問題文を読みながら黙々と回答を回答用紙に記入していく。学生にとっての鬼門であり不安の種であるテスト、流樹は絶賛、中間テストの真っ最中なのだ。
言葉にしにくい緊張感と焦りが立ち込める空間がこの時間の学校にはいくつも出来ている。
今の時間は古典のテスト。
古文を現代語訳に直すという簡単な問題だ。
「もう少しで終わるから名前確認しろよ」
監督の先生の声でテストに集中していた生徒も問題を解き終わり居眠りしていた生徒も解答用紙の名前を確認してチャイムが鳴りテストは終了となった。
列の最後尾の人が解答用紙を集めている間に教室のあちこちでいろんな話し声が聞こえてくる。
「あー終わった」
「結構むずかったな」
「あの漢字ってこうであってるっけ?」
高校生は赤点を取れば補習が待っているため是が非でも赤点は回避したい。
「テストはこれで終わりだお前等、気を付けて帰れよ」
解答用紙の束を持って教室を出て行く監督の先生。
それを合図に廊下に出していた荷物を持って、教室で回答を確認しあう生徒や速く帰って家でダラダラしようと走って行く生徒も居る。
「俺も帰ろ」
カバンを肩に掛け、教室を出て下駄箱に向かっている時に新実から声を掛けられた。
「話しがあるから一緒に帰っていい?」
「いいけど、カンピオーネ絡みの話しか」
靴を履き替える。
「そうサルバトーレ卿から聞いたんでしょ、ヴォバン侯爵の話。日本にも無関係ではいられない話しだからね、というよりもう被害が出てるし」
ドニから教えてもらったヴォバンがやろうとしている『まつろわぬ神招来の儀』。
家に向かって歩きながら新実から正史編簒委員会が掴んでいる情報を聞いた。
ヴォバン侯爵が世界中から魔女や巫女を集めて、その者たちを生贄として”まつろわぬ神”を召喚しようとしている。勿論、魔術結社にとって魔女や巫女は替えの効かない原石に当たり、拒否をしたい所なのだが相手はカンピオーネ。
拒否すれば組織ごと潰されておしまい。
結局、受け入れるほかない。
「暇なカンピオーネは自分でまつろわぬ神を召喚して戦うのか、本末転倒な気もするけどそこまで退屈してるならドニの相手でもすればいいのにな……もしかしたらドニの奴この儀式に乱入したりするかもな」
おもしろそうだ!とか言って高笑いしながら儀式に乱入して召喚したまつろわぬ神を横から掻っ攫っていきそうだ。そうなったら面白いな、と一人ニヤニヤしている流樹を横を歩く新実は不安そうな顔をして見ている。
歩いていた新実は突然立ち止まり、横を歩いていた流樹は止まった新実の方を振り返った。
「月宮流樹様。正史編簒委員会からの正式な依頼です。日本から連れて行かれた媛巫女の一人
敬語と名前に様を付け、真剣な眼差しで流樹を見つめながら新実は伝言を伝えた。
「それカンピオーネは関係ないよな。ただの使い走りだし、俺は委員会を手伝う義理も無ければ借りも無い。まず、メリットが無いだろ」
「そういうだろうと言われて委員会が保管している呪具を一つ譲るとのことです」
「……微妙なところではあるけど、連れてくるだけで呪具一つなら儲け物か。わかった受けようで日にちは?」
「時差の関係で今日には儀式が行われるそうです」
「おせーよ!言うの数時間くらいおせーよ!」
スマホで時刻を確認すると十二時三十分を表示している。神速を使っても外国にまで行くには数十分の時間を要する。
さっさと家にカバンを置いて出発するか。
「カバンを置いて儀式やってる場所いくから新見は皿木さんに連絡しといて」
言い残して家までの道のりを走っていく流樹の後ろ姿を眺める新見はカバンからスマホを取り出し皿木に電話をかけた。
「あ、皿木さんですか、月宮が依頼を受けて今から向かうそうです」
『そうですか。呪具の用意しておかないといけないですね』
耳にスマホを当てたまま歩いていると数十メートル先の上空に向かって黒い煙が消えていったのが見えた。
「さすがは神速。一般人が見ても見間違いだと思うわね」
『もう、向かわれたんですね。これならひとまず安心です』
電話越し安堵の声がきこえてきた。
通話を終了してスマホをカバンに戻す。
「委員会の上層部が月宮を使い勝手のいいパシリと勘違いしなければいいけど、まあ何かあればドカンと一発起こしてもらえば解決するか」