暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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★教員試験の時間・2時間目

 

✕✕✕side

 

『ほら、✕✕✕……《儀式》の前にいつものお薬だ、飲みなさい。ゆっくりでいいから全部、最後まで飲み干すんだよ』

 

『甘くて美味しいだろう……?薬が効いてくれば、もう何も考えなくていいからね』

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

──深い水の中に沈んでいくような感覚。

 

──不快感は全然なくて。

 

──ただ、視界は真っ暗だった。

 

──今日も、これから《儀式》がはじまる。

 

──……痛いの、やだな……

 

──……、…………っ

 

──……目が痛い……、頭が痛い……っ

 

──燃えてるみたいに、あつい、熱い、アツい。

 

──カラダが全然動いてくれない。

 

──口から出るのは言葉じゃない、ただの言葉になり損ねた音。

 

──どんなに叫んでも。それすら塞がれて。

 

──どんなに抵抗しても。それすら縛られて。

 

──……楽になれる日なんて……

 

 

 

『────』

 

 

 

──……!……声……?

 

──それに、悲鳴が聞こえ……

 

 

 

『……粗方、制圧しました。抵抗は激しかったのですが、教団員の内、大半が最期には自害してしまい……』

 

『……そうか。……生存者は?』

 

『………………、今の所は、いません』

 

 

 

──……誰か、いるの……?

 

 

 

あとは、この部屋……──っ!』

 

『こ、れは……』

 

『……これで確定したな。アルタイルのロッジでは感応能力の引き上げ実験が行われているらしい。……このロッジの子供達は、五感に対する人体実験の被害者だろう。(視覚)(聴覚)(嗅覚)(味覚)、そして(触覚)……それぞれに機械が取り付けられている』

 

 

 

──足音が近づいてくる。2人分聞こえる……のに、全く同じ感じがする……まるで、同じ人が2人いるみたい。

 

 

 

『…………ひどい……っ』

 

『……────、今は()()()だ。感情は抑えなさい。……分からないでもないがな』

 

『はい……、……?』

 

『……どうした』

 

『……──、あの子……』

 

 

 

──近くにいるの?最初に聞こえた声よりも鮮明な気がする。

 

──……?……誰かが、顔を触って……

 

 

 

『やっぱり……かなりか細いけどこの子、息がある』

 

『このロッジ唯一の生存者ということか……この子供は目の周りにやたらと機械が固定されているな』

 

『外しても平気でしょうか?』

 

『少し待て……、……システムは停止しているようだ。外すよりも早い……壊せ』

 

『はい』

 

 

 

──いきなり目の周りの圧迫感が消えた。

 

──それでも視界は全てを塗りつぶすほどに白く、それ以上に眩しくて何も見えない。

 

 

 

『……息はあるが、かなり衰弱しているな……』

 

『病院……!──、連れて行っていいですか?ちゃんと、────として行きますから』

 

『……そうだな、お前がそうすべきだと思ったのなら、そうするべきだろう』

 

 

 

──抱き上げられた。

 

──いつも《儀式》の後に動けなくなった✕✕✕が運ばれる時も抱き上げられるけど、こんなに優しくされたのは、はじめてだ。

 

──……視界は白んだままで、周りは全く見えないし、体も相変わらず動かないけれど。

 

──揺れからして、どこかへと運ばれているんだろう。

 

──ずっと、ここから出たことがなかったから、ここ以外の場所を知らない。

 

──いくつもの角を曲がり、その度に新しい感覚がする。熱い、寒い、ピリピリとした感覚、微かな機械音……

 

──……これは、血の匂い?たくさん、たくさん……

 

──血の匂いは嗅ぎなれた。だって毎日、1人、2人と子供たちは減っていく(死んでいく)。きっと、今日もたくさんいなくなったんだろう。その匂いに違いない。

 

──さっきまで、指先に触れる空気がビリビリと揺れていたのに、今はとても静かだ。まるで✕✕✕とこの人たちしか存在しないかのよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そういえば……、なんで✕✕✕の近くにいなかった時も、✕✕✕はこの人たちの声が聞こえたんだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ドグォッ!!

 

「……、……ん……」

 

ものすごい衝撃と轟音に体が揺さぶられ、意識が浮上す、る…………あれ、私は今、寝てたの?何かあったことを仮定して直ぐには動かず、手足や周りに気をやって状態を確認する。私が覚えている限り、体勢や体の感じが変わったようには感じない……ずっと体を横にした状態で誰かに抱えられていた、ってこと?……うーん、なら、やっぱり寝ていたのかな……。

特に問題なさそうだと判断して、今度はゆっくりとまぶたを持ち上げ……1度では上手く見えなくてまばたきを繰り返す。眩しくて白い世界の中で1番最初に目に入ってきたのは。

 

「!……目ぇ覚めた?」

 

「……こはく……」

 

「……?」

 

()()()()()()()、こはくのめ……」

 

「……え、」

 

「…………あれ、カルマだ……、ここは……」

 

赤に近い、琥珀色に光る、()()の瞳。思わず口をついて出た言葉を聞いた()()の驚くような声が聞こえて……わけが分からないまままた数回まばたきをするうちに、やっと視界が開けてきた。少しずつ色が、輪郭が戻ってきた視界には、私を抱き抱えたまま膝に乗せて座り、心配そうに顔を覗き込むカルマの顔。そして、同じように私の近くにしゃがみこんでいる渚くんや数人のクラスメイトの姿が目に入った。私の意識がはっきりし始めたのを確認して、クラスメイトはカルマを残し、離れていく。

ここは外?残りの人たちはE組の教室を窓の外から見ているみたい。今、何が起きているのか……状況を飲み込めないまま顔を動かし、今度は周囲に視線を向ける。目が覚めた時に感じた衝撃と音は何だったのか。

 

「…………ショベルカーに校舎が壊されて、外に出て……それから、何があったの……?」

 

なるほど、今回もほぼ無意識か……あー……あの後、俺等全員教室から外に出されてさ。今は教室の中で理事長先生が殺せんせー暗殺を賭けたギャンブル中。内容は省くけど、多分本物の手榴弾爆発させたんだと思う」

 

「……え、手榴弾!?2人とも、無事なの……!?」

 

「へーきでしょ……殺せんせーは誰も人間を殺さないから。俺は別にどうでもいいんだけどさ」

 

俺等の居場所を無くそうとしたんだし。

そう、声にならない音でカルマが口にしたのに気づいたのはきっと私だけ……至近距離で彼の唇の動きを追えた私だけ、だと思う。今のは見なかったフリをすることにして、肩を貸してもらいながら立ち上がる。少し頭がぼーっとしてる感覚はあるけど、今ははっきり周りが見えるし……体も痛みがあるわけじゃないから動いても平気だろう、多分。

そっと有希子ちゃんの隣まで移動させてもらって、窓から教室の中を覗き込んでみると……そこには殺せんせーの脱皮した皮をかぶった理事長先生と、何故か顔の上半分がへこんでいる殺せんせーの姿があった。何、あれ……あれは殺せんせーがテストの時の分身みたいに自分で変形させてる形なの?それとも何かしらのダメージを理事長先生が与えるのに成功して変形しちゃったの?

 

「ちなみに殺せんせーのあの顔は、対先生BB弾入りの手榴弾を爆発させたせいだから」

 

「あ、目が覚めたんだね。おかえりアミサちゃん」

 

「……た、ただいま……?」

 

「神崎さん、すげぇ……色々スルーしてる……」

 

結構静かに隣へ立ったつもりだったんだけど、有希子ちゃんは気づいてたのか単に動揺しなかっただけなのか、普通に私の頭を撫でながらおかえりという。反射的に返事しちゃったけど……やっぱり私はみんなの前で寝てしまっていたのか。私が飛び出した後に何があったのか……それに原因はわからないままだけど。杉野くんが小さく言ったスルーしてるらしい色々の内容がすごく気になるところだけど。

とりあえず教室(なか)の様子を確認しようとそちらへ視線を戻すと、ちょうど理事長先生が殺せんせーの脱皮した皮を脱ぎ捨てて立ち上がったところだった。

 

「……なぜ、私が自爆を選ぶと?」

 

「似た者同士だからです。お互いに意地っ張りで教育バカ、自分の命を使ってでも教育の完成を目指すでしょう……それに……私の求めた教育の理想は、十数年前のあなたの教育とそっくりでした」

 

殺せんせーも理事長先生も、生徒に対して思っていることは同じ……『いい生徒』に育って欲しいということ。将来社会でその人自身の長所を発揮できる人材を育てたいということ。誰にでも思いやりを持ち、自分の長所も他人の短所もよく理解できる生徒になって欲しいということ。今はともかく理事長の元々の教育は、殺せんせーのそんな教育とそっくりだった、ということ。……何があって今の変に『強者と弱者』に固執するものになったのかまでは知らないけど、似た者同士の2人の教育バカの道が違ったのは、E組を弱者として『捨てた』か『拾った』かという小さなことなんだ。

それでも、と殺せんせーは言う。E組は弱者だとされていても、纏まった人数がここには揃っていて同じ境遇を共有してるから校内いじめに耐えられるし、なんでも1人で溜め込まずに相談できる集団だと。その集団を作り出したのは、他でもない理事長なのだと……理事長先生は他者の踏み台にすべく捨てたつもりになっていた『弱者』を、先生自身も気付かないうちに育て続けていたのだと。

 

「殺すのではなく生かす教育。これからも……お互いの理想の教育を貫きましょう」

 

殺せんせーだって、私たちに暗殺をさせようとしているとはいっても、対象は殺せんせーただ1人……人間の命を奪え、殺し屋になれと育てているわけじゃない。だからこそ、暗殺(それ)をも教育の一環として生かすための教育をするのだと、対先生ナイフを理事長に手渡す殺せんせー。

 

「……私の教育は常に正しい……この十年余りで強い生徒を数多く輩出してきた。ですごあなたも今私のシステムを認めたことですし……恩情をもってこのE組は存続させる事とします。……それと、たまには私も殺りに来ていいですかね」

 

「もちろんです。好敵手にはナイフが似合う」

 

ナイフを手に、少しの間黙り込んでいた理事長は、ソレをネクタイピンに押し当てながら……笑った。邪悪でも狂気的でもない、何も企んでない……そんな笑顔で。踵を返し、教室の扉へと歩いていく理事長先生……これで、円満解決……でいいのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう、真尾さん?私が屋根から降りるよう言った時に逆らった上、業者の彼らを怪我させたんだったね……?」

 

「……!……あ、あの、屋根に登ったところまでは覚えてるんですけど、その後から曖昧で……でも、あの……ご、ごめんなさい……」

 

……よくなかったみたい。ピタリと足を止めた理事長先生は、背を向けたまま私の名前を呼んだ。それも怒りの感情をもって。……だ、だって、あの時は校舎をこれ以上壊されたくなかったし、声を上げてもやめてくれるような人たちじゃないのは、中に私たちも先生たちもいるって知ってて解体してたことから想像できたから。お誂え向きに私は防ぐ術があったわけで、時間がなかったから他のことは何も考えられなくて、できることがしたい思いだけで、気がついたら振り下ろされる重機の下に潜り込んでいたんだから。衝動的な行動だったんだ。

……それで、……それで?……受け止めたあたりまでは覚えてる、のに、その後のことが私の記憶の中からすっぽりと抜け落ちてしまっている。何をしてしまったのか……覚えていないけど、理事長先生が言うにはあの重機を操作していた業者の人が怪我をしたらしい。業者さんを傷つけてしまったことに怒っているのかな。……受け止めた後に、屋根から飛び下りて業者さんに攻撃したとか?……そんなの、寝ていた理由に説明がつかない。それに、どんなに頭に血が上っていたとしても記憶が曖昧になる理由がない。完全防御のアーツの次に攻撃アーツをなにか使った?使いすぎてEPが空っぽになったならわからないでも……自分のEPを確認してみたけど、EPは《アダマスガード》を使った分しか減ってないからこれも違う。だったら……

 

「……怪我については冗談だ。業者からは君と目が合った瞬間に締め付けられるような金縛りのようなものが起きたと聞いているだけだよ。高所から落ちたわけではないし、後遺症のようなものがあるわけでもないから安心するといい」

 

「……かなしばり……《魔眼》……」

 

「やはり分かっていないか。真尾さん、私が怒っているのはね、自分から危険を犯すその行為だよ」

 

「……え、」

 

あらゆる可能性を思い浮かべて私が焦っていると、理事長先生は怪我をさせたことについては冗談だ、そう言いながらまた教室内へと戻ってきた。私も、様子を見守っていた烏間先生やイリーナ先生、殺せんせーにクラスメイトたちも、いきなりの行動にザワついて、何が何だかわからなくて。思わずみんなが窓際から下がって開いたスペースに、理事長先生は手榴弾の爆風で吹き飛んだ窓に足をかけ、ひらりと飛び越えて着地した。そのまま私の正面まで来ると、軽く膝を折り────

 

「自己犠牲を衝動的にしてしまうのは君の性かもしれない。鷹岡先生の時もそうだね……それでも……減らす努力はしているのかな」

 

「!」

 

「また、私の教え子が()()()()()()しまうかと、柄にもなく慌ててしまったよ。……君はちゃんと生きているね、よかった……っ」

 

私の頬へ軽く手を添えたあと、ふわりと抱きしめられた。理事長先生が屈んだのは小さい私の身長に合わせるため……そんな関係ないことを思わず考えてしまうほど、先生の行動は予想外だった。両腕ごと抱きしめられて、相手は一般人だから手荒くその腕の中から抜け出すこともできなくて、かといってこのままでい続けるには違和感があって。どうしようかと目をさ迷わせていたんだけど、ふと目に入ったのは先生の小さく震えている肩だった。

 

 

 

……そっか、理事長先生はこの教室が塾だった頃の教え子を1人、亡くしているんだっけ。

 

 

 

この学校に私が入学するにあたって、素性をあらった時に見つけた情報のひとつだ。先生の思ういい生徒を育てたら、人に優しく接しようとするあまり、いじめに反抗することさえできないままにその子は死んでしまったのだとか。以降、そんな経験があったからこそできた椚ヶ丘のE組制度。今回、私が屋根と重機の間に入ったことは自殺行為でしかない……私には防ぐ手段があったとはいえ、何も知らない人が傍から見れば、なんの対策もなく飛び込んだただの自殺と変わらない。

 

 

 

心配、なのか。

心配、してくれたのか。

私は、理事長先生が目の敵にしているE組なのに。

 

 

 

「……さて、私は帰らせてもらう。駐車場あたりに浅野君がいるような気がするからね」

 

「ヌルフフフ……お手柔らかに」

 

「フッ、彼も私の息子ですから。週末には家庭裁判所が荒れるでしょう」

 

「「「(お前ら親子何する気だよ!!?)」」」

 

私がされるがままにじっとしていれば、理事長先生は私の頭をひと撫でしてから静かに離れていった。肩を震わせていたし、泣いているのかも……そう思ってたけど、顔を上げた先生の顔はいつも通りだった。

それにしても、駐車場あたりにいる気がするって、なんで息子の行動をわかってるんだろう。殺せんせーは笑ってるけど、家庭裁判所を揺るがす喧嘩(?)……さすが浅野親子、規模がでかい。その後、殺せんせーに返事したり烏間先生に何やら伝えたりする以外には特に話すことなく、理事長先生はE組の山を降って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、壊れた校舎は俺等が直すのかよ」

 

「理事長は?」

 

「『君達には一教室あれば充分でしょう』だって」

 

「そこら辺はブレないな……」

 

理事長先生は殺せんせーの暗殺とともに、校舎を解体する業者さんと重機を引き連れて帰っていった……私が防いだとはいえ、最初の解体された分はボロボロで、その部分を残していっちゃったんだ。E組の存続は認めても扱い方は相変わらずで、言い分も含めなんとも理事長先生らしい……といえばらしいのかもしれない。そしてその壊れた部分を誰かに頼ることなく、自分たちで修理できちゃうE組もすごいよね。設計はわかばパークの時と同じく千葉くんが担当してくれてます。

力仕事でもあるから、高所での作業や木材運びのほとんどが男子の仕事で、ほとんどの女子は足が着くところで釘を打ったり工具を運んだり。ほぼ1日仕事になるからってことで、残りの女子数人がおにぎりなどの差し入れを作っている。ちなみに私は身軽な方だし動く作業に回ってるんだけど……

 

「こらアミサ!あんたまだフラついてるでしょ!」

 

「ねえアミサちゃん、降りてきて〜っ」

 

「う、動けるよ……別に私がなにかしたわけじゃないんでしょ?みんな、結局私が覚えてない時に何したのか教えてくれないし……心配し過ぎ、……あ。」

 

「うごっ!?」

 

「岡島の上に木の板が?!」

 

「生きてるか!?」

 

「…………」

 

「お、岡島くん……っ!」

 

「……返事がない、ただの屍のよウギャッ!?」

 

「あー……死んでる死んでる、屍一体はっけーん」

 

「い、生きてる!生きてるから!踏むな!」

 

「死んだフリしてるから生存確認!だ!」

 

聞いたところによると、私は寝ていたのではなく気絶していたらしい。でも、屋根の上で結局私は何をやらかしていたのか、何があって気絶することになったのかは誰も教えてくれなかった。……いや何をやらかしたのかは、理事長先生の言葉から何となく推測できるんだよ……業者の人に対して《魔眼》使って動きを無理やり止めたってことだよね……?目の奥がピリピリする感覚が残ってるし、多分これは間違いない。問題は、気絶した原因……みんな、見てないらしい。カルマが代表して屋根に上がって、戻ってきた時には私は気絶した状態でカルマに抱えられていたらしい。……渚くんはわざとらしく目を逸らしたから知ってそうなのに、教えてくれなかった。

それで、頭がぼーっとする感覚は少し残ってたけど、私はすばしっこく動けるのが取り柄なんだから、飛び回りたい。各々が自分にできる仕事を見つけて動いてるし、私もやっていたら止められたってわけだ。……止められたのも虚しく、案の定小さな木片を屋根から下に落としちゃって、偶然下にいた岡島の頭に直撃してしまったらしい。慌ててたら、岡島くんは見事にネタへ昇華させて近くにいた数人の男子に踏まれていた。さすがに危ない実績を作っちゃった以上、と屋根から降りたところで、エプロンを付けた陽菜乃ちゃんからたくさんおにぎりが乗ったお盆を渡された。配ればいいのかな?

 

「あ、そーいえばさ先生。理事長先生の暗殺でそれどころじゃなくなってたけど……テストのご褒美は?」

 

「にゅ?……ああそうでした。先生の決定的弱点を教えてあげるんでした」

 

「「「!」」」

 

陽菜乃ちゃんの問いに全員が手を止めて殺せんせーに注目した。そういえば、そんなこと言いかけてた気がする……殺せんせー本人が明かす、殺せんせー最大の弱点とは?

 

「実は先生、意外とパワーがないんです……スピードに特化しすぎて。特に静止状態だと、触手1本なら人間1人でも押さえられる」

 

「つまり皆で触手を捕まえれば、動きを止められる……!」

 

殺せんせー最大の武器はやっぱりマッハ20と言われるスピードだ。どんなに技術を磨いたって、どんなに気配を殺せたって、避けられたら全部意味が無い……その動きを止められるのだとしたら!

早速とばかりに殺せんせーの近くにいる人が触手を掴んでみようと手を伸ばしている。殺せんせーもわざと動かないでいてくれるみたいだし、試させてくれるんだと思ったんだけど。

 

──にゅるん

 

──ぬるん

 

──ぬるぬるん

 

「って、それが出来たら最初から苦労してねーよ!!」

 

「不可能なのわかってて教えただろこのタコ!!」

 

「ふーむ、ダメですかねぇ……あ、要領はあのヌタウナギを掴む感覚です」

 

「ほとんどの奴が触ったことねーよヌタウナギ!!」

 

そういえば、殺せんせーの触手って粘液があるのを忘れてた。自分で調整してヌメリや粘りを纏わせられるんだから、動かなくったって私たちの拘束から抜け出すのなんて簡単に決まってるよね……せめて粘液がない時しか無理かな。

1学期から目指し続けた目標を達成して、役に立つんだか立たないんだか、そんな弱点を教えられた、今回の期末テスト。A組とE組の勝負には決着がついたけど、暗殺の決着はまだまだなんだろうな。

 

 

 

 

 





「……んー……」
『アミサさん、どうかしたんですか?』
「あ、律ちゃん。……私、屋根の上でのことで覚えてるの、《魔眼》を使う直前くらいまでなの。ちょうど重機を受け止めたあたり……?」
『ま、またそんなことしてたんですね……!?もう、めっ、ですよっ』
「ご、ごめんなさい……じゃなくて、あのね、《魔眼》を使った時は起きてたと思うの……」
『……?それは、起きてなければ目を合わせることは出来ないからでは……?』
「……あ、そうじゃなくて。えっと、横になってたわけじゃないと思うし、誰かが私を抱っこしたり抱えてたりしてたわけじゃないと思うの」
『それは……カルマさんに聞いたことを踏まえると、そうでしょうね?』
「……律ちゃん、私が気絶した理由、カルマから聞いて」
『ません。』
「……うう、即答……」
『アミサさん、話が脱線してますよ。それで、それがどうかしたんですか?』
「うん。……私、目が覚めた時に『さっきと同じように抱きかかえられている』って思ったの」
『……はい』
「その……さっきって……いつ……?」
『……』
「……」
『…………』
「…………」
『…………不思議ですねぇ?』
「…………不思議だねぇ?」



「アミサ……おなじ……こはくのめ……んー……」
「……マ君、カルマ君。カルマ君ったら!」
「…………え?」
「もー、手伝ってよ〜……男手欲しいんだから!」
「あれ、アミサちゃんは?」
「渚君と茅野ちゃんか……アミーシャならそのへん飛び回ってる。体の感覚取り戻す〜って言ってたから放置してるけど」
「放置って……暴走止めるためとはいえ気絶させといて心配じゃないの;」
「ていうかさっきから1人で何悩んでるの?」
「……あのさ、2人から見てアミーシャの目の色って何色?」
「「は?」」
「いいから答えて。俺だけだと確証持てないんだよ」
「え、えーと、紫……んー……紫に近い蒼?」
「どっちかというと、海の色じゃない?深いところとかあんな感じの色な気がする」
「あ、それだ。目の色がどうかしたの?」
「…………『アミサと同じ琥珀の目』」
「「……?」」
「目が覚めた直後に俺の目を見て言ったんだよ。でもあの子の目は渚君達が言った通り『深い蒼』だろ?だからよく分かんなくてさ」
「カルマ君も琥珀っていうよりはオレンジだよね」
「うん……」
きっと!この校舎が壊されかけたことによってアミサちゃんの何かが刺激され、何かが目覚めかけてるのよ!そうに違いないわっ!」
「わっ!不破さん、聞いてたんだ;」
「じゃあその『何か』って何?」
「何かは……何かよ!特殊能力だったり前世の記憶だったりそんなん?」
「まーた設定甘いなぁ……」















「…………2回だけ、アミーシャの目が琥珀色な時、見たことあるけど、さ。アミーシャに関係あることなのか……?」


++++++++++++++++++++


書いてるうちに、オリ主へ新たな設定が生えることに決定しました。いつの間にかキャラクターさん達とともに指が動いてたので、しょうがない。まだどんな内容になるかは小説に出てきてませんが、確実に言えるのは『第1部では知らずにいた真実』を『第2部では知ることになり話の流れが変わる』ことになります。第1部で作者の私自身が書いていて疑問や伏線のつもりじゃなかったのに伏線っぽくなったところを回収していくのにちょうどいいことになったのだと思ってます。

今回のお話、前半部分は『零の軌跡』『碧の軌跡』あと、『暁の軌跡』も入るのかな……?を知っている読者さんならなんとなく言いたいことがわかったと思います。ここではカルバード共和国にも《D∴G教団》のロッジがあった設定です。それを《銀》が壊滅してた事実を捏造しました。

第1部の教員試験の時間と少しだけ内容が変わってます。流れは一緒ですが、ちょこちょこ変わってます。理事長先生が人間ぽくなった不思議。元々人間ですが。

律とオリ主が並ぶとたまにツッコミ不在のホンワカ空間ができ上がることがわかりました。

それでは、また次回……多分お茶会の時間は飛ばします。

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