暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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女子の時間

5階の展望回廊を通り抜け、6階へと向かう……この場所が一般客が入れる最後のフロアだ。その最後のフロアには、律ちゃんから最初に情報を開示された時点で判明していた、ある問題がある。

 

「皆さん、この上がテラスです」

 

「BARフロア……問題の階ね」

 

「はい。ここからVIPフロアへ通じる階段は店の奥にあります。裏口は鍵がかかっているので室内から侵入して鍵を開けるしかありません」

 

今までは廊下を通ってその途中にある階段を上っていけばすんなり上の階へ上がってこれたのだけど、ここだけはダンスフロア、BARフロアを通り抜けた先にある店の一番奥……そこの階段からしかいくことが出来ない。一応私たちは今、店の外、その階段近くにある裏口にいるんだけど……もちろん鍵があいてるわけもなくて、最初の予定通り中から開けるしかないみたいだ。

 

「俺と烏間先生が行くと、この体勢だし目立っちまうな……最悪ドラッグとか酒で倒れた人を支えてるって名目で入り込むのも出来ないことはないけど」

 

「それでもやっぱ不自然だろ。……ていうか、この大人数でぞろぞろ通り抜けるだけってのも考えもんだよな……」

 

如何にあやしまれずに、如何にトラブルに巻き込まれずに何事もなく通り抜けられるかがここの攻略の鍵になるんだと思う。そう考えると人数が多すぎるのも、人を支える人がいるのも周りの目を引いてしまうし、きっといるだろう見張りに怪しまれたらそれはそれでおしまいだ。

前を歩いていたカエデちゃんやひなたちゃん、凛香ちゃんたちがスマホの律ちゃんを挟んで何かを話し合っていて……振り向いた凛香ちゃんが、カルマの隣を歩いていた私に向かって小さく手招きした。何かと思って駆け寄ると、凛香ちゃんは私と手を繋いで、ボソリといった……ここからは、女子の時間って。

 

「……今少し話し合ったんだけど、先生や男子はここで隠れてて。私達が店に潜入して中から裏口を開けるから……こういうところは女子だけの方が怪しまれないでしょ?」

 

「ふむ、確かに。入口のイリーナ先生を見た限り、そして場所柄……若い女性だけの方がチェックは甘いでしょう」

 

「いや……女子だけでは危険だ……いざという時の男手も……」

 

「といってもねぇ……前原君みたいに慣れてる人ならともかく、この人数の女子の中に入って、ハーレム状態であのフロアを歩ける猛者なんているの?」

 

殺せんせーは女子の案をすぐに採用しようとしていたけど烏間先生は渋っているし、メグちゃんの言い分も最もだ。女の子たちの集まりに男子が1人だけ……なんていうのも目立ってしまいそう……それこそ前原くんみたいに女性の扱いというか、接し方に慣れてる人なら違和感なく溶け込めると思うけど。

それでも誰か……と男性陣をぐるっと見るメグちゃんの視線から男性陣が次々と目をそらしていく中、カルマだけが飄々とした笑顔で手を挙げた。

 

「あ、俺は気にしないよ?というか目の届かないとこに行かせたくないから、ついて行きたい」

 

「カルマはアミサしか見ないだろうから却下」

 

カルマは女子みんなのことを気にしてくれてるのに、なぜか凛香ちゃんはバッサリと断った。その理由に私の名前が出たのが不思議だったのだけど、他の女子たちはみんな頷いていて、男子は「あー……」みたいな顔してて……え、みんなは意味わかったの?

 

「うわ、即答とか。……だったらさ?」

 

カルマ自身も断られることは想定していたのかあっさり引いて、すぐ隣に立っていた渚くんの両肩を持って前に押し出すとにっこり笑った。女子と男子、みんなの視線が渚くんに集まっていて、私と渚くんはどういうことかって一緒に首を傾げ……

 

「なるほど、渚なら違和感無いわね……」

 

「……プールサイドに1着発見……調達してくる」

 

「化粧ポーチなら私持ってるよ」

 

「……え……まさか……」

 

「……渚くんが、女の子になってついてくるってこと……?」

 

「その言い方なんか誤解を招くよ!?」

 

「え、渚君、とる?」

 

「とらないよ!!」

 

……みんなの言い分で納得した。というわけで、一時的に渚くんは渚ちゃんとなって、女子についてくることになったみたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋外プールはまだしも、大音量で音楽の流れるダンスフロア、年齢制限とか世間では違法とされても、このホテルでは全部合法となるお酒や葉っぱ(ドラッグ)を楽しめるBARフロア……私たちにはあまり縁がないし、生理的に受け付けない部分のある場所だ。お店の外に位置する裏口で男子たちには待っていてもらって、私たちは警備の警戒をかいくぐって無事に潜入することができた。

 

「……うー……音、……色々混ざってぐちゃぐちゃしてて、あんまり好きになれない……」

 

「まー、鍵開けるまでの我慢だからさ。そ・れ・よ・り……ホラ、渚ちゃん。前に出てしっかり守らなくっちゃ」

 

「無理……前に立つとか絶対無理!……うぅ……どうして、僕が……」

 

……女装してるはずなのに違和感がなさすぎて、男子なのに女子メンバーに放り込まれたはずの渚くんは、しっかり渚ちゃんとしてこの空間に溶け込んでいた。本人は顔を真っ赤にして小さくなってるけど、多分似合ってしまったことに落ち込んでるんだと思う……明らかな違和感さえあれば、これは無理だって避けれたことだろうから。

でも正直私は渚くんがいてくれて安心できるから、このフロアに入ってきてからずっと渚くんと手を繋がせてもらっていたりする。知らない人がいっぱいで、嫌な目で人を見る人たちがいて……ひさしぶりに私の苦手なものがたくさん集まっている場所、この場所で1人になるのは無理だ。

 

「それに顔はともかく、いい感じにアミサちゃんとそっくりなんだから……姉妹ってことにしちゃえばいいじゃない」

 

「不破さん、それって服装とか身長とか見て言ってるの……?確かにカルマ君にも頼まれたけどさ……」

 

「渚おねーちゃん……?」

 

「……あー……うん、もうそれでいいや。でもおねーちゃん呼びはここでだけにしてね、アミサちゃん……」

 

渚くんは水色の長い髪を高い位置でツインテールにしていて、私は紺色の髪を高い位置でツーサイドアップにしていること。渚くんの服装は黒の肩出しで大きなリボンのついたトップスに赤いチェックのスカートに黒のニーハイソックスを合わせていて、私はヘソ出しとまではいかないけど黒のインナーが見える短めで白とオレンジのマーブル柄の肩出しトップスに水色の短パンに黒のニーハイソックスをはいていること。……とにかく、今の私と渚くんは見た目がいろいろ似ているのだ、優月ちゃんはその事を言ったんじゃないかなって。あと、私の身長は145cmで渚くんは159cm……ちょうどリーシャお姉ちゃんと同じ身長差ってこともあって、私は渚くんをお姉ちゃんみたいに見ることには違和感ないんだよね、実は。

 

「ね、どっから来たの君ら?」

 

急に声をかけられたと同時に背後から肩に手を置かれ、私は反射的に乗せられた手から逃げて渚くんの後ろに隠れてしまった。驚いたのと背後から触られるっていういきなりの怖さで逃げてしまったけど、さすがに失礼だったかと思って顔だけのぞかせてみる。

 

「ははっ、悪ぃ悪ぃ、脅かしちまった。なぁ、彼女ら……そっちで俺と飲まね?金あるからぁ、なんでもおごってやンよ」

 

声をかけてきたのは帽子やTシャツでたくさんNew Yorkを強調してる男の子だった。渚くんの肩にも手を置いてることから、私たち2人同時に呼んでいたみたい……そういえば、最初から言ってたね、「君ら」「彼女ら」って……。

どうすればいいのか分からなくて、渚くんや他の女子の方をみていたんだけど、慌ててる渚くんはともかく……女子たち側、ものすごく嫌そうな邪魔そうな冷ややかな目で男の子のことを見てた。

 

「……はい、渚。相手してきて」

 

「え、ええっ!?」

 

サラッとメグちゃんが渚くんを売った。男の子なのにナンパされたことからなのか、男手とは全く関係の無いところで使われそうになっているからなのか……渋っている渚くんを少し隅に連れて行って説得し始めたメグちゃん。ついていくにも行けなくて手を離してしまったし、隠れる相手がいなくなっちゃったしで、どうしようかと思ってキョロキョロしていたら……いつの間にか帽子の男の子は私の近くに来ていた。

 

「へぇ、渚ちゃんっていうのかぁ……君は妹?名前は?」

 

「!……えと、その……私、アミサっていうの。おにーちゃんは?」

 

「そっか、アミサちゃんって言うのか〜、俺ユウジな!」

 

「……ゆーじくん?」

 

「そーそー、よろしくな!……お、渚ちゃんも来たな」

 

「あの……遅くなってごめんね」

 

「へーきへーき、自己紹介しあっただけだって。な?」

 

「うん。えとね、おにーちゃんは、ゆーじくんなの」

 

「はは……(ホント、怖がりなんだか度胸あるんだか……)」

 

妹、妹、……なんだ、もともと妹なんだからいつも通りでいいのかな……とにかく不自然にならない程度に思い込もうと必死に考えながら自己紹介してみたら、思ったよりも警戒されなかったし、むしろ軽い。あと、なんとなくだけど……裏表もなくて演じてない人って感じがした。……会ったばかりだし、そんな評価をする資格なんて私にはないんだけど。

ゆーじくんの言葉にそちらを見てみれば、メグちゃんと話し終わったみたいで軽く小走りでこちらに来ている渚くんが見えた。自然と隣に並んで、私が不自然になっても不審に思われにくいようフォローしてくれたことに、ちょっとでも感謝を伝えたくて渚くんの左腕に抱きついておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、飲めよ。奢りだ、パーっとやろうぜ!」

 

「え、いやその……ぼ、……私たちは飲めないんで」

 

BARラウンジに連れてこられて、ゆーじくんは何のためらいもなくお酒を注文して持ってきた。勧められたけど、さすがに飲めない……未成年だし、今は他のみんなが目的を果たすまで、もしくは糸口をつかめるまでの時間稼ぎをしなくちゃいけない。

 

「その、ユウジくん……はさ、親と来てるの?」

 

「親ァ?うちの親にそんな暇あるわけねー。ここだけの話な、俺の親父、テレビで有名なタレントなんだ……二人も絶対知ってるぜ?」

 

……そっか、烏間先生が言ってたような芸能人や金持ちのって……ゆーじくんみたいな人たちのことだ。得意げに親の自慢話をしてくれてるけど、彼の話が全然出てこない……そう思いながら聞いていたら、彼はハッと何かに気づいたように顔をそらした。そのままイライラした手つきでポケットからなにか取り出して……

 

「それ、タバコじゃないよね?もっと……」

 

「ん?ああ、ま、法律じゃぁダメなやつだ。最近はじめてよー、俺等の歳でこういうの知ってるやつがかっこいいんだぜ?」

 

そういいながら火をつけようとしたドラッグ(ソレ)を、私は反射的に取り上げていた。

 

「……だめ、ゆーじくん、壊れちゃう……」

 

「学校の先生が言ってたよ。『吸ってかっこよくなるかどうかは知らないが、確実に生きづらくなるだろう』って」

 

お酒はまだしもドラッグは、確実に人を壊してしまう……私はそんな人を実際に見ているし、知っているから。それは様々な思惑の裏側で暗躍していた薬で、たくさんの人が飲み込まれて、耐えられずに消えてしまった人もいることを知っている。私の知る薬、グノーシスとは違う、学校で習うような物なんだろうけど……ドラッグはドラッグに違いない。

私たちは静かに諭す言葉を並べていたけど、ゆーじくんは気に入らないみたいで、舌打ちとともに思い切り机に拳を叩きつけ、ビックリして一歩下がってしまった。

 

「生きづれーんだよ、男はもともとよ!!男はな、無理にでもカッコつけなきゃいけねーんだよ。俺みたく?いつも親と比較されてりゃなおさらな。……お前ら女はいいよなー……最終的にはカッコいい男選ぶだけでいいんだからよ」

 

「……ゆーじくん、私と似てるね」

 

「は……?」

 

多分、ここまでに話してきた中でこの言葉が彼の本音……お父さんの話以外で、しっかり自分を出した発言だと思う。そしてその言葉を聞いて最初に感じたのが、どこか私と似ているところがあるってことだった。

 

「私にもね、有名なアーティストのお姉ちゃんがいるの。キレイで強くてカッコよくて……誰よりも優しいから、私、大好き。でも、私たちのことをよく知ってる人ならいいけど、何も知らない周りの人には私を見てもらえないの。『さすがはあいつの妹だ』『いいな、あの人の妹で』って……頑張って自分を見てもらいたくても、結局お姉ちゃんの影はついてくる」

 

「…………」

 

「でもね、今はあんまり気にならないの……私を見てくれる人ができたから。何があっても一緒にいるって言ってくれる人ができたから。近くで見てくれて、褒めて、叱ってくれる……人を助けることを知ってる、器用なのにちょっと不器用なとこもある……そんな人」

 

リーシャお姉ちゃんと私のことを知っている人は、いい。でも、知らない人にとっては有名な姉をもつ妹でしかない……私なりにすごいことが出来ても『さすがリーシャの妹だね』という思いはどうしてもついてくる。そういう目を向けられるのが嫌で、これまでずっと隠し続けてきた。

でも、それを打ち明けても一緒にいるって言ってくれる人ができた。まだまだ秘密をいっぱい隠しているのに、何も聞かないで話すまで待つって言ってくれた。私を見てくれて、助けてくれて、心配してくれて、手伝わせてくれて、……たくさんのはじめてをくれた、大事な人。

 

「ゆーじくんにも、そんな人がきっといると思うの。それに……まっすぐ相手を見ることができる人の方が、私は好き、かな……」

 

「……アミサちゃん……。…………って、あれ、渚ちゃんの妹じゃなかったの?」

 

「渚おねーちゃんのこと……?私、渚おねーちゃんの『妹分』だから、おねーちゃんって呼んでるの」

 

「…………えーと、」

 

「ごめん、この子こういう子なんだ……」

 

「渚!アミサちゃん!」

 

そんな話をしていれば、BARフロアの入口の近くでカエデちゃんが手招きしているのが見える。私たちを呼んだ……ということは、鍵を開けれたか、男手がついに必要になったか、かな。1度渚くんと視線を合わせて、ここを離れるタイミングを見る。

 

「あ、じゃ、ぼ……私行くね」

 

「……またね、ゆーじくん」

 

「お、おい、もうかよ!」

 

彼が引き止める声が聞こえたけど、私たちの優先順位はこのフロアを抜けることが上だから……申し訳ないけど手を振って背を向ける。他の女子メンバーと合流してみると、目的の場所の前に見張りがいて、なにか騒ぎを起こすなりしておびき出し、そのあいだに通ってしまいたい……と、言うことで私たちは呼び戻されたみたい。

 

「……あの辺の植木、燃やす?」

 

「いやいやいやいやいや……何言っちゃってんの?……やらなくていいから、それはさすがにトラブルの元だからやめよ!?」

 

「うぅ、なんでもいいから早く着替えたいよ……」

 

「ちょ、おい待ってって彼女たち!俺の十八番のダンス見せてやるよ!ほら、ほら!」

 

とりあえず騒ぎを起こすなら手っ取り早くボヤ騒ぎかな、と植木に歩いていこうとしたら、みんなに全力で止められた……。じゃあどうするのかって思ったら、どうやら作戦は決まっていたらしくて、いざメグちゃんが話そうとした時……ゆーじくんが追いかけてきて、目の前で踊り出す。タイミング的になんていうか、その……

 

「「「(邪魔……)」」」

 

「!……ゆーじくん、横……!」

 

「へ?…………へ!?」

 

ガッシャン、と音を立ててダンス(?)で振り回してた腕が、近くを通っていたらしいヤクザみたいな人の飲み物に直撃……中身がその人の服にかかってしまった。ヤクザさんは必要以上にキレて、服の弁償とか殴るとかでゆーじくんにあたりはじめて……ある意味これ、チャンスじゃないかな?同じことを桃花ちゃんも思ったみたいで、ひなたちゃんに何やら耳打ちしてる。ひとつ頷いた彼女は、騒ぎを起こしてる二人へと近づき……

 

「すみません、ヤクザさん」

 

「あァ?……ガッ!?」

 

……蹴った。それはもう、クリーンヒットというやつだと思う。顔を蹴られ、倒れ込んだヤクザさんは当分起きそうにない……一緒に座り込んでしまったゆーじくんも腰を抜かしてしまったように呆然としてる。

その間にヤクザさんが()()()倒れたように移動させて偽装して、見張りの人に対処をお願いすれば、案外すんなりとヤクザさんの対応のために持ち場を離れてくれた。ゆーじくんに今のことを秘密にするように伝えて、警備の人がいない間に裏口へとみんなは走っていく。この場に残っているのは私と渚くんだけだ。

 

「女子の方があっさりカッコいい事しちゃっても、それでもメゲずにカッコつけなくちゃいけないから……辛いよね、男子は。今度あったらまたカッコつけてよ。できればダンス以外がいいな」

 

「お話できて楽しかったよ。……おとーさんのお話をしなくてもまっすぐ向き合えて、ゆーじくんらしさが出せたら、それが1番カッコいいと思う……麻薬とかに頼らない、ホントのゆーじくんでいられますように……」

 

「……………渚ちゃん、……アミサちゃん……」

 

最後にもう一度ゆーじくんを振り返って手を振ってから、階段へと駆け出す。……女子だけの任務達成、これでこのフロアも突破だ。

 

 

++++++++++++++++

 

 

「危険な場所へ潜入させてしまいましたね。危ない目に遭いませんでしたか?」

 

「んーん、ちっとも!」

 

待っていた男性陣と合流したところで、安心したように問いかける殺せんせーに対して、私たちは先生や男子に頼らなくても、自分たちで潜入をこなしたという満足感でいっぱいの返事を返した。私と渚くんの方は言わずもがなで、他の女子たちの方もナンパされたらしいけど、桃花ちゃんの機転で何も起こらずに撃退できたらしい……さすがです。待っている間に烏間先生の体の自由がだいぶきくようになったらしくて、少しずつ体を動かし始めてる……こっちもさすがだ……

 

「で?変な虫、近寄らなかったよね?」

 

「え、いや……まあ……ナンパにあったくらい……?」

 

「はァ?渚くんは別にいいけど、そーいうのからこそ守ってよね、『渚おねーちゃん』?」

 

「理不尽……ッ!ていうか、僕も一緒にナンパされたんだよ!?」

 

「渚くんは1人で何とかなるかもだけど、あの子は下手に度胸あるせいで、吹っ切れると何やらかすかわかんないから別」

 

「……実際そうだったから否定できない……!」

 

他の女子メンバー放置で、着替えてきた渚くんにカルマが詰め寄ってる。……笑顔で壁に追い詰めてるし、詰め寄ってるって表現で間違いないよね。仲よくおしゃべりしてるところ悪いけど、合流してからちょっと確かめたいことがあってうずうずしてた私は、静かに近寄ってそのままカルマの腰に抱きついた。

 

「あの場所って虫さんいたの……?お酒扱ってるのにいいのかな……」

 

「うん、虫は虫でもそっちじゃないから……って、どーしたの」

 

「……確認。……自慢してたら、カルマがホントに近くにいるのかなって、気になって」

 

「……よく分かんないんだけど」

 

ゆーじくんに自信満々で話したら、なんとなくホントにそばにいるのか実感したくなったというか……このフロアをこえるために、ほんの少しの間離れただけだど。私や渚くんに何があったのか聞きたそうにしてるけど、これは秘密にしておこうかな……私がカルマに対してどう思ってるのか、っていう本音。漠然としたものしかうかばなかったけど、ああやって口に出してみたら、私が普段どう思っているのかがなんとなく分かった気がする。

これにどう名前をつけたらいいかわからないけど……大切だってことはわかるから。今はまだ、抱きついていれば自然と降ってくる手のひらの温かさが感じられる位置にいることを大事しておこうと思う。

 

 

 

 

 




※説得の裏側
「片岡さん、なんで僕が……」
「……カルマに頼まれてるんじゃないの?」
「う」
「それにほら、そういってる間にも打ち解けちゃってる……あの子、裏があまりない人にはサラッと懐くじゃない?本能的に察してるんでしょ、そーいうの」
「……わかったよ、僕が見てる」
「さっすが、よろしくね」
(合流後、ナンパのことはあっさりバレる)



「さて、階段を上ったとはいえ……まだ油断はできん。そろそろ、移動するぞ……」
「……だって、カルマ、行こ?」
「あー……うん、もうちょっと待って」
「?……カルマ、頭に手があると、顔あげれない……」
「上げなくていいから」
「???」



「カルマ君、真っ赤……」
「あの子、不意打ちも同然に抱きついてたもんね……渚、何か知ってる?」
「なんか、カルマ君の存在を再確認したかったんだってさ。さっきのナンパの時に、カルマ君のことを大切だって自慢しててさ」
「……早く気づくといいね」

「ねぇ、聞こえてるから。お前らうっさいよ」
「カルマー……まだ……?」


++++++++++++++++++++


女子の時間。
ナンパのシーンは、コンプレックスの話がしたかったので、入れる予定でしたが、麻薬の話は思いつきです。そういえば、軌跡シリーズにでてきてたなぁと。グノーシスを麻薬と言っていいのかは謎ですけども……

オリ主、ちょっと、自分の気持ちを確認しました。まだ名前をつけるほど理解はしてないですが、意味を持ってそばにいてほしい存在くらいには認識ができてきました。あとはきっかけかなぁ……




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