暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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★2学期期末テストの時間

 

浅野くんに『2学期期末テストの上位50位をE組が独占する(浅野くんは除く)』ことを頼まれた放課後の次の日から、私たちE組はとにかくガムシャラに勉強した。……まあ、浅野くんから依頼されなかったとしても、元々E組全員がトップ50以内に入ることは決めていたから、あの出来事はきっかけの一つに過ぎないと思うけど。強いて言うなら、あれのおかげでみんなのやる気に余計火がついたって感じかな。頑張る、頑張らなきゃいけない理由も増えたことだし。

……そうそう、テスト2週間前になって、ついにテスト範囲が確定したの。この日までは各クラス授業の進度がバラバラだったから、テスト範囲はある程度の所までしか予測できなかったんだけど……尋常じゃないくらい範囲が広かった。しかも当たり前のように難しいし、学校で配布されている問題集以外で参考書として上げられている問題集の数のえげつなさ……各教科十数冊以上あるって、どういうことなんだろう。学校側は買わせる気ないよね……?あくまで『参考』だから買い揃える必要は無いんだけど、ここから応用問題が作られたりするから、上位を目指す以上範囲内の基礎が終わって余裕があるならやっておきたいなー……どれか1冊くらい買っておいたほうがいいかなー、とみんなが思っていた時だ。

 

「『数Ⅲエキスパート問題サンプル』」

 

「あります」

 

「じゃ、じゃあ『読解理論化学』はどうですか?」

 

「ありますねぇ」

 

「…………『応用発展!古典』は?」

 

「もちろんあります。そのシリーズも古典・漢文・現代文全てを揃えてありますよ!」

 

「なんで先生問題集(これ)、全部持ってるの!?」

 

……範囲表に載ってる問題集、殺せんせーがまさかの全種類持ってたという。なんでも先生になる以上、私たちに教えられないことがあると困るからって、日本にある問題集を全種類買い集めて、全部解いてって殺せんせーなりに勉強したらしい。殺せんせーは、旧校舎を家代わりにして住んでると言っても過言ではないから問題集はこの校舎内にあるし、頼めば貸してくれるらしくて、みんなは次々に先生へ声をかけている。

 

「……ん?ちょっと待て、参考問題集に指定されてるこれ、明らかに大学入試レベルだろ!」

 

「あー、ホントだ……俺等、中学生なんすけど……」

 

「期末テスト作る先生たちも大変だね、範囲広すぎて問題絞るの大変そう……」

 

「アミサ、そこは問題じゃないから。先生の事情とかどうでもいい」

 

「今問題にしてるのは、先生の負担じゃなくて、受験する私達が解ける問題が来るかどうか、だよ〜……」

 

試験範囲を考えた人……まあ、多分、理事長先生なんだろうけど……は、どこまで上の実力を私たちに求めるつもりなんだろう。当事者な私たちから言うのも変かもしれないけど、椚ヶ丘中学校の3年生はほんの一部の人を除いて巻き込まれ事故だよね。自分の身の丈に合わないテストを強いられるって……偏差値の高い進学校という言葉にあてはまらなくなりつつあると思う。それでも『椚ヶ丘』の生徒という誇りのためか、E組もA組もそれ以外のクラスも一生懸命だ。杉野くんからの進藤くん経由で、B組も上位に食い込もうともう勉強してるって情報が来てたりする。そんなことを聞いちゃったら、なおさら負けてられないよね。

私たちは分からないことがあれば、前以上に本気で分裂してる殺せんせーの分身に聞きまくったし、英語の正しい発音なんかはイリーナ先生にお願いして、ネイティブな生の声で何度も確認した。ただ教えてもらうだけじゃなくて、クラスメイト同士得意なものを教え合うことで、自分の得意教科の穴を探して潰していくことも試した。殺せんせー曰く、分からない・解けない人って、できる人からするとなんでここで引っかかるのかって部分でつまづくらしい。ということは、できる人からすると、そのつまづく部分を疑問に感じることがない。テストというものはそんな小さなつまづきを突いてくるもの……教える側が教えられる側のちょっとした疑問に答えられて、引っかかりやすい場所を知って意識できてこそ、その問題を理解したってことになるだろうって。とにかく試験当日までの2週間は今までにないくらいの時間、みんなが机に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そして、決戦の日。

E組の私たちもこの日ばかりはE組校舎(私たちのフィールド)を降りて、本校舎(アウェイな環境)で戦わなくちゃいけない。本校舎の生徒は自分たちのクラスでテストを受けるけど、私たちは校舎の端にある空き教室が試験会場になる……そこへ向かう途中、他のクラスの前を通ることになるんだけど。

 

「……すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組……」

 

「なんっつー目をしてやがんだ……殺気立つってこの事か」

 

「恐ろしく気合い入ってんじゃんA組の奴ら。カルマにアミサ、アンタら勝てんの?」

 

「どうだろ?……でも、」

 

「本気で殺す気ある奴がいたら手強いよね」

 

浅野くんが言っていた通り、廊下から見えるA組生たちはE組に対する憎悪でかなり怖い目をして私たちを見ていた。殺気立っててまるで呪文のようにくりかえされるそれは理事長先生の教育の賜物……なんだろうけど、それがいつまで続くか。あの殺気立つA組生徒の隙間からチラッと見えたのは、一人席について目を閉じている浅野くん……やっぱり、私たち以外で本気で殺す気で挑んでくるのは……彼だろう。

A組の教室を通り過ぎようとしたまさにその時、目を開けた浅野くんと目が合った……気がした。廊下を見つめる彼の柔らかく細められた目と小さな微笑みは、誰に向けられたのだろうか。

 

「……ねぇ、アミサちゃん。A組に行ったりしないよね……?」

 

「……え」

 

ぼうっとA組の教室を見ていた私に、陽菜乃ちゃんがかなり申し訳なさそうな顔をしながら話しかけてきた。その顔は、雰囲気は、いつもの天真爛漫な彼女からかけ離れていた。

 

「浅野ちゃんと個人的な賭け、してたでしょ?テストの点数で負けたらA組に転級って……私、アミサちゃんとは最後まで一緒のクラスのままがいい」

 

「……ひ、陽菜乃ちゃん?いきなり、どうしたの……?」

 

「いきなりなんかじゃないよ!少し距離が縮んで(名前で呼んでくれるようになって)から、ずっと、ずっと思ってたんだから!……アミサちゃんって、分かってないようで意外と理解(わか)ってるし、それでいてわかってないんだよ。それに、意外と見ててわかりやすいんだよ?今回だって……『どうなっても構わない』って思ってるんじゃないの?」

 

「……っ!……陽菜乃ちゃ、」

 

「……それにこんなことになったのって、びみょーに私のせいでしょ〜……私が、浅野ちゃんに、写真送ったから……」

 

浅野ちゃんは敵だけど、アミサちゃんを想う人って意味では仲間だし、何か激励みたいなことしたかっただけなのに……そうボソボソ言っていたらしい陽菜乃ちゃんの言葉は、ほとんど私の耳に入ってこなかった。

 

『分かってないようで理解ってるし、わかってない』

 

陽菜乃ちゃんは根拠を持って言ってるわけじゃなさそうだし、上手く表現できなかっただけだろう。それでも、ある意味その一言は的を得ていた。

…………そう、私は。分かってることも分かってないことも、全部同じように分からない『フリ』をしているに過ぎないんだ。突出した頭の良さは時に孤立を招き、周囲に溶け込むどころが存在を目立たせてしまう。『私』をいつか消さなくちゃいけないのに、そんなことをしたら意味が無い。それに、わからない素振りを見せておけば、知っておく必要のあることならその人が理解している分懇切丁寧に教えてくれる

──その人の理解している幅を知ることが出来る。

知る必要のないことなら、大抵の人は無理に教えようとすることはない

──私にとって必要ない情報を遮断できる。

もっとも、私にとって擬態するに都合のいいその姿を天然とか鈍感とかって受け取られて……この性格を意識して作って(偽って)るつもりはないんだけど。あれ、自覚できてないからこそ天然なんだっけ?……まあいいや……それにしても。

 

……なんで……

 

……なんで、陽菜乃ちゃんはそんなに沈んでるんだろう。

……なんで、こんなに寂しそうなんだろう。

……これからテストを受けるのに、今からそんなテンションで上位50位以内なんて目指せるのだろうか。集中、できるのだろうか。

……なんで、今、私に話しかけてきた。

……なんで、そんな個人的な賭けを陽菜乃ちゃんが気にするの。私を、気にするの。

……なんで、なんで?……なんで。

 

 

 

……なんで…………これから私は、『私』を捨てる気で、テストを受けるのに。

 

 

 

「……それは違うんじゃないかな、倉橋さん」

 

「……渚君?」

 

「確かにきっかけはそうかもしれないけど……元々彼も言い出すつもりはあったんだと思う。多分、浅野君はアミサちゃんに本気を出して欲しいんだよ。僕は浅野くんじゃないし、本心は分からないけど……本気で、他人のことを気遣おうとした彼のことだから……このテストを、一種のケジメをつける場にしたいんじゃないかな。E組とA組……旧校舎の落ちこぼれと、本校舎のエリート。中学校生活最後の、同じ舞台で戦うことが出来るこのテストを」

 

「だからさー、倉橋ちゃんも気にしない気にしない!結局はアミサと浅野だけじゃない、E組全体も頑張ることには変わりないんだから。ここで無様な結果を出したりしたら、たとえ暗殺に成功しても胸なんか張れないっしょ?」

 

「莉桜ちゃん……そだね、私は浅野ちゃんに後悔しないきっかけをあげたんだと思うことにする!」

 

「そうそう、その意気!」

 

「代わりに真尾が連れてかれそうになってるけどな……もがっ!」

 

「寺坂黙っとけ」

 

「せっかく上がったモチベーション下げんじゃねーって」

 

考えることはあとにしよう。まず、今考えなくちゃいけないことは………けじめ、かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────試験開始!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────今、私の目の前には裏返しになっている数学のテスト用紙。……あと数分で2学期期末テスト、最後の教科(試合)が始まる。

 

試験会場であるこの教室には、ブツブツと公式を口にする人、精神統一をするように手を組んで静かにしている人、鉛筆を回して余裕そうながら落ち着いている真剣な気配を滲ませる私の隣の席の人とかの気配が感じられる……みんな、本気だ。本気で殺しに行っている。私は時計を見て、まだ開始まで少し時間があることを確認してから静かに目を閉じ……あの日のことを思い出していた。

あの日──椚ヶ丘の学園祭にお姉ちゃんたちが日本(こっち)に来てくれて、夜ご飯を食べてからも一緒に、同じ家の中で過ごした日。遊びに来てくれたカルマと渚くんとカエデちゃんが帰ったあと、私は特務支援課やアルカンシェルのみなさんを混じえて、3人には聞かせられない内緒の話をした。みんなは私に会いに、っていうのも嘘ではなかったんだろうけど……きっと、この話し合いをするために来てくれたのもあるんだと思う。もうそろそろちゃんと答えを出さなくては行けない。私としての在り方を。これからどうすべきなのかを、聞くために。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

「あと2ヶ月くらいでアミーシャは15歳ね。クロスベルと帝国のいざこざからの避難のために通ってた中学校ではあったけど……あなたはどうしたい?卒業とか、その後のこととか……」

 

「……それ、前に殺せんせーにも聞かれた。中学3年生だからこその進路相談だって。……その時は、特務支援課のみなさんを探しに行きたいって思ってたし、《(イン)》のこともあったから、その……調査票には何も書かなくて……」

 

「つまり白紙、ですか?」

 

「ん……、それに烏間先生ならまだしも、殺せんせーには《銀》のこと説明するわけにいかないし……」

 

「そっか、アミーシャが今契約してるのは烏間先生だったな。だったら殺せんせーに対しては守秘義務が発生するよな」

 

「むしろ発生しなかったら標的にバレて終わりじゃね?」

 

「ははは……笑えない」

 

お姉ちゃんと半々に受け継いだ形ではあるけど、私は正真正銘《銀》の後継者……アミーシャ・マオという個人の側面をもちながら、何百年も粛々と受け継がれてきた凶手(きょうしゅ)、暗殺者としての業を背負う者。色々と心配したお姉ちゃんたちが私を逃がすために、この学校へ入れるために作りあげた『真尾有美紗』という存在は、自分という存在を馴染みのない場所へ溶け込ませるためであり、正体を隠すために作られたものでもある。作られた者……はじめから存在しないのだから、いつかは……ううん、私がここからいなくなる前には、元通り消さなくてはならない。《銀》は歴代100年以上の長い時を通して同一人物として振る舞い、存在し続けている。ここに『私』という存在を残してしまったことで、この先『私』と()を繋げてしまう人が現れるとも限らないから。

 

「じゃあ、今は?」

 

「……今……?」

 

「ああ。俺達がここに来たことで、目的の一つが果たされたわけだからな。お前だってリーシャのように自分の本当にやりたいことを探してみてもいいんじゃないか?」

 

「この1年で、これまでとは違った付き合いができたんじゃないかしら?前に会った時と比べて、とてもいい顔をするようになってると思うわ」

 

「…………わたし、は、」

 

「……まだ、時間はあるもの。アミーシャはアミーシャの道を築けばいいと思う。父様だって……それくらい許してくれるわ」

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

……他にもいろいろ話したけど、私にとって考えさせられたのはこの話題だった。私が殺せんせーに伝えた願いは、思いもしない形で叶ってしまった。私には、父から受け継いだ《銀》として生きる道が最初から用意されている。進路選択なんてしなくても……もう、決まっている一本道だからそれ以外私には関係ないと思っていた。あとはこれからの身の振り方を考えればいい……そう、思っていたのに。

同じクラスで過ごしてきたE組のみんなから私を完璧に存在を消すことは、記憶を消すくらいしないと……そんな大掛かりな記憶消去施術なんて大それたこと、国を動かすくらいのことをしなくちゃいけないからほぼ不可能だろう。ならば私自身が探しようもないくらい手の届かない場所に消えてしまうしかないし、それが一番簡単だ。関係も縁もない他の人だったらもっと簡単に済む……この学校で、全校生徒に名前が伝わってしまう可能性があるのは、私がE組であることを踏まえるとこの2学期期末テストがほぼ最後。つまり、ここで目立たなければいい。テストで学年上位50位以内を目標としてるE組である以上、テストを放棄することはできない。だけど、テストを一教科だけでも無記名で提出する、という方法は名案のように思えた。テストで誇れる成績を取ったとしても、私の名前は残らない……いないものとなる。上位50位以内の点数さえ取れば、E組としての名前は上がらないにしても、E組としての目標は達成したことになる。浅野くんは勝負の条件を点数勝負だと言った……屁理屈だけど記録に残らなかったとしても点数は点数に違いないし、学校に記録された点数でなければならないとかそんな条件はつけられてない。つまり、このテスト自体が私の名前をこの学校に残さないように、消してしまう舞台としてはいい機会だった。

 

 

 

 

 

……だった、のに。

 

 

 

 

 

『私、アミサちゃんとは最後まで一緒のクラスのままがいい』

 

 

 

 

 

…………。

勝負に勝ったとして。

私の目的が果たせたとして。

……私は本当にこれでいいの?

……だけど、光の世界で生きるみんなと私は、生きている世界が違うから。

『私』じゃない、私を知られたら……

 

 

 

『アミサちゃんは妹分だから!』

 

 

 

『危なっかしくてほっとけないもん』

 

 

 

『ずっと……死んだとしても、一緒に……』

 

 

 

……もう、一緒になんて、……いられ────

 

 

 

 

 

「────試験開始!」

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

【  年  組  番 氏名        】

 

 

 

 

 

「……………、………」

────カリ……

 

 

 

 

 

23番 氏名 Amixia Mao

 

 

 

 

 

「……………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ガチャ、キィ……

 

 

 

「エリィさん……アミーシャ達は寝ましたか」

 

「ええ、キーアちゃんとシュリちゃんと川の字になって3人ともぐっすりよ。今日はよっぽどはしゃいだみたいね」

 

「……ありがとうございます、ついていていただいて」

 

「ううん、気にしないで」

 

アミーシャの家の一人暮らしにしては広めのリビングに、私達は集まっていた。ティオちゃんを除いた年少組は、エリィさんに連れられて先に眠ったらしい。戻ってきたエリィさんが席に着くまで……私達の間には無言の空気が流れていた。

 

「……リーシャ、どう思った」

 

「……、あの子の姿は以前の私と同じ……私も、迷いがあった時の私も同じ感じだったんだろうな、と」

 

「《銀》という、国家を揺るがしかねない闇の中を生きる道を普通の事だと受け入れていたのに、今になって光の中で生きる道を示されて……受け入れられないんでしょう。信じたものを否定されたのと同じです」

 

「ティオ助……」

 

「……私にもそんな時期がありましたから。教団にいた頃も、救出されて私が家に帰った頃も。感応力に戸惑ううちに本当の家族を拒否してしまったように」

 

……ティオちゃんは、幼い頃にD∴G教団に誘拐された、人体実験の被害者(生き残り)の1人。救出された当初は衰弱こそしていたものの、今は元気に生活している……投薬等の実験の代償として得た知能、そして以上に高められた感応力に悩まされながら、ですけど。家族の元へ戻ったのに、その家族との軋轢に耐えられなくなって家を飛び出して……それでも今、彼女は特務支援課の一人として笑っている。それは自分が表で生きていく道を見つけたから、希望を、光を見出したから。

それは私だって同じこと。本来ならアミーシャの姉である私だけが《銀》の道を進むはずだったのに、あの子になまじ力があったせいで、気付いた時には姉妹共々簡単に引き返せない場所まで沈みこんだ後だった。私は、《銀》であることに積極的な意味を見出せず、さりとてカルバード共和国の建国に携わるほどの存在を必要ないとも言いきれず……漠然と意味をもてないままに《銀》として活動し続けた。でも、イリアさんに、アルカンシェルに出会った。たくさんの人との触れ合いを経て、アーティストとして活動することを通して、私にとってのアルカンシェルとアーティストであることの意義、劇団やロイドさん達との絆を確認して、アルカンシェルのアーティストとして残ることに決めた。光の道を受け入れつつ、《銀》であることも誇りに思う……そんな道を受け入れた。

 

「リーシャはアルカンシェルを自分の側面として受け入れたわ。そうじゃなかったとしても私達は歓迎してたけど……姉妹共々、ね」

 

「イリアさん……」

 

「だってアーティストとして十分な逸材よ?その程度のことで手放す気にはなれないわ」

 

「仮にも暗殺者に対して『その程度』とは……流石ですね」

 

「あら、警察官のくせに暗殺者(犯罪者)を見逃してる弟君には言われたくないわね」

 

「……うぐ、お、表立って協力はしてませんし……仲間、ですから……」

 

「あ、ありがとうございます、ロイドさん。……迷いながら《銀》であろうとする私達姉妹に対して、父様は生前、『お前の《銀》はお前が決めるがいい』と言っていました。私はアルカンシェルという光の世界で生きる道もあることを見つけました……でも、アミーシャはまだ『《銀》であること』に固執してる節がある」

 

「案外近くに転がってるもんだけどな、自分の居場所ってやつは。俺にとっちゃあ、傭兵だった俺(過去の呪縛)を断ち切れたのはお前らのおかげなわけだしな」

 

「……ランディ」

 

みんな、どんな人にだって選択の時はある。人には裏と表があるし、自分が必要とされ、必要とする居場所がある。ただ、それが目に見えているいないかの違いがあるだけ。私やアミーシャには、目に見えた必要とされる道が物心着く前から用意されていた。それが闇の中を進む道だった、……それだけだ。気付くためのきっかけは与えられるけど、それに気付けるかどうかは自分次第。結局はその人が自分で見つけ出し、受け入れるしかないのだ。

……アミーシャ、あなたにはあなたの道がある。決して《銀》であることにこだわる必要は無いのよ?だって、あなたはまだ子どもなのだから選択する余地はある……お姉ちゃんだっているんだから、抱える必要は無いの。だから、お願い。取り返しのつかないことになる前に……気付いて。

 

 

 

 

 

『あの日』リーシャside終

 





「────そこまで!」



「「「お、……わったーーっ!」」」
「あとの結果は神のみぞ知る、か」
「えぐいのばっか出しやがって……」
「ヒアリング、発音は聞き取れるのに会話内容難しいよ……ビッチ先生のボキャブラリーでもあんなに豊富じゃないって」
「ビッチ先生は会話術だろ……受験英語じゃないし、そもそもわかりやすく伝える術を習ってるんだから当たり前だって」
「中村は余裕そうだな……」
「一学期末満点1位の意地、ここで見せなきゃなんなのよってね!……ま、ギリ解ききれただけだから、分かんないけどさ」
「わ、私……満点取れた気がします……!」
「「「おお!」」」
「理科だけ!」
「「「お、おお……」」」
「それ以外は?」
「なんとか問題にとりかかれた感じでしょうか……」
「奥田さん;」
「マジで出たぞ、サイコロの確率問題……」
「結局寺坂は公式使ったん?」
「……全潰し」
「「マジか」」
「カルマ、自信はどうだ?」
「ん?さーねー……全部解いたけど、結果はわかんないから」
「真尾、出来はどうだ?」
「…………」
「……真尾?」
「アミーシャ?」
「……!あ、ご、ごめんなさい。えと、なんだった……?」
「……いや、大丈夫か?」
「……えへへ、昨日遅くまで最後の追い込みやってたからかな……疲れちゃったかもしれない」
「もう、力入りすぎだって……緊張して固まったのかな?ほら右手貸して」
「あ、ありがと……メグちゃん」
「…………」
「カルマ?」
「……なんでもない」


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テスト回でした。最近月一投稿になっていて申し訳ないです。第一部との差をつけようとするのって意外と難しいですね……!やり始めて知る難しさです。別視点とかを考えたり、第一部では隠していたものをぶっ込んだりする楽しさはあります!

今回のお話は、オリ主が第一部で言う『2学期期末テスト全教科無記名提出』をやらかした場面でもあります。その時は誰にも何も言われなかったために実行してしまいましたが、今回は直前までの流れが少し変わりました。浅野君が賭けを持ち出し、倉橋さんが引き止めるという出来事が起きたことで、オリ主に迷いが出ました。考えた末の……というよりも、無意識に手が動いた結果、となります。それでも『真尾有美紗』の方を書かないあたり、そちらの決意もだいぶ強かったのだと受け取って欲しいです。

「これ全部数学だけのテスト範囲!?」
と某先生が言う場面がありますが、あれってさすがに学校で配布してる問題集では無いですよね?参考書扱いでいいですよね?ということでお話の中で使いました。理事長先生との対決に繋がってます。

フリートーク、オリ主の力が入っているのは【右手】ですよ?

それでは、次回はその理事長先生との対決がメイン、でしょうか……?早めに投稿できるよう、努力します!


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