暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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集会の時間

「……急げ、遅れたらまた、どんな嫌がらせされるかわからないぞ」

 

「前は本校舎の花壇掃除だったっけ……」

 

「あれはキツかった……花壇が広すぎるんだよ」

 

「お前はほとんどサボってただろ?」

 

「はっはー、そうだっけ?」

 

「あー、もう!なんで私たちだけ、こんな思いしなきゃいけないのー!?」

 

平日の昼休みの時間……私たちは、山の中にいた。月に一度ある全校集会のために、E組の旧校舎がある山を降りて……本校舎の体育館へと向かっているのだ。

私は、渚くんと茅野さんと杉野くん、奥田さん、菅谷くん、神崎さんと一緒に下山している。……カルマくんは、ここにはいない……ほんの数時間くらいのことだけど、外で離れて過ごすのは初めてのことで、みんなが一緒にいるとわかっていても、私は不安でいっぱいです。……でも、頑張るって約束したから。今着ている、私にはかなり大きいカーディガンの袖に顔を少し埋めた。

 

 

 

──話は4時間目の終わりにまで遡る。

 

「あー……、ついに四時間目が終わっちまった……」

 

「みんな、行くぞー……」

 

「おー……」

 

私たちE組は普段、本校舎への立ち入りは禁止されている……のだけど、いくつかある例外の内の一つ、今日のような全校集会の時とかは別だ。この日は全校生徒が本校舎にある体育館に行かなくてはいけないし、E組はどこのクラスよりも早く来て先に整列していなくてはならないから、みんな昼休みを返上して山を降りる。

……E組は校舎が違うから。

本校舎の人たちとめったに顔を合わすことがないから。

だからこそこういう機会があると、みんなここぞとばかりにE組を差別してくる。……普段、下で会う時だってそうなのに、これをE組にとって完全アウェーとなる集会の最中……ずっと耐えなくてはならない。……私にとってもこれは、地獄でしかなかった。

 

「……行きたく、ない……」

 

全校集会へ行く。それは私のトラウマとなるに至った元凶と顔を合わせなくてはならないということと同じだから。私が今まで平気でいられたのは、周りが殺せんせーとE組のみんなだったからであり、あの敵だらけの中で過ごさなくてはならないとなると、正気でいられる自信が全くなかった。

……殺せんせー、烏間先生、イリーナ先生を含めたE組のみんなに、私が慣れてきた頃。殺せんせーが考えた『〝外〟の世界に溶け込む作戦』の一環として、なんでE組へ来たのかについて説明をする機会があった。だからみんな、私がカルマくんから離れなかった……離れられなかった理由を知っている。私が当時のことをほとんど覚えていないこともあって、説明はカルマくんがしてくれたんだけど……

 

〝俺らのE組堕ちの理由は、暴力沙汰……ってなってるけど、正確にはほぼ俺だけ。アミサちゃんの場合は未遂だし、ほとんど厄介祓いに近いと思う……担任が自分の評価を守りたかっただけだよ……〟

 

……なんだか、カルマくんがすべて悪い、みたいな説明をされた気がしてならない。……未遂……覚えてない部分で私は何をやらかしたんだろう……?わからないけど、この時私はみんなに謝った。みんなが悪いわけじゃないのに、私が勝手に思い込んで勝手にみんなのことを怖がって勝手に避けてたことを。まだ、全員には受け入れられてないとは思うけど、これからをみんなに見せていくんだとあの時決意したんだ。

全校集会とか、針のむしろ確定の場所に行きたくないのはみんなも同じなのだから、……だからこそ、私だけが逃げたくなかった。……でも、体は正直で昼休みが近くなるほどに震えるし、今はまだ結構教室に残ってる人がいるとはいえ、そろそろ行かなきゃいけないのは分かってるんだけど……自分の席から、足が動かなかった。頼みの綱のカルマくんはといえば、早々にサボると言いきっている……サボったからって罰則を与えられても、痛くもかゆくもないんだって。……まぁ、カルマくんが集会に来たとしても集会の最中は出席番号順での整列だから、彼から離れて並ぶことには変わりないのだけど。

 

「だから、俺とサボればいいじゃんって言ってるのに……」

 

「……、……でも」

 

「………はぁ…、しょーがないか……。

不破さーん、矢田さーん!ちょっと待ってよ」

 

「んー?」

 

「どうかしたの?カルマ君」

 

渋る割には動けない私にため息をついて、原さんと一緒に教室を出ようとしていた不破さんと矢田さんを呼び止めたカルマくん。いきなりの事だったし、カルマくんが普段あんまり声をかけない相手だからか、こっちを気にしている人たちがチラホラいる気がする。

 

「二人ってさ、集会の時アミサちゃんの前後になるよね?……前に話したけど本校舎には、アミサちゃんが先生に…他人に不信感を持つことになった元凶と原因がごまんといるんだよ。あそこじゃ出席番号順で並ばなくちゃいけないから、俺じゃあ守れない……だからさ、気にかけてやってくれない?」

 

頼むよ、ってカルマくんは真剣な目で二人に言った。個人主義で人に頼るところなんてほとんどないカルマくんがお願いをするところを見たからかな、最初、矢田さんも不破さんもビックリして顔を見あわせてた。……だけど、すぐににっこり笑顔を向けてくれた。

 

「わかった、集会の間は私たちが預かるよ」

 

「何か、特に気をつけなきゃいけないヤツとかいる?聞いてもいいなら、先に教えてほしいかな」

 

「……D組の奴らは、特に。でも幸いE組の女子は壁際だから、他の生徒の干渉は最小限だと思う。だから……他クラスじゃなくて、先生を見といてほしい。特に……俺らの前担任の大野を」

 

「…ふむ、なるほど…おーけー!じゃあ、近くの男子にも声掛けとこうよ!三村君と前原君あたりかな?」

 

「教室にいないし、多分もう先に降りてるよね……私たち追いかけて伝えてくるから、真尾さんは渚君たちとおいで。……少しでも、安心できる人と一緒にいたいでしょ?」

 

そう言いながら矢田さんは、ゆっくり私に手を伸ばして頭を軽く撫でてくれた。そのあと、「あとでね」と言い残して二人は教室を出ていった……多分、言葉通り先に言った前原くんたちを探しに行ったんだと思う。

……私が何の反応もできないでいるうちにいつの間にか決まってしまい、私は二人にお礼も、何も言うことが出来なかった。私を待ってくれている渚くんたちを見て立ち上がって、カルマくんを振り返ったら……ため息をつかれた。

 

「……サボる気、ないんでしょ?だったら頑張っといでよ。……これ、貸してあげるからさ……少しは安心できるんじゃない?」

 

そう言って差し出されたのは、カルマくんがいつも着ている黒のカーディガン……だから集会の間、私のカーディガンと交換してもらい……頑張ってみることにしたんだ。

 

 

 

──そして、山を降りている今に戻る。

 

「それにしても……アミサちゃん、ぶっかぶかだね……それ」

 

「……カルマくん、大きいから……私のやつも大きいけど、やっぱりぶかぶかになっちゃうよ」

 

手が出ていないカーディガンを渚くんにパタパタと振ってみせる……袖は手が出ないし裾はスカートを隠すまではいかないけど、やっぱり長い。……でも、確かに近くにいるみたいで安心できる……これならなんとか乗り切れるかもしれない。そう思って、やっと私は笑うことが出来た。

 

「……ねぇねぇ、あれ……彼シャツという奴だと思うんだけど。本人気づいてない上、楽しそうに袖振ってるけど」

 

「むしろ、着せるだけじゃなくてカーディガン交換してましたよね。…真尾さんのやつも大きめですから、あれなら赤羽君でも着れそうですけど…」

 

「てか、付き合ってないんだよなアイツら……よくやるよ」

 

 

────ブウゥゥウン…!!

 

 

「……って、うわ!?誰だよ蜂の巣刺激したの!!」

 

……前言撤回です。安心して山を降りることも出来ないみたいで、なんか怒ったハチがたくさん追いかけてきます……!?こ、これは、動く敵を狙うんでしたっけ、止まればいい?でも止まったら追いつかれる、ど、どうすれば…?!

 

「うわあぁぁああぁ!!!!」

 

「「「お、岡島ーーっ!?」」」

 

……今、なんか色々と大変なことになっている岡島くんが走り抜けていったような気がします。大半を引き受けてくれちゃった彼のおかげで、それから少しすればハチはいなくなり、一息つくことが出来ました。

 

「やーもう、ハチとか勘弁してぇ……」

 

「大丈夫か?」

 

「烏間先生」

 

「焦らなくていい。今のペースなら充分間に合う」

 

確かに、今のハチの騒動で慌てて山道駆け下りたから、だいぶん時間短縮にもなったんじゃないかな。と、そこで誰よりも息を荒くして疲れきった声が聞こえてきた。

 

「ちょ、ちょっとぉ〜……あんた達ぃぃぃ……休憩時間から移動なんて、聞いてないわよ……っ!」

 

「あ、ビッチ先生」

 

「だらしないなぁ、ビッチ先生」

 

「ヒールで走ると倍疲れるのよ!!」

 

じゃあ、ヒール履かなきゃいいんじゃ…なんて、言えない雰囲気だった。でも登ってこれるなら、降りるのも簡単……じゃ、ないのかな。むしろ滑り落ちそうで怖いかも。

 

「烏間先生、殺せんせーは?」

 

「生徒達の前に姿を晒すわけにはいかないからな。旧校舎に待機させている」

 

「……せんせーだけのけ者、とか言ってそう、だね…」

 

「さ、本校舎までもう少しだ。行くぞ」

 

「「「はぁーい……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、ひどいめにあった…」

 

「岡島くん…だいじょぶ?」

 

「おー……てか、むしろ何で真尾はフツーなの…」

 

「……?ハチとかは怖いけど、このくらいの運動量なら普通かな…?」

 

「ウッソだろぉ…」

 

みんな、旧校舎入口のフェンスあたりで倒れたり、座り込んだりして息を整えている……なんか、道中で色々あったらしい岡島くんは特に、だ。見た目普通に見えるらしい私は、体力がない代わりに体の使い方を知ってるから、体力温存ができるだけだと思う。……最初から山道を駆け下りてたら、すぐ動けなくなってたと思うけどね。

そうして少しは休憩していられたけど、私たちは整列までが規則だ。磯貝くんの号令に返事して、体育館へと向かった。

 

「ちょ、…ま、待ってぇ〜……」

 

……イリーナ先生、がんばって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「渚く~ん」

「おつかれ~、わざわざ山の上から本校舎に来るの大変でしょう~?」

 

「………」

 

「あ、ほら、異端児もここにいるよ」

「うわ、ホントだ。でも望んでた通りに堕ちたんだからさ〜もっと喜べばいいのに〜!」

「成績はいいのに素行不良とつるむなんざなぁ!おまけに教師(オレ)に対しての暴力行為ときた……」

「浅野君に誘われておきながら、無視するからこうなるんです。先生たちは何度も言いましたよ?そもそも……」

 

「……っ、」

 

やっぱり、ここは地獄だ。

まだ集会が始まる前だというのに……いや、むしろ始まる前だからこそ、こんな風に言えるのかもしれない。生徒だけでなく、近くの教師達も一緒になって口撃してくるそれに、下手に反応することも出来なくて、体の震えをなんとか隠しながら下を向く。

 

「……真尾さん、……まだ始まんないしさ…私の制服掴んでていいよ。そりゃあカルマ君よりは小さいけど、ちょっとは変わるかもしんないよ?」

 

「真尾さんは赤羽君に頼まれて預かった大事なクラスメイトなんだから。それに友達だし、頼まれなくても守るから!……むしろ、頼んでくれてよかったかも。こっちに集中出来て、私たちに向けての言葉があんまり気にならないや」

 

「……あの、…私……、……強くなくて、ごめんね。……ありがと…です」

 

小声で、下手に周りを刺激しないようにしながら不破さんと矢田さんは声をかけてくれる。前原くんたちもこっちを見て、自分たちも辛そうなのに少し体をずらして壁になってくれた。

────やっと、お礼が言えた。

 

「……えー、要するに、君達は全国から選りすぐられたエリートです。この校長が保証します……が、慢心は大敵です。油断してると……どうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ」

 

集会が始まり、先生のE組いじりでE組以外の生徒達が一斉に笑う。集会(ここ)では、先生も一緒になってことある事にE組全体をバカにして、笑って、蔑んでくるのが公然とされている。

 

「こら君達笑いすぎ!!校長先生も言いすぎました」

 

……大人が、差別をよしとしている。

……むしろ、率先してやっている。

だから、キライ。

だから、信じたくなくなったのに。

その場所で『当たり前』とされたらそこから外れる者は『異端』となり、その『当たり前』が集まればそれはその場所で『常識』となる。

私はその『異端』として嫌われたんだ。

 

「続いて生徒会からの発表です。生徒会は準備を始めて下さい」

 

司会のそんなアナウンスの頃、烏間先生が先生としての挨拶回りをしながらE組の近くへと来た。

 

「……誰だあの先生?」

「シュッとしててカッコいい~」

 

「E組の担任の烏間です。別校舎なのでこの場を借りてご挨拶をと」

「あ……はい、よろしく」

 

烏間先生が姿を見せたことで、生徒たちの視線がそちらに集まる。私たちは、少しだけ息をつくことが出来た。生徒会の準備ができるまでは、少しだけ楽にできるのもある。

 

「烏間先生~ナイフケースデコってみたよ」

 

「かわいーっしょ」

 

「……………………ッかわいいのはいいが、ここで出すな!!他のクラスには秘密なんだぞ!暗殺の事は!!」

 

「「は、はーい……」」

 

倉橋さんと中村さんが、対先生ナイフのケースを烏間先生に見せて、小声で怒られてた。……可愛いのはいいが、って……ここで出さなければ認めてくれるんだ。

 

「なんか仲良さそー」

「いいなぁー」

「うちのクラス、先生も生徒(男子)もブサメンしかいないのに」

 

その時、また、体育館がざわつく。

入口を見てみると、さっきまでのバテようが嘘のように振る舞うイリーナ先生が、綺麗な髪をなびかせながらこっちに来るところだった。

 

「……ちょ、なんだあのものすごい体の外国人は!?」

「あいつも、E組の先生なの?」

「カッコイイ……」

 

「ビッチ先生、さっきまであんなにへばってたのに……見栄っ張りだなぁ」

 

……私は、嬉しかった。

私たちの自慢の先生たちが、他の人たちに褒められているんだから。

もっと、自慢したい。

この人たちが私たちを認めてくれる先生なんだよって。

 

「渚、あのタコがいないから丁度いいわ。あのタコの弱点全部手帳に記してたらしいじゃない?その手帳おねーさんに貸しなさいよ」

 

「えっ……いや、役立つ弱点はもう全部話したよ…」

 

「そんな事言って肝心なとこ隠す気でしょ」

 

「いやだから………」

 

「いーから出せってばこのガキ、窒息させるわよ?」

 

「〜〜っ!苦しっ……胸はやめてよビッチ先生!!」

 

「(羨ましい……)」

「(ビッチ、なんだ)」

「……なんなんだ。あいつら……」

「エンドのE組の分際でいい思いしやがって」

 

いつの間にか渚くんに近づいていたイリーナ先生が何か、小さな騒ぎを起こしてたみたいだけど……声だけでもなんとなく分かる、なんか、先生らしかった。こういう所があるからこそ、私たちの先生なんだよ。

 

「……………………はいっ!今皆さんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です」

 

「え……何?俺等の分は?」

 

「すいません。E組の分まだなんですが」

 

「え、無い?おかしーな………ごめんなさーい、3-Eの分の忘れたみたい。すいませんけど全部記憶して帰って下さーい!ホラE組の人は記憶力も鍛えた方が良いと思うし……」

 

だけど……生徒会の準備が終わって、また、あの時間に戻る……いつもの陰湿なE組いじり。また、耐える時間が始まる……誰もがそう思った。

 

──その時だ。風が起こりE組全員の手元に「生徒会だより」が配られる。

 

「磯貝君。問題無いようですねぇ……手書きのコピーが全員分あるようですし」

 

「……!はい。あ、プリントあるんで続けて下さーい!」

 

「え?あ…、うそなんで!?誰だよ 笑い所つぶした奴!!あ……いや、ゴホン……では続けます」

 

……殺せんせー。ひとりぼっちが寂しくなったのかな

 

「全校の場に顔を出すなと言ったろう!おまえの存在自体国家機密なんだぞ!!」

 

「いいじゃないですか。変装も完璧だしバレやしません」

 

「……あれ……あんな先生さっきまでいたか?」

「妙にデカいし、関節が曖昧だぞ」

「しかも隣の先生にちょっかい出されてる。なんか刺してねーか?」

「……女の先生がつれてかれた。……わけわからん」

 

「はは、しょーがねーなビッチ先生は」

 

場所が違っても、先生達は変わらない。

私たちはそれを目の当たりにして、ついつい笑い出していた。周りの雰囲気とか自分たちを見る目なんて、もう誰も、目に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先、行ってるぞ!」

 

「うん。ジュース買ったらすぐ行くよ!……あれ、アミサちゃんも?」

 

「……うん、カルマくんにお土産買ってくの。……煮オレシリーズ、あるかなぁ……」

 

先生たちのおかげで、あの後の集会でのE組いじりは不発に終わり、いつもよりも気分よく体育館を出ることが出来た。矢田さんと不破さんにはもう一度お礼を言って、自販機の前にいる渚くんを見つけたから追いかけてきたのだ。

カーディガンを貸してくれたお礼、ここで買っていこう。そう思って。

 

「……おい」

「お前らさ、ちょっと調子乗ってない?」

 

「えっ……」

 

「?」

 

声をかけてきたのは、前の私たちのクラスメイト……だったはず。名前、知らないけど。

 

「集会中に笑ったりして、周りの迷惑考えろよ」

「E組はE組らしく下向いてろよ」

「どうせもう人生詰んでんだからよ」

 

「「………、」」

 

……なんて、かわいそうな人達なんだろう。

 

「おい、なんだその不満そうな目」

「なんとか言えよE組!!殺すぞ!!」

 

誰も助けてくれない。

誰もが罵られる私たちを嘲笑っている。

面白そうに、この後の展開を期待して見ている。

……もちろん、私たちが下の立場を認める様子を想像して、だ。

渚くんは胸ぐらを、私は腕を思い切り掴み挙げられた。

でも、痛みよりも先に、私たちには彼らの言葉の方が頭に響く。

 

……殺す?

………殺す……、

…………「殺す」、かぁ。

 

 

「……殺そうとした事なんて無いくせに」

「……殺す重みを、知らないくせに」

 

 

私たちを掴んでいた男子生徒二人は、その言葉とほとんど同時に、怯えたように後ずさりした。

私たちは気にすることなく、まっすぐ歩く。

後ろで他のクラスの人たちがざわついていた気がするけど、そんなの関係ない。

私は、私たちのクラスであることに誇りを持っているんだから。

 

 

 

 

 

「真尾さん、大丈夫だったか?」

 

「あんたもよ、渚。烏間に聞いたけど、帰りに絡まれたそうじゃない」

 

山道を歩いていると、烏間先生とイリーナ先生が追いついてきた。私と渚くんは振り返る……先生たちも私の本校舎時代を知っているから、心配してくれたんだろう。

 

「僕は平気だよ。いつもの事だし…」

 

「先生たち……。

……はい、みんなが居てくれたし……私たちの大好きな先生もいた。すごく、安心しました。

────私、学校でこんな気分になれたの、はじめてです…!」

 

「渚…アミサ…、あんたたち……」

 

 

それは私が初めて実感した、信じる人と一緒にいられる喜びだった。

一人では無理かもしれない、でも、一緒なら怖くない。

それを、教えて貰ったんだと、改めて実感した時間になったから。

だから私は、笑顔で先生たちに報告したんだ。

 

 

 

 




「あ、おかえり〜」
「おかえり〜……じゃねーよ、カルマ!」
「おっまえ、マジでサボってたんだな…」
「だってあんな集まり行く価値ないじゃん」

「カルマくん!」
「……へーきだった?」
「真尾さん、頑張ってたよ。途中からは烏間先生とビッチ先生のおかげかもしれないけどね」
「一緒に笑ってたもんね」
「……あのね、私、頑張れたよ。あとね、先生もみんなもいたからいつものE組にいるみたいだったの。……あ、これ、お土産……って、わ!」
「おっと、……慌てないでよ」
「はい、イチゴ煮オレです!」
「……ん、ありがと。……話聞いて」

「真尾さん、なんかいつもより明るい…?」
「ふっきれた感じがあるよね」
「それより、あいつらのやり取りが親子というか、先輩と先輩大好きな後輩というか、なんというか……」
「カルマが羨ましい。俺も世話焼きたい……」
「俺も。なんか見てるとうちの妹みたいで、ついつい手を貸したくなるんだよな…」

「(何も無いとこでコケるなんて……この場所も、落ち着けるところになってきたってことなのかな)」


++++++++++++++++++++


集会の時間と、少しの自立(数時間)

少しずつ人間関係を学びつつ、信用できる人たちと一緒にいれば一人じゃないってわかるし、立ち向かう力になるんだ……というような、友だちに頼ることを学んだ回にしたかったので、カルマがほとんど登場しないこの話はちょうどよかったです。


ちなみにあとがき部分の最後の方の会話は、上から神崎、茅野、三村、前原、磯貝のイメージだったり。
他の生徒もちょこちょこ出していきたいなーと思ってます。



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