MSV. 弾劾のハンニバル《完結》   作:suz.

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018 モンターク邸炎上

 PD三三三年、十一月二日。

 夜空まで焦がすかのように、館は炎に包まれた。

 

 違法なドラッグを火星に流入させているとの通報を受け、クリュセ市警による勧告にも応じないので、ギャラルホルンが強制査察に踏み込んだ――という情報ならばヤマギも先日ラジオニュースで耳にしたが、〈モンターク商会〉の自社ビルが()()()()()()()()()という報せは、ごく内密にもたらされた。

 メールの発信元はユージン・セブンスターク。

 ライドがそっちへ行くかもしれないから、気をつけておいてくれとのことだった。

 

「……なにこれ、一体どういうこと」

 

 三日早朝、カッサパファクトリーの事務室である。いつも通り出勤してきたヤマギの手許にあるのは、今日の業務内容ではなく物騒なニュースだった。

 思わず手から滑り落ちたタブレットをデインが受け止める。

 

「ごめん、ありがと」と短く例を述べると、ヤマギは縛り上げていたブロンドを一度ほどいた。(頭が痛い理由がきつく結んだ髪でないことくらいむろん承知だ)

 

 顔を隠すように俯く。昨晩――いや、今朝方か――寝ている間にモンターク商会の事務所が焼け落ちていたというのだ。まだ公にはなっていない情報だというならなおさら、動揺しないわけがない。

 MW(モビルワーカー)だけでなくMS(モビルスーツ)の整備も請け負うカッサパファクトリーにとって、〈グレイズ〉や〈ゲイレール〉などの卸売りをやっているモンターク商会は耳にたこができるほど馴染みある社名だった。

 

 ギャラルホルン製の旧型フレームは初心者にも扱いやすい設計で、民間警備会社では重宝されている。MS乗りが慢性的に不足している今の火星では訓練期間が短く済み、かつ整備費用が安くあがる機体ほどありがたがられるのだ。

 特に〈グレイズ〉はコンソールパネルの配置もわかりやすく作られており、高性能マスバランサー、姿勢制御プログラムによる自動危機回避機能などパイロットの負担を最小限に抑えた安定感が特色である。マスプロダクトモデルだけあって他に流通している武器との互換性も高い。カッサパファクトリーのお得意様の間でも人気を博していた。

 

 火星圏随一の武器商人を失い、これから経済的な打撃が津波のように押し寄せるのか……と考えれば背筋が薄ら寒くなる。

 モンターク商会のオフィスといえば、かなり大きな建造物だ。市街地側から坂を登っていけばいかにも大企業らしくストイックな玄関口があり、山側から回り込めば『お屋敷』っぽい豪奢なロビーにたどりつく設計であることは(ザック情報だが)ヤマギも知っている。高級娼館だった裏の顔は、十数年前に突如廃業してそれきりだと聞いた。

 裏表はともかく認知度が低いとは言いがたい建物だし、原因不明の火災で焼け落ちたとあれば遅かれ早かれ報道されるだろう。

 それが実はギャラルホルンによる焼き討ちとはぞっとしない。

 しかも夜襲だなんて。

 

(悪いけどライドは工場(ここ)へは逃げて来ないよ、ユージン)

 

 ライドがそっちに行くかもしれない、という文面を指先でなぞる。何をどう気をつけたって、燻り出された彼がヤマギを頼ることはないだろう。

 あいつがカッサパファクトリーに救援を求めるようなことは、天地がひっくり返ったってありえない。

 半月ばかり前に手酷く振り払われた手を、ヤマギはぎゅうと拳に握った。

 

 出張からの帰り道、赤毛の弟分と出会ったのは偶然だった。隣市メリディアニに出張してクリュセに帰ってくる道中、燃料(バイオエタノール)の補給のため訪れたシャッター商店街でのことだ。

 サイドニア・ショッピングセンターなんて名前ばかりがご立派な小都市に立ち寄ったのも、昼食を摂らなければという責任感からだった。経理に提出する領収書をもらわなければならなかったから、大型チェーンのファストフード店に足を踏み入れ、そこでライドに遭遇した。二年ごしの再会だった。

 家族のもとへ帰ってこいと説得を試みて、……失敗した。

 

 

 ――あんたらだって『前』なんか向いてねえじゃねえか。済んだ過去だったって諦めて、失ったものから目を背けて、『下』を向いて生きるなんて俺はごめんだ!

 

 

 毛を逆立てたライドに全力で拒絶されてから、ヤマギは『前を向く』とは一体どういうことかと悩み苦しむ日々にさいなまれ続けている。わずかでも思い出せば瘡蓋(かさぶた)に爪を立てられたような痛みが蘇って、呼吸を忘れそうになる。

 だってそうだろう、戦う力を持たないヤマギは、ある程度の妥協を覚えなければ生活していけない。

 昔からトロくて鈍臭くて、女みたいだと蔑まれてきた。阿頼耶識のヒゲがついていたって生身でドジならMWでもMSでも同じ轍を踏んでしまう。ライドのような敏捷性があれば、MSに乗ることで手足の長さをカバーできるのだろうけど。ユージンだって走ることが得意だから操艦には長けたがMS戦はてんでだめだった。シノは、もともと白兵戦が得意だった。歴代流星号は彼の長い手足の延長線上として動けるようにヤマギが整備・調整を重ねていた。

 戦力にならないヤマギでも生きていけるようにと、ノルバ・シノが整備担当に移してくれた。生きる希望をくれた恩人を亡くし、やっぱり俺も同じ地獄に堕ちたいと頑是なく泣き喚いたって、何も変えることはできない。

 鉄華団のためにおれも何かできるはずと決意した矢先に、すべて失ってしまった。

 だから仕事に打ち込んだ。前を向くために。今度こそ家族のために何かしてやるんだと、淡い恋心は吹っ切らず、生涯独り身を貫くと決めた。過去には『思い出』と名前をつけて鍵をかけた。

 それがヤマギなりに顔をあげ、しあわせをつかむ手段だった。

 仕事に生きると決めたのだから業務に支障をきたしたくないし、社長(おやっさん)に心配をかけたくない。専務(メリビット)のお小言もできれば聞きたくはない。

 ライドのことも、今は思い出したくなかったのが正直なところだった。

 

 だが、ライドがあのとき「守秘義務のある仕事だ」とだけ答えたことを思い起こせば、すべての辻褄は合う。ライドはモンターク商会に雇われていたのだろう。

 そして件の仕事とやらは、傭兵業だけじゃなかった。

 

「……()()袋の中身はクスリだったってわけか。やってくれるよ……!」

 

 嘆息する。憤りとともに、言葉にならない脱力感がヤマギを襲った。もう『反抗期』では済まされない。あのファストフード店で再会したとき既に、ライドは薬物の売人をやっていたのだ。

 足がつかないよう、現地の子供に売買させていたのだろう。上部組織(タントテンポ)の手前どうにか営業しているファストフードチェーンが備蓄庫となり、ナゲットの箱なり袋なりにドラッグを忍ばせて、運び屋(ライド)を仲介して地元の浮浪児へ受け渡されていた。そして、砂塗れになって逃れてくる失業者たちへと売りさばかせていた。

 現場を見ているから疑いようもない。年少のチビたちのためにお菓子をとりおいていた昔のライドと重ねてしまったあの日のヤマギには思い至らなかっただけで。

 カラクリがあったのだ。でなくば、あんなサービスエリアに毛が生えた程度の、行政の手も届かない田舎町でファストフード店が商売を続けていくのは難しい。

〈モンターク商会〉といえば、今や火星では名を知らぬ者のない超有名企業である。死の商人ノブリス・ゴルドンに取って代わった大富豪。流通業界を牽引し、その分野は多岐にわたるという。ドラッグの輸出入に手を広げていたとしても不思議はない。

 手のひらで顔を覆って、ヤマギは真実を見破れなかったあの日の浅慮を嘆く。活発でよく笑う少年だったライド・マッスは死んだ。もういないのだ。

 

「あいつはもう俺たちの家族じゃないんだ……。薬物の売買に子供を関らせるなんて、信じられない」

 

「それが、そーゆう単純な話でもないっぽいんっすよねえ」

 

「ザック……?」

 

 疲れたため息をつき、事務所に現れたのはカッサパファクトリーの営業マンだった。

 

「はよっす」とザックは首だけで器用にお辞儀をする。

 

 ヤマギとデインも口々に、手身近な朝の挨拶を交わした。いつにも増して気怠げなザックは壁掛け型タブレットに『出勤』を入力すると、片手でわしづかみにした黄緑色のAIをひょいと掲げ、デスクに置いた。(読み書きのできない子供や目の不自由な方に音声による誘導を、というコンセプトでカッサパファクトリーが開発した癒し系ペットロボットなのだが、いまだ量産にすら漕ぎ着けていない)

 

「そんでこの、いかにもキナ臭い炎上事件っすけど……ここだけの話、内部告発がらみらしいんですよ」

 

「内部告発? 誰がどこに密告したら会社が燃やされるわけ?」

 

 文字通りの『内部告発』だとしたら、構成員や従業員が所属組織の不正を外部に漏らすものではないのか? ヤマギは腑に落ちなくて小首を傾げる。モンターク商会の悪事が内部から外部へ告発されたとして、なぜクリュセ市警が勧告し、ギャラルホルンが査察に踏み込み、秘密裏に夜襲をかけるのか。

 きっかり十年前にはクーデリア・藍那・バーンスタインひとり暗殺するためにCGSごと攻撃してきた組織なのだから、民間企業殲滅くらいで今さら驚くことでもないが――。

 

「詳しく話すとややこしいんすけど。えーっと……」とザックはきょろりと周囲を気にして、内緒話モードにトーンを下げる。「ホントここだけの話っすからね」と前置きした。

 

「なに。もったいぶらないでよ」

 

「いやね、モンターク商会が……とある顧客名簿をそこらじゅうの報道機関に送りつけたらしいんすよ。クリュセとか火星とかそういうレベルじゃなく、地球とかコロニーにまで。しかもそのリストがまたヤベェっていう」

 

「確かに情報漏洩はマズいけど。何の顧客リストだったの?」

 

「買春っす、未成年の。ああいう業者は豪邸の地下とかに子供囲って薬漬けにして商品化するんで、強制査察でもしないと発見できないんですよね。現場おさえようにも黒服がガッチリ警護についてるし、市警は賄賂(カネ)で買収できちゃうし。あと、紙幣使ってやりとりしてるから証拠つかむのマジで無理ってチャドさんが嘆いてました」

 

 あ、昨晩チャドさんと飲んでたんですけど、とザックは付け加える。仕事の愚痴を言い合えるのでチャドとは懇意にしているのだ。(お互い、不平不満は適度にこぼして発散しないとストレスでどうにかなってしまう職種である)

 

 紙だなんて高級品が持ち込まれたのは独立以降で、ザックのような一般的な火星人は紙幣なんて見たこともない。だって、デジタル決済が『普通』だったのである。紙も印刷技術もまともになかったせいで、現金という概念ですら鉄華団入団まで知らなかった。

 それが最近では『紙幣』の価値が高騰し、額面をはるかに上回る金額で取引されるケースも少なくないという。

 現金といえば『金持ちのステータス』であるというパラダイムシフトが起こったらしいのだ。

 高級ホテルやブティック、レストランといった一見さんお断りのエグゼクティブ専用店が現金での支払いに対応しはじめ、上流階級では紙幣や紙媒体のサインが大流行。地球かぶれの見栄っ張りどもはこぞって輸送費用を上乗せされた現金を買い求めた。

〈革命の乙女〉として火星連合初代議長にまで祭り上げられたクーデリア・藍那・バーンスタインの生家が地球と縁深いことも、地球というブランド性を強固なものにした原因のひとつだろう。モンターク商会もまた地球と火星とを往復する独自航路を持っていた。

 政治とカネの流れからは、火星生まれ火星育ちの名士たちがこぞって『地球性』を手に入れようとしていた動きが汲み取れる。

 

「つってもクーデリアさんはああいう立場だし、議会で発言力持ってる代議士(センセー)とかの不祥事はつっつきにくかったみたいで……あ、今回ので美少年趣味が発覚したのが議員さんに社長さん、ギャラルホルンのお偉いさんとかなんですけど」

 

「なるほど、それは公開処刑だ」

 

「社会的に死にましたね。あっちこっちに口止め料ガン積みして違法ショタデリで遊んでたとか、信用ガン落ち間違いなしですよ」

 

 支持率低下だけでなく、情勢不安も避けられないだろう。『金>法』という人治主義のもと金持ちが買いあさってきた免罪符の数々を白日の元にぶちまけやがったのだ。ギャラルホルンによる焼き討ちだけで済むとは思えない。

 それにモンターク商会だって、これで切り札を出し切ったわけではないだろう。

 くわばらくわばら……とザックは両腕の鳥肌をさする。

 

 火星連合傘下の全都市において十六歳未満を動員した風俗営業は一切禁止、買ったほうにも売ったほうにも等しく厳しい罰を科す。()()()たちは逮捕前にモンターク邸ごと焼き殺されたのだとしても、買った側――買春当事者は、これから説明責任を果たさねばならない。

 どういう言い訳を述べるにせよ、違法行為を金銭授受によって帳消しにするという危ない遊びに興じてきた変態のリストはもう、偽名と実名に顔写真、ご希望のオプションまで添えてすべての報道機関に投書された後だ。これであっさり放免されれば、また賄賂で裁きを逃れたのかと疑惑の目が向く。

 

 昨晩チャドから得てきた情報によれば、名簿の約六割がギャラルホルンの将校だったというが、火星連合政府機関はギャラルホルン関係者を裁く権限を持たない。地球圏から赴任してきた各要人も、既に火星圏を出てしまっている場合、違法性を追求することは不可能だ。

 妻子を地球に置いて娯楽のない辺境へ単身赴任していた彼らには、むしろ同情が集まるかもしれない。

 遊びらしい遊びも花街くらいしかないのに、火星人は変な病気を持っているかもしれない……となると、温室で育てた子供に手が伸びるのは正当なリスクヘッジだとでも主張されたら、またややこしいことになる。(感染症や伝染病を地球に持ち込まないために、圏外圏の子供が生け贄に捧げられることは是か非か――という議論になったら、不利なのは火星だ。今度こそ火星人奴隷化協定が成立しかねない)

 

 売春()()に関してもグレーゾーンで、現行法では罪には問えない。金銭授受(チップ)による見逃しも、今のところ取り締まりの対象にはなっていない。お得意様の接待はどんな企業だって大なり小なりやるもので、多少の口利きは営業努力の範疇だろう。このカッサパファクトリーだって馴染みの弁当屋、居酒屋、工務店キャバクラ雑貨屋マフィア孤児院PMCに政治家事務所までさまざまなコネを持っている。狭い世間ゆえ個人の付き合いとの線引きは非常に難しい。

 

 見分けがつかないからとグレーゾーンを放置していた結果が、先日の連続惨殺事件だ。

 

 先ごろ政治家、医師、弁護士、私立学校連盟長の計四名が相次いで殺害された血なまぐさいあの事件、あれもモンターク商会による見せしめだったらしい。『リタ・モンターク』なる金髪碧眼の美少年を買おうとした現行犯を摘発するため、暗殺者(ヒットマン)を雇ったと声明文を出してきたという。

 事件はすべて高級ホテルのスイートルームで起こり、第一発見者となったホテル従業員は精神的ショックから次々に発狂、自殺。捜査にあたったクリュセ市警からも離職者が相次いだ。

 わずかに原形をとどめただけの蜂の巣を直視し、腐臭を放つ肉塊を検分しなければなからなかったのだから、正気を失うのもしょうがない。

 

〈法〉と〈秩序〉が裁かないのなら我々が()刑を執行します――と、自浄作用のなさを突かれた結果が、このざまだ。

 

 今回の情報流出は、これまで必死に蓋をしてきた数々の問題を白日の元に晒してしまった。既得権を濫用していた政治家ばかりか、ただでさえ殺人事件があったと噂され客足の途絶えたホテル、志願者が目に見えて減ったクリュセ市警、今度は政治家にギャラルホルンの将校にまで打撃を上乗せしてきた。

 これだけの不祥事が明らかになれば天下のギャラルホルンもすぐには動けないはずだが、事態が収束したときがおそろしい。

 子供たちの教育の充実を謳い、高い就学率を誇ってきた火星連合政府の評判もどうなるか……。

 

「流出したデータによればギャラルホルンに旧姓『モンターク』揃いの金髪イケメン部隊があるとかないとか、あのファリド公も娼館(あそこ)の出身だったとか……まったくもー、何がなんだか」

 

 ペットロボットと情報端末を兼ねるHAROの頭をぐりぐり撫でて心を落ち着けるザックは、はーっと遣る瀬ないため息をつく。ハロは慰めるようにころころ左右に揺れながら赤目を明滅させた。

『ザック、ゲンキナイ! ザック、ゲンキナイ!』とさえずるのは、指紋認証によるものだ。手のひらの温度を感知して表情と照合し、感情を推し量ってくれる。

 学校に通えない子供たちにも学習を支援しようとAIなんか開発したところで、空回りするわけだ。

 

 搾取される子供たちを救いたくとも、現行法は売春に携わった()()()()()()罪を問うようになっている。違法に買われた十六歳未満の少年少女が摘発を行おうにも、加害者と心中する覚悟が必要になるシステムだ。同胞を裏切ることにもなり、――結果、絶対安全圏にいる富裕層はのうのうと野放しになってきた。

 上客を逃したくないホテルも、口止め料で潤うクリュセ市警も、少年売春を斡旋する業者もみな連鎖的に口を噤んだ。

 クーデリアもまた、『表』の志のために『裏』の顔を見て見ぬふりするという妥協を余儀なくされる。

 かつて貧困の中でしか生きられない火星の少年兵問題を憂いた〈革命の乙女〉でさえも、全市民を守らねばならない立場になって迂闊なことは言えなくなった。最大多数をしあわせにするために目をつぶらなければならない問題が増えてしまい、正義感の強い彼女は憤りを抱えているだろう。

 

 今の連合政府が最優先すべきは火星の経済発展だ。ただでさえギャラルホルンとテイワズの傀儡である火星が、地球圏や木星圏に内政を明け渡してしまわないために。親火星派政治家を議席にキープしておく必要がある。

 不正を黙認し続けることになっても、社会的弱者の蹂躙など矮小な問題だと議会が一笑に付そうとも。故郷がふたたび一方的な支配を受けるよりはずっとずっとマシなのだと、耐えねばならない。地球圏の植民地に戻ればどうなるか、木星圏の属領になればどうなるか、想像に難くない。

 誰も彼もが腐敗を暴けない連鎖の中、しがらみに縛り付けられ、がんじがらめになっていた。

 

「それで、今の話のどこが『内部告発』だったわけ?」

 

「あ、モンターク商会の女社長っていうのがマクギリス・ファリド公の元奥さんで、あのガエリオ・ボードウィン卿の妹君だっていう……――、俺も言ってて思いましたけど、これって内部告発っつーよりアレですね」

 

 ギャラルホルン内部の人間が素性を隠し、ギャラルホルン製MSの流通に携わりながら薬物売買や少年売春をみずから斡旋。それらに積極的に関与にした要人を一斉に摘発し、権力の腐敗をギャラルホルンの罪科もろとも暴いたのだ。一連の暴露は『内部告発』とも『囮捜査』とも呼べなくはないのだろうが、……もっと相応しい言葉がある。

 ここでザックが口をつぐんだとしても、きっと誰かがそう呼ぶだろう。

 

『ジサクジエン! ジサクジエン!』


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