俺が高校に入学して、春休みに人生初の海外旅行をした時にあるものに出会った。
片方は、蛇のように長い胴体に太陽が反射して光る鱗。胴体の左右に生えた鳥と同じように色鮮やかな羽毛のある翼。頭は蛇のようでありながら、首元に羽と同じ羽毛がトサカのように生えていた。
もう片方は、頭は黒い狼に体は人。日に焼けた黒い肌に腰巻。手には杖を持ち、素早い足。骸骨の形をした黒いオーラと白い包帯。
これが、俺の人生を大きく動かし世界を傾けるものだと知った時には遅かった。
―――賢人議会によって三ヶ月前に加わった七人目の王 月宮
伯爵や騎士たちは、配られている報告書に目を通しながらも眉間に皺を寄せたり苦虫を噛み潰したような顔をしながら読み進めた。
月宮流樹、十五歳、両親ともに死亡。薬物による父親の過度な暴力に反抗して十歳の時に父親を惨殺。母親はそれを機に薬に手を出し一年後に入院。数ヶ月前に愛知県の公立高校に入学。現在は国からの支援金で生活している模様。
性格については、他人に対して一定以上の距離までしか踏み込まず、人間関係もそこまで広くない。他人が怪我、事故をした際も心配する素振りはするもののあくまで上辺だけの様子。飽きっぽい性格に加えて、目的の為ならあらゆる手段と労力を惜しまないタイプ。
カンピオーネになったのは約三ヶ月前にメキシコで”まつろわぬケツアルカトル”と”まつろわぬアヌビス”との決闘に巻き込まれ、二柱を殺し権能を簒奪。
誰もが目が瞑りたくなる内容だった。
確かにカンピオーネはそれなりの問題を起こす存在だった。だが、流樹についても本人どころか育った環境が問題過ぎた。そこに権能などという人並み外れた力を手にしたら大暴れしかねない。
「また、厄介な者が王になったものだ」
「その言い方はどうかと思います。彼に関しては親が屑だったのだから」
「とはいえ、これは魔術師ではなく国に文句を言うべき案件でもあるな。全く日本はどうなっておる」
発言をして溜息を吐く者たちは全員が孫が居る歳だ。自分の孫と変わらに子供が苛烈な環境で育ったことをしれば嘆かずにはいられなかった。
「まずは、正史編簒委員会に新しき王に接近してもらいませんと話にならないわ」
「だな。俺たちが動くにも最初にカンピオーネとまつろわぬ神について知ってもらっておかねえとな」
一方、会議の主役である流樹と言えば、家から車で一時間掛かるそば屋に来ていた。
流樹の向かいに座る黒スーツに手に持った手帳。
見るからに役人です、と言わんばかりのオーラに最初は役所から来たのかと思いきや、魔結結社からのお客さんだった。
で、なぜ、そば屋に居るかと言えば時刻は丁度昼時、食事をして警戒心を取り除きながら話を進めようとしていたらしく、何か食事しながらお話ししませんか、と言われテレビに丁度よくそば屋のCMが流れた為に、そば食べたいと答えた。
その結果個室に黒スーツとカーキ色のジャケットにミリタリーズボンの少年が向かい合う妙な光景が生まれた。
「先ほども話した通り、私は
「ああ、え~と、月宮流樹です。カンピオーネの話しだっけ」
手元の手帳を捲りながら話しを続ける。
「カンピオーネは現在、月宮様を加えて七人居ます。サルバトーレ・ドニ卿。ヴォバン侯爵。羅濠教主。ジュン・プルートスミス様。
「カンピオーネ同士が戦う事とか、厄介なカンピオーネは誰が候補」
「はい。特にドニ卿は戦闘狂として、ヴォバン侯爵は面白がって人々を権能で塩に変える事が多々あります」
うわー、と言いながら店員によって運ばれきたざるそばを受け取る。
ツユにそばを付けて啜りながら、皿木さんに手渡された資料に目を落とすと、俺の事が書かれていた。
家族構成、性格、趣味、特徴、友人関係、ありとあらゆることがだ。
「個人情報が駄々洩れってコエー」
ズズズ、と皿木さんもざるそばを啜りながら返答する。
「それについては申し開きもございません、それと月宮様の権能に名前が付きましたのでご覧になってください」
『
『
痛い、痛すぎる、中二病の技名かよ。
「これって新しい権能手に入れたら、また名前がつくんすか」
「はい、つきますよ。すいません、海老天追加で」
食べるの早いな。
大盛りだったざるそばは既に半分が無くなっていた。
「月宮様もたくさん食べたほうがいいですよ。食事は経費で落ちますので、個人的には次回は寿司屋を希望します」
「あんたもチャッカリしてますね。俺ってこれまで通りに学校に通っていればいいんすよね」
「はい、まつろわぬ神が現れれば此方から連絡と迎えを寄こします。それ以外は自由にして頂いて結構ですよ」
カンピオーネね。まあ、生活が保障されるようになるのはありがたいな。
ズズズとそばを啜りながらこれからの始まる高校生活兼王生活について考える