アミサが自分の知ってる授業の抜け出し方で教室を飛び出し、そのある意味すごい行動力にある者は呆れ、ある者は笑い、ある者は感心した後。殺せんせーがある目的のために律の入ったスマホとともに教室を出て行くのを見てから、E組の生徒達は律本体の前に……正確には、画面の前に集合していた。
目的は、E組名物の友達以上恋人未満な2人を覗き……いや、見守るためだ。
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『…………』
不破「アミサちゃんが玄関に着いたわね。それにしても殺せんせー堂々してるなー……尾行じゃアウトだよ。真後ろから撮影してバレないって……」
片岡「アレでしょ、保護色。……でもアミサ、なんで気づかないんだろ……普段ならちょっとした気配みせただけですぐにバレるのに」
磯貝「そういや……俺と片岡が見舞いで病院行った時も寺坂の存在に俺等が紛れるように隠れてたのに、扉の前に来てた時点で何人か一緒に来てるってバレてたっぽいもんな」
寺坂「アレについてはカルマが言ってたぜ……俺の行動一つで部屋の外で何か分からんが揺れてる気がしたってよ。カルマが気付いてる時点で真尾も気付いてるに決まってんだろ」
片岡「私達もまだまだってことかぁ……じゃあ今は?」
菅谷「そんだけ真尾も必死なんだろ。よく言うじゃん、集中すると周りが見えなくなるって」
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『…………どこだろ』
杉野「お、外に出た。どこって言ってる割には迷いないな〜……渚、カルマがいるとしたらどんなとこが多いんだ?」
渚「んー、僕もそんなに詳しくないんだけど……裏山、校舎裏、その辺の木の近く、かな」
〝当たらずとも遠からずってとこのようですよ、渚君〟
渚「っ、殺せんせー!?」
〝律さんを通して音声は送受信です。皆さんの声は先生には聞こえるようにイヤホンしてます。……あんまり喋るとさすがにバレますので、先生が話すのは最低限にしますが〟
竹林「それで、その当たらずとも遠からずってどういうことですか?」
〝裏山だとすぐに戻ってこれない、校舎裏だと近すぎる、木の近くは……さっき先生が迎えに行った時にいましたから今は違うでしょう。ですが、別に『木の近く』とは立ってるだけが近く、ではいですよ?〟
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『……カルマ』
『……!……何』
〝ね?〟
前原「いや、ね?って言われても……どこだよ」
矢田「カルマ君の返事は聞こえたけど、姿ないよね……」
三村「数本、木が立ってるだけじゃね……?ちょっと枝が太めで葉も茂ってる程度の」
速水「……なるほど、上ね」
「「「!」」」
前原「お前よく見つけたな〜……」
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『教室、帰ろ?……降りてきてよ』
『……アミサだけ、帰りなよ。どーせ磯貝がそろそろ賭けで奪ったアレの使い道を先生に話してるとこじゃないの』
中村「拗ねてますな〜……」
狭間「どうせサボってたせいで成績落ちたとかそんなのじゃないかしら」
竹林「僕と片岡さんが7位で真尾さんが4位……中間テストを考えると彼が上位にいないし、案外そうかもしれないね」
原「それか、アミサちゃんに顔を合わしづらいとか……」
磯貝「……ん?カルマの言ってるアレって賭けで取ったアレのことか?」
渚「確かに連れ戻しに行かなかったら話してた頃かもしれないね」
茅野「……話す本人撮影してるけどね」
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『…………降りてこないなら、私がそっちに行く』
『……話聞いてる?……って、は?』
千葉「あ、赤髪が見えた……あそこにいたのか」
速水「今分かったの?」
菅谷「(すまん、俺も分からんかった)体起こしたらはっきり見え、……は?」
木村「跳んだ……?」
三村「器用にカルマの頭の上に着地したな」
茅野「すご、アミサちゃんあんなジャンプ出来たんだ」
片岡「ジャンプはすごいけど、お願いだから普通に登って〜っ……あの調子だと絶対パンツ見えちゃうって……!」
岡野「メグ、落ち着いて。分かるけど」
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『……私は〝おっと、律さんここはマイクを切ってください。彼女が以前まだ秘密にしたいと言っていた部分です〟『了解しました!』』
『……そういえば、そうだったね』
岡島「……殺せんせーにぶった切られたな」
木村「まぁ、先生に話してある秘密ならしゃーない。俺も頼んでることあるしさ」
杉野「木村が頼むことってなんだよ」
木村「何でもいいだろ!」
片岡「ちょっと、うるさいんだけど。騒ぐなら廊下行って!」
「「やだ!」」
片岡「なら静かにする!」
菅谷「……片岡かっけー……」
岡島「やってることは説教だけどな」
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『……ねえ、カルマ……私今回ね、色んな人に助けてもらいながら頑張ったよ。頑張ってたのに……カルマは全然近くにいない。最近、いつ話しても、カルマは私のことを見てくれてない……ずっと不機嫌で、でも、なんでかなんて分かんなかった。どれだけ考えても分からないし、誰も、教えてくれなかった』
神崎「アミサちゃん……だいぶ悩んでたもんね……」
奥田「はい……アミサちゃんは、カルマ君が安心スペースでしたから」
茅野「怖い目にあってもカルマ君がいればすごく安心した顔してたし」
岡野「そっか、3人は修学旅行で同じ班だったもんね」
中村「なのにその安心する奴を勉強会の誘いに行ったら、腕に真っ青なアザこしらえて帰ってきたしさぁ……本人はやたらカルマを庇って隠すし」
磯貝「そういや、校舎裏で壁に押さえつけられたとか言ってたな。……まぁ、俺や奥田に教えてもらうって誘ったらしいから……」
杉野「自分に頼らず、何で他にってか。それで今までの我慢も限界だったってことか」
前原「……信じてた奴にそんなんされたらそりゃ泣くだろ……」
茅野「なんとか協力して他の人に頼ることで成績残せた=他の人に頼るのも大事って言うのを伝えようって言ったら……」
中村「最初に言った一言が、『頑張ればまた自分のことを見てくれるかな』、だよ!?どんだけ健気……」
神崎「下手なこと言えないよね……」
奥田「それから先はとても熱心でした」
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『私、知らないことが多いから、自分だけじゃ何もできない。何も言ってくれなかったら、わかんないよ……どうしたら、また近くにいられるの……?』
渚「…………」
茅野「渚?」
渚「いや、…………そうかな、とは思ってたけど、カルマ君が避けてた理由って……僕等以外を頼るようになったからだよね」
「まぁ、そう、だよね……?」
渚「……ちょっと、僕とカルマ君のせいでもあるよ、これ」
「「「え。」」」
渚「アミサちゃんが周りを否定しすぎて、僕達に依存しないようにって外に目を向けさせたんだ。で、アミサちゃん自身は僕達以外にも頼れるようになったから、人と関わるのを少し克服したから頑張った分褒めてほしい……って思ってたみたい」
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『……ッごめん!』
『!!』
中村「カルマが謝って……」
寺坂「頭を下げた、だと……!?」
村松「真尾限定じゃね?」
渚「いや、他にも下げてる人見たことあるよ」
吉田「誰だソレ!」
中村「案外弱みになったり…!」
渚「アミサちゃんのお姉さん」
「「「あいつら家族公認なのかよ!?」」」
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『……最近アミサ、女子も男子も関係なく俺や渚君以外の奴ばっか頼るし、甘えに行くし……俺以外の男子に撫でられても嫌がるどころか撫でられて嬉しそうにしてるし……イトナにセクハラされても気付かないし、浅野君には告白されてるし、いつの間にか進藤にまで気に入られてるし……』
『え、と……?つまり、どういうこと……?』
前原「半分くらいは俺等もどういうこと、だよ……!」
菅谷「あいつ溜め込みすぎだろ、まだありそうだぞ!?」
千葉「イトナのセクハラ……ああ、胸をガン見してたあれか」
倉橋「浅野君って……生徒会長〜っ!?」
矢田「告白……え、A組の筆頭なのに、アミサちゃんに?」
渚「球技大会の日にアミサちゃんはぐれてたじゃん、あの時らしいよ」
杉野「しかもその時に進藤は真尾に惚れ込んでファンになった。杉野君は人の上に立つ側に選ばれたんじゃない、代わりにE組に選ばれた、彼はすごい所を持っているから悪く言うな……って正面から啖呵切って、からのあの球技大会の結果を経て」
木村「よく分かんねーけど、よそでも天然兵器は爆裂させてるわけか……」
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『……ずっと、俺のそばにいると思ってたのに、アミサが他の奴らに近付けるようになってから……なんで一番近いのは俺なのにって、嫉妬してた。でも、それをそのままアミサに言うのもかっこ悪いから……俺が、勝手に避けてた。その結果、傷つけて……本トに、ごめん……』
前原「これ、構ってる俺等に対しても嫉妬してねーか……?」
渚「前原君とか岡島君が構おうとするとすっごい目で見てる時はあるね」
「「なんで俺等だけ」」
「「「自分の胸に聞け!!」」」
原「それにしても……アミサちゃんに対してのひねくれた態度は誤解の元って、カルマ君なら知ってそうなのに」
千葉「それが男心ってやつなんじゃないか?」
不破「カッコつけめ……」
速水「カッコつけて傷つけてたら意味無いけどね」
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『……私、あの日から、ずっとカルマがそばにいてくれて……これ以上、寄りかかってたらカルマの自由を奪っちゃうから……迷惑になるって、思って。だから、カルマと渚くんから、少しずつ離れなくちゃいけないのかなって思ってた』
『そんなこと……』
『でも、やっぱり無理だった……どんなにたくさん頼れる人ができても、特にカルマはずっと一緒にいてくれたんだもん、離れていっちゃ、やだよ……ッ!崖から落ちた時も、全部……全部信じられなくなった時に言ってくれた……『死んでも一緒にいるから、一人にしない』って、……私はカルマが迷惑でもその言葉、信じてて、ッ!?』
「「「は!?崖から落ちたァ!?」」」
渚「あー……あの時カルマ君、そんなこと言ってたんだ……」
〝先生を暗殺するために、『マッハで助ければ彼等の身体が耐えきれずバラバラになって死ぬ』、『見捨てたりゆっくり助けに行ったりすれば間に合わずに生徒を見捨てた教師として死ぬ』という捨て身の暗殺を仕掛けられた時ですね〟
奥田「……なんていうか、最初の頃のお2人はだいぶ無謀なことをしてましたから……」
菅谷「花柄エプロン……」
渚「それ、カルマ君の前で言わないようにね」
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『──ごめん、本トに。迷惑なんかじゃないから……むしろ、頼ってよ。俺はアミサに頼ってほしいし、俺だって一緒にいたいんだから』
『…………うん』
『腕も、ごめん。俺、あの時は抑えらんなくなってた。怖かった……?』
『…………うん、真っ黒でぐちゃぐちゃしたものしか、感じなかった、から』
『うわ、それは俺でも嫌だわ…………E組の皆のこと、正直侮ってたよ。俺も負けてらんないや』
『……、うん……ッ…』
倉橋「……わぁ……映画のワンシーンみたい……」
狭間「抱き寄せて謝ってカッコつけて……本当……中二病でもないし常人でもないし、なんなのかしらあの中途半端」
前原「あそこまで言えるなら、さっさと告白しろよカルマァ!」
寺坂「ホント、余裕なくなんぞ……生徒会長に、野球部長に、……まだ増えたりしてな」
中村「それはそれで面白いけどね」
渚「面白いって……本人は死活問題だよ、多分」
茅野「そんだけ大事にして……ううん、しすぎてるんだよね」
磯貝「2人とも落ち着いたら帰ってくる……全員、リアルタイムで見てたことは秘密な!……ボロ出すなよ?」
岡島「真尾ならともかく、カルマはごまかせるとは思えないしな……」
菅谷「ていうか、侮られてたのか俺等……」
木村「どっかで見返さなきゃなー……」
奥田「!そうだ……アミサちゃん、帰ってきたらきっと目が腫れてますよね……私、冷やせるもの持ってきます!」
矢田「教員室にビッチ先生いないかなー、アイシングのやり方聞きに行こうよ」
倉橋「あ、私も行く〜!」
律『あ、ちなみに殺せんせー撮影のこの動画は、一部編集後でしたらお渡しできますが……』
「「「ほしい!」」」
律『わかりました!では、順次送っていきますね!』
「あ、帰ってきたよ!」
「おーおー、ケンカは終わりか?」
「手、繋いで帰って来てるし……どっちかと言えばカルマ君が手を引いてるって感じかな?」
「ホント、色々謎な距離感だよね……よし、男子はカルマ君よろしく!」
「カルマァ……」
「お前にとりあえず言いたいことが山ほどある……」
「……何、何のノリなわけ……?」
「まぁ、とりあえずこっちに来ようか。ちょっとした話合い……ってね」
「磯貝まで……」
「はーい、アミサ、あんたはこっち」
「アミサちゃん、お連れしま〜すっ!」
「え、え……?」
「おかえりなさい、アミサちゃん。少し、いい顔になってる……言いたいこと、言えた?」
「!……うん、ちゃんと、伝えれたよ」
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終業の時間・一学期
……の、あの場面の『E組生徒は見た』をお送りしました。多分、全員いるはずです。いなかったらホントにごめんなさい、そのキャラクターさん……;;
動かしやすい人は何回も出てくるし、わからない人は一回しかいないしで、結構難しかったです。
イリーナ先生にアイシングのやり方を聞きに行ったついでに事の顛末も伝わってるので、2人のケンカがどうなったのかは先生方も(リアルタイムでは見てないけど)ご存知だったりします。
律に悪気はゼロ。むしろ、これこそ『協調性を磨くため』に必要なことだと殺せんせーに言われて快く協力。動画は記録として残しておく。
クラスメイトの何人かは最後のシーンをもう一度見たさに、何人かは弱みにならないかな……なゲスい考えから、何人かは何かのために、と動画をもらってます。