「どうした?攻撃してこないのか」
「攻撃してこないっていいながら攻撃してるのはお前だろ!」
手の中に白い包帯を生み出し、木の幹に巻き付け引っ張ることで宙を移動し切り裂く為に振るわれる腕を紙一重で躱している。
包帯はまつろわぬアヌビスから簒奪した権能『
効果は包帯を巻きつけた生物から精気を奪い取りミイラに変える、また巻き付けた対象の状態を維持し続けるという効果もある。どちらも任意で発動する為今使っている包帯はただ異常に丈夫なだけの包帯でしかない。
「がっ!」
腕の攻撃を躱していた流樹の胴体に鞭のようにしなった尻尾がクリーンヒットし、吹っ飛んだのちに木にぶつかり地面へと落ちた。
震える脚に無理やり力を籠めて立ち上がる。
口の中は血の味しかせず、脇には激痛がはしる。
ペッと唾を吐き捨て、目の前で俺を嬲り殺すことを楽しんでいる
「精気なき肉体よ。冥界へ渡る魂よ。我は汝らを導きし先導者にして管理人。肉体は静かに眠り、魂は冥界で裁きを受けるだろう」
聖句を唱えることで一層効果を強く発揮した権能。
手から包帯を出し、動きを阻害しないように関節を除いて全身に巻き付け骨折を悪化させないようにしておく。
ふぅ、と息を吐き出し集中する
「死にそうだな、神殺しよ」
フフフ、と笑う玉藻前に腕を横に一振るすることで包帯を十本の槍のように伸ばす。
防ごうと顔の前出した腕を容易く刺さり、肉を抉ったままシュルシュルと腕に巻き付き出す。
「ぬっ、猪口才な」
もう一方の腕で包帯を剥がそうとしている間に流樹は腕を振ることで次々に包帯を生み出しては玉藻前の体に片っ端から巻き付け、玉藻前が体に巻き付いた包帯を剥がすことで気を取られている間に下準備を始めた。
走りながら木や地面に触れていく。
「調子に乗るな神殺し!」
腕に巻き付き精気を奪い続けている包帯を剥がそうと悪戦苦闘している状態で何かしようと走り回っている流樹を潰す為に尻尾を振るう。
木の幹に包帯を巻きつけ宙を移動し尻尾を避けながら木に触れていく。木の幹に包帯を巻きつけたまま別の木に飛び移ることで木と木を線で結んだように包帯が掛かる。
流樹の移動した後に包帯が掛かる為、流樹を潰そうと振るわれる尻尾は動きを阻害され自由に動くことが出来ない。
「こんなもんか」
木同士を結び宙に足場と移動阻害として設置された包帯の上に乗り、三メートルほど下にいる玉藻前を見下す。
「ちょこまかと逃げよるな神殺しよ」
腕には包帯が巻き付いたままだが、流樹を倒すことを優先したようで既に意識は流樹の方を向いていた。
流樹は腕を高く上げる
「もう、準備は終わったよ」
「調子に乗るな!」
九本の尻尾が一斉に、流樹を殺す為に風をきる。
それとほぼ同時に、流樹は腕を振り下ろした。すると、流樹の触れた木や地面から一斉に包帯が生み出され、玉藻前の腕、胴体、首、尻尾、例外なく絡めとっていく。
凄まじい勢いで動いていた尻尾は流樹に直撃する直前に停止。
「クッ、小賢しい!布切れ如き引き千切ってくれるわ!」
無理やり体を動かし包帯を引き千切ろうとする。
「一発大きいのいくぞ」
包帯を千切ろうと動いている玉藻前を無視して流樹は空を見上げた。
空に満月が綺麗に輝き地上に光をもたらす。
「空に浮かびし星にして空を舞いし鳥。灰からいでで星となり輝く光と炎を放つ、流れる星は絶えず空を鳥の如く飛び渡る」
月の光を空に集める。
当初、作った小さな大きさではない。今度のは特大サイズだ。一撃で玉藻前を倒すに足る火力、大きさは次第に増していく。
『
「原子の一欠片も残さずにくたばりやがれ」
地上で包帯で身動きが取れずにいる玉藻前を見下ろし、ただ殺すためだけに力を出しきる。
極大の光は鳥の形を形成し光鳥へと変貌した。羽を広げ真っすぐ玉藻前に向かって落下。
羽を羽ばたかせ速度を増す。
流樹は自分自身に包帯を何重にも巻き付け球体状を形成、防御を取る。
「クソ!クソ!神殺しめ!」
人の姿だった頃の優雅な口調ではなく本能からくる口汚い言葉を口にしていた。
光鳥が玉藻前に直撃した。
周辺に衝撃と集まった光に比例した爆発が当たりを吹き飛ばした。
自分に巻きつけた包帯を解除し外の景色を見るとそこは先ほどまであった木々は無く。地面は抉れ、所々に包帯の切れ端が落ちていた。
「うわー、環境破壊もいいとこだな」
帰るついでに辺りを見ていく。倒れた木が散乱し真っすぐ進むのも苦労しながら歩く。
抉れた場所はよく見ると、地面から焦げた匂いが鼻につく。
「爆発させると炎の効果が出るのか、知らなかったから知れて良かったな。さて皿木さんに電話しよ」
ポケットからスマホを取り出し電話帳の「皿木さん」をタッチする。
出ないかとも思ったが一コールで通話状態になった。
『ご無事でしたか』
「ああ、終わったよ迎えを頼む」
ドサ、踏み出した足から力が抜けて地面に膝を付き、うつ伏せに倒れ込んだ。
『なんの音ですか!?月宮様!』
「よいしょっと、ゴメン倒れて立てない。迎えにきて」
片手で仰向けになり空を見上げる。
空には月が輝き、星の光が視界一杯に広がっている。
『すぐに行きます!待っていてください。電話はそのままで』
冷静な皿木さんが焦っているのに少し驚きながら、電話の向こうで叫ぶ皿木さんの声とそれに返事をする顔もしらない人たちの声が聞こえてくる。
「権能手に入ってるといいな。帰ったらガッツリしたもの食べたいな」
「月宮様ー、どこですかー」
薄れる意識の中で僅かに聞こえてくる自分の名前を呼ぶ声に返事をしようとするが声は出ず、スマホを振って合図を送るのが精一杯だった。
「見つけましたよ。すぐに病院に運んでください!大丈夫ですか月宮様」
「寝る。あと頼む」
目を閉じると一瞬にして意識を手放した。