Kaiserreichで幼女戦記   作:溶けない氷

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日本:資源買うよ!武器売るよ!
天国:人的資源売るよ!武器買うよ!
中央アジア:資源売るよ!人的買うよ!

みんなハッピー三角貿易




初陣

戦場に近づくにつれて臭いがしてくる。

腐った死体の臭い、硝煙の香り、流れ出る血の匂い、ガソリンが燃える匂い。

戦の匂い、死の匂い…

 

『うあぁぁぁぁぁぁ!』

『頼む!足を、足を切らないでくれ!』

『こいつはもう死んでる!放り出せ!』

 

ここは後方の野戦病院だが、そこからも凄惨な戦場の残り香がうかがえる。

ああ、前の大戦では別に珍しくもない光景だ。

「義勇兵諸君、装備を補給所で受領して前線へ向かうぞ。

戦車兵は2号を受け取れ!歩兵には機関銃だ!

パイロットは格納庫に機体がしまってある、あの洒落た棺桶に乗り込むのがお前らの仕事だ!」

 

どうにも楽な任務ではなさそうだ。

「こ、これですか…ええ、でもこれ戦闘機じゃありませんよ」

Fi156 シュトルヒ 観測機

武装:機銃1 (ただし後方)

装甲:ない

速度:めっちゃ遅い

結論:鴨 

 

「来たな、パイロット(ターニャ)と観測員(ヴィーシャ)は乗れ。

弾着観測が今回のお前たちの任務だ、コールサインはPixy1」

 

「し!質問!他の空軍の援護はありますか?」

「He51戦闘機が後方で待機している。だが、心配しなくても連中に航空機は存在しないからな、だが対空機関銃くらいはあるから高度500m以下には降りるなよ」

あ、フラグ…という呟きがデグレチャフ少尉から聞こえる。旗がどうかしたのだろうか?

 

「義勇兵諸君、連帯規模の敵が清軍の塹壕戦を突破した!我々の任務はこの敵の進出を補給拠点の前で喰い止めることだ。質問は?」

「清軍の援護は期待できますか?」

「正直なところ、近衛禁軍以外の戦力はあてにするな。

清軍の将校はドイツ語が通じるから、観測機経由で重砲による火力支援があるが。

歩兵部隊は外人部隊以外はあてにするな、だ」

 

最悪だな。盾となるはずの味方は弱卒ばかり、火力はあっても士気は低い。

ハードウェアばかり先行して、明らかにソフトウェア不足。

 

前線へ向かうと無線機からは悲鳴のような声ばかりが聞こえる。

「畜生!撃て!撃てぇ!」

「なんなんだこいつら!?狂ったように突撃して!くそ、死にてぇのか!?」

「ガス!ガス!マスクをつけろゴホッゴホッ!」

 

下は地獄だ、現代版太平天国軍のえげつない戦いぶりは

1:正面から麻薬でパッパラパーにした使い捨てを突っ込ませる(突っ込まないと後ろから撃つ

2:撃って来た敵を味方ごと迫撃砲で吹っ飛す、または毒ガスをぶち込む

 

人命をゴミのように軽視した戦術だが効果的な事は事実だ。

WW1の戦術を人的資源が有り余っている中国独自に改良した物だなと感心してしまう。

 

「C小隊より連隊本部へ、火力支援を要請。ポイントF2345」

「連隊本部より指定座標への火力支援を開始する、観測員pixy1は試射に備えよ」

 

試射が1発目標地点へと落ちると、敵の前進して来た歩兵が吹っ飛んだ。

「弾着を確認!敵歩兵隊に損害を認める!効力射を要請!」

 

「ヴィーシャ、しっかり見てろよ。旋回しながらもう一回りするぞ」

雷のような轟音とともに後方の榴弾砲から飛んで来た75mm砲弾が次々と弾着し炎の花とともにクレーターを作っていく。

遥か下方で硝煙とガスと銃弾にまみれて悶える戦友たちには気の毒だが、実に快適だ。

(初陣が弾着観測員とはついてる、安全な場所で花火見物しているだけで手柄になるとは…)

 

そう、私はいい気になってすっかり忘れていた。

下でぶっ飛んでいる連中は囮に過ぎないという事に…

「敵襲!側面から銃撃だ!うわぁぁ!」

「なぜ気づかなかった!?くそ!2号車がやられた!対戦車ライフルだ!」

ボーンという音とともに戦車が派手に燃え上がるのが見えた。

なぁ!?これが例の精鋭部隊か!?くそ、このままでは折角の楽な勝ち戦にケチがついてしまうではないか!

「しょ!少尉!1時の方向から敵機!戦闘機です!」

「なにぃ!?連隊本部へ、敵機が出現!至急援護の戦闘機を回してくれ!」

 

『Pixyへ戦闘機隊がスクランブル、到着するまで5分かかるその間退避しろ!』

5分だと!?自衛用の機銃1丁しか持たないこれで戦闘機の相手をしろと?

落として、カップ麺を作って食べて片付ける十分な時間ではないか!

 

「少尉!頑張りましょう!大丈夫ですよ!」

ちっとも大丈夫じゃないから黙ってろ!くそくそくそ!ここで死んだら高給も元も無いではないか

 

九五式戦闘機が2機現れた!

 

ターニャは操縦桿を握り、必死の思いで効果しつつ地上すれすれトップツリーを回避行動をとるが、敵機はぐんぐん近づいてくる。

「少尉!もっと早く逃げてください!」

「これが全力だ!撃ちまくって敵を近づけるな!」

敵に戦闘機はないという話ではなかったのか!

どうやら相手も偵察機は鬱陶しいと感じたらしく、どこからか戦闘機を買い込んだらしいな…

「舌を噛むなよ!空中サーカスを披露してやる!」

 

右へ左へふわりふわりと回避機動を行うシュトルヒは相手からすれば鬱陶しい存在らしく、機銃が飛んでくるのもあってなかなか当てにくい。

と思っていたらパスという音がしていたので。

「え、エンジンに喰らった!出力低下!」

バリバリという嫌な音とともに出力が低下し、たちまちスピードが落ちていく。

「あ、味方です!味方の戦闘機が来ましたよ!」

味方のHe51が到着し、95式戦闘機は引き上げていった。

「くそ!不時着するぞ」

だがフラフラとしていたシュトルヒはエンジンが止まるとグライダーのようにスーッと滑空し、味方の陣地近くに滑り込んだ。

砲弾で鋤き返されクレーターで月面のような大地、泥と血と死体と鋼鉄が奇妙に入り混じった戦場という地獄に堕ちた天使。

味方の歩兵が近づいて来て、コクピットから二人を抱えて下ろす。

「降りて走れ!砲弾が降ってくるぞ!」

哀れにも不時着したシュトルヒの周りに敵の迫撃砲弾がパイロットを生かして帰すなと雨あられと降って来た。

二人は大慌てで塹壕に転がり込み、その上を爆風と破片が飛んでいった。

ターニャ・デグレチャフ少尉、およびヴィーシャ・セレブリャーコフ伍長の初陣はこのような顛末を迎えた。

 

 


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