バカな筋肉と優等生   作:諦。

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ご指摘をいただき、このお話を書かせていただきました。一度投稿したのですが、どうにも反映されてなさそうだったので再投稿です、ハーメルン難しい…!

活動報告にて、アンケートを設置させていただきました!協力していただけると有難いです…!


第七問

久保side

 

「急げ久保!二回戦までまで後三分だ!!」

「…夏目君が焼きそば食べたいなんて寄るからこんなはめに…!!」

「焼きそばが俺を呼んでいた!」

「君が勝手に匂いに釣られただけだろう!?」

 

木下さんが夏目君に手を焼く理由がようやくわかってきたこの頃。自由人過ぎる夏目君に僕はかなり手を焼いていた。

普段勉強ばかりで、ロクに動かさない三半規管が悲鳴を上げている。肺なんてもう焼けそうなくらい苦しい。

 

「久保、大丈夫か」

 

ぜえぜえと息を切らせて走る僕を見かねてか、夏目君が声をかけてくれる。

 

「こ、これが、はぁっ…はぁっ…大丈夫に、はぁ、見えるかい?」

「見えないな」

 

そう言うと、夏目君は僕を俵のように担いで走り出す。

…有難いけど、担ぎ方が雑過ぎて軽く酔いそう…というかこれは酔う。

 

「待たせたな!」

「…いや、別に良いですけど…。あの、久保君は大丈夫ですの?」

「…………その声は菊池さんかい?死にそうだけど、何とか……」

 

結構グロッキーな状態なので、フラフラになりながら答える。酔いのせいか、ぐらぐらとした視界で見えたのは菊池さんとーーあの眩しいくらいの金髪はジェシカさんだろうか。

 

「……えーと……何はともあれ揃ったようですので…それではこれより、第二回戦を始めます」

 

「「「「試獣召喚(サモン)!!」」」」

 

山田先生の苦笑混じりの宣誓の後に呼び出す。足元が光り出したかと思えば、魔方陣が形成されて、その中央から召喚獣が姿を顕した。

 

『Aクラス 菊池理恵 & Aクラス ジェシカ・ブラウン

 英語W  362点    &  132点       』

          VS

『Aクラス 久保利光 & Aクラス 夏目惣司郎

 英語W  378点  & 102点        』

 

「………あの、」

「よーしリエ!ソシローはワタシに任せて!リエはトシミツとfightingネ!」

「む、望むところだジェシー!」

「ジェシーさんの裏切り者!!!」

 

ジェシカさんの召喚獣は真っ直ぐに夏目君の召喚獣に突撃していき、夏目君はそれをかわす。

こちらにも半ばヤケになった菊池さんが発砲してきたので、身を逸らしてかわした。ヤケになっているとは言え、勝負事には冷静なのか、狙いをどんどん定めてくる。

あくまでも接近戦には持ち込ませない気、か…。それならこちらだって、それなりに対処させて貰おう!

持ち手をずらし、手前の方にする。コントロールは難しくなるけど、これでリーチは同等のはず!そう大鎌を振るえば、菊池さんは苦い顔で鎌を避けた。

 

「そんなに攻撃に集中していて、大丈夫なんですかっ…と!」

 

パァン、と鋭い音と共に、弾丸が頬を掠める。

 

『Aクラス 菊池理恵 VS Aクラス 久保利光

 英語W  362点  VS 368点       』

 

予想以上に点数を持っていかれた。少し掠めただけでこのくらい減るなら、まともに食らったらどのくらい減るんだろうと計算ーーしてる暇なんてない!

 

「ぐっ、」

 

苦し紛れに振るった大鎌を菊池さんの召喚獣は避ける。けれどその先にはーー

 

「「へ?」」

 

ジェシカさんと夏目君がいた。

 

「ちょ、ちょっとま、」

 

野生の本能か、一瞬にして後ろに飛び去る夏目君と、咄嗟の事態に動けないジェシカさん。

 

「……あ、ごめん…」

 

僕の振るった大鎌は、無慈悲にもジェシカさんの召喚獣を切り裂いた。

 

『Aクラス 久保利光 VS Aクラス ジェシカ・ブラウン

 英語W  368点  VS 0点           』

 

「「「「……」」」」

 

何とも言えない空気に包まれる。

 

「…よし、久保!今の内だ!」

「あっ!?」

 

呆然としている間に、夏目君の召喚獣が菊池さんの召喚獣を蹴飛ばし、持っていた二丁銃を弾き飛ばした。

 

「…ありがとう、夏目君!」

 

遠慮なく菊池さんの召喚獣に向け、大鎌を振るう。

 

「ぐっ!」

 

しかし、その振るった鎌は菊池さんの召喚獣を首は取れず、代わりに何かーー固いもので弾かれた。

 

「隠しナイフとは、粋な真似してくれるね…!」

「…そりゃどうも、ですわ!」

 

ガキン、と弾かれる大鎌。

やはりそう簡単には上手くいかないか…!!

今度は大鎌とナイフを振り合う僕ら。ちらり、と夏目君を横目で見ると、夏目君は小さく頷き、召喚獣に身を屈ませ菊池さんの召喚獣に近づく。

 

「リエ!足元ヨ!」

 

気付いたジェシカさんがそう声をかけるけどーーもう遅い!!

夏目君の召喚獣が菊池さんの召喚獣の足首を掴む。

 

「っ、離しーー!!」

「そういうわけにはいかんだろう」

「それじゃあ、覚悟!」

「きゃあああっ!!」

 

もたつく菊池さんの召喚獣へ向けて大鎌を振るった。

菊池さんの召喚獣は真ん中から裂け、粒子となって消えていく。

 

『Aクラス 久保利光 & Aクラス 夏目惣司郎

 英語W  252点  & 88点        』

           VS

『Aクラス 菊池理恵   英語W 0点    』

 

「…勝者、Aクラス、久保利光、夏目惣司郎ペア」

 

少し不服そうに宣言する山田先生。

…まぁ、僕達自身も勝ったとは言え、少し複雑な気分だしなぁ…。

横で呑気にガッツポーズしてる夏目君が羨ましい限りだ。

ちぇ、と残念そうな顔をしている菊池さんとジェシカさんと代わるように現れたのは、半田君と戦国さんだった。後ろには、現代社会の先生らしき人も佇んでいる。

 

「わー!次は久保君と夏目君なんだね、よろしく」

「…あんまりふざけないでよね、洋介」

「わかってるって!」

 

にこにこと笑みを浮かべる半田君と対照的に、厳しい顔付きでこちらを見ている戦国さん。

 

「…両者、宜しいですか?」

 

遠慮がちに声をかける現代社会の先生。

半田君はにこやかに頷き、戦国さんは変わらず厳しい顔で、夏目君は何を考えているかわからない顔(いつもの顔)で頷いた。

 

「「「試獣召喚(サモン)!!」」」

 

そのワードと共に足元に広がる魔方陣。その中央から召喚獣が徐々に姿を顕した。

 

『Aクラス 久保利光 & Aクラス 夏目惣司郎

 現代社会 345点  & 403点        』

           VS

『Aクラス 半田洋介 & Aクラス 戦国有志

 現代社会 312点  & 271点       』

 

「「「……」」」

「?なんだ??俺の顔に何か付いてるか」

「…いや…そういうわけではないんだけど…」

 

何だろう、この不本意な感じ。

 

「俺、夏目君とやりたいってずっと思ってたんだ!ね、相手してくれるよね??」

 

そう言うと、嬉々として夏目君の召喚獣の前に立つ半田君。

 

「それなら…私の相手は久保君、君だな」

 

チャキ、と僕の召喚獣へ向けて双剣を構える戦国さん。

二つの剣が戦国さんによって器用に操られる。大鎌でさえ操るのに苦戦している身としては、そんなに悠々と操れるのが羨ましい限りだ。

双剣から繰り出される猛攻を、大鎌でいなしたりしつつギリギリで躱す。

 

「っ!」

 

しかし、その攻撃を防いでいる内に大鎌が弾かれてしまった。その隙を見逃してくれるはずもなく、目先に剣を構えられる。

 

「…これで終わりーー」

「久保!!」

 

鉈がズダンッ!と鋭い音共に、僕と戦国さんの間を通り、壁に深く突き刺さった。

召喚獣達だけでなく、僕ら本体までも冷や汗を流す。

 

「な、夏目君!何のつもりで、」

「それを使え!俺にはどうにも邪魔だ!」

 

動揺する僕に対して、素手で半田君の攻撃を躱しつつ叫ぶ夏目君。

…そっか、僕のためにわざわざ…。

 

「…ありがとう!」

 

余程ショックが大きかったのか、未だ呆然としている戦国さんを尻目に深く刺さった鉈を抜き、そのまま振るう。

 

「いつまで呆けているのさ、有志!!」

「ーーっ!」

 

半田君の鋭い声で意識を戻した戦国さん。僕の振るった鉈は寸で躱されてしまった。

 

「ごめん、洋介」

「いーえ!死なれちゃ困るからね!」

 

チャキ、と戦国さんが再度双剣を構え直す。僕も再度鉈を構え直し、戦国さんに向き直った。

しばらく間が開いてから、お互い武器を振るう。戦国さんの猛攻に負けじと鉈を振るった。

お互いの、消耗した点数が表示される。

 

『Aクラス 久保利光 VS Aクラス 戦国有志

 現代社会 205点  VS 213点       』

 

多少点差が出てしまっているけど…この程度ならまだまだ!

なるべく致命傷を与えられるように、急所を重点的に狙ってみる。鉈を振るう…と見せかけて、空いた手で鳩尾に突き。そしてガラ空きの頭に鉈を振り下ろすけれど、それは双剣で防がれてしまった。

再び間合いをとってからの攻撃。横に薙げば屈んで躱され、下から刀を振るわれる。咄嗟に手で止めたけれど、腹から胸に掛けてざっくり斬られたみたいで、血がだらりと流れた。手からもぽたりと血が流れる。

 

『Aクラス 久保利光 VS Aクラス 戦国有志

 現代社会 94点   VS 197点      』

 

斬られた箇所が痛かったのか、だいぶ点差が開いてしまった。…多分、あと一撃持つか持たないか。

この差だというのに、戦国さんは一切手を抜かない。

 

「…この点差ならもう少し油断して欲しいんだけどな」

「まだそんな生き生きした目をしていて、何を言い出すかと思えば…」

 

はぁ、とため息をつきつつも、やっぱり攻撃の手は緩めてくれない。

それを、場を見ながら躱して行く。僕達の奥では、同じように半田君が夏目君を押していた。

 

「守ってばかりじゃ点数削れないよ!ほらほら!!」

「ぐっ…!」

 

羅針盤から姿をちらりと見せる、高速で回転する刃に苦戦しているみたいだ。時たまに掠られつつも躱している。その時、不意にバチリ、と夏目君と目が合った。それから、目についたのは夏目君の腕元でキラリと光る腕輪。

戦国さんに見えないように、自分の腕元をトントン、と叩くと、夏目君は召喚獣の腕元に目をやり、視線をぴたりと止める。そして眉根を潜めた。…もしかして、今腕輪に気付いた?

すると、夏目君の召喚獣が腕輪を付けている方の手を握りしめた。

腕輪を使おうとしているのか、確かに腕輪が直撃すれば大ダメージは確実。

…待てよ?今夏目君が腕輪を使えば、腕輪の力はわからないけれど、能力と位置によっては戦国さんも倒すことが…??

慌てて避けつつも、位置調節に努める。大体召喚獣達はこのペースで動いているから、この辺りで…。

丁度良いタイミングで、夏目君の腕輪がまばゆく光り出した。

 

「いっけえええぇぇ!!!!!」

 

夏目君の雄叫びと共に凄まじい音をたて、半田君の召喚獣が派手な音をたてて吹っ飛ぶ。

 

『Aクラス 夏目惣司郎 VS Aクラス 半田洋介

 現代社会 120点   VS 47点       』

 

圧倒的な点差が明らかになる。

それにしても…さっきの夏目君の攻撃、恐らく半田君だってかわせたはずだ。もしかして、避けたら戦国さんに当たるからわざとまともに食らった、とか…?

 

「洋介!」

「俺のことはいいから!早く倒して!」

「っ!」

 

戦国さんの猛攻が更に増す。それはもう、鬼のような気迫だった。

 

「これで仕舞いだ」

 

無慈悲な夏目君の声が、少し遠くで聞こえた。

 

「ちぇっ、今回は俺の負けか…」

 

それにつまらなそうな半田君の声が続く。恐らく決着がついたのだろう。

一方こちらといえば、避けていることに集中している内に壁際まで寄られ、丁寧に片方の剣で服を留めてから心臓を一突きだった。

僕の召喚獣が、粒子となって消えていく。

 

 

からんからん、と鉈の落ちた乾いた音が辺りに響いた。

 

 

それと同時に二体の召喚獣が動き出す。

素早く繰り出される双剣に、渡り合う素手。双剣が当たり血がたらりと流れたかと思えば、刀が掴まれそのまま一本背負いで強かに背を叩きつけられたり。そこからまた立ち上がり、刀なり拳なり振るう。

一進一退の攻防が続く中、カツン、と夏目君の召喚獣の足に鉈の柄がぶつかった。夏目君の召喚獣がその鉈を戦国さんの召喚獣に向けて蹴り飛ばす。

戦国さんの召喚獣が咄嗟に鉈を弾くも、夏目君の召喚獣の方が一歩早かった。

夏目君の召喚獣が戦国さんの召喚獣に綺麗なアッパーを決める。

それが決め手だったのか、戦国さんの召喚獣は消えていった。

 

「勝者、久保利光、夏目惣司郎ペア!」

 

現代社会の教師の宣誓が響いた。

 

「…すまん、洋介」

「全然いいよ、俺すっごく楽しかったし!夏目君も久保君もありがとうね!」

 

にこ、と笑いながら半田君が左手を出す。これは握手…でいいのかな?

 

「こちらこそ」

 

と、ぐっと握り返す。

 

「夏目君も」

「痛い痛い痛い」

 

僕と握手を終えた後、我関せずと見守っていた夏目君の手を半田君が無理矢理握りこむ。…ただ、恨み辛みからかかなり強い力みたいだけど。

 

「次の機会は必ず勝つよ」

「上等だ」

 

最後に戦国さんと夏目君がコツン、と拳を合わせて、半田君と戦国さんは会場から去って行った。

 

「…さて、次の対戦相手は手強いよ。どうだろう、クラスに戻る前に景気づけに、何か食べていかないかい?」

「それならもんじゃ食べよう」

「もんじゃの露店でも見つけたのかい?」

「いや、これから探す!」

 

その無計画さに呆れつつも、たまには悪くないかなと小さく笑みを零しながら、堂々と歩き出す夏目君を追いかけた。

 

久保side out




夏目の腕輪の能力の方、わかりにくいかと思いますので少し補足というか説明を。

夏目の腕輪の能力は“点数を消費する代わりに一撃のダメージを倍にする能力”です。具体的に言い換えると、100ダメージの攻撃を200ダメージにする、といった能力です。元にかかるダメージにより、威力も変わっていきます。50のダメージであれば、100のダメージを食らわせる、といった形で。ちなみに、一度の戦闘につき、使えるのは一度のみです。

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