「ーーそれと、今日から試験召喚大会参加の申し込みが始まります。参加する生徒は私に言うように。以上でホームルームを終了します」
そういうと、高橋先生はツカツカと教室から出て行った。
文化祭当日まで三日をきったこの日。この頃になれば授業は全て文化祭準備に宛がわれていた。先生もやることがないためか、最近はさっさと職員室に行ってしまうことが多い。
『あー…あー…二年F組、坂本雄二、吉井明久。至急学園長室まで来るように』
その直後、呼び出しの放送が校内に響く。
…問題児だとは思っていたけど、まさか学園長室に呼び出される程やらかしてるの…?
軽く戦慄しつつ、ほとんど装飾を終えた室内を見渡す。
…特にやることもなさそうね。
そう結論づけ、装飾を壊さないように気を遣いつつ適当な席に座り、本でも読もうかと鞄に手を入れたところで後ろから小突かれた。
「代表、どうしたの?」
「…………優子、頼みがある」
「?なに?」
「…………私と大会に出て欲しい」
そう言われて、そこかしこに張られていた試験召喚大会のポスターを思い出す。
確か二人一組のトーナメント形式で、景品は白金の腕輪と遊園地か何かのペアチケット…だっただろうか。
…ははぁ、なるほど。
「坂本君と遊園地に行きたいの?」
「…………(こくり)」
少し頬を赤らめながら頷く代表。試召戦争をへて見事カップルとなった二人の交際はどうやら順調らしい。
「…………如月ハイランドのプレミアチケットがとれたら、一緒に行ってくれるって」
「へえ、よかったじゃない」
「…………嫌がっても、約束を盾に結婚まで持ち込めれば」
……順調……かなぁ……。
「……………それで、一緒に出てくれる?」
「いいわよ、白金の腕輪っていうのも気になるしね」
「……………ありがとう」
少し微笑んでから代表はパタパタと教室から出て行く。恐らく高橋先生に参加の旨を伝えてくるんだろう。
鞄から本を取り出して適当なページを開く。視線は本に向けながら、でも耳はクラスメイト達の会話に意識を向けた。
「ね、ねえ篝。あんた大会に興味ある?あるわよね?」
「え、いや別に……あ、でも腕輪は気になるな」
「き、奇遇ね!あたしも気になってたのよ一緒に出ましょう!!」
「へ?気になるとは言っても出たい程じゃーーか、蔓!襟首は首が絞まるから掴むなってオイ、聞いてんのかーー」
黒い髪をサイドテールで束ねた女生徒、
それにしても緊張のし過ぎか、右手と右足を同時に出しながら歩いていたけど…あれは大丈夫だろうか。
「兄さん、大会に出よう」
「俺に見世物になる趣味はないぞ」
「私はある」
「教室でそういうことを言うな」
「…兄さんの趣味は、」
「わかった、一緒に出るからとりあえず喋るな」
教室の隅では黒と白の対照的な髪色が特徴的な霧島玄人君、素人さんの双子兄妹が話をしていた。
基本物静かな二人だけど、こういうことには興味あるのかと思うと少し意外だったり。…会話の内容はともかくとして。
「なあ、久保」
聞き慣れた夏目の声に、少しピクリと反応してしまう。まさか、アイツも出るとか言わないでしょうね…??
「どうしたんだい?夏目君」
「一緒に大会に出ないか?」
出 る ん か い !!!
「構わないけど…珍しいね、夏目君もこういうことに関心があるなんて」
「…先程学園長室の前を通ってな。その時に聞こえたんだが、どうやら如月なんちゃらランドに行けば…」
「行けば?」
「ウェディング体験とやらで、結婚までプロデュースしてくれるらしい」
「待ちなさい夏目」
不穏な空気を感じ、口を挟む。
もしかして、
「その如月なんちゃらランドに、アタシを連れて行くつもりじゃないでしょうね…!!」
結婚までプロデュース!?冗談じゃない!!それこそほんとに既成事実が出来ちゃうじゃないの!!!ただでさえ『木下と夏目は付き合ってるらしい』みたいな噂を聞くのに!!!
「勘違いするな、優子。俺はきちんと段階を踏む男だ」
「……段階って何よ」
「まず外堀を埋める」
「もうそこからおかしいのよ…!!!」
コイツ、男女間の付き合いを何だと思っているのかしら。
「『私、◯◯君のことが好きなんだよね~!』と先手を打ち、ライバルが目立ったアピールを出来ないように牽制するのは基本だと」
「確かにそういうこと言う子もいるけど!ていうかアンタがやたら好きって言うのってまさかそういうアピールなんじゃーー」
と、ここで考えを巡らせる。
確かに、コイツがアタシに所構わず好きだ、と言うようになってからアタシに対する告白の類いは減り、代わりに秀吉がモテるようになった。
それに、アタシ達が付き合っているという噂まで流れている。
…悔しいけど…着実に外堀を埋められているッ…!!
まさか、何も考えていないように見せて虎視眈々と外堀を埋めにきていたの…!?所構わず好き好き言っていたのも全部計算の内!?!?
ごくり、と生唾を飲み込み夏目を見る。
もしかして、今までのあれもこれも全部計算の内で、アタシは手のひらで転がされてる、とか…?
そう思うと、今している無表情も途端に怖くなる。無神経なところもアタシを油断させるための作戦の一つなんじゃ、
「?アピール??」
……………そうだ、コイツはそういう奴だった。
「…それで、木下さんと行くのが目的じゃないなら何が目的なんだい?」
コホン、と軽く咳払いして久保君が話を戻す。
そうだ、アタシが目的じゃないなら何が目的なんだろう。如月なんちゃらランドの話をしてたくらいだから、腕輪が欲しいってわけでもないだろう。
「この前、翔子と話をしていてな」
「代表と?」
「ああ。…どうやら坂本と上手くいっていないらしい」
「意外だね、霧島さんはよく尽くしていると思うけれど」
「そうだな、俺もそう思う。だから恐らく、問題は坂本の意識だ」
「アンタにしてはまともな着眼点じゃない」
「…そこで、そのウェディング体験とやらで翔子を意識させ、そのままゴールイン…それが一番手っ取り早いと思った」
「いい案だとは思うけど…それは坂本君が霧島さんに意識を向けないといけないよね?坂本君の意志を無視して無理矢理、というのはいただけないな」
「その点に関して心配はいらない。坂本も恐らくだが、翔子のことを悪くは思っていない」
「そうね、何かきっかけがあれば坂本君も素直になってくれると思うわ。…そのきっかけをウェディング体験で作ろう、ってわけ?」
「そういうことだ」
と夏目が鷹揚に頷いた。
「そういうことなら、何としてもペアチケットを取らなくちゃいけないわね。…つまり、アタシと代表が優勝する必要がある、と」
「ああ、俺達はそのサポートに回れるよう参加しようと思ってな。俺達が優勝してもそのままチケットは譲れるだろう」
「そういうことならやる気も違ってくるね、霧島さんのために頑張ろう」
「「おおーっ!」」
こうして、夏目による代表のための計画が動き出したのだ。
ーー後に、Fクラスの人達を巻きこんだ大仰なことになるとはつゆ知らず。
出演キャラクター【()内は作者様】
・笂蔓(kitto‐様)
・霧島玄人(駄ピン・レクイエム様)
・霧島素人(同上)
なお、以前に出させていただきましたキャラクターの紹介は省かせていただきました。ご了承ください。