暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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テスト準備の時間

渚side

今日も晴れたいい天気の朝。

E組の教室の中で、僕達の前には……

 

「さて、みなさん」

「「「始めましょうか!!!」」」

 

 

 

 

 

「「「……いや、何を?」」」

 

……大量の殺せんせーがいた。

よくよく見ると実態というより残像が残っていることから、殺せんせーが分裂したというわけではなくて……あの凄まじいスピードを駆使して分身を作っている……ということなんだと思う。

……ついでに移動するシュバババババッていう音もすごい。

 

「学校の中間テストが迫って来ました」

「そうそう」

「そんなわけでこの時間は」

「「「高速強化テスト勉強を行います!」」」

 

「「うわぁっ!?」」

 

「先生の分身が一人ずつマンツーマンで」

「それぞれの苦手科目を徹底して復習します」

 

この教室の27人の前に殺せんせーの分身が一人ずつ現れる。なるほど、みんな苦手教科が違うから付けてるハチマキも違う……僕の前には理科の殺せんせーだ。

 

「下らね……ご丁寧に教科別にハチマキとか……って、何で俺だけNARUTOなんだよ!!」

 

「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」

 

……殺せんせーは、どんどん速くなってると思う。

国語6人

数学8人

社会3人

理科5人

英語4人

……NARUTO1人。

ちょっと前まで4、5人ぐらいが限界だったのに……今じゃクラス全員分だ。

 

「ぐにゅあ……」

「うわっ!?」

 

目の前の殺せんせーの顔の右側が、真ん中あたりでぐにゅんと変形した…!?な、何が起きたの?……って、全部のせんせーが変形してる!?

 

「急に暗殺しないで下さいカルマ君!!それ避けると残像が全部乱れるんです!!」

 

「ふふ…」

 

「……反対刺したらどうなるの?……あ、ひょーたんみたい!」

 

「アミサさん、悪ノリしないでください!」

 

……原因はいつものようにカルマ君と、最近「E組でも、どこにいても、私は私のままでいてもいいんだって分かった」とどこかふっきれた様子で、ちょっと……いや、かなりカルマ君に影響を受けちゃってるアミサちゃんだった。

 

「意外と繊細なんだこの分身……でも先生こんなに分身して体力もつの?」

 

「ご心配無く。1体外で休憩させていますから」

 

「それむしろ疲れない!?」

 

 

……この加速度的なパワーアップは……1年後に地球を滅ぼす準備なのかな。なんにしても、僕達殺し屋にはやっかいな暗殺対象で……

 

「……と、ここまでは分かりましたか?渚君」

 

「……はい」

 

……テストを控えた生徒には心強い先生だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は最近、E組のみんなと過ごす中でなら、渚くんとカルマくんにずっと引っ付いていなくても、前みたいに1人で行動できるようになってきた。 みんなに自分から話しかけることは無理でも話しかけられたら会話を続けられるようになったし、女の子だけのおしゃべりの輪に入っていろんなお話を聞いて楽しめることが増えたと思う。近いうちに女子会……という結構前に茅野さんと約束したものにも挑戦予定だ。いっぱい楽しむ……そのためにも、今回のテストでしっかり全力を出しておきたい。

放課後の教室掃除を終え、私は帰る前に殺せんせーに出された課題プリントを見てもらおうと教員室へ向かった。さっき掃除の時に教員室へ入っていくのを見たから、多分いるはずだから。と、教員室の前まで来ると見慣れた人影が……

 

「あれ、渚くん?」

 

「アミサちゃん」

 

「こんなとこで……」

 

どうしたの?という前に、静かに、と人差し指を立てられた。よく分からないまま両手のひらで口を覆って何度か頷いてみせると、渚くんは静かに教員室の中を指さした。

そこには、先生達と……あまり会いたくなかった人が、いた。

 

「率直に言えば、ここE組は……このままでなくては困ります」

 

「……理事長、せんせ……」

 

思わず、口からこぼれた名前。慌ててもう一度口を押さえて、私も渚くんの後ろに付いて扉の隙間から彼らのやりとりを見ることにした。

 

「……このままと言いますと成績も待遇も最底辺という今の状態を?」

 

「はい。……働き蟻の法則を知っていますか?どんな集団でも20%は怠け20%は働き残り60%は平均的になる法則……私が目指すのは5%の怠け者と95%の働き者がいる集団です。

──『E組のようにはなりたくない』──

──『E組にだけは行きたくない』──

95%の生徒がそう強く思う事で……この理想的な比率は達成できる……」

 

「なるほど合理的です。それで5%のE組は弱く、惨めでなくては困ると」

 

E組差別の元凶と言える理事長先生の考え方。E組転級前……浅野くんに何度もA組へ勧誘されていた頃、何回か、理事長室へ呼ばれたことがあった。その時に何度も聞かされた、E組の存在理由にこの待遇の理由……これがどうしても嫌いだ。

……私たちはナマケモノなんかじゃない……確かに落ちこぼれなところはあるかもしれない、けど、毎日必死に頑張ってるのに。

それに、このE組にいるのは、全員が187人の3年生の下位27人というわけじゃない(・・・・・・・・・・・・・・)。むしろ、本当の下位は本校舎に残っている……弱く、惨めでいる必要なんてあるはずないのに。

 

「今日D組の担任から苦情が来まして……『うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた』『殺すぞ』と脅されたとも」

 

「……あの人たち……」

 

それ、多分私と渚くんのことだ……。なんか事実をねじ曲げて伝えられている上に、双方の意見を聞く気がまるでないことを知り、私は唇を噛んで湧いてきた怒りを押し込めた。

 

「暗殺をしてるのだからそんな目つきも身に付くでしょう……それはそれで結構。……問題は、成績底辺の生徒が一般生徒に逆らう事。……それは私の方針では許されない。以後厳しく慎むよう伝えて下さい。

……あぁそうだ、殺せんせー」

 

「1秒以内に解いて下さいッ」

 

「え、いきなりーッ!?」

 

理事長先生がこっちに来る……と、見せかけていきなり殺せんせーに向かって何かを投げた。あれは……知恵の輪?大慌てで受け取った殺せんせーは凄まじいスピードで、解きにかかるけど……

 

「あ、ちょ、から、からまっ!?」

 

「「(なんてザマだ!?)」」

 

……殺せんせーはいきなりのことにはテンパる、それは私とカルマくんの暗殺の時にも証明されていた。見事に自分で自分の触手が絡まって床で動けなくなって暴れている殺せんせーを見て、私と渚くんは呆れるしかなかった。

その光景を見た後、静かに私は渚くんの後ろから離れて……そして、遮蔽物の何も無い真っ直ぐな廊下の中で、自分を隠した。

 

 

 

 

 

渚side

 

「……噂通りスピードはすごいですね。確かにこれなら、どんな暗殺だってかわせそうだ。……でもね殺せんせー、この世の中には……スピードで解決出来ない問題もあるんですよ」

 

理事長先生は、いったいなにを考えているのだろう。殺せんせーなら、何が起きてもどうにかしてしまいそうな気がするけど……その殺せんせーの十八番であるスピードで解決出来ない問題……それが、あるというのだろうか。

 

「では私はこの辺で。おや?…………やあ!中間テスト期待してるよ、頑張りなさい」

 

そのまま考え込んでしまい、理事長先生が教員室を出ようとしていたことを、僕は一瞬忘れていた。慌てて扉の前から避け、道を開ける……ふと、理事長先生と目が合うと、笑顔で激励された。とても乾いたその「頑張りなさい」の一言は……一瞬で僕を殺せんせーの情報を収集する暗殺者から、エンドのE組へと引き戻した。

──という所で、ふと気づく。

 

「……あれ、……アミサちゃん…?」

 

僕の背後に確かにいたはずの彼女の気配が、いつの間にか消えていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ…理事長、先生」

 

「………?……あぁ、君もまだ校舎にいたんだね。どうかな、この校舎での生活には慣れたかい?」

 

理事長が教員室を出るのを見送って、私は旧校舎を出ていく理事長先生を追いかけた。……わざわざこの校舎まで、しかも理事長先生自らが足を運んでここへ来た、その理由を知りたくて。特に全校集会の後に、ここへ来たことになにか意味がある気がしたのだ。

私だって、何かみんなの役に立ちたい。……だから信用出来ない人に一人で会う恐怖を我慢しながら姿を見せたのだ。少しでも、情報を引き出すために。私の思いをぶつけるために。

 

「……はい。ここは……今では、私が私でいられる場所、です」

 

「そうか、それはそれは────残念だ。

……惜しいものだな……私たちは何度も君が欲しいと声をかけたというのに、君は自分から最底辺へと落ちるとはね」

 

「……理事長先生は、E組のみんなが、底辺だって……言うんですか……?」

 

「もちろん。この学校はいわば社会の縮図……本校舎の選ばれたA組とは違い、E組は下にいなければならない。そして上位のものが下位のものを指導するのもまた教育の一環なんだよ」

 

E組は、こんなにいい場所なのに……理事長先生はここを下に、更に底辺に落としたいんだ……E組を使って他に発破をかけ、底をもち上げるために。その為にE組は上がることを許さない。……さっき教員室で話していたことを裏付ける話を聞くことが出来た、それだけでも十分な収穫だけど、あえてもう一つ……私の疑問もぶつけてみる。

 

「……この前の全校集会……あれが終わったタイミングでここに来たのは……それは、忠告をするため……ですか?」

 

「……何故そう思ったのかな?」

 

「……私と渚くんが、本校舎の生徒に反抗したから、です。そうしたら今まで動かなかったあなたが動いた……きっと他にも理由があるとは思いますけど、今までのE組の在り方を否定する行動を初めてとったのは……私たち、だから」

 

「…………そう、よく気がついたね、流石だ、君は周りをよく見ている……なら、もう分かるだろう?私が何を言いたいのか。エンドのE組が普通の生徒を押しのけて歩いていくなんて…あってはならない事なんだよ」

 

……きっと、私たちのせいで今まで理事長先生が描く、完璧に支配されて正常に動いていた歯車に歪が生まれた……それを今後、修正する(元に戻す)ということなのだろう。

……でも、私にとってのその歯車は、元々正常に動いている『ように見えただけ』だった……角度を変えれば歯車の歪さは良くわかるものだから。────だから、私の思いをもって対抗する。

 

「……私は、ここに来るまでは周りを否定していました。でも、世界を広げるきっかけがあったから……こんな私にも居場所ができた。……本校舎では絶対に得られなかったものも、ここでたくさん手に入れました。……ただ、上位が偉くて下位が惨めなんて、そんな一言でまとめられないものが、たくさんあるんです、……だから、私はあの時に反抗しました。……私は、負けません、から!」

 

「……ならば、思い知らせてあげよう。殺せんせー共々、このE組校舎にいてはどうにも出来ないことがあるのだということを」

 

「……っ、失礼、します!」

 

そう、言い逃げる形で私は理事長先生に背を向けて旧校舎に向けて走った。もう、理事長先生(慣れない人)と一人で一緒にいるのは、私には限界だったから。だから、最後の言葉の意味を、聞き返すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ガラッ

 

「はぁっ、はぁっ、…っ…、はっ、はぁっ……」

 

「あ、アミサ!?あんたそんなに息を荒らげてどうしたのよ!」

 

「……これは、ストレス性の過呼吸か!?」

 

「……!アミサさん、落ち着いてください。ほら、ゆっくり吸って…」

 

手に入れた情報を早く伝えないと……そう思って気がついたら、私はノックもしないで教員室へ駆け込んでいた。途中で渚くんとすれ違った気がしたけど、それを考える余裕なんて……私には存在しなかった。

私の様子が、ただ走ってきたせいで息が荒いのではなく、トラウマから来る過呼吸に近いと判断した烏間先生の言葉に……すぐさま紙袋を私に近づけた殺せんせーは、そのままゆっくりと問いかけてきた。

 

「もしや、……アミサさん、理事長先生に会いましたか?」

 

「………、……、……理事長せんせ、…みんなを底辺って……でも、私、…いいかえせた、でも…っ」

 

落ち着いて来た私は、ゆっくりとさっき話したことを伝えていく。

理事長先生がE組を底辺だと言って、我慢出来なかったこと。このタイミングで理事長先生がせんせーたちに会いに来たのは、私と渚くんの在り方が理事長先生の方針に合わないために忠告をするためだということ……それらの言葉を引き出せたこと。

 

「あと、E組校舎にいてはどうにもならないことで、思い知らせる……って」

 

「よく、そこまでの言葉を引き出しました。一人で頑張りましたね……ここに来てからアミサさんは成長しています。ですが、まだ一人で立ち向かう必要はありませんよ」

 

「……でも、……」

 

「先生、さっき、アミサちゃんが……!」

 

「おや、渚くん丁度いいところに。アミサさんを送ってあげてください……あぁ、それとアミサさん。カバンの中のプリントはチェックしておきましたよ」

 

これではただ、殺せんせーたちが聞いた話をもう一度聞いたに過ぎない……役に立てなかったどころか、こうして過呼吸なんて起こして迷惑までかけてしまった……そう言おうとしたところで、渚くんが教員室へ走り込んできた。やっぱりすれ違ったのは気のせいではなかったみたいだ。

紙袋を手に座り込んでいた私を見て、なんとなく察してくれたのだろう……慌ててだいじょぶなのか、と近くまで来てくれた。やっぱり、渚くんの側は落ち着く……無条件で頼れる人だ。……差し出された手を握り返しながら、改めてそう思った。そのまま渚くんの手で立たせてもらい、私たちは帰宅することになる。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、烏間……聞いた?アミサが理事長から引き出した情報……」

 

「あぁ……先程理事長が言っていた、スピードで解決出来ない問題は……『E組校舎にいてはどうにもならない事』である可能性が高い……この学校では、彼の作った仕組みからは逃げられない。例えお前でもな……」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さらに頑張って増えてみました」

「「「さぁ、授業開始です!!」」」

 

せんせー増えすぎじゃないですか……?昨日の段階では生徒一人につき一人の殺せんせーだったのに、今日は一人につき四人の殺せんせーが生徒に張り付いて教えていた。人数を増やすことに力を使っているからか、残像は雑だし……なんか変なキャラクターが混じってる(それでもハチマキは付けている)。

 

「ど、どーしたの殺せんせー?なんか気合い入りすぎじゃない?」

 

「んん?そんなことないですよ」

 

……もしかして、昨日話してた『スピードで解決出来ない問題』を……あえてスピードで対抗しようとしてる……?

私は「もうちょっと!あ、ついでにこっちもやっちゃいましょう」とか言ってどんどん進めていく殺せんせーの指導を受けながら、昨日を思い返していた。

 

「ぜー、ぜー、ぜー…」

 

「……流石に相当疲れたみたいだな」

 

「どうしてそこまで先生をしようとするのかねー?」

 

「……ヌルフフフ、全ては君達のテストの点を上げるためです。そうすれば皆さんは殺す気も失せ、私の評判を聞いて巨乳女子大生も来るでしょう。先生には、良いことずくめです」

 

殺す気失せることはありえるかもしれないけど、女子大生って……やっぱり殺せんせーの好みはそういうのなんだ。……まず国家機密なんだから、私たち以外に知られてないし(知られちゃいけないし)、ありえないと思うけど。

 

「……いや、勉強なんてそれなりでいいよな」

 

「うん、なんたって暗殺すれば賞金100億だし……100億あれば成績悪くても別にねぇ…」

 

「にゅやっ!?そういう考えをしてきますか!?」

 

「俺達、エンドのE組だぜ?テストなんかより暗殺の方がよほど身近なチャンスなんだよ」

 

やっぱり、みんなの中には『エンドのE組』という思いが根付いている。一応は用意された本校舎復帰の救済措置……だけど厳しすぎる環境では、何をやっても這い上がることなんてできない……そういった劣等感が……

 

「……なるほど、わかりました……今の君達には暗殺者の資格はありませんね。……全員校庭へ出なさい。……あぁそれと、烏間先生とイリーナ先生も呼んでください」

 

そういうと外に出ていってしまった殺せんせー。暗殺をするように……自分を殺すように言ったのは殺せんせーなのに、私たちには暗殺する資格がないと言い出す……いきなりの事に、私たちは困惑するしかなかった。

校庭へ出ると殺せんせーは、朝礼台やサッカーゴールなどを端の方へ移動させていた。イリーナ先生たちと迎えに行った片岡さん、そしてE組のみんなが全員集まると、作業をしながらも殺せんせーは話し始める。

 

「ちょっと、いきなり呼び出してなんなわけ?」

 

「イリーナ先生、プロの殺し屋として伺います。あなたはいつも仕事をする時……用意するプランは一つだけですか?」

 

「……?……いいえ、本命のプランは思った通りに行くことの方が少ないわ。不測の事態に備えて……予備のプランをより綿密に作っておくことが暗殺の基本よ。ま、あんたの場合規格外すぎて予備のプランが全部狂ったけど。見てらっしゃい、次こそ必z「無理ですねぇ……では次に烏間先生。ナイフ術を生徒に教える時……重要なのは第一撃だけですか?」

 

「……第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では、第一撃は高確率でかわされる。その後の第二擊、第三擊を……以下に高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」

 

結局、何が言いたくて私たちを外へ連れ出したのだろう。殺せんせーは、何を聞いた?それに先生たちはなんて答えた…?

イリーナ先生は、一つのことに頼らないで予備こそ念入りには準備すること……烏間先生は、最初に全てをかけないで如何にして次を撃つか……、……もしかして。

 

「先生方がおっしゃるように、自信を持てる次の手があるから自信を持って暗殺者になれる。……対して君たちはどうでしょう?」

 

校庭から障害物になるものをどけた殺せんせーは、校庭の中心でくるくると回り始めた……くるくるくるくる……そして、だんだんと空気の流れができていって……

 

「「俺らには暗殺があるからいいや」……と、考えて勉強の目標を低くしている。それは、劣等感の原因から目を背けているだけです。もしこの教室から先生が逃げ去ったら?もし他の殺し屋が先に先生を殺したら?暗殺という拠り所を失った君たちには、E組の劣等感しか残らない。そんな危うい君たちに……先生から警告(アドバイス)です」

 

 

第二の刃を持たざる者は、

暗殺者を名乗る資格無し!!

 

いつの間にか大きくなった空気の塊は、大きな竜巻を起こすまでに成長していた。あまりの風の強さに前は向けないし、スカートを押さえないといけないしで大変な目に……え、竜巻(これ)、本校舎にも見えちゃってるんじゃ…!?

 

「ひゃ、」「わ、」

 

「とと…、大丈夫?」

 

「……う、うん……」「ありがと…」

 

近くにいた渚くんが、強風に負けて倒れそうになった私と茅野さんを支えてくれた。渚くんには悪いけど、そのまましがみつかせてもらいながらゆっくりと静かになっていく校庭を見つめる。

 

「……校庭に凸凹や雑草が多かったのでね、少し手入れしておきました」

 

砂埃が落ち着いた頃には、あの雑草だらけで石が見えていた凸凹の校庭が平らになり、いつの間に引いたのか陸上用のラインが引かれている。心なしか最初に避けていたサッカーゴールのサビや汚れもきれいになっている気がする。

 

「先生は地球を消せる超生物、この一帯を平らにするなど容易いことです。……もしも君達が自身を持てる第二の刃を示せなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にはいないとみなし、校舎ごと平らにして先生は去ります」

 

「第二の刃……いつまでに?」

 

「決まっています……明日です。明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい」

 

「「「!?!?」」」

 

中間テスト、50位以内……!それは、E組から元のクラスへ戻るための最低ラインの学力だ。

 

「君たちの第二の刃は、既に先生が育てています。本校舎の教師達に劣るほど……先生はトロい教え方をしていません。」

 

いつの間にか、私たちが気づかない間に育てられた第二の刃。確かに、殺せんせーのあの教え方は誰にも真似できるものじゃない。

 

「自信を持ってその刃を振るって来なさい。仕事(ミッション)を成功させ、恥じることなく笑顔で胸を張るのです」

 

……そうだ、私は知ったじゃないか。

 

「自分達が暗殺者(アサシン)であり、E組であることに!」

 

──どこにいても、私は私なんだって

 

 

 




「と、いうわけで、続き行きますよォっ!!」
「……まぁ、今回くらいは頑張るか」
「暗殺を続けるためにもね!」

「「はい、アミサさんもカルマ君も、もうちょい行きましょう!ここもいいですねぇ!」」
「……ねぇ、殺せんせー、俺ら二人別々に教えるのめんどくなってるでしょ?」
「さっきから、全く同じ事やってるし……言ってることもハモってるもんね」
「!!ば、バレましたか…!もういっそ、まとめます!ほら、アミサさん机引っつけて!」
「え、わ、ちょ……っ」
「いきなり…!」


++++++++++++++++++++

中間テスト、前半戦。
次はテストの時間本番です。

殺せんせーは隣同士で同じような学力のカルマとオリ主に、最初はそれぞれに4、5人ついて色々言ってましたが、途中からやってる応用・発展・範囲が同じならちょっとくらい被せてもいいかと、楽してたらバレました。
めんどくさいので、強制的に二人とも同じように勉強させられてます。……の図。

他の人は自分の勉強で必死だから周りを見る余裕もないので、後ろで何が起きているかを知っているのは、隣でバタバタされて嫌でも目に入る寺坂くらいである。



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