暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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悪魔たち(?)の時間

取引を受けないで治療薬を奪い取るために私たちが入り込んだ普久間殿上ホテル……最初に出会った毒使いのおじさんは烏間先生が相討ちとなって倒してくれたとはいえ、相手はプロ。あとから追いかけてこられたら厄介だから、寺坂くんが持ってきていたガムテープで毒物使いのおじさんを動けないように縛り、机や椅子などを被せて外から見ても簡単にはバレないように隠しておく。それらの作業が終わるまで通路を見張るメンバーがいれば烏間先生の様子を確認しているメンバーもいて……私とカルマは床に膝をついて棚の下や机の下を覗き込んでいた。

 

「……っかしーなー……烏間先生が最後の蹴り入れた時にアレ、持ってたよね?」

 

「うん……おじさんの近くになかったってことは、多分あっちの方、に…………あ、」

 

「!……ナイス、アミーシャ。……ま、備えあればうれしいな、と」

 

そんなことをしている間に磯貝くんがフラフラながらも立っている烏間先生を支えに入っていた……あのガスって象をも気絶(オト)すってあの人言ってなかったっけ……なんで歩けてるんだろ。本当にうちの先生っていろんな意味で化け物ぞろいだと改めて思う。

……だけど、満足に動けない烏間先生や足止めをかって出てくれたイリーナ先生に頼ることはもう出来ない……もちろん、完全防御形態の殺せんせーも。まだここは3階、目的地の10階(最上階)までまだまだあるというのに……私たち自身しか頼るものがなくなってしまった。

 

「いやぁ、いよいよ『夏休み』って感じですねぇ」

 

…………私たちが私たちだけでこのミッションをこなさなくてはならないというプレッシャーと不安でいっぱいになっている中、なんともお気楽な殺せんせーの声が廊下に響いた。何言ってやがるこいつ、な空気が烏間先生を含めた私たちの間に流れる……自分は絶対安全だからって、顔色を変えて夏らしい太陽を表示させてるし。この後、全員から思いっきり責められて、渚くんによってグロッキーになって、カルマが何かよくわからないことを寺坂くんにさせようとした問題の先生は、結構すぐに元の顔色へ戻った。

 

「先生と生徒は馴れ合いではありません。そして夏休みとは先生の保護が及ばないところで自立性を養う場でもあります。……大丈夫、普段の体育で学んだことをしっかりやれば、そうそう恐れる敵はいない。君達ならクリアできます……この暗殺夏休みを」

 

殺せんせーはところどころ感覚がずれている……なんて言うか、私たちがついていけるはずのない超生物の自分を基準にして無茶ぶりをする。だけど、今回に関してはその無茶ぶりをやるしか道はない……残り時間がほとんどない今、後戻りしている暇なんてないから。

 

「……にゅいッ!?ちょ、アミッ、アミサさんッ!つ、ツンツンしな、しないでくださッ、いぃぃっ」

 

……でも、この状況で自分基準で気楽でいられるのはいくらなんでも不謹慎すぎると思うんだ。……だから私は渚くんの隣を歩きながら、彼の持つ殺せんせー入りの袋をつついて回転させて、楽しむ余裕のない私たちを他所に楽しそうにしている先生を酔わせて仕返しをすることにしようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5階、展望回廊。

眼下の海を一望できる、外側が全面ガラス張りになった廊下だ。本来ならすごくいい眺めを楽しめる場所、なんだろうけど……そうもいかせてもらえないみたい。夜だからどこか幻想的で……静かすぎるそこは、危なく不気味な雰囲気の漂わせていて、その中心には窓ガラスにもたれかかりながら佇む一人の男の人がいた。それを見て烏間先生が動けないならと壁役を買って先頭を歩く寺坂くんが足を止めた。

 

「(お、おいおい……めちゃくちゃ堂々と立ってやがる)」

 

「(いい加減見分けがつくな……どう見てもあいつは殺る側の人間だ)」

 

この廊下はさっきの中広間と違って狭く、遮蔽物がないから見通しがいい……つまり、隠れて奇襲する、ということが出来ない。小隊を組んでぶつかるにも狭すぎるから、私たちの人数が多いことを生かせない。

どうここを通り抜けるべきか……息を潜めながら考えていると、突然男の人がもたれていたガラス窓にヒビが入った。

 

「……つまらぬ。足音を聞く限り、『手強い』と思えるものが1人もおらぬ。精鋭部隊出身の引率の教師もいるはずなのぬ……だ。どうやら……〝スモッグ〟のガスにやられたようだぬ、半ば相討ちぬといったところか。……出てこい」

 

私たちがここまで来て様子を伺っていたことは完全にバレていたというわけですね……バレているのに隠れていても意味が無い、全員で男の人の前に姿を見せるしか選択肢はなかった。

それでゾロゾロと姿を見せることになったわけだけど……なんか……なんていえばいいのか分からないけど、みんなの表情がおかしかった。言いたいことがあるけど我慢するしかなくて、みたいな……、あ、もしかして……

 

「〝ぬ〟、多くねおじさん?」

 

「「「(言った!よかった、カルマがいて!!)」」」

 

「え、そっち?みんな、〝私たちは宿泊客ですから通らせてください〟って言いたいのかなって思ってた……」

 

「毒ガスおじさんも俺等の情報知ってたんだから無理っしょ」

 

「そっかぁ……」

 

「そうだよ」

 

「「「(出た、この天然娘!お前らここでほのぼのすんな!)」」」

 

見たところこの男の人は外人さんな容姿をしてるから、正直、母国語から日本語習得した時に違和感のある日本語の使い方で身につけた人なんだなってくらいのことしか考えてなかった。それか、日本の何かをリスペクト……だっけ、好きなものを真似てる人かなって思っていたら……案の定、サムライっぽい口調になるって聞いたらしく、かっこよさそうで試していたみたい。

 

「間違ってるならそれでも良いぬ。この場の全員殺してから〝ぬ〟を取れば恥にもならぬ」

 

「素手……それがあなたの暗殺道具ですか」

 

「こう見えて需要があるぬ、身体検査に引っかからない需要は大きい。近付きざま頚椎をひとひねりその気になれば頭蓋骨も握り潰せる……だが、面白いものでぬ、人殺しのための力を鍛えるほど……暗殺以外にも試してみたくなる。すなわち…闘い。強いものとの殺し合いぬ」

 

素手……武器が見えないからこそ警戒しにくく、完全にその人の力量に左右されるもの。それをこの機会に試したかったんだ……もしもここまで無事に烏間先生が来ていたらやるつもりだったんだろう。

その時、隣でカルマが動いたのがわかった。

 

「(行くの……?)」

 

「(うん。いざとなったらアレがあるし、ちょっと試してくるよ)」

 

「(……最初だけ、リズムを崩すのだけでいいから、私も行っていい……?見てるだけなんて、やだから……)」

 

「(……じゃあ俺がきっかけは作るから。そこからのおじさんぬとの闘いは、俺を信じてくれる?それならいいよ)」

 

1つ頷きあって、カルマが近くに飾られていた観葉植物を掴むのを合図に私たちは静かに移動する。

カルマ曰く命名『おじさんぬ』はお目当てだった烏間先生が満足に動けないことから足止めに興味をなくしてしまったみたいで、1人では面倒だからと報告ついでに増援を呼ぼうと携帯を取り出し、そこに視線を落とした……ところでカルマが観葉植物を振りかぶり、私も同時に飛び出す。

 

────ガァンッ!!

────ガッシャン!!

 

「な……っ!!」

 

「「「!!」」」

 

「……なんだ、思ってたより簡単に壊れちゃった。でもこれで連絡手段はなくなっちゃった、よね?」

 

「ねぇ、おじさんぬ。意外とプロってフツーなんだね。ガラスとか頭蓋骨なら俺でも割れるよ」

 

大きな音が2つ、静かな廊下に響いてみんなが驚いているのを尻目に気にせず前に出たカルマの隣へ並ぶ。

烏間先生以外に手強い……戦える人はいないと私たち生徒を気にもしてなかった不意をつき、カルマが観葉植物でおじさんぬの手を殴りつけて携帯をはじき飛ばす……勢いをあえて殺さなかったから植木鉢はガラスを直撃、おじさんぬが作ったヒビよりも大きなものを作り出した。ほぼ同時に飛び出した私はカルマの肩、ガラスに打ち付けた植木鉢を足場に宙へ跳び、飛ばされた携帯を床へ思い切り蹴り落として破壊、そのまま床に着地してまっすぐ殺し屋さんを見る。

 

「……ぬ……?2人で来るか、少年、少女よ……、ッ!?これは……」

 

「…………」

 

今の一連の動きを見たおじさんぬが、一瞬なにかに驚いた素振りを見せて……何かを考えるように私たちのことを上から下まで眺めている。嫌な目線ではなくて、実力を図ろうとするものだと思う……私はとりあえず目をそらして少し下がり、その視線を遮るようにカルマが前に立った。

 

「……?なんかよく分かんないこと考えてるみたいだけど。この子はおじさんぬの連絡手段壊してくれただけの俺のサポーターだから、相手は俺1人だよ……ていうか速攻仲間呼んじゃうあたり、中坊とタイマン張るのも怖い人?」

 

「よせ、無謀……!」

「ストップです烏間先生……アゴが引けている」

 

今までのカルマだったら余裕をひけらかしてアゴを突き出し、相手を見下す構えをしていた。でも今は違う、口が悪いところに変わりはないけど……目はまっすぐ油断なく、正面から相手の姿を観察している。テストでの敗北……その経験からしっかり学んだんだろう、そう殺せんせーが評した。

1人だけ前に出て、明らかにカルマがタイマンで勝負を挑もうとしているのがわかったのだろう……殺せんせーは止めなかったとはいえ、みんなはなんとかして彼を止めようと一歩下がった私に訴えかけてくる。

 

「おい、真尾……お前はいいのかよ!相手はプロだぞ!?」

 

「いくらカルマでも分が悪いって……!」

 

「…………信じてっていったから」

 

「……え?」

 

……私だって、1人では危険だとわかっている戦いに行くのを黙って見ているのなんて嫌だ。傷ついて帰ってくるかもしれないのに、何も出来ないなんて嫌だ。

だけどそれではカルマに実力がないって言っているようなもの……誰にも本当の実力とか、秘めている力なんてわかるはずがないのに勝手に判断するのは、彼を信じられないってことになる。

 

「カルマが、信じてっていったから……だったら私は信じる」

 

……これが、1人で行こうとする人を送り出す側の気持ち、なんだと思う……はじめて、知った。

まっすぐカルマとおじさんぬの方を見て、それでも何かあった時のためにエニグマは握りしめて私がそう言うと、みんなは不安そうにだけど引き下がってくれた。任せてって、信じてって言ったから……私は目をそらさない、だからせめて、無理だけはしないで……

 

「いいだろう……試してやるぬ」

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

そして、素手の殺し屋とカルマによる1対1の勝負が始まった。

振りかぶった最初の一撃で観葉植物は握りつぶされ、武器として使えなくなった。それを投げ捨てるのを見たおじさんぬは一気に接近戦へと持ち込んだ。頭、首、腕……それらを捕まえ握りこもうと動く手を、カルマは全て避けるか捌くかをして当たらない。一度捕まったらゲームオーバー……烏間先生と私たちの体育の授業を見ているかのようだ。

 

「……すごい」

 

思わず、そんな言葉がこぼれた。私たちは戦闘方法(たたかいかた)を学んでいるわけではいない。最終目的は暗殺だから、静かに忍び寄り、たった一撃の攻撃で仕留めればいいため、自らを守るすべを学ぶよりも、武器の扱い方、体の動かし方を優先して学んできた。カルマは、教えられていないことでも〝見て〟吸収し技術を盗んだんだ。

それでも防戦一方にしかならず、なかなか攻めに移ることが出来ない……ハラハラしながら見守っていると同じことに気づいたおじさんぬが攻撃の手を止めてしまった。

 

「……どうした?攻撃しなくては永久にここを抜けれぬぞ」

 

「どうかな〜あんたを引きつけるだけ引きつけといて、その隙に皆がちょっとずつ抜けるってのもアリかと思って。……まぁ、でも安心しなよ。そんなコスいことは無しだ。あんたに合わせて正々堂々素手のタイマンで決着つけるよ」

 

「良い顔だぬ、少年戦士よ……お前とならやれそうだぬ、暗殺家業では味わえないフェアな闘いが」

 

今度はカルマから仕掛ける。まずは蹴り、高さを見せると基本的に顔や首、顎を狙って攻撃を仕掛けていく。腕や指先で顔を狙いおじさんぬの注意が上半身に向いた瞬間、足を蹴りつけた。上手い具合にヒットし、蹴られた足をかばったおじさんぬは距離をとって背中を見せた……すかさず追撃をかけるためにカルマが一気に距離を詰める。

 

「(チャンス!)」

 

────ブシュッ

 

「!」

 

……瞬間、広がったのは見覚えのあるガス。まともにそこへ突っ込んでいったカルマは、意識を失くしたのか崩れ落ちた。カルマの頭を掴み、床に倒れ込むのを止めたおじさんぬは、持っていたガス噴射器を床に落とした。

 

「一丁上がりぬ……長期戦は好まぬ、〝スモッグ〟の麻酔ガスを試してみることにしたぬ」

 

「き、汚ぇ……そんなもん隠し持っといてどこがフェアだよ」

 

「俺は一度も素手だけとは言ってないぬ……ぬ!?」

 

「そうですね……でも、こっちには私がいるってことも忘れちゃダメです。……〝素手の勝負〟を先にやめたのはおじさんぬさんですから」

 

赤い光と共に火球がおじさんぬのカルマを掴んでいない側を掠め、窓にあたって消滅した……火のアーツ、«ファイアボルト»(火属性攻撃魔法)だ。さらに青い詠唱の光をエニグマに灯して、私も挑発を重ねる。吉田くんの言うことももっとも……だけどフェアを申し出ておきながらそれを先に破ったのはおじさんぬだから、これは無効試合みたいなもの。それなら最初に話していたタイマンだって無効……っていう理屈で私も参戦してアーツを使う意思があることを示す。

驚いたように私を見たおじさんぬだけど、何事も無かったかのように有利を確信した顔でカルマの顔を掴みなおすとそのまま持ち上げた……カルマの体は宙に浮く。

 

「拘る事に拘り過ぎない……それもまたこの仕事を長くやってく秘訣だぬ。少女術師よ、そのまま攻撃アーツを使えばこの男の命はないぞ」

 

「!……アミサちゃん!」

 

「…………」

 

「フッ、そう、そうやって大人しくしていればいいぬ。至近距離からのガス噴射、予期してなければ……」

 

「……、……あはっ、ありがとです、おじさんぬさん……()()()()()()()

 

「何を、ッ!?」

 

────ブシュッ

 

「奇遇だねぇ〜、2人とも同じこと考えてたぁ」

 

再びガスが噴射される音……今度はカルマの手の中から……予期してなければ絶対に防げないんでしょ?私に意識を向けた時点でおしまい、です。意識をなくすまではいかなかったみたいだけど、おじさんぬはたまらずカルマを手放して、崩れそうな体を支えている。

 

「なぜ、何故ぬ……お前がそれを持っているぬ……そして何故、お前は俺のガスを吸ってないぬ!ぬぬぬうぅぅっ!」

 

苦し紛れだろう、懐からナイフを取り出してカルマに躍りかかったおじさんぬだけど、少なからずガスを吸った影響が残っていたみたいで動きが鈍い……もちろんそれを見落とす彼じゃないから、ナイフを避けるついでに懐へと入り込み、そのまま固め技で締め上げた。

 

「ほら寺坂早く早く〜っ!ガムテと人数使わないと、こんなバケモン勝てないって」

 

「……はぁ、へいへい。テメーが素手のタイマンの約束とか、もっとないわな」

 

「縛る時も気をつけろ……そいつの怪力は麻痺していても要注意だ」

 

「「「はーい」」」

 

男子を中心におじさんぬの上にのしかかる……中学生とはいえ、さすがに10人近くが上に乗ったのはきついだろうね……ものすごい悲鳴が聞こえた気がするけど、聞かなかったフリで。そのままガムテープでぐるぐる巻きにしてしまった。

 

 

++++++++++++++++

 

 

「それにしても……カルマ、最初からアレ狙ってたのか?」

 

「ん〜?まーね。毒使いのおっさんが未使用だったのくすねといたんだ……使い捨てなのがもったいないくらい便利だね」

 

「アミサちゃんも笑ってたし……知ってたの?」

 

「だって、アレ見つけたの私だもん」

 

「……なるほど、あれか。椅子やら棚の下やらを覗いてた時」

 

ぐるぐる巻きにしたおじさんぬのそばで話す私たち……押し潰したとはいえおじさんぬなら起きてるよ、だから悔しそうに見上げているのがわかる。危険なのは手のひらだけだとは思うけど、いつこの拘束をほどいて起き上がってくるかわかったものじゃないから、動ける人みんなで一定の距離を取りながら囲んでる。

 

「何故だぬ……俺のガス攻撃、お前は読んでいたから吸わなかったぬ。俺は素手しか見せていないのにぬ……何故ぬ!?」

 

「とーぜんっしょ、()()()()の全部を警戒してたよ。……あ、アミーシャ、うれしいなよろしく〜」

 

「!……ん、わかった。寺坂くん、リュック貸して?」

 

「は?……お、おう……」

 

私に頼み事をしてカルマはおじさんぬの方へ近づいていった……先に済ましちゃおう。そう思った私は寺坂くんの持っているリュックにカルマが入れたらしい非常用持ち出し袋を出させてもらう……その袋が出てきた瞬間に、寺坂くんが「あいつ、いつの間にこんなの入れやがったんだ!」って……カルマ、入れさせてもらってたんじゃないんだ、……文字通り勝手に入れたんだね。

おじさんぬの顔の正面に座るカルマはまっすぐと目線を合わせる……勝者だからと驕らず、ただ、まっすぐ。

 

「あんたが素手の闘いをしたかったのは本トだろうけど、一対多数のこの状況を足止めするために、素手に固執し続けるようじゃプロじゃない。俺等をここで止めるためにはどんな手段でも使うべきだし……俺でもそっちの立場ならそうしてる。あんたのプロ意識を信じたんだよ、信じたから、警戒してた」

 

カルマが信じていたのはプロ意識……もしもおじさんぬが言っていたフェアな闘いを望むって言葉を信じていたら、素手以外に警戒なんてしてなかっただろうから危なかった。カルマもタイマンの事とか麻酔ガスの事とかいくつも嘘を重ねて対峙してたからおあいこって気がする……つまり、この勝負が始まってからすぐ、闘いの裏側では言葉の駆け引きが行われてったってことだ。

 

「大きな敗北を知らなかったカルマ君は……期末テストで敗者となって身をもって知ったでしょう。敗者だって自分と同じ、色々考えて生きている人間なんだと」

 

相手はどんな努力をしてきたのか……自分と同じように考えてるのではないか……見くびっていたら相手の存在なんて目に入って来るわけがない。相手をまっすぐ見るようになったからちゃんと見て、敬意をもって警戒する……それが出来てはじめて『隙がない』人物になれる。隙がないというのは、単に油断していないってだけじゃダメなんだ。

 

「大したやつだ、少年戦士よ。負けはしたが楽しい時間を過ごせたn……」

「え、何言ってんの?楽しいのこれからじゃ〜ん?」

 

「……ぬ?」

 

「はい、カルマ」

 

「ありがと〜……んー、あったあった」

 

おじさんぬも、負けはしたけどカルマが1人の対戦者としてまっすぐ敬意をもって挑んでいたことを察したんだろう……どこか満足げにこの闘いを締めようとした、が。そこで終わるわけがないのがカルマだよね……タイミングを見計らっていた私は今だと思って非常用持ち出し袋を差し出す。にょきっと取り出したのは……

 

「……なんだぬ、それは?」

 

「わさび&からし。おじさんぬの鼻の穴にねじ込むの」

 

「なにぬ!?」

「「「はあっ!?」」」

 

カルマ特製非常用持ち出し袋……別名、いたずらグッズ『備えあればうれしいな』。見たことないようなものから身近にありそうなものまでなんか、いろいろ入ってる……これから使うものが幾つかあるらしいから袋をひっくり返してみた。あ、虫のおもちゃ出てきた。

 

「さっきまではきっちり警戒してたけど、こんだけ拘束したら警戒もクソもないよね。これ入れたら専用クリップで鼻塞いでぇ……口の中にトウガラシの1000倍辛いブート・ジョロキアぶち込んで……あ、それとって」

 

「……これ?うん」

 

「ありがと。で、その上から猿轡して処置完了っと……さ、おじさんぬ。今こそプロの意地を見せる時だぬ」

 

「ぬぐおぉぁあぁあっッ!!??」

 

「あはははっ!まだまだチューブ1本あるんだからぁ、いーっぱい味わってよね〜!」

 

「カルマ、これって何?」

 

「ん?……あぁ、それ奥田さんに頼んで作ってもらった悪臭化合物(魔物食材入)。それ使うと、ここいっぺんものすごく臭くなるらしいから、おじさんぬにやるならそっちのセンブリ茶にしときなよ」

 

「もぐがァァあぁああぁッッ!!〜ッ!!」

 

「んと……私はいいかなぁ……カルマに麻酔ガスかけてきた時は氷漬けも一応仕返し候補にあったんだけど、元気だったし、別にいいかなって」

 

「そう?じゃあ俺がやろっかな〜」

 

ホントに色々入ってるなぁ、この袋……カルマの隣に座って、気になるものを手に取りながら彼の気が済むまでおしゃべりを続けていると、袋ごと寺坂くんに没収された。なんだかんだ言ってもリュックに入れてくれるみたいで、なんつーもん持ってきてんだよって言われてしまった……。

 

「あー、もうお前らその辺にしろ!さっさと行くぞ!もたもたしてっと見つかっちまう」

 

「図体でかいもんね」

 

「うるせぇっ!」

 

何はともあれ、誰も怪我も何もすることなく(相手は除きます)5階を通り抜けることができた。これでやっと半分……ちょっと、疲れてきたかも……少しだけ力が抜ける感覚があるというか……初めて感じる違和感だけど軽いものだし、カルマのあの戦闘で腰が抜けそうになっていたのかもしれない。それにもうひとつの懸念事項の方が私の中の殆どを占めていたから、あまり気にしてなかった。

──次にぶつかる問題のフロアまで、あと少し。

 

 

 





「殺せんせー……カルマ君、変わってなくない?」
「えぇ……将来が思いやられます」
「ていうか、なんであの子は隣で平然としてるの!?」
「……慣れなんじゃ、ないかな」
「あれって慣れるのか……?」
「しかも何の疑問もなく手伝ってるし……奥田ぁ……なんつーもん渡してくれてんだ……」
「あの悲鳴をバックに、あそこだけ日常風景みたいになってるよ……」
「真尾の適応能力を褒めればいいのか、あれに慣れきってるのを異常だと思えばいいのか……」
「……全部、じゃないかな……」


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カルマの時間、別名『悪魔達の悪魔的なお遊び(最後だけ)』をお送りしました。
アニメと原作単行本のいいとこ取りをしようといろいろ見ながら書いてるので、混ざってます。特にオリ主は気がついたら暴走してるので、みんなが荒れます。

『今回の暴走』
・携帯蹴り壊す→床に蹴り落とす
・実はちょっとキレてた。アーツをギリギリに当てるように撃つ
・平然と『備えあればうれしいな』袋を扱う。きけん?近寄るな?……なんで?
など。

次回は、女子の時間。




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