暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

42 / 108
伏魔の時間

ほんの少し前まで、笑顔だったのに。

ほんの少し前まで、みんなで殺せんせーの暗殺をしていたのに。

ほんの少し前まで、元気だったのに。

これは、どういうことなんだろう……?

 

「フロント!この島の病院は……!」

 

殺せんせーへの大掛かりな暗殺計画が失敗に終わり、みんなが落胆しながらホテルへと帰ってきてすぐのことだった。殺せんせーの弱点である水、というものは総じて体力を奪っていくものだ……それを使った大がかりな暗殺は、異様な疲労感を私たちに残していた。暗殺が失敗したからには、残りの滞在は思いっきり遊べばいい、だから部屋に戻って休もう……そんな空気になってきた時。

1人、また1人とクラスメイトたちが倒れていく。ある者は机に伏せったまま動けず、ある者は床に崩れ落ちて、高熱にうなされて……いきなり地獄へ突き落とされたかのようにホントに突然の出来事だった。慌てて烏間先生が病院を手配しようとしてるけど、この島にはもう、お医者さんがいないみたい。

 

「みんな……っ」

 

「……何コレ……いきなりクラスの半数が倒れるとか、おかしいでしょ」

 

「……カルマ、……カルマはだいじょぶなの……?」

 

「ん、へーき。ちょっと触るよ……熱はないか」

 

いきなりのことに立ち上がることまではできたけど、すぐにどうこうすることも出来なくてそのまま立ちすくんでしまった。

渚くんが近くに倒れた莉桜ちゃんにかけよる。

岡島くんの鼻血が吹き出る。

有希子ちゃんが、前原くんが、三村くんが、綺羅々ちゃんが……みんなが、苦しそうに呻いている。

隣で静かに呟いたカルマの声が聞こえて、慌てて平気かどうかを確認する。その声はいつも通り飄々としていて安心ができて……とても自然な動きで私のおでこに手を当てられた。もし今熱があったとしても、このみんなが大変な状況では、いやこの大変な状況じゃなくても私は隠すだろうからって。

 

────♪〜♩♪♪〜

 

「………っ、何者だ、まさかこれはお前の仕業か……?」

 

どこからか着信音が聞こえる。

烏間先生のスマホだったようで、訝しげな表情のあとに耳に当てているのが見え……一気に真剣な表情(かお)に変化した。この、状況を引き起こした犯人が電話の相手……?

 

「……律ちゃん、烏間先生の通話内容を全員のスマホで聞けるようにできる?」

 

『……!』

 

どうすればいいか分からないまま下手に動いてみんなを苦しめたくない。それなら状況把握ができるように、その一心で私のスマホに小声で呼びかけると、画面に表示された律ちゃんは私が小声でお願いした理由も理解して静かに敬礼すると、少し遅れて私の、そして他の生徒のスマホから烏間先生の通話音声を小さく流し始めた。驚いた様子の何人かが私を振り返ったことから、律ちゃんが私からの指示だと教えたのかもしれない……今はそんなこと、どうでもいいけど。

 

『ククク……人工的に作り出したウイルスさ。感染力は低いが、一度感染したら最後……潜伏期間や初期症状に個人差はあれ……一週間もすれば全身の細胞がグズグズになって死に至る』

 

「なにっ……!」

 

……ウイルス。みんながこうなった原因は病気とかじゃなくて人為的に仕組まれたもの……そして、命の危険があるものだっていう。

電話の主が言うには治療薬はオリジナルのものが1種類しか存在せず、それも電話の相手……犯人しか持っていないのだと言った。そして、犯人の続けた言葉は、賞金首である殺せんせーを犯人がいるこの島の山頂の『普久間殿上ホテル』……そこの最上階の部屋で薬と引き換えに渡すから1時間以内に持ってこい、という取引だった。

 

『だが先生よ……お前は腕が立つそうだから危険だな。そうだな……動ける生徒の中で、最も背が低い男女2人に持ってこさせろ』

 

その言葉が響いた瞬間、みんなの視線は私と渚くんに集まった。『最も背の低い男女』……男子は渚くんで明らかだが、女子は私とカエデちゃんがほとんど同じ……それでも数センチだけ私の方が低い。カエデちゃんがクラスでいつも公言してるから私の方が低いことをみんな知っている……取引に要求されているのは私だ、それが分かって唇を噛んだ、時だった。犯人の要求はまだ終わっていなくて、続いた言葉に声をあげかけた。

 

『あぁ、そうだ……確かそこには『月の姫の縁者』もいるらしいなぁ……そいつも連れてこい。劣っていても見世物にはなるだろうからなぁ……』

 

「──ッ!?」

 

そして電話は一方的に切られた。

……『月の姫』。その言葉ですぐに反応したのは、私とカルマ、渚くん、律ちゃん、殺せんせー……あの日、一緒にアルカンシェルへ行ったメンバーだ。それ以外の人たちには何のことを言っているのかわからないようで、顔を見合わせたり不思議そうな顔をしている。

私の意志とは関係なく、体がガタガタと震える……誰にも、それこそ連れていった4人以外には話したことも教えたことも無いはずの情報を、犯人は知っている。なんで、どうしてと一瞬で他のことが考えられなくなった私を、隣の彼が引き寄せて私の顔は彼の着ているカッターシャツに押し付けられることになる。……あたたかい……少し、落ち着けた気がする……私はそのまま顔を押し付けて、感じた恐怖を散らそうとギュッと、目をつぶった。

 

「烏間さん、案の定ダメです。政府としてあのホテルに問い合せても、プライバシーの保護を繰り返すばかりで……」

 

「……やはりか」

 

「やはり?」

 

烏間先生の部下の人も、山頂のホテルに問い合せた結果を聞いた烏間先生も、どんな結果になるのかを予測していたかのような言葉に殺せんせーが聞き返す。

烏間先生が言うには、私たちが来たこの普久間島は別名『伏魔島』と言われていて……私たちが泊まるホテルなどは普通なのに、山頂のホテルだけは政府にマークされるほどの違法な商談、ドラッグの売買などが行われているらしい。そして、政府の上層部とのパイプがあるため警察も迂闊に手が出せないのだとか。

 

「ふーん……そんなホテルがこっちに味方するわけないね」

 

「いう事聞くのも危険すぎんぜ……一番チビの2人で来いだぁ?このちんちくりんとソコの震えてる小動物だぞ!?人質増やすようなもんだろ!」

 

「それに、なんだよ……『月の姫の縁者』って……」

 

「『月の姫の縁者』……心当たりのあるものはいるか?」

 

烏間先生がそれを明らかにしようと生徒たちに問いかける。当然、心当たりがあるはずのないクラスメイトたちは顔を見合わせたり周りをキョロキョロと見るだけ……渚くんの視線がこちらに向くのと、カルマが私を引き寄せる腕に力を入れるのと、私がカルマの腕に手を添えるのは、ほとんど同じだったんじゃないかな……?

 

「……!……いいの?」

 

「……うん、ちゃんと話す……いい機会だと思うことに、する」

 

ゆっくりと、心配そうに開放された腕の中から出る。

ゆっくりと、烏間先生の方へ歩き出す。

……そうだよ、みんなに何も話さないで黙っておくことに、隠し続けることに疲れたんだ。信じてくれる人たちには、1つくらい隠しごとを話して楽になっておこうよ、私。

 

「……烏間先生、……多分私、です」

 

「!!……何故か、聞いてもいいか?」

 

「……その前に、みんなにも謝っておかなくちゃいけないことがあるんです。……私の名前は真尾有美紗じゃない、ずっと、偽名を使ってたの……ごめんなさい」

 

できたら、ずっと言わないままでこの中学生活を終えるつもりだった、だからこれは言うつもりのなかった言葉。みんなが突然頭を下げて謝った私を見て驚いているのが気配で分かる。顔を上げてはっきりと告げる。

 

「……私の本当の名前は……アミーシャ・マオ。……クロスベル自治州の劇団《アルカンシェル》の『月の姫』役、リーシャ・マオの妹、です」

 

「「「!」」」

 

お姉ちゃんは今ではクロスベル自治州に限らず人気を博しているアーティストの1人……演技を見たことはなくても名前くらいはイリアお姉さんと並んで誰もが知っているほどの有名人だ。知ってはいてもまさかそこと繋がりがあるなんてみんな思ってなかっただろうから、みんなは驚いて……そして『月の姫の縁者』と称された理由に納得したみたいだ。……私はそんな存在の妹だと公表するつもりなんて、全然なかったのだけど。

 

「けど、なんで名前を変えるなんて……」

 

「日本の学校に通うことになって……日本は漢字の名前が普通だって。それに、リーシャの妹としてじゃなくて……私として、学校に行ってみたかった、から…」

 

いつの間にか有名になってしまった『リーシャの妹である』私ではなく、『ただの子どもの』私として生きてみたかった。コンプレックスがあったわけじゃない……ただ、色々と知識をつけていくうちに、縁者が有名になればそれを色眼鏡でしか見ない人がいるのを知ったから、隠していた。私にとっての当たり前の日常を過ごすうちに、心のどこかで願うようになった望みだった。……それが今年叶って、みんなと一緒に過ごせるのが楽しくて、幸せだったのだ。

 

「渚とカルマ君は知ってたの?」

 

「うん、あと律と殺せんせーも知ってるよ……前に5人で舞台を見に行った時、アミサちゃんのお姉さん……リーシャさんに挨拶もしてる」

 

「でも私、4人にしか話してない……教えてないのに。戸籍とかはそのままで、理事長先生に頼んで学校での登録名だけ変えてもらってるから……知ろうと思えば知れるけど、でも……」

 

「確かにE組に焦点を絞って調べるならまだしも、わざわざ生徒個人の戸籍とかを調べようとはしないよね、普通……」

 

ここにきて、私が怯えていた理由にみんな察しがついたようだ。私は取引のために選ばれたことを怖がっていたんじゃない……それくらい、みんなのためになるのなら喜んでやらせてもらう。……怖かったのは、調べられたから……調べられるほど目立ったり、恨みを買った覚えは全くなかったから。

 

「……アミサちゃんが名前のことを黙っていたことは、とりあえず置いておくね。犯人の要求に当てはめると偶然なのか『最も背の低い男女2人』がそのまま要求通りってことになる……」

 

「要求なんざ全シカトだ!今すぐ全員、都会の病院に運んで……!!」

 

「……賛成しないな。もし本当に人工的に作った未知のウイルスなら、対応できる抗ウイルス薬はどんな大病院にも置いてない……いざ運んで無駄足になれば、患者の負担(リスク)を増やすだけだ」

 

寺坂くん、いつも一緒にいる内の2人がウイルスに感染していることに焦っていて助けたい気持ちが前に出ているのがよく分かる。熱くなっている彼の声を鎮める静かな反論は、ホテルからもらってきたんだろう大量の氷を抱えた竹林くんによってされた。対症療法で応急処置はしておくから、急いで取引に行ってほうがいいって……。犯人から提示された交渉期限は1時間……あの電話を終えた時からだと考えれば、既に1時間もない。

 

「良い方法がありますよ。律さんに頼んだ下調べも終わったようです。取引に呼ばれた2人以外の元気な人も全員、汚れてもいい格好に着替えて集合です」

 

「……あの!……少しだけ、待って」

 

素直に行って、見世物として呼ばれた私はともかく渚くんが無事でいられる確証がない。どうすればいいのかって悩む烏間先生だったけど、殺せんせーには何か策があるみたい。今はとりあえず、その作戦に乗ってみようということになった。

動ける人たちが移動し始めようとしたのを私は慌てて止める。急がないといけないって焦りがみんなの顔に見えるけど、先にどうしてもこれだけは試しておきたいことがあるから。

 

「……烏間先生、竹林くん……みんなのこれ、ウイルスなんですよね……?なら、毒物と同じ扱いと考えても、いいですよね……?」

 

「……ほぼ、そうだと言っていいだろう」

 

「感染力が低いということは、おそらくは空気感染の危険は少なく経口感染……飲食物等にウイルスを直接混入されたと見るべきだね」

 

「なら、完治はできなくても……もしかしたら、ある程度の回復はできるかもしれません」

 

「本当か!」

 

「はい。一応元気な人も……念の為近くに来てほしいです」

 

そう言って私は、殺せんせーの暗殺でも使ったエニグマを構える。既に回復アーツの威力は前原くんと有希子ちゃんで証明してるし、みんな何をしたいのかをすぐに分かったみたいで近くに来てくれた。セットしたクオーツを見て、今から使いたいアーツを問題なく使えることを確認したところで……私のスマホから律ちゃんが声を上げた。

 

『アミサさん、確か先程の暗殺で……!』

 

「いいの。まだ、だいじょぶだから……エニグマ、駆動」

 

……そっか、律ちゃんはエニグマに接続したことあるから……私の隠し事、知ってるもんね。心配してくれてるのはわかるし嬉しいけど……だけど苦しんでる友だちを放っておくことなんて、私にはできないから……その先を言わせないように遮って、気にせずに駆動する。

 

「全員、光が消えるまではその場にいてね……«レキュリア»(状態異常回復魔法)

 

フワリと緑色の光の陣がオープンテラスに広がる……経口感染だというなら、ここに来てから何も口にしていない人はいないから……まだ発症していないだけで全員に感染の可能性がある。……元々効果範囲が広い術でよかった。E組の元気な人も倒れている人も、烏間先生とイリーナ先生も、頭上から緑の光の雫が落ちてきて体の中に吸収されていく────

 

「……ん……少しだけ、体が楽になった気がする……今なら体、起こせそう……」

 

「少し触りますね……熱、先程よりは下がってます」

 

「うぅ、……吐き気が治まった……」

 

「……はぁ、はぁっ……よかった、効果、あって……、」

 

すぐに効果はあったようで、全く動かせていなかった体を起こせる人たちが出てきた。……それでもやっぱり完治にまではもっていけなかったみたいだから、治療薬は必要なことに変わりない。

アーツの光が消え、応急処置が済んだ事を告げると元気なメンバーで着替える人は着替えに行き、もう1度オープンテラスに集合する。そして看病メンバーとして竹林くんと愛美ちゃんを残し、残りのメンバーは防衛省の車でどこに行くかは知らされなかったけど移動することになった。

車の中で、私は手を握りしめていた……律ちゃんにだけバレていることのせいで、少し、体力を持っていかれているのを隠すために。みんなこれからに向けて不安で何も喋らないし自分だけで精一杯……だから誰も私の些細なことに気づく人なんていない、隠し通せる……そう思っていたけど。

 

「……ねぇ、アミサ……何か、隠してない?」

 

「……っ、何も、隠してないよ……だいじょぶだから」

 

「……熱があるわけじゃ、無いよね……」

 

「ふふ、へーきだよ。……ほら、もう着くよ」

 

最初に気づいたのはやっぱりカルマだった。それでもバレるわけにはいかないから律ちゃんには口止めしてるし、私もはぐらかすだけで絶対に言わない。……体調を心配されてまたおでこに手を置かれたけど、熱はないよ、多分。

そして、私たちがついた場所は……呼び出された取引場所、普久間殿上ホテルの裏手に位置する崖だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高けぇ……」

 

誰かが呟いた通り、私たちの今いる場所の前には高く険しい崖……それももし登って落ちでもしたら確実に転落死は免れない高さはある。ほぼ垂直だし尖っているし見ただけで危険とわかるこの場所の上には私と渚くんの目的地であるホテルが見える……周りが真っ暗なところに建っていてどこか不気味だ。ここに何かあるのだろうか、それに私たち以外のクラスメイトを連れてきた理由は……。と、ここで私たち各自のスマホに律ちゃんが表示される……手に、なにかマップのようなものを持ってる……?

 

『あのホテルのコンピュータに侵入して内部の図面を入手しました……警備の配置図も』

 

さすがな律ちゃんのスペックには毎回驚かされてばかりだ……この短時間でハッキングして必要らしいものを入手してくるなんて。

律ちゃんが得た情報によると、あのホテルの敷地一体や正面には大量に警備が配置……見せてもらった警備マップには、どこから入ろうとしてもすぐにホテル側が来た人を把握できるくらいの人員がいた。……これではフロントを避けようとしてもすぐ見つかってしまうだろう。でも、私たちが今いるところから登った崖の上……そこに一つだけある通用口にはまず侵入できないために警備がいないらしい。……ここまで言われれば、さすがに殺せんせーがやろうとしている作戦がはっきりと分かった。

 

「敵の意になりたくないのならば手段はひとつ……動ける生徒全員でここから侵入し、最上階を奇襲して治療薬を奪い取る!」

 

みんなが崖を見上げる……烏間先生とイリーナ先生は無理だ、危険だと殺せんせーの作戦に異を唱えている。2人とも私たち全員の安全を考えて言ってくれているのも、初めての実践を心配する気持ちがあるのもすごく伝わってくる。

だけど……高い、険しい崖ではあるけど……だけど見たことがないものではない。だって私たちはいつも学校で、体育で同じことをやっているのだから。きっとみんなが考えていることは同じ……ただ、

 

「……ねえ、私と渚くんだけで行かなくても……いいの?その、みんなもついてきて……危なく、ない?私、みんなが傷ついたりするくらいなら、……正面から……」

 

未知の犯人を相手にして要求を蹴って……ここにいるみんなに、それにウイルスで苦しむみんなに手を出されないかが私の不安だった。だって誰にも気づかれることなくクラスの半分を動けなくさせた相手だ……きっと相手はプロ、手段を選ばなくなるんじゃないかって。幸いなことに私は別個の要求で呼ばれている……私だけでも言う通りにして、治療薬をもらうことも考えていた。

 

「それこそダメだろ。危険だってわかってる場所に2人だけで放り込めるかって」

 

「チビが余計な心配すんじゃねーよ。それにふざけた真似をしたやつにきっちり落とし前つけてやらねーと気がすまねー!」

 

磯貝くん、寺坂くんが馬鹿なことを言うんじゃないって言いながら私の額を軽く小突いて、他の男子と合流しに行く。

 

「アミサちゃんの場合、背の高さ云々よりも見世物として呼ばれてるんだよ……?そんな何をされるかわかんないとこに1人で行かせられない」

 

「アミサは自己犠牲しようとするとこ、ほんとに治さなくちゃね。これだけ頼ってもいい人がいるんだから、一緒に行って一緒に抱えよう?」

 

「アミサは自分より他の人が傷つくのが嫌なんでしょ。だったら私達が傷つかず、一緒にいればいい」

 

桃花ちゃんとメグちゃんが頼りなさいって言いながら私の手を握って連れていく。凛香ちゃんが静かに私の頭を撫でて、離れていく。

 

「最も背の低い男女って、弱いって感じがするけど……一番警戒されにくいって言うのもあると思うんだ。あと……僕はカルマ君くらいアミサちゃんを理解してる1人のつもりなんだけどな」

 

渚くんがちょっと不満そうな顔をしながら私を正面から軽く抱きしめる。そうしたら、後からも手が伸びてきて背中に体重がかかったかと思えば、頭の上に顎を置かれた。そのまま小さく、私が一番安心できる声でカルマは言う。

 

「過信はしちゃダメだけど俺等はあの烏間先生の訓練を受けてきてんだから、そんなヤワじゃないよ?それに俺がアミーシャと一緒に行かないわけがないっしょ……約束、してるんだからさ」

 

私が一番近くにいて安心できるこの2人の温もりが、私は大好きだ。私自身の覚悟を決めるキッカケになるのはいつもこの2人が関わってきたから。ゆっくり離れた2つのぬくもりは私を呼んで連れていってくれる。声をかけてこなかった人たちも、先に離れていった人たちも崖に近づき、手をかけてこちらを振り返っている。迷っていたのは怖がっていたのは私だけ……みんなが笑顔で目を合わせて頷くなら……もう、迷う必要も理由もなかった。

先生たちの指示を仰ぐことなく、全員で崖を登っていく。崖上りくらいなら学校での授業の延長線だから、苦戦している人なんて誰もいない。高く登るにつれて海風が強くなって髪を揺らす……足場になる場所に落ち着いて、私たちの行動に驚いている先生たちを見下ろして笑顔を向ける。2人だけで犯人の要求通りに行くんじゃなくて、動ける私たちみんなで奇襲をかける……これが私たちの答えです、烏間先生。

 

「でも、未知のホテルで未知の敵と戦う訓練はしてないから……烏間先生、難しいけどしっかり指揮を頼みますよ」

 

磯貝くんが告げる、先生への『お願い』。それが烏間先生の意志を固めたみたいだ。

 

「全員注目!我々の目標は山頂ホテル最上階!

隠密潜入から奇襲への連続ミッションだ!

ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う!いつもの違うのは標的のみ!

3分でマップを叩き込め!21(フタヒト)50(ゴーマル)分作戦開始!」

 

「「「おう!!」」」

 

烏間先生の号令に、初めての実戦に挑む私たち16人の気合の入った返事が夜空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 




「いいなァ、中学生の苦しむ様……あのホテルにももっとカメラを仕掛けておけばよかったぜ……、ッ!?この光……まさか……!」
「ボス、どうかしたんすか?」
「はっきりは映らなかったがアーツ使いが居る……そうだ、あのガキ……!〝スモッグ〟は間違いなく仕込んだんだろうな?」
「あいつがヘマするわけないじゃないですか……俺等、プロなんスから」
「そうか……ククク、部屋に来るのが楽しみだなァ……!」



「おい、〝スモッグ〟、階段ルートの侵入が無いか見回って来い、カメラでは異常は無いが一応な。……見つけたら即殺りでいいってよ、ボスが」
「アイアイサー」
「……ボスが言うにはアーツ使いのガキがいるらしい。一応気を付けろ」
「……ま、その前に殺れば問題ないだろう?」


++++++++++++++++++++


まだ、E組はどんな所かとか所属生徒とか程度なら調べていてもいいと思いますけど、完全個人情報はさすがに調べてたら怖い。
あとがきです。
あけましておめでとうございます!

オリ主、本名バラしました。
流れ的に、そろそろいいかなというのもありましたが、多分信じ信じられって間柄になってきた友だちに隠し事ばかりし続けるのって辛いと思うのですよね……とか考えていたらバラしてました。

アーツは状態異常回復魔法なので毒も治せますが、あくまで普通は魔物の毒相手に使うものだから用途が違う=軽減はできるけど完治はできないという設定にしました。軌跡シリーズの中にアーツじゃ治せなくて特別に調合した薬が必要な毒があったはずなのでいいかな、と。

安定の自己犠牲精神から渚すら置いて行って1人で全部抱えちゃえば他のみんなが傷つかなくて済むのでは……を平気で考えてます。それを阻止する突撃メンバーがいたので抑えられましたが。

次回はプロの時間、2時間目にはいりたいです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。