暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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引率の時間

────とんっ、ひょいっ……バッ!

 

「置いてくよー!」

 

岩から岩へと飛び移り、途中に生えている木すら崖を登る道にして行く……それを体現する身軽な動きでどんどん登っていくひなたちゃん。体操で鍛えたバランス感覚や体幹、体の使い方を分かっているから、あっという間に他のメンバーとの間が広がっていた。体育の時の崖登り(クライミング)もすごいと思ってたけど、本物の崖でも本領発揮しててかっこいいなぁ……

 

「……やっぱ身軽だなー、岡野は」

 

「あー、こういうことやらせたらクラスでトップを争うからな」

 

「ん?クラス1じゃねーの?」

 

磯貝くんと木村くんが前で何か話してる……ひなたちゃんの名前が出てたから、きっとあの彼女の身軽さについてなんだろうな。()()()()()()()()()()、チラ、と下を見てみれば烏間先生がイリーナ先生を背負って崖登りをしている……2人分の体重がかかりながら崖を登っている烏間先生もすごいけど、足を引っ掛けるところもない、ドレスで動きづらい、腕だけで自分の体重を支えるイリーナ先生も充分すごい。崖登りだけでも私も見習いたいことがいっぱいあるなぁ……とと、まずは余計なことを考えてペースを落とすより、さっさと登っちゃわないと。

 

────とんっ、とんっ、とんっ、……

 

「……あれ見てそう言えるか?」

 

「…………真尾、最初からペース変わらねーし、早ぇーし、岩場のどこ掴んでんのかわかんねーよ……あれこそ道無き道を行くってやつか」

 

「駆け上がってるに近いよな、あれ。……あの身体能力も隠してたんだろ……負けてられないな」

 

「……負けてられないっていうか……俺、ふつーに置いてかれたんだけど。タイムリミットとか考えると声かけてリズム崩すのもヤダから追いかけてるけど」

 

「カルマって崖登りの成績男子の上位だよな……それで置いてかれるって」

 

「……どんまい、カルマ」

 

「うっせ……、お先っ!」

 

先生たちはきっとだいじょぶだろう……みんなは何の問題もなし。登りながら崖の上にそびえ立つ目的地を見る……あそこに、みんなを助ける術がある。……でも、国家機密の殺せんせーを知っていて、E組にいるってことも知っていて、私のことを調べていて……そんな犯人って何者なんだろう。

 

 

++++++++++++++++

 

 

「……律、侵入ルートの最終確認だ」

 

『はい、内部マップを表示します』

 

律ちゃんの力で電子ロック、監視カメラへの侵入(ハッキング)は済んでいるみたいで、侵入することだけなら割と簡単に出来そうだ。ただ、内部に侵入した後は専用のカードを持たない私たちはエレベーターを使うことが出来ず、バラバラに配置されている階段で最上階まで行かなくてはならない。

 

「テレビ局みたいな構造だな……テロリストに占拠されにくいよう、複雑な設計になってるらしい」

 

「こりゃあ悪い宿泊客が愛用するわけだ……」

 

「行くぞ、時間が無い。状況を見て指示するから見逃すな」

 

先頭を烏間先生が歩いて状況を確認し、後ろを行く私たちは足音や息を殺して静かについていく。通用口は裏手にあることもあって宿泊客も警備員も誰もいないし、律ちゃんがカメラに映らないように細工してくれてるのもあって比較的安心して通れた。

問題は侵入して早々にかち合う……上へ行くには嫌でも通らなくてはいけない、ホテルのロビーだ。当然上にいる人たちを守る警備員はたくさんいるし、最初のチェックだからこそ厳重だと思う。侵入している手前、警備を倒してしまうわけにもいかないし……非常階段がすぐそこにあるとはいえ、多分今顔を出しただけでも不審人物としてアウト……それに、入った非常階段に人がいないとも限らない。確認したいことが山積みだ。

烏間先生は多分、人数を絞るべきかどうやってここを通過するのが効率がいいのかを考えているんだろうけど……

 

「……?……んっ、……何よ、普通に通ればいいじゃない」

 

そんな空気をぶち壊したのはイリーナ先生だった。廊下に置いてあったお酒を、何のためらいもなくグラスにあけて飲むとそう言い切った。何をする気なのかよく分からないし、みんなも状況が見えないのかと抗議している……けど、先生の目はやけに真剣だった。

多分、イリーナ先生には警備の意識を引きつける作戦があるんだ。このままここにいては何も変わらないし、烏間先生が全員を通過させられる策をこれから思いつけるとも限らない。それなら、とイリーナ先生が動いてくれようとしている。……だったら、私も1つ役に立てることがある……思い立ってすぐ、ロビーに出ようとしているイリーナ先生を追いかけて腕に触れた。

 

「……イリーナ先生、()()()()()()?」

 

「?……何か、策でもあるの?」

 

「私1人だけだったら、ここを通過できます。……なので、非常階段に人がいないかだけでも確認してきます」

 

「……そう」

 

「よせ、真尾さんでは危険だ!」

 

烏間先生に肩を掴んで引き止められて、やっぱり行かせてくれないかなって思ったんだけど……私を止める手を払ってくれたのは意外なことにイリーナ先生だった。

 

「この子は私の放課後講座の生徒よ?だったら信じてやるわ……1分、待ちなさい」

 

「……はい!」

 

そう言って、イリーナ先生はフラフラとよたつきながらロビーへと歩いていく。当然いきなり人が現れたことで警備の人たちはみんなイリーナ先生へと視線を向ける……でも先生は1分待てって言った……なら、もっと多くを引きつける何かをするはずだ。

その間に私は目を瞑り、軽く屈伸をして準備をしておく。イリーナ先生が許可してしまったから、みんなは私を止めるに止められないみたいで後ろで少し慌てているけど気にしない。30秒……イリーナ先生がロビーに置いてあったグランドピアノへ向かっていく、1分……座った……今だ。

 

《───月に踊る蝶たちよ───》

 

私は小さく唱えながらその場でくるりと周り、一度上に跳んだ……瞬間、着地の時には、

 

「へ……?」

 

「ど、どこに……?」

 

……みんなから、私の姿は見えなくなっている。

これはクラフトと言って戦闘の時に私が使える固有の技……みたいなものだと思ってもらえたらいい。今私が使ったのは姿を視認できなくなるよう隠し、素早く動けるようになるもの。

そのままロビーへと足を踏み入れても誰にも見えていないし、イリーナ先生のピアノが鳴り響いていて足音も消える。そして、先生の魅せる〝音色〟……それによって警備の目は釘付けだから、万が一があっても誰も私には気づかない。……非常階段を見てくるだけじゃもしかしてがあるかもしれないし、連絡はロビーも回ってからにしようかな。

 

 

 

 

 

渚side

ビッチ先生の存在感に隠れるように、アミサちゃんがその場で何か呟きながらくるりと回って……跳んだ、と思った時には、そこには誰もいなくなっていた。……この感覚、どこかで経験したことがある……そうだ、中間テスト前に理事長先生が来た時だ。

ロビーではビッチ先生がフラフラと歩いていって警備の人にぶつかって……ピアノを弾き始めるまでがすごく自然だった。ビッチ先生は体の血流を操作して顔色を変えることが出来るって言ってたから、酔ったフリをしてたんだと思う……多分最初に廊下のお酒をあおっていったのは、酔っているのにお酒の匂いがしないのはおかしいからじゃないかな。その後は流れるように警備の視線を引き付けて奏でられるピアノ演奏……すごかった……普段の学校での姿が、信じられないくらい綺麗であでやかで……それにあんな長い爪でピアノを弾く技術……まずピアノが弾けるなんて全然知らなかった。

 

────ブブブッ

 

「!……律?」

 

『すいません烏間先生、律ちゃんじゃないです。……今、非常階段に到着しました。ロビー全体を見て回ったところ、警備の数は全部で13人です。非常階段に人影はなし、入ってすぐには踊り場がないので途中まで上がってしまえば姿は見られません、…………え、えと……なので、みんな来ても平気です』

 

そして、演奏に聞き惚れていたら烏間先生のスマホに入った連絡……それは無事に非常階段まで行けたっていうアミサちゃんからの報告で……なぜか最初に言っていた非常階段の確認だけじゃなくてロビーの警備人数まで調べていて、烏間先生が頭を抱えていた。だってこれってさ、あの場で存在感がないからってロビーを歩き回ってきたってことでしょ……?

 

「……渚君……俺、怒っていいよね」

 

「……任せるよ。でも、侵入がバレない程度にね」

 

頭を抱えていたのは烏間先生1人じゃなかった、むしろ僕等みんな、だ。崖の下で自己犠牲について色々言ったはずなのに、早速1人で突っ走っていったアミサちゃん……もたらされた情報は役に立つとはいえ、息をするように危険に身を晒すから、寺坂君ですら呆れてるしカルマ君なんて口元をひきつらせている。……今回は庇わないからね、僕。

ふと、ビッチ先生が演奏を止めてロビー全体の警備を集めてくれているのが目に入る……あ、左手だけ椅子の下へ隠した?

 

【20分稼いであげる。行きなさい】

 

────完全に視線を集めたから行け、というハンドサインだ。

そのハンドサインすら、自然な動作すぎて警備は誰1人として気が付いてない。……今のうちに通るだけなのに、僕等まで思わず目を奪われた。……なんて綺麗な先生なんだろう……って。

 

 

++++++++++++++++

 

 

アミサside

非常階段を少し登ったところで待っていれば静かに入ってきたみんな……それを確認したとこでクラフトを解除すれば、何人かからいきなり現れたって驚かれてしまった。だって、みんなが来るギリギリまで警戒してなくちゃ意味ないし……そう思っていれば、最後尾の渚くんと殺せんせーが入ってきた。無事、最初の難関を全員でクリア……思わず安堵の息が漏れた。

 

「全員無事に突破!」

 

「すげーや、ビッチ先生」

 

「あぁ、ピアノ弾けるなんて一言も」

 

「普段の彼女から甘く見ないことだ。優れた殺し屋ほど(よろず)に通じる……君等に会話術を教えているのは、世界でも1・2を争う色仕掛け(ハニートラップ)の達人なのだ」

 

イリーナ先生……きっと先生は潜入するために役立つと思えばどんなことでも身につけているんだろう。様々な環境に適応して、自然とその空気に溶け込む……それをたった今目の前で見せつけられたわけだ。殺せんせーは動けなくても、いろんな分野でプロぞろいのE組の先生たちはとても頼もしい。

時間もないことだから先に進もう、そう言われて階段を登ろうと進行方向を向いた時、だった。背後から肩を掴まれて先に進むのを止められて誰かと思えば、

 

「さて……アミーシャ。侵入早々早速1人で突っ走って心配かけてくれたね……覚悟はいい……?」

 

「ひぃっ!?」

 

「……カルマ君、程々にね」

 

「上で待ってるぞー」

 

……笑顔でデコピンの構えをするカルマがいました。まって、それだいぶ指先に力入ってますよね……?!慌てて他の人に助けを求めようとしたのだけど、みんな、わざとらしいくらいに目を逸らしてさっさと階段を上がっていく。……見捨てられた!?これ、私の味方いないの……!?

……結局みんなが見えなくなってから問答無用でデコピンの刑に。……思い切りデコピンをされた私が全く声をあげなかったことだけはここに宣言しておきます、……痛い。今までにないくらい強烈なデコピンをいただいた後、心配したって言いながらその痛む私のおでこにカルマはコンって自分のおでこを合わせてため息をついた。デコピンのせいで痛むおでこよりも、心配をかけていたらしいのに気づけなかった申し訳なさよりも……カルマがいつも抱きしめてくれる時には見えなくて、初めてこんな近くで見たキレイな顔にドキドキした気持ちの方が気になって……、「……私、病気になっちゃった……?」

……私としては心の中で呟いたつもりが声に出していたみたいで、何変な事考えてるのってデコピン2発目をくらいそうになったことは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事に2階をに到着して……先にフロアで待っていたみんなを見つけて、私とカルマは少し早足で合流した。……私は合流してすぐに足を止めたカルマを抜かして、おでこの痛みとは違って、恥ずかしいというか何というか理解の出来ない何かで顔が赤くなっているのを隠したくて、メグちゃんの後ろに逃げ込んだ。メグちゃんの背中に顔をグリグリ押し付けて、私には理解できない何かを誤魔化そうとしたことは、許してほしい……

 

「……アミサ?あんた顔真っ赤だけど……」

 

「……かるまが、こつんって、……そしたら、おかしくなっ……あうぅ……」

 

「……後で聞くわね、ちょっと気になるし。最悪私が後で『お話』してきてあげるから」

 

どこか含みのあることを言うメグちゃんと小声でそんなやりとりを交わしていれば、いつの間にか3階に到着していて……烏間先生が振り返った。

 

「さて、入口の厳しいチェックさえ抜けてしまえば、ここからは客のふりができる」

 

「客?こんなところに中学生の団体客なんて来るんスか?」

 

「……聞いた限り結構いる、芸能人や金持ち連中のボンボン達だ。王様のように甘やかされて育った彼等は……あどけない顔のうちから悪い遊びに手を染める」

 

悪い遊び……お酒とか、ドラッグ、なんだろう。甘やかされるというのは、咎められないということ……きっと何をしても肯定されてしまうから、将来どうなるか……先は見えてしまう。親が大物だからって、子どももそうだとは絶対に言えないというのに。

ただ、今回に関してはそんな人たちがいることに感謝だ。私たちがここにいても警戒されなくて済むということなんだから。

 

「しかし我々も敵の顔を知りませんからねぇ……敵もまた客のフリで襲ってくるかもしれない。十分に警戒して進みましょう」

 

「そうだな……何かのために指示をしておく。『もしこの先敵と遭遇した場合、即座に退路を断て。』連絡をされて俺たちの侵入がバレたり増援を呼ばれたりしたら、この潜入は役に立たなくなる」

 

「「「はい!」」」

 

これまでのように足音を潜めるのではなく、普通に、ホテルを使っているお客さんのように廊下を歩く。何人かの人とすれ違っているけど気に止める人はいないし、むしろ相手の方が視線を合わせないように関わらないようにしているようにすら感じる。トラブルを避けたいのは相手も同じ、自分たちのことを知られるのを避けたいのも同じというわけだ。敵らしい人とは遭遇していない……気づかれてないのか、まだ来ていないのか、前衛を烏間先生が見張ってくれているとはいえ、完全に安心するわけにはいかない。

 

「へッ、楽勝じゃねーか。時間ねーんだからさっさと進んだ方がいいだろ」

 

3階の中広間に着く頃には、そこまで集団で長々と行動することが得意じゃない寺坂くんと吉田くんが前に駆け出していった。確かに、進めるうちに進むのが得策なのかもしれない……だけど、私たちには馴染みのないフィールドだからこそ、慌てるべきじゃなかったんだ。

 

「ッ!!寺坂君!!そいつ危ない!!」

「……ッ!?……ダメ、2人とも……!!」

 

また、すれ違うだろうこのホテルの利用客……なのに、どこかで感じた気配があった。このホテルに来るまでの私たちの行動範囲は、海沿いのホテル周辺だけ……それなのに()()()()人から()()()()気配を感じるのは明らかにおかしい。

私と優月ちゃんが声を上げたのはほぼ同時で、間髪入れずに烏間先生が前に出て寺坂くんと吉田くんの2人を私たちの方へと投げ飛ばす……その一瞬の間に警戒していた男の人が何かをこちらに向けて烏間先生を巻き込む形でガスが広がった。

 

「……何故わかった?殺気を見せずすれ違いざま殺る……俺の十八番だったんだがな、オカッパちゃんにおチビちゃん」

 

「だっておじさん、ホテルで最初にサービスドリンク配った人でしょ?」

 

それを聞いて何人かは合点がいったみたいでハッとした顔でおじさんの顔を見ている。……イリーナ先生と同じで、自然に環境へ溶け込み自然すぎるが故に印象に残さない……だから、すぐには気づけなかったんだ。

 

「断定するには証拠が弱いぜ。ドリンクじゃなくても……ウィルスを盛る機会は沢山あるだろ」

 

「竹林君が言ってた……感染源は飲食物だって。クラス全員が同じものを口にしたのはあのドリンクと……船上でのディナーだけ。けど、ディナーを食べずに映像の編集をしてた三村君と岡島君も感染したことから、感染源は昼間のドリンクに絞られる……従って、犯人はあなたよおじさん君!」

 

ビシッと決めた優月ちゃんに狼狽えるおじさん……これでウイルスを盛った実行犯は確定だ。

 

「……フン、認めてやろう。……参考までにおチビちゃん、お前は何故わかった?」

 

「……私、あなたのことは知らない……なのに、知ってる感じがした。私たちの行動範囲なんて海沿いのホテル周辺だけに限られてたのに、そこであった感じの人がこんなところにいるなんて、おかしいから……」

 

「なるほど……無意識に気配を読んだというわけか……ククク、おもしろい。おもしろいが、……ここまでだ」

 

────ドサッ

 

余裕そうに笑うおじさんに、嫌な予感がした。バレた時点でもう、私たちから警戒されるってわかっているはずなのに……何か、待ちわびた瞬間が訪れたって雰囲気だ。

──目の前で、私たちの頼れる背中が崩れ落ちた。

 

「か、烏間先生!」

 

「なるほど、毒物使い……ですか」

 

「俺特製の室内用麻酔ガスだ……一瞬吸えば象すら気絶すし外気に触れればすぐ分解して証拠も残らん」

 

さっきのガス……!烏間先生、2人をかばった時に吸ってたんだ……!どうする、こっちは15人あっちは1人……プロと素人という差があるとはいえ、人数差でいえば十分相手に出来るし、烏間先生が動けない今は参戦できるように構えるべきか……

……違う、ちゃんと対策は決まっている。得意気に自分の毒物について語るおじさんは烏間先生に意識がいってるから私たちなんて眼中に無い。私たちはアイコンタクトをとって、すぐに行動する。

 

「お前達に取引の意思が無い事はよくわかった。交渉決裂……ボスに報告するとするか。……なっ!?」

 

報告へ戻ろうとおじさんが来た道へ振り返った時には私たちの配置は終了していた。壁に飾られた武器や部屋に置かれた机、ツボ等を構えた私たちが中広間に繋がる道をすべて塞いでいたから。

 

『もしこの先敵と遭遇した場合、即座に退路を断て。』

 

ここに来る前にされたこの指示を、忠実に守ったに過ぎない。見たところ携帯とか電子機器で連絡を取る様子は見られなかったから、このおじさんをここで足止めできれば私たちのことは知られることは無い、はず。おじさんの進行方向側を塞いでいた私は、エニグマを構え、適当なアーツを詠唱する……正直発動させるつもりは無い。発動前に解除してしまえばEPも消費しないで済むし、そもそもアーツ発動前、詠唱中の特徴的な光は属性に関係なく総じて青だから、相手には私が何をするつもりなのかは察せないはず。ふわりと広がる青い光とその余波で揺れる私の髪……それを見たおじさんは少し焦ったように見えた。

 

「……そうか、お前がボスの言っていたアーツ使いのガキか……!」

 

「……へぇ、黒幕はアミーシャのこれを知ってる奴ってわけね」

 

「!!」

 

そう、この行動は少しだけカマをかける目的もあった。犯人が私の戸籍を調べたということは私がゼムリア大陸の出身者だと分かったはず……だけどあちらで普及している導力器(オーブメント)のことは知っていても、私がアーツを使うかどうかまでは分からないはずだ。だって、大陸に住んでいても戦う力を持たない人の方が圧倒的に多いんだから。私がこれまでにアーツを使って見せたのは5月の鷹岡先生の時とプールと暗殺の時だけ……限られた時しか見せていないのだから、私がどちらに当てはまるかなんて早々知りえない情報のはずなんだ。カルマが察して後押ししてくれたことで、少しだけ黒幕を絞るヒントを得ることが出来た……それでも全然わからないことに変わりはないのだけど。

 

「お前は……我々を見た瞬間に攻撃せずに報告に帰るべきだったな。退路を塞がれボスの情報を少なからず漏らす……そんな失態を犯さずに済んだ」

 

その動揺の隙に烏間先生がふらふらと立ち上がる。

 

「……ふん、まだ喋れるとはな。だが、しょせん他はガキの集まり……お前が死ねば統制が取れずに逃げ出すだろうさ。おチビちゃんは手土産にでもすれば、問題ないしなぁッ!」

 

そう言うとすぐに先程のガスを撒き散らした機械を向けるおじさん……でも、烏間先生の動きの方が早かった。瞬時に間合いに入り込むと、顔面に強烈な蹴りを放った、……あれ、烏間先生ってガス吸ってるんだよね、それであの速さ……?

毒物使いのおじさんは耐えられずに床に沈んだ。だけど、力尽きたのはおじさんだけじゃなかった。

 

「「「か、烏間先生ッ!」」」

 

気力だけでやり返したのだろう、烏間先生も倒れてしまった。これで私たちの先生は3人ともまともに動ける人はいなくなってしまったことになる……ここから、どうなるんだろう。

 

 

 

 

 

 




「……ッダメだ、普通に歩くふりをするので精一杯だ……」
「烏間先生、すぐに回復を……!」
「いい、……30分で回復させる。それに、あの暗殺から考えてそろそろだろう?」
「……でも、」
「何かあった時に備えて温存しておいてほしい」
「……はい」



「そういえば、アミサちゃん。なんであの姿を隠せる技を暗殺で使わなかったの?」
「え、…………その、……、殺せんせーって一度使うと覚えちゃうから、もう二度と使えなくなっちゃうと思って……温存してた」
「……じゃあ、この状況にならなかったら」
「使わないで、今後に使えたかもしれないってこと……?」



「…………『誰か』は知らなくても、アーツ使いがいることは知っている、か。……まさかな」
「烏間先生……?」
「いや、何でもない」


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ホテル に 侵入 しました ▼

ちょっとカルマのことを意識したオリ主。でも知識がないのとキャパオーバーでうまく説明できずに逃げ出しました。メグさんは何があったのかは何となく察したけど、伝わってないことも察したので最悪校舎裏()に呼び出す予定。

そして、本人バラしたしもういいよねとばかりに、カルマは本名を普通に呼び始めるという。オリ主本人も気にしてないけど、これがある意味今のところのカルマの独り占め案件なのかもしれない。

今回は烏間先生戦線離脱でひと区切り。
次は、かっこいいところが書けるといいなぁと思ってます。


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