剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました。

 アポ6話の完成です。

 三場面同時進行というのは、なかなかに手強いものです。

 話もほとんど進んでないし、私もまだまだ修行が足りぬ様子。

 これからも一層精進します。

 PS・感想でリクエストがありましたので、『モル子日記』を纏めています。

 これからは『モル子日記』は正式投稿していこうと思います。


剣キチさん一家ルーマニア滞在記(6)

「うおおおおおっ!!」

「おぉぉりゃあああああっ!!」

 裂帛の気合と共に白銀の斧槍と蒼の槍が噛み合い、夜の闇に火花を散らす。

 『食●んマン』の振るうハルバードは一撃ごとに周囲に衝撃波を振り撒き、それを掻い潜って放たれるライダーの穿撃は大気と大地を抉る。

 それは正しく英雄同士の闘いであった。

 周辺に展開するゴーレムや竜牙兵の群を余波だけで蹴散らしながら、両雄は互いに鎬を削る。

「ふんっ!」

 風を巻きながら迫る剛斧を槍の柄で受け止めるライダー。

 跳ね上げてから相手の腹を抉る算段であったが、一撃に込められた並の怪物など比較にならない怪力に耐えきれず、たたらを踏みながら後退してしまう。

 自分の無様さに歯噛みしているところに、襲い掛かる振り下ろしの一撃。

 しかし、聖杯大戦最速の英霊である彼がそれを喰らう訳がない。

 剛斧が頭を捉える寸前に爆風を吹き上げる程の脚力で離脱したライダーは巧みな足捌きで相手の側面につけると、ハルバードが地面に食い込むと同時に必殺の一突きを放つ。

 だが、『食●んマン』も只者ではない。

「うっだらあぁぁぁぁぁぁ!!」

 ハルバードの柄を短く持ち直すと膂力で得物が食い込んだ地面を斜めに削ぎ落し、その勢いのままにライダーの刺突を跳ね上げる。

 予想の斜め上を行く対処法に唖然とするライダー。

 だが、すぐさま意識を戦闘に戻すと、息もつかせずに飛んでくる横薙ぎを一蹴り後方に跳んで躱し、着地を踏み切りにして刺突を放つ。

 しかし、夜闇を裂いて迫る英雄殺しの穂先は跳ね上げられた斧槍の石突きに阻まれて火花を散らすに留まる。

 奇しくも同時に舌打ちを漏らした両者は、そのまま足を止めての打ち合いに縺れ込んだ。

 速度と手数ならライダーに分があったが、『食●んマン』の振るうパワーファイターらしからぬ技量に裏打ちされた受け技が、彼を優位に立たせない。

 さらに斧の部分を楯にしたり、槍と斧の間に相手の得物を挟み込んでソードブレイカーの要領で武器破壊を狙うなどの奇策も飛び出た為、ライダーは有効打を叩き込む事ができないでいた。

 互いの手が五十を超えると、決定打に欠けると判断した二人は同時に間合いを取る。

 数十合のぶつかり合いの中で、元より我慢弱い双方は攻めきれない己にもどかしさを感じていた。

 『食●んマン』はチョコマカと動き回る相手を捉えられない事に、そしてライダーは隙だらけに見える癖に防御が妙に硬い仮面の男に、だ。

「ダメだな、こりゃあ」

「あ?」

 大きく息を吐く仮面の男に、ライダーは眉根を寄せる。

「そっちに合わせて騎士っぽくやってたんだが、どうもまどろっこしくていけねぇ。だから、こっから先は俺のやり方で行かせてもらうぜ」

 次の瞬間、ライダーの視界一面に現れたのは、高速で回転する相手のハルバードだった。

 加えられた力で音速を超え、大気との摩擦で表面が赤熱化したそれを真正面から防ぐのは悪手と判断し、その場を離脱するライダー。

 荒れた大地を爆砕したハルバードによって粉塵が立ち込める中、再び地を咬んだ彼の視界が捉えたのは土煙を引き裂いて迫る剛拳だった。

「そぉら、『しょくパンチ』ってなぁ!!」

 ふざけた物言いとは裏腹に、その拳に込められた威力は常軌を逸していた。

 戦場中に響いたかと思うような肉を打つ音と共に、食らったライダーの意識は瞬間消し飛んだ。

 バカげた速度で吹っ飛んだ彼の身体は、数度地面を抉った後、ゴーレムの残骸を粉砕しながら粉塵の中に消える。

「やっぱ、こっちの方が性に合ってるわ。『食●んマン』的にもな」

 硬く固めた拳を打ち鳴らして快活に笑う仮面の男。

 しかし次の瞬間、ゴーレムの残骸が弾け飛ぶとそこから放たれた影が男に襲い掛かる。

 粉塵を撒いて現れたのはライダー。

 潰れた鼻からの血で顔の下半分を真っ赤に染めた彼は、それでもなお凄絶な笑みを浮かべながら神速の源である足を男の仮面に叩き付けた。 

 人が放つ打撃ではあり得ない音が夜の闇を震わせ、

面を構成するセルロースの破片と紅い雫を撒き散らしながら跳ね上がる『食●んマン』の顔。

 しかし、彼の両脚は全身を持って行かんとする衝撃に負けじと大地を噛みしめた。

「んがあああぁぁぁぁっ!!」

 そしてライダーの首元を鷲掴みにすると、力のままに地面へと叩き付けようとする。

 しかし、ライダーも然る者。

 激突の瞬間に受身を取り、疾風のような動きで間合いを取った。

「水臭いじゃねえか。合戦じゃなくて、殴り合いの喧嘩が望みなら最初に言えよ」

 曲がった鼻を摘まんで矯正しながら、ライダーは嗤う。

「そいつは悪かった。戦士だの何だの言ってたから、礼節やらに煩い堅物だと勘違いしてたぜ」

 後頭部を掻きながら『偏見はダメだな』と独りごちる『食●んマン』に、ライダーの視線が鋭さを増す。

 ギリシャ神話に輝く半神の英雄たる彼が全力を込めた蹴り。

 それをまともに受けながら、反撃してきただけでも驚異なのに、眼前の男にはダメージらしきものが見えない。

 痩せ我慢である可能性は否めないが、本当に効いていないなら、とてつもないタフネスだ。

 大賢者ケイローンの教えを受けた彼は、無手による肉弾戦にも無類の強さを発揮する。

 その気になれば、並の英霊程度なら素手で殴り殺す事だって可能だろう。

 しかし、目の前の怪物が相手となれば、話は別だ。

 ゴーレムの残骸に埋もれている英雄殺しの槍は、ライダーの意思一つでその手の中に返ってくる。

 ここは相手のペースに乗るべきでは───

「ああ。オレが素手だからって、別に合わせなくていいぞ。こっちは好きでやってんだ。お前も槍でも戦車でも好きに使え」

 まるでこちらの心を読んだような仮面の男の言葉に、ライダーは武具を持つのをやめた。

 彼の願いは『英雄に相応しい闘いをすること』

 素手の相手に槍や戦車を持ち出して勝ったところで、誰がこの身を英雄と讃えるものか。

「舐めるなよ、『食●んマン』とやら。俺はギリシャ神話にその名を轟かせた英雄アキレウスだ! 素手の喧嘩に武器を持ち込むような真似などせん!!」

 声高々と宣言するアキレウスに、仮面の男は考え込むように両手を組む。

「アキレウス、アキレウス……。どっかで聞いた事があるような気がするが……うん、わからん」

「待て待て。自慢じゃないが、一応大英雄って呼ばれてるんだぞ。ギリシャはもちろん、世界的にも有名なはずだ」

 スッパリと白旗を挙げた仮面の男に、思わずツッコむアキレウス。

 戦闘中に何をしてるのかという話だが、この辺は英雄としての矜恃に関わるらしい。

「と言われても、そのギリシャもわからんからな。オレが知ってんのはブリテンとハワイだけだ」

「偏り過ぎだろ、それ。つうか、ギリシャを知らんとかバカなのか、お前!?」

「弟からはよく言われるな。まあ、これでも生きてけるから、問題ないだろ」

 アキレウスの罵倒にも平然と頷く『食●んマン』

 色んな意味で器のデカい男である。

「さて、『C』から頼まれた仕事ならともかく、喧嘩とあっちゃあ『食●んマン』してるワケにはいかねえな」

 そう呟やくと、男は上半分しか残っていない面を投げ捨てる。

 次いで現れたのは、金髪碧眼の野性味がある男の顔だ。

 先ほどの一撃による鼻血で汚れてはいるものの、その相貌は十分に整っていると言えるだろう。

「後で父ちゃんに怒られるかもしれねえが、そん時はそん時だ。アキレウス! こっからはガヘリスって一人の男として、相手してやるぜ!」

「それが貴様の名か! ならば、勇者よ! この闘いと共に貴様の命をオリュンポスの神々に捧げてやろう!!」

「難しい事はわかんねえって言ってるだろうが。ゴチャゴチャ言ってねえでかかって来い!!」

 雄叫びと共に地を蹴る二人の男。

 互いの額がぶつかり合う鈍い音をゴングとして、第二ラウンドの幕が切って落とされる。

 

 

 

 

 高熱で焦土と化した大地に大小様々な杭が突き立つ異様な戦場。

 その中を四人の英雄が乱れ舞う。

 仮面の騎士『あん●んマン』と赤のランサーが、互いに炎を吹き上げながら激突し、縦横無尽に襲い来る串刺しの牙を掻い潜った赤のアーチャーが矢を放てば、黒のランサーは杭を防壁にして防ぎきる。

 戦況はまさに一進一退、ここに立つ誰もが死力を尽くさんとしていた。

「フッ!」

「はぁぁっ!」

 鋭い呼気と大気を震わす気合。

 同時に風を薙いだ黄金の槍と白銀の刀身は、激突の瞬間に火花ではなく互いの纏った紅蓮の炎を吐き出す。

 片や雷神の槍、対するは星が鍛えし聖剣の一振り。

 込められた威力も内包する神秘も共に同等、ならば優劣は担い手の腕に掛かってくる。

 視界を赤く染める熱波の中、赤のランサーは弾かれた勢いをそのままに連続で刺突を放つ。

 自らが放った紅蓮を引き裂きながら疾る必殺の攻撃、その数は七つ。

 独りで槍襖を構築しようするランサーの連撃に、『あん●んマン』が取った行動は前進。

 急所や動きを殺すような場所への攻撃のみを払い後は鎧の防御力任せという踏み込みは、ランサーの牽制を物ともせずに間合いを踏破する。

「けえええええぇぇぇぇいっ!!」

 そして化鳥のような気合と共に振るわれるのは大上段からの一撃。

 それは寸前に飛び去ったランサーを掠めることしか出来なかったが、その余波だけで大地に底が見えない大きな斬痕を残す。

 切り口が融解しマグマを思わせるほどに赤熱化していると言えば、その一撃の威力は分かるだろう。

 大きく間合いを取った赤のランサーは、再度刻まれた右の鎖骨から胸を通って腹に至る傷に目を細める。

 彼の纏うのは父である太陽神スーリヤが与えた、神にすら打ち壊すことが出来ないといわれた鎧。 

 本来であれば絶対不壊というべき宝具も、同じ太陽の加護を持つ星の鍛えし聖剣が相手では聊か分が悪いようだ。

(奴を相手にする際、警戒すべきは先程放った打ち落ろしの一撃。あれをまともに受けては如何にこの鎧であっても持ちはすまい)

 そう判断したランサーは、さらに視線の鋭さを増しながら槍を構える。

 アルガによって致命傷を受けた彼が今も生存しているのは、父の鎧の持つ驚異的な再生力が命を繋いだからに他ならない。

 眼前の騎士の一撃でそれが断たれたとすれば、それはランサーの死を意味するのだ。

「見事だ、『あん●んマン』とやら。如何に同じ太陽の加護を持つとはいえ、俺の鎧をこうも簡単に切り裂いたのはお前が二人目だ」

「その賛辞、素直に受け取りましょう。だが、それで私の刃が鈍るとは思わないでいただきたい」

 構えを崩さないままに軽口を返す仮面の騎士。

 その言葉を受けてもランサーの表情に変化は無い。

 だが大きく増した眼力と体から吹き出る炎の勢いが、彼の心情を如実に表している。

「そんな事は期待していない。むしろ、注意すべきは貴様だ。ここから先、俺の槍を留めるものは何一つ無いと知れ」

 その宣言から間髪入れずに、『あん●んマン』は大きく後方に吹き飛んだ。

 全身から放たれる炎を戦闘機のアフターバーナーのように一転に集中した、ランサーの刺突によるものだ。

「真の英雄は目で殺す……!」

 そう呟くと同時に、ランサーの右目に猛烈なエネルギーが収束する。

 そして放たれるのは、現代科学において未だフィクションの域から出ていない熱線、すなわちレーザービームだ。 

 先の一撃を辛うじて防御が間に合った仮面の騎士は、空中で体勢を整えると同時に刀身の周辺に陽炎が生まれるほどの熱を収束した聖剣を振り抜いた。

 まるでガラスを爪で引っかくような不快な音を立てて、ランサーの放った熱線は寸でのところで目標を逸れた。

 だが、両雄の攻防はこれでは終らない。

 ランサーは先程と同じく炎の噴射で宙を舞い、仮面の騎士もまた聖剣から吹き出る炎を推進力に空を駆ける。

「はぁぁぁっ!!」

「ぬんっ!!」

 2人が振るった武具は互いを食い合うと同時に火花ではなく灼熱を伴った爆発を生み、それによって引き剥がされても両者は再び剣を交える。

 通常ではありえない空中での剣戟は、漆黒の夜空に紅蓮の軌跡を描きながらその温度を増していく。

 決まり手が入れば互いに一撃必殺。

 命で命を削るチキンレースのような競り合いは、唐突に終わりを告げる。

 幾度目かの激突で地面に向けて吹き飛ばされた赤のランサーの目が、黒のランサーに加えて知らぬ間に参戦していた自軍のバーサーカーである筈の青銅色の巨漢によって、赤のアーチャーが劣勢に立たされているのを映したからだ。

 全身から放たれる炎の勢いを強め、一気に地上へと降下するランサー。

 幸いなことに仮面の騎士は上空へと飛ばされている。

 加えて、聖剣からの炎を推進力とする相手は、此方ほどの速度は出ない。

 その読み通り、赤のランサーは吹き飛ばされて地に伏したアーチャーへ止めの刃が落ちる寸前、巨漢の体を穿つことに成功する。

 爆発的な加速に裏打ちされた炎熱の一撃は巨漢の体に大穴を開けるに留まらず、その炎によって上半身と下半身を引き千切った。

「ふはははははははははっ! 圧制者よ! まだだ!! まだぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 腹の半ばから千切れ、宙を回転しながらも笑いを絶やさない赤のバーサーカー。

「無事か、アーチャー」

 しかし、致命の一撃と確信した赤のランサーは、死に体の彼には目もくれずにアーチャーへと手を差し伸べる。     

 その行動が隙となる。

 その一撃はそこにいた全員の想定の範囲外から放たれた。

 手を伸ばした痩身のランサー、そのわき腹に丸太の如き足が突き刺さり、まるでサッカーボールの様に彼の体を吹き飛ばす。

 突然の奇襲を果たした存在にアーチャーはもちろん、黒のランサーや地面に降り立った仮面の剣士すらも唖然とした。

 歴戦の戦士たちの目を掻い潜ったもの、それは千切り飛ばされて半ばまで焼け焦げた青銅の巨漢の下半身だった。

「はははははははははっ! さあ、圧制者たちよ! 受けるがいい、我が愛をぉぉぉっ!!」

 戦場に響き渡る野太い叫び。

 全員の視線が向いたその先には、大きく膨れ上がった肉体にまるで虫のように複数の豪腕を生やすという、異形の姿となった赤のバーサーカーがいた。

「公王、あれは?」

「鹵獲した赤のバーサーカーだった物だ。欠けたセイバーの穴埋めになればと投入したのだが、よもやあのような形で暴走するとは……」

 未だ活動を続けようとしていた下半身を焼き尽くした仮面の騎士の問いに、黒のランサーが苦々しく答える。

 異形の肉体で見境なく暴れまわる赤のバーサーカーが、もはや戦力としての運用は不可能であることは誰の目からも明らかだった。

「公王。貴重な戦力ですが、ああなっては他の味方に被害を及ぼす可能性が高いでしょう。我が聖剣で焼き尽くす許可を」

「……仕方あるまい。頼めるか」

 ため息と共に問う黒のランサーにしっかりと頷く仮面の男。

 だが、それに待ったを掛ける者がいた。

 敵対者である赤のアーチャーだ。

「何のつもりだ、赤のアーチャーよ」

 折角の戦力を自身の手で始末せねばならない苛立ちも込めて、睨みつける黒のランサー。

 だが、赤のアーチャーはその眼光を前にしてもまったく怯む気配を見せない。

「奴の宝具は自身の受けたダメージを魔力に変換して肉体に蓄積し、最後にはその全てを破壊力として解放するものだ。あそこまで肉体が変貌しているという事は、奴の体の中には相当の魔力が溜まっていると見て間違いない」

「では、私の聖剣を食らわせようものなら…………」

「トゥリファスを巻き込む形で、この周囲にあるすべてのモノが吹き飛ぶだろうな」

「……まるで不発弾かなにかですね」

 半獣の狩人から告げられた事実に、ウンザリしたようにため息を吐く『あん●んマン』。

「待て、太陽の騎士よ。そ奴の言が事実であるという証拠は無いぞ」

「私の言葉が信じられぬというのなら、その聖剣を放ってみるがいい」

 黒のランサーが発した疑いの声に、そう吐き捨てる赤のアーチャー。

 再び漂ってきたギスギスとした空気を祓う為に、仮面の男は両手を打ち鳴らす。

「冷静になりましょう、公王。彼女に我々の走狗となったバーサーカーを庇う理由はありませんよ。この状態で忠告してきたということは、彼女の話が本当で奴の宝具に巻き込まれたくないからと考えたほうが妥当です」

「……かもしれぬな」

 深々と息を吐いて、黒のランサーは突きつけた穂先をアーチャーから退ける。

「貴様の言、一先ず信じてやろう。それで、奴に対抗する策はあるのか?」

「そんなモノは無い。今の奴は何時爆発するかもしれない不発弾なのだ。我々にできる事があるならば、それは早急にこの場を退いて奴の脅威が届かぬ場所まで逃げることだけだ」

 立ち上がりながら吐き捨てるアーチャーに、2人の男はさらに大きくなった異形の巨体を見上げるのだった。

 

 

 

 

「ナアアァァァァァァオォォッ!!」

 甲高い絶叫と共にメイスが唸る。

 再起動を果たした黒のバーサーカーが狙った先は、紫の仮面を被った剣士だった。

「うおっと!?」

 振り下ろされた鉄塊を難なく躱す仮面の男。

「いきなり何しやがる!?」

 抗議の声を上げる男にメイスを止めた黒のバーサーカーは、たどたどしい口調で言葉を紡ぎ始める。

「ばい……●ん…マン、悪者。こら……しめ……る……」

 あまりにストレートな答えに、思わず言葉を詰まらせる『ばい●んマン』

「バカモノ! オレ様は悪い『ばい●んマン』じゃない、良い『ばい●んまん』だ!」

 一縷の望みをかけて抗議の声を上げるが、バーサーカーはフルフルと首を横に振った。

「ひとの……もの、とった……。わる……もの…」

「うぬ……ッ」 

 更なる言葉のカウンターに、仮面の男はぐうの音も出なかった。  

 実はこのバーサーカー、ミレニア城砦待機中は暇なので、マスターのカウレスには内緒でパソコンを使って幼児用のアニメを見ていたのだ。

 だからこそ単純な彼女の中には、ばい●んマン=悪者という図式が成り立っているのだ。

「ばい……ばい…きん……。ウウゥゥゥアアアアアァァァァァッッ!!」

 『ばい●んマン』専用の殺害予告を放って、襲い来るバーサーカー。

 いくら狂化でパラメーターが上がっていようと、力任せで武器を振り回す程度では仮面の男の敵ではない。

 襲い来るメイスを次々に輝線で絡めとリ、危なげなく相手の猛攻を捌いていく。

 そうしてバーサーカーの相手をしながらも、男は素早く思考する。

 今回彼等が黒の陣営に手を貸しているのは、むこうが劣勢だからだ。

 ここでバーサーカーを倒すのは容易いが、此方の手で黒の陣営の戦力を削ってしまっては完全に本末転倒である。

 とはいえ、赤のマスターらしき男は逃がすにはあまりに惜しい。

(クッ、ジャックちゃんのセンスが裏目に出るとは……!? やはりガレスが持っていたセーラー●ーンにすべきだったか!)

 後悔先に立たずとはまさにこの事である。

 予想外の展開に歯噛みしながらも、男は赤のマスターが逃げようとしていることに気付いていた。

 チラリと視線を走らせれば、断たれた右手に簡易の止血を施して、劇作家風の男と共に背を向ける神父の姿が見える。

「逃亡など、このオレ様が許すと思うかぁ!」

 何だかんだ言いながらもノリノリでマネをしながら、『ばい●んマン』はメイスを受け流すと同時に空いた左手から何かを放つ。

 男の左手首から伸びるのは、月明かりを返す細い糸。

 それは鋼糸と呼ばれるもので、極細の強化チタンで編まれたモノだ。

 太さ0.02mmという常人の目に映らないそれは、狙い違わずに神父の首へと奔る。

 しかし、先端が相手のうなじに掛かる寸前に、突如として神父の姿が掻き消えてしまう。

 何者かが転移を施したと判断した仮面の男は、一瞬で思考を切り替えて目標を劇作家のようなサーヴァントに変更する。

 細かな手首の操作を受けた糸は、サーヴァントとは思えない鈍足っぷりを発揮していた劇作家に食らい付いた。

「うぐぇ……っ!?」

 突如として細いものが首に食い込む感触に、劇作家は喉を掻き毟ってもがき苦しむ。

 手首から伝わる感触でそれを感じ取った男は、即座にバーサーカーから間合いを取った。

 ワイヤー越しに氣を通し、軽功術の範囲に捉えた劇作家を釣り上げた『ばい●んマン』は、吹き上がった瓦礫や木の葉を足場として早々に離脱した。

 まるで空中を駆け抜けるようなその姿に黒のバーサーカーはしばし呆然としていたが、我を取り戻すと唸り声を上げて二人の後を追うのであった。




 グダグダ英霊剣豪七番勝負

発端

剣キチ  『なあ、プーサー』
プーサー 『なんでしょうか、師範』
剣キチ  『なんで俺達、昔の日本にいるんだ?』
プーサー 『おかしいですね。僕は綾香に会いに行こうとしただけなんですが……』
剣キチ  『その綾香って子、何処に住んでたって?』
プーサー 『日本の東京です』
剣キチ  『俺達がいるのって、東京というか江戸だろ』
プーサー 『さっき通行人に毛唐じゃ! とか言われましたしね』
剣キチ  『第一村人一発目の発言がこれだよ』
プーサー 『一応、ここが下総という場所だと言うのが分かりましたけど』
剣キチ  『東京はどこにいったのか?』
プーサー 『師範、問題はアレです』
剣キチ  『ああ、アレだな』
2人   『『どうやって帰ろう……』』


迷子


剣キチ  『さて、盛大に迷子になったんだが、どうしたものか』
プーサー 『そう言いながら、鎧武者やら謎の怨霊なんかをバリバリ斬ってますよね』
剣キチ  『なに言ってんだ。このくらいは鼻歌交じりにできるようにならんとダメだぞ』
プーサー 『全自動キリングマシンになれと申すか……』
剣キチ  『とはいえ、このまま当てもなく彷徨っても仕方が無い。俺は良くてもプーサーが餓死するし』
プーサー 『いやいや、僕も英霊だから死にませんけどね。確かに、このままでは埒が開きませんね』
剣キチ  『とりあえず、目標は第二村人を発見することだ』
プーサー 『なるほど! と噂をすれば人ですよ、師範!!』
剣キチ  『おおっ! ていうか、雰囲気おかしくね?』
プーサー 『なんというか、複数で坊さんをフクロにしてるように見えるのですが……』
剣キチ  『僧侶をいぢめるとはけしからん。嫌な妖気もプンプンしてるし、助けるか』
プーサー 『もちろんです!』


英霊剣豪


ドーマーン『さあ、宝蔵院よ! 貴様にも一切鏖殺の理を植えつけてやろうぞ!!』
インシュー『や───やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?』
剣キチ  『そうはさせじと、一切両断!』
ドーマーン『なんとっ! 拙僧の術がっ!?』
剣キチ  『今だ、坊さん! ずらかるぞ!!』
インシュー『誰かは知らんが助かった! しかし未だ敵の数は多いぞ!?』
剣キチ  『心配ない、ビームが来る!!』
プーサー 『これは精霊───以下略! エクスカリバー!!』
ドーマーン『ちょっ、おまッ!?』
剣キチ  『よっしゃ、悪は滅びた』
インシュー『全員巻き添えとは、これはヒドイ。というか、俺達は如何にして助かったのだ?』
剣キチ  『こっちに来るビームは斬ったので、モーマンタイ』
インシュー『…………』


変人


剣キチ  『さて、何があったのかを聞こうじゃないか』
インシュー『実は、かくかくじかじかうまうま……なのだ』
プーサー 『英霊剣豪ですか……。これは由々しき事態ですね』
剣キチ  『というか、そいつらってさっきのビームで全滅したじゃん』
インシュー『そうなのだが、俺の勘ではこの程度で終るとは思えんのだ』
ドーマーン『はい、その通り』
プーサー 『うおっ!?』
インシュー『おのれ、妖術師! 生きておったか!?』
ドーマーン『もちろん、拙僧はあの程度では死にません』
剣キチ  『えい』
ドーマーン『ぎゃあああああああああっ!?』
プーサー 『うわっ、グロッ!?』
インシュー『これはまた、見事な開きになってしまったな』


7番勝負


ドーマーン『ナニさらすんじゃ、コラァァァッ! 空気読めや、アァン!!』
剣キチ  『うわっ、チンピラ臭』
インシュー『化けの皮が剥がれるのが早すぎるわ』
プーサー 『それでどういう事なのだ、変態』
ドーマーン『誰が変態ですか! 拙僧の事はキャスター・リンボと呼びなさい!!』
剣キチ  『リンボ(笑)』
インシュー『リンボ(笑)』
ドーマーン『うがああああああああああっ!!』
プーサー 『師範、御坊もこの変態をあまりイジラないでいただきたい。話が進まない』
剣キチ  『お前も素で変態って言ってる件』
インシュー『リンボ(笑)と呼んでやらねばならんぞ』
ドーマーン『(笑)つけんなや!』
剣キチ  『それはいいとして、お前ナニがしたいんだよ、マジで』
ドーマーン『……貴様等が拙僧の術を破ったと思っているようなので、それが勘違いであるという事を教えようと思っただけよ』
インシュー『ふむ、ではまだ奥の手があるという事か』
剣キチ  『俺達は帰り道を探さないと行かんので、見せるなら早くするように』
インシュー『こちらも別れた連れと合流せねばならん』
ドーマーン『おのれ、そんな事を言っていられるのも今のうちだ。これを見ろッ!!』
プーサー 『なんでしょうか、あの黒い木の板は?』
インシュー『あれは位牌だな。戒名を刻み、故人の代わりとして仏壇などに飾って供養するための物だ』
プーサー 『いや、普通にバチ当たりですよね、それ』
剣キチ  『そんなもん取り出してなにするつもりなんだ、あのリンボ(笑)は』
ドーマーン『ぐぬぬ……っ! ならば目をカッポじってよく見なさい! この芦屋道満の『拳魂復活の術』を!!』
プーサー 『今、思いっきり真名バラしましたよね』
剣キチ  『普通にアホだろ、あいつ』
インシュー『不意を突かれたとはいえ、あのような輩の術に掛かってしまうとは……』
ドーマーン『サッテンピッテンロッテンサッテンピッテンロッテンサッテンピッテンロッテン……。蘇れ、英霊剣豪『天草四郎時貞』! ハァァァァァァァッ!!』
サンタ仮面『ヒョオオオオオオオオオオオッ!!』
プーサー 『ゲ、ゲェーーーーッ! 位牌が人間になったーーーッ!!』
サンタ仮面『汝のカルマ救いがたしッ!!』
剣キチ  『つーか、誰だあれ? カルデアで見た天草と全然違うんだけど。玉持ってるし』
インシュー『う~む。なんというか、ジュリーという感じだな』
ドーマーン『見たか、我が秘術! というワケで、貴様等に英霊剣豪7番勝負を申し込む!!』
剣キチ  『え?』

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