『魔物はセピスを好む』という公式設定から、
『魔物が生まれたのはセピスを多量摂取したせいで動植物が突然変異したため』
というように設定を捏造しています。あらかじめご了承ください。
では、本編へどうぞ!
夜、部屋の窓から夜空を見上げながら電話をする一つの人影があった。
「……それでね、今日はこんなことがあってね、……」
【……ふふ、そう。楽しく過ごせているみたいでよかったわ。一時期はどうなるかって思ったけど……】
「まだ、怖いこともたくさんあるけど……でも……もう、独りじゃないよ。……ちゃんと紹介したいな、『お姉ちゃん』に……私の、大好きな人たちを……」
【日曜学校の表面の付き合いだけでもあんなに周りを受け入れなかったのに……そうね、私も会いたいかな。『妹』がお世話になってますって挨拶もしたいから】
「……お世話になってるの、全然否定出来ないや……そーだ『お姉ちゃん』、今は追い込み……?雑誌、見たよ」
【……2年ぶりに、『イリアさん』も復活したし、『シュリちゃん』も仕上がった。もちろん、私も最高の演技にもっていく……今回の公演、絶対に成功する。ううん、させてみせる】
「…………」
【一番に見てもらうのは無理でも、いつか、絶対見てほしいな。あ、『イリアさん』が呼んでる……じゃあ、】
「……うん、バイバイ。
………はぁ……会いたいし、観たいなぁ……」
電話を切って月を見上げる──もう、三日月しか見ることは叶わない……それでも、月は少女にとって大事な存在を暗示するものだから……ながめながら思い出しその存在と重ね、ほう、とため息を一つついた。
◆
ある日の放課後。E組の生徒たちが帰宅していく中、HRが終わってからカルマくんと渚くんは一つの読み物を一緒に読んでいるようで、少し盛り上がっている。二人のおしゃべりにいきなり入るわけにもいかないし、これはすぐに帰らないだろうなと判断した私は自分の席でスマホの電源を付ける。お気に入りに登録しておいた、電子化した新聞……私の地元のような場所で主流となっている情報誌クロスベルタイムズには、私お目当ての記事と写真が一面を飾っていて……他のものには目もくれず、ただそれだけをぼーっと眺めていた。
『アミサさん、何を見ているんですか?』
「!!り、律ちゃん?……あれ、律ちゃんそっちにいるのに、なんでスマホにも……?」
突然画面の端の方からひょこりと律ちゃんが現れて話しかけてきた。慌てて律ちゃん本体の方を見てみるけど、そっちにも彼女はいるし……むしろ、私の方を向いて笑顔で手を振っている。律ちゃんが二人になっちゃった……!?そう思って一人スマホと律ちゃん本体を見比べて慌てていれば、律ちゃんは『ドッキリ大成功です!』のプラカードを手にネタばらしをしてくれた。
なんでも、このE組のみんなとの情報共有を円滑にするため、全員の携帯電話、スマートフォンの中に律ちゃんの端末のデータをダウンロードして、いつでもアクセスできるようにしたらしい。これでみなさんの所へスグに行けますし、データの整理などのお手伝いもできます!と得意げだけど、気を付けないと(これは気を付けてもだけど)律ちゃんにはプライベートがバレバレになっちゃうわけで……なんでもありになってきた通称〝モバイル律ちゃん〟を無言で撫でておいた。律ちゃんなりに、みんなの役に立とうとした結果だもんね、責めれない……
『話を戻しますけど、アミサさんが見ているのって……』
「あ、日本の新聞じゃないよ。私の第二の故郷……みたいな場所の新聞……今日、大きなイベントがあるから」
『……?出身は、カルバード共和国ってことでしたが……第二の故郷とは?』
「……転々といろんな所を回っている中でね、一番お世話になって、一番あたたかくて、一番大好きな人たちがいる場所だから。もし、何かあったら……私の帰る場所って、言えるところなの」
律ちゃんに当たり障りのない部分だけど、大切な居場所を説明していると、教室の前の方で静かに動く影が……
────パンッ
いきなり鳴った一つの銃声に聞こえた方へ目を向けると、そこには教卓の椅子に座って何かを広げている殺せんせー……鼻歌を歌いながら機嫌がよさそうな先生に対して、磯貝くんが避けられるとはわかっていても一応エアガンを向けて、一発だけ
「殺せんせー、ご機嫌ですね……っと。
「ええ、クロスベルまで舞台を見に行くんですよ」
「え、クロスベルって……2年くらい前に大きな事件が起きたっていう……あの、魔都って呼ばれてるクロスベル?」
「はい。その事件で故障していたアーティストが復帰する公演らしくて……これは是非見に行かなくては、と」
「うそぉ、ズルーい先生」
「ヌルフフフ……マッハ20はこういう時のためにこそ使うものです」
磯貝くんだけでなく、莉桜ちゃんやメグちゃん、前原くんも集まって殺せんせーに感想を伝えるようにねだっている。その、観ようとしているものは、って……あれ?殺せんせーが持っているもの……誰かも同じのを持っていたような……?
ふと、カルマくんと渚くんがさっきまでの盛り上がりが嘘のように静かになって殺せんせーの方を見ているのが視界の隅に入る。その渚くんの手に持っているものこそ、殺せんせーが読んでいるものと同じ……クロスベルタイムズだ。開いてる場所って、もしかして……!
「……ねぇ、渚君……」
「……うん、連れて行ってもらおうよ。DVDになって日本に届くのはもっと先になっちゃうもんね」
「そうと決まれば……ごめん、アミサちゃん、待たせといて悪いけど俺ら用事できたから今日別!」
目的地へ行くために教室を出ていった殺せんせーを見て、カルマくんと渚くんの二人がキラキラした目で見つめ……追いかけて外へ走っていった。それよりも、私は耳を疑った……だって、殺せんせーが、渚くんとカルマくんが今から行こうとしている場所は──それに、これは……もしかしたら、行けるかもしれないってこと……?
「行かなきゃ、私も行きたい……!」
『アミサさん、私も行きたいですっ!私もこのままお願いします!』
「うん!行こ、律ちゃん!」
こんな機会、もう二度とないかもしれない。それを逃さないためにも私は律ちゃんを連れて、先に出ていった殺せんせーと追いかけたカルマくん、渚くんのあとを追うように校舎の外へと飛び出した。
◆
「待って……!」
『私達も行きたいです!』
追いついたのは、ちょうど二人が殺せんせーを説得している時だった。話を聞くと、渚くんは第一回公演のDVDから集めているくらいのファンで、カルマくんは日本の舞台ではみられない迫力のワイヤーアクションを生で観たいというのが理由らしい。……確かに、あそこの売りは他の追随を許さない正確無比で魅力的な『ジャンプ演技』の数々だ……それこそ主役級となればどんな観客でも魅せられるという。カルマくんも渚くんも、そこに惹かれたのだろうか……?
「おや、アミサさんまで……ここまで慌てて追いかけてくるとは、かなりのファンですねぇ」
「……ファンだし、どうしても会いたい人がいるから……その、もし、私も連れていってくれるなら……絶対いい思い出ができるっていう保証をします!だから……!」
『私は一度殺せんせーのマッハのお出かけ、体験してみたかったんです!カメラの映像が暗殺の参考になるかもしれません』
「アミサさん、取って食いやしませんから交換条件なんて必要ありませんよ……まぁいいです。映画がてら……君達4人に先生のスピードを体験させてあげましょう!」
そう言うと殺せんせーは自身の着ているアカデミックローブをバサりと広げ、視界が一瞬黒くなった……かと思えば、私たちは右からカルマくん、私、渚くんの順に殺せんせーの服の中に入れられていた。先生が大きいから、首だけを出している感じだ……私は二人より小さいから余計にギリギリになっている気がする。
「……軽い気持ちで頼んだけど、もしかして僕等、とんでもないことしてるんじゃ……」
「さぁね〜……そういや身の安全までは考えてなかった。……アミサちゃん、もうちょっと俺の方に寄りなよ埋まってる。腕、掴んでていいから」
「う、うん……ありがとです……」
モソモソと服の中を移動して殺せんせーの巨大ネクタイを挟んでカルマくん寄りに落ち着く……お言葉に甘えて軽く腕を掴ませてもらった。殺せんせーの触手の一部が殺せんせーの服の中で私たちに巻きついて抱えてくれてるとはいえ、真ん中って服の形の都合上頭一つ分以上、下に下がることになるから……いつもの身長差が変わらなかった代わりに落ちそうで怖かったのだ。……一人で飛ぶことにならなくて安心していたが、空いた左手も心許ない……こちらもカルマくんの腕に回してしまおうか。そう思っていたけど、そっと静かに左手を掴まれ、そのあたたかさに顔を上げてみれば渚くんが笑顔を見せてくれた……気づかれてたみたいだ。両手が塞がった私を見て、さりげなく律ちゃんが『私、渚さんの携帯に移動しますので、渚さん外を見せてください!』と言って移ってくれたので、今は渚くんが律ちゃん担当だ。
「ヌルフフフフ、ご心配なく……君達に負担がかからないようゆっくり加速しますか…らっ!!」
「「うわぁぁああぁあ!!」」
「ひゃぁぁあぁっ!!」
「っ!?ちょ、当たってるって……!!……忘れてた……腕掴ませるってこういうことじゃん……!!」
殺せんせー、まだ話してる途中……!という、心構えができる前に飛び立たれ、私たちは悲鳴をあげていた……私は恐怖というか驚きというか……いきなり過ぎる浮遊感に慌ててすがろうと渚くんの右手を握りしめた上、カルマくんの左腕を思い切り抱え込んで周りを見ないように固く目をつぶっていた。その瞬間にカルマくんが固まったのは、強く抱きしめすぎて痛かったからだろうか……でも、もう少し、落ち着くまではこのままでいさせてください、まだ怖い……!
……揺れが少なくなり動きが安定してきたところで、そっと、閉じていた目を開いたら目の前に広がっていたのは……大きくて青い海。
「は、速っや!!」
「っ、あっははは!!すっげぇ、もう太平洋見えてきた!」
「わぁ……!」
数分……いや、数十秒もかかっただろうか……私たちの真下には既に大地がなく、ただただ広大な海が広がっていた。それだけのスピードを出しているのに私たちの所へは強い風圧も音もほとんど来ない……それは殺せんせー曰く、先生の頭の皮膚が起こすダイラタンシー現象というものらしくて、身近にある一例として水と片栗粉を使った実験だとビーカーやら片栗粉の袋やらを先生が取り出し、飛行中に授業が始まってしまった。律ちゃんはカルマくんに、殺せんせーとせっかく密着しているのに暗殺をしないのか、と薦めていたけど……律ちゃんはバックアップが本体にあるから平気かもだけど、もしここで暗殺とかしたら殺せんせーと一緒に私たちまで海に落ちて死んじゃうよ……!きっとその事すら折り込み済みで、殺せんせーは私たちを連れてきてくれたんだと思う。
最新の防弾チョッキにも使われている技術と同じ現象が殺せんせーの皮膚には起きている、と分かったところで授業が一段落したのか「まだ少しかかりますよ、大陸がだいぶ離れていますからねぇ…」と殺せんせーが話しかけてきた。
「そっか、日本のあるユーラシア大陸からだいぶ離れてるもんね……こっち。明るい時間には着ける気もするけど……」
「そういえば、アミサさんはこちらのゼムリア大陸出身でしたか」
「うん。……そうだ、話せる時に私のことを話すって約束だったよね……今、言えることだけ話しとこうかな……」
「……いいの?」
「うん、私が知ってほしいから。それに……4人なら教えてもだいじょぶな気がするから」
いつも話したがらない私の身の上話……それをこの場で話すことを良しとするのか確認してくれるカルマくん……。違う世界に生きる者って思われたくないからあんまり言いたくないけど……でも、私は私の大事な居場所について特にこの人たちには知って欲しいから……それに、知ってなきゃ危ないこともあるし。
「私が元々住んでいたゼムリア大陸ではね、日本みたいなガスや電気っていうものは使われてなくて、基本は
「え、じゃあ……そっちの方が技術がだいぶ進歩してるってこと?」
「……技術は、ね。環境問題にもならないし、消費しても時間が経てば自然に充填されるからエコではあるんだけど……問題なのはエネルギー資源となってる
「ま、魔物って……そんなのがいるの……!?」
「そんなゲームみたいな……、ゲーム……まさか」
「……カルマくんには話したことあるよね、私がゲームみたいな力《魔眼》……これだけじゃないけど使えるってこと。魔物がいる……これが使えなくちゃいけなかった一つの理由かな。もちろん戦えない人だって大勢いるけど、私は戦える人の部類に入ってたから……進んで身につけたの」
日本との大きな違い……それは使われ発展している技術、そしてその恩恵と引き換えに人間を脅かす存在が生まれ、それらと共存していること。もちろん戦う力を持たずに街の中で普通に暮らしている人はたくさんいるし、お店を経営している人もいれば、警察や利用したことはないけど娯楽施設というものもあって……どこの国とも変わらない生活を送っている人がいる中で、戦う人もいるということだ。
私の立場としては戦わないといけないから身につけた力、というよりも……もっと、違う理由からなんだけど、そこまで言う必要は無いだろうからここでは置いておくことにする。
「……戦わなくちゃいけない環境でって、そんな、まるで戦場にずっといるようなものなんじゃ……」
「街の中には魔物避けとか対策がされてるから安全だよ……危ないのは街の外の舗装されてないところを歩く時くらい。魔物だって生き物には違いないの、それらを狩って七曜石を取り出してお金にする人もいれば、食料にする人もいる……ほら、たまに愛美ちゃんにあげてるアレ」
「あれってホントに魔物の一部だったの!?」
「ねぇ、元の魔物が物凄く見てみたいんだけど」
「カルマ君!?」
見せることは可能だけど、今は対先生武器しか手持ちの武器がほとんど無いから危ないところに連れていくわけには行かない……殺せんせーが一緒だから平気な気もするけど。というか、殺せんせーだって見た目だけは魔物のそれだ……多分、向こうでは修学旅行の時みたいに変装してくれるとは思うけど……。
……それに、一応今の私は一般人……向こうへ行けば一応の自衛手段を持っているけど本腰を入れて戦える訳では無い、守られる側の人間だ。私のことを全部話せるようになるまでは、それ以上のことは……みんなは知らなくていいことだから、言わないでおく。他にもどんな職業の人がいるのかとか、戦うとしたらみんなどんな武器を使うのかとか、みんな興味津々で……私は答えられるものに答えつつ、あと少しだろう空の旅を楽しんだ。
◆
「さて、おしゃべりはこの位にしましょうか……着きましたよ。ここの下が目的地……アルカンシェルです」
「……着いちゃった……軽く授業とこっちの情報聞いてる間に……」
「……日本を出たのが15時30分くらい、今は……わ、まだ16時になってすらない……」
「開演は17時30分でしたね……席だけ購入して待ちましょうか」
「あ、じゃあそれ待つ間に……ほら、かなり前にアミサちゃんが言ってたジェラートのお店、連れてってよ」
「ジェラート……あ、ソフィーユさんの?殺せんせー、多分チケット買わなくてもいいから、先にオススメに案内してあげる。……前、先生のイタリアのジェラート、ダメにしちゃった代わりだから」
殺せんせーに人目につかないよう屋根から降ろしてもらい……目的地であるアルカンシェルを見上げる。……本当に、来れた……絶対に無理だと思っていたのに、願いが叶ってしまった。そして、人間というのは総じて欲張りなもの……もちろん私もそうで、一つの叶わないと思っていた願いがかなってしまえば、もう一つ叶えてみたくもなるもので。人間の姿に変装した殺せんせーがチケットを買いに行こうとするのを引き止めて、私はある場所に案内することに決め、先にカルマくんご希望のジェラート屋さんに連れて行く。
チケットを買わなくてもいいという言葉に不思議そうにしながらもみんなは付いてきてくれて……そして、オススメのジェラート屋さんへ。約二年ぶりに会う割には、ソフィーユさんは私のことを覚えていてくれたみたいで、パッと顔を輝かせておかえりなさいって言ってくれた。……こういう人たちがいるから、私はここを第二の故郷だと思っているし、離れがたく思えちゃうんだ。オススメの『氷菓─七彩─』を少しサービスしてもらって殺せんせーたちに手渡す……律ちゃんには申し訳ないけど、ジェラートのレシピを渡す事にした。
「これ、ヤバい……かなり美味いと思うんだけど」
「友だちにジェラート革命って言わせたものだから……一度食べて欲しかったんだ」
「これもあの魔物食材使ってるんだよね……これだけ美味しいなら、確かにみんな見た目は気にしないかもね」
やっぱりここでも魔物食材は気になるようで……私としては、日本でも鳥さんとか牛さんとかを解体してそのお肉を食べているのにこっちではそれがありえない、みたいな反応をもらって驚いたのだけど、それは見た目のグロテスクさからそう思わざるを得ないってことだったみたい。見た目のことを言われたら、確かに嫌かもしれないけど。
「それよりも……アミサさん。チケットを買いに行かなくてもいいとはどういうことですか?ただでさえ今日はアーティスト……イリア・プラティエの復帰公演、加えてリーシャ・マオ、シュリ・アトレイドの二大新人を起用したリニューアル公演でもあるということで、並々ならぬ人気だと思いますが……」
「だいじょぶだと思う……食べ終わったら、ついてきてください」
「「「???」」」
ジェラートを堪能しても、アルカンシェルの開演時間まではまだまだある。だからこそ、サプライズを仕掛けようと考えたのだ……殺せんせーたちと、私の会いたい人、両方に。
そして案内した先は、アルカンシェルへ正面から入って入口付近にある、関係者以外立ち入り禁止の場所……慌てる渚くんと殺せんせー、顔には出してないけど止めようと手を伸ばしていたカルマくんを尻目に私は「少し待っててね」とだけ言って支配人と話し始めた……ある人に会うために。
「こんにちは、あの────」
カルマside
「もしや、あの時の……!大きくなられましたな。きっとまた今回も…彼女が勧誘すると思いますぞ」
「ふふ、私なんかじゃ迷惑になっちゃいますから……私が、ちゃんと答えを見つけられてから考えます。えっと、それで……」
殺せんせーに頼み込んで俺と渚君、アミサちゃんに、……一応律の4人は、クロスベルにある劇場『アルカンシェル』にやって来ていた。この劇場はクロスベルにしかない割には周辺諸国にはかなり有名で、遠く離れた日本でも生の演技は見られなくてもいいからとDVDなどの映像が出回るほどの人気ぶりだ。……かくいう俺もその演技に魅せられた一人で、一度は生で観てみたいと思っていたから、今回はかなり幸せなことだ。
アルカンシェルはどの公演も満席になるのは当たり前で、当日券なら殺せんせーが慌てていたように早めに買わなければ入れないと思う。なのに、ここが地元のような所だというアミサちゃんはチケットを買わなくていいなんて言い出して……地元だからこそ、ここの人気はわかってるはずなのに、何を言ってるんだろうと思っていた……支配人らしき人物と親しげに話し出す姿を見るまでは。話がついたのか支配人らしき人が奥の出演者の控え室だろう場所へ歩いていくのが見えて……そこで、ふと思い出す。停学中に聞いた彼女のお姉さんの話を……そしてその考えにたどりついてからは早かった。彼女が、アミサちゃんが隠していたことが一つに繋がり始める。
「あー……俺、分かったかもしれない……」
「え、何が?」
「停学中にさ、アミサちゃんのお姉さんのことを聞いたんだよ。そしたら『新聞に乗るくらいの事件の功労者』で『それ以外でも有名人』って教えてくれて。俺でも知ってるかって聞いたら、もう一つヒント貰ったんだ」
「ほうほう、そういえば君とアミサさんは停学期間中一緒に暮らしていたとか……その時に?」
「そ。それでそのヒントっていうのが『カルバード共和国出身だから、真尾有美紗は本名じゃない。でも、全く違うわけじゃない』ってので……今まで考えてもなかったけど、外国ってさ、苗字と名前が逆じゃん?それを考えてアミサちゃんの名前の順番を単純に変えたら『アミサ・マオ』」
「……そーだね?」
「確かに『真尾』という苗字は珍しいと思っていましたが……それで、カルマ君は何に気が付いたのですか?」
「…………今から俺らが観ようとしてる舞台のアーティストってさ、誰だっけ」
「え、誰って……イリア・プラティエと……、……え、も、もしかして…」
渚君も殺せんせーも答えにたどり着いたみたい……その時、タイミングよく控え室だろう場所の扉が開き、一人の女性が飛び出してきた。その人物はアルカンシェルの外に掛かっていた公演の垂れ幕にも大きく載っていた、二大新人の一人……
「アミーシャ!?」
「リーシャお姉ちゃん!」
「……リーシャ・マオ。……ははっ、こりゃほんとに有名人だ」
「まさか、本当に来てくれるなんて……昨日電話した時に、そんなこと言ってなかったのに」
「えへへ、今日先生が見に行くっていうから連れてきてもらっちゃった。ビックリしたでしょ?」
「それはもう。……その、先生っていうのが後ろにいる……?」
「うん!大きい人が先生で、赤い髪の人と水色の髪の人が私の初めての友だちで、大好きな人たち!」
「う、うわぁ……本物のリーシャ・マオだ……初回公演の時も思ったけど、ホントに綺麗な人……」
「それに、思ったよりアミサちゃんにそっくり……や、逆かな、アミサちゃんがお姉さんにそっくりなのか」
「それにしても……あれ、ステージ衣装ですかね?映像の時はあまり気にしていませんでしたが……際どい」
「「殺せんせー……?」」
「リーシャ、慌てて出ていったけど……あら、妹ちゃん!大きくなったじゃない、……色々と成長しちゃってまぁ」
「イリアお姉さんっ!おひさしぶりです!」
「うんうん、元気でよろしい。後で揉んであげるから触らせなさいよ〜」
「イリアさんっ!」
「……イリア・プラティエって、その……」
「結構、舞台のイメージと中身が違うんだけど……」
++++++++++++++++++++
始まりました、クロスベル訪問編!
原作のセリフは少しもらいつつもここから帰るまでは完全オリジナルとなります。数話に分けてクロスオーバーとなり、何人かの軌跡メンバーも登場します。
ここで、少しプロフィールが解禁。オリ主の姉は英雄伝説碧の軌跡、零の軌跡に出てきたリーシャ・マオでした。ほとんど隠せていなかったのでバレバレだったとは思いますが……今後の展開がバレていなければいいかな、と。本名も公開します。
最初の電話のシーンは前後の文章でなんとなくわかるかと思いますが、何を話しているか知りたい方は反転させてみて下さい……話が繋がると思います。
では、次は公演の回です!