、アミサちゃんとカルマ君は……?」
「うーん……なんか、起こすのが忍びなくて」
「……あ……ふふ、お二人共、いい顔をしてますね」
『渚さん、せっかくなので写真撮っておいてもいいですか?』
「えぇ!?なんでいきなり……律、誰かに頼まれたの?」
『殺せんせーが、〝手が使えないのがもどかしい、せめてあの姿を写真に……!〟と小声で悶えている声が聞こえたので!』
「……なるほど。律にバックアップとったら僕の端末からは消すからね?あとから怒られたくないし(カルマ君に)」
『はい!』
────パシャリ
++++++++++++++++++++
ホテル潜入編、終了しました!
今回は前回のオリ主視点でのお話と、気絶後のカルマ視点でお送りしました。最初、カルマにオリ主のオーブメントを使わせることも考えてたんですよね……でも、属性縛り付きのひとつながりのラインという使う人を選びまくる道具を簡単に扱われても困るのでボツで。どこかで使う機会はあるかもしれませんが(ないかもしれません)。
ホテル内で散りばめた伏線は回収できたと、思いたい……!散りばめときながら散らかしっぱなしになってる謎があったら、多分きっと今後使われ(る可能性があり)ます。描写のわかりづらいところとかありましたら、教えてください!
では、次回は怖い時間、もしくは女子会の時間です!