カンピオーネ 明星の王   作:ノムリ

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決闘の申し込み

「久しぶりね、流樹」

 紫色の髪を両サイドで結んだ。背丈は琉樹の胸くらいしかない、女神の顔が目の前にある。いわゆる膝枕というやつだ。

 

「二度目っすねパンドラさん」

 パッと見では中学生がいいところだが、こう見えてカンピオーネの母親にあたるらしい自称だが。

 

「もう、お母さんかママって呼んでって言ったでしょ」

 流石にこの年でママは恥ずかしい。何より両親にいい記憶がないため言いたくもない。

 

「嫌だわ恥ずい」

 

「頑なね。まあいいわ、そういえば新しい権能手に入れたようね」

 

 玉藻前を倒したから新しいのが手に入ったのか。面倒な条件のついてない権能だといいけど。

 

 権能の効果を考えていると、突然、頭に痛みと視界にラグが発生する。

 

「そろそろ目覚めるようね。また、いらっしゃい」

 手を振りながら見送りをしているパンドラにまた、と言って現実に戻った。

 

ジュー、と香ばしい肉が焼ける匂いを嗅ぎながら、フォークに突き刺した肉を口の中に次々放り込んでいく。

 

「すいません、おかわりお願いします」

 

食べ終わった鉄板を横に積み上げられた鉄板の上に乗せていく。

 

皿木と流樹が来ているのは100分食べ放題の鉄板肉焼きのお店だ。食べた量を指定し、焼いてもらうというものだ。

 

流樹は既に400グラムの肉を五枚平らげ、次の注文をしていた。

因みに、向かいに座る皿木ですら600グラムでギブアップした。

 

「よく食べられますね。一時間前まで病院のベッドで寝ていたはずなのに」

 

玉藻前を倒した流樹は皿木たちなよって正史編簒委員会の系列病院で眠っていた。

そして、目指した流樹が皿木に言ったことは「腹減った。肉食いに行くぞ!肉!」といって皿木に車を出させここにいる。

 

最初は高級店に行く予定だったが、今回は質より量を取った。勿論経費で落とす予定。

 

「そういや、新しい権能手に入ったから」

 

店員によって運ばれてきた肉をナイフで切り分けフォークで口に運んでいく。

店員も周りの客も含め、背丈165センチの細い体のどこに肉が入っていくのか疑問だった。

 

「それは、上司にいい報告が出来ます」

 

ナイフとフォークを置き水を口にする。

「はー、食べた食べた!結局、学校は休むはめになったし、ついでに京都観光でもしてくか」

 

「それでしたら、車でお連れしますので」

よろしく~、と気のない返事をしながら店を出ていった。

 

「食べ放題に来てて良かった」

レジで会計を済ませた皿木は先に店を出た流樹の後を追っていく。

 

 

@@@

 

 

 四月数回目の体育と言えば、ごく少数を除いてやることを嫌う持久走がやってくる。

 そして、絶賛男女分かれて学校のグランドを走っていた。

 

 体操服と膝までのジャージで。

 

「疲れてるのに終わんね~」

 

「口より足を動かせ!」

「休んだ次の日に持久走とか地獄だろ」

 

 周りを走るクラスメイトも既に疲れて走る速度も落ちてきている。一方、流樹はカンピオーネになったことで身体能力が上がり息一つ切れることなく走っていた。

 

「流樹は息切れないな」

「タルいから手抜いてるに決まってんじゃん、どうせ十二月頃にまた走ることになるし」

 

 正しくはカンピオーネになる前まで運動は無理なタイプだったが、カンピオーネになったことでそれもなくなった。けれど、走るのは面倒くさいし、いきなり運動出来なかった奴が出きるようになったら不自然に思われるから手を抜いている。

 

「あ~、やっと終わった」

「持久走とかただの拷問だろ」

 地面に仰向けで倒れている生徒たちから愚痴が聞こえる。

 

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、授業はことなく終了。着替えて教室で昼食となった。

 

流樹は購買で買ったパンを口に咥えながら、今朝、ポストに届いていた自分宛の手紙をカバンから取り出し開く。

 

 最初から最後まで英語で書かれており、本来なら読めるはずもなかったのだが、現在は『千の言語』というカンピオーネになった時、自動的に習得される言霊の奥義のお陰で英語やイタリア語も読み書き、話すことも問題なくできるようになっている。

 苦手だった英語の授業が楽になったことは正直助かった。

 

手紙の内容を読み始めた。

『やあ、突然だけど僕はサルバトーレ・ドニっていうんだ。君と同じカンピオーネでね。君がカンピオーネになったって聞いたから決闘してみたくなっちゃってさ、手紙に航空券入れておいたから来てね!』

 

正直、手紙を読まなかった事にしたい。

 

静かに手紙をカバンに戻し、スマホのチャットアプリを起動して、新実の名前を選択する。

 

『なんか、サルバトーレから決闘の誘いが届いていたけどどうしたらいいんだ?』

『・・・やっぱり、届いたんだ』

 

 新実にはお互い敬語と”さん”をつけて名前を呼ぶのやめてタメ口で喋ることになった。

『明日から休みだし俺行ってくるわ、ついでにイタリア観光したいから』

 

 窓際の一番後ろの右斜め前を見ると視界に入る位置に新実の席はあり、お弁当を食べながらスマホをいじっている姿が確認できる。

『イタリア観光が本命な気がするんだけど、気のせいかな』

『合ってる、自分の金で行くわけじゃないから得した気分だ』

『サルバトーレ卿は剣の達人で剣だけでまつろわぬ神を殺した天才だから気をつけてね。皿木さんには私から伝えておくから』

『よろしく』

 

 数時間後にはイタリアで王同士の盛大な決闘が起こる事を今はだれも知らずに時間は流れてゆく。


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